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// 民生部品を宇宙で壊して学ぶ · 2002-003A

つばさ
TSUBASA (MDS-1)

つばさは民生部品、新型機器、材料の宇宙環境劣化を実軌道で評価し衛星開発期間を短縮することを目的に設計された部品・材料実証ミッションである。打上げ後のスピンアップ、太陽捕捉、2月6日の3 m磁力計マスト展開を完了し、民生部品を含む多数の実験を一体運用した。 成果だけでなく、設計判断と異常時の選択までを追うと、日本の宇宙開発が一機ごとの経験を次へ渡してきた道筋が見える。

3
磁力計マスト長(m)
35204
遠地点高度(km)
29.1
軌道傾斜角(度)
運用終了🇯🇵 NASDA(現JAXA)部品・材料実証

01基本情報

運用史と機体仕様を、ミッションの読み解きに必要な単位で整理する。

打上げ日2002-02-04現地表記は一次資料に準拠
国際標識番号2002-003ACOSPAR ID
打上げ機H-IIAロケット2号機H-IIA
射場種子島宇宙センター日本
質量480 kg打上げ時または公式代表値
近地点209 km公式公称値
遠地点35204 km公式公称値
軌道傾斜角29.1°赤道面基準
軌道周期660分公称値
姿勢制御太陽指向スピン安定実証・通信の基準
外形箱形本体+太陽電池パドル+3 m磁力計マスト展開物を除く場合あり
運用状態終了(2003-09-27)公式機関の分類

02ミッション

民生部品、新型機器、材料の宇宙環境劣化を実軌道で評価し衛星開発期間を短縮するという目標を、近地点209 km、遠地点35,204 kmの静止トランスファ軌道で、放射線帯を一周ごとに横断して部品へ強い環境履歴を与えた。という軌道・運用条件の中で実現した。過酷な放射線環境で部品が劣化・誤動作すること自体が取得すべき結果であり、故障を避け切るのでなく、時刻・線量・状態を対応づける設計を選んだ。

要求を軌道上試験へ変える

つばさが担ったのは、民生部品、新型機器、材料の宇宙環境劣化を実軌道で評価し衛星開発期間を短縮するという技術要求を、合否を判定できる軌道上試験へ変換することだった。地上試験だけでは保証しにくい放射線・帯電・材料劣化を、専用実証機で実測する発想だった。 開発側は目標性能だけでなく、入力条件、許容差、判定に使うテレメトリ、異常時の停止条件まで事前に定めた。地上試験では再現しにくい真空、放射線、無重量、長距離通信、実際の軌道運動を利用し、機体、打上げ機、追跡管制、利用側設備を一つのシステムとして動かした。実証機の価値は派手な出力だけでなく、どの条件なら設計どおり働き、どこから性能が崩れるかを後続計画が使える形で残すことにあった。

軌道を試験設備として使う

近地点209 km、遠地点35,204 kmの静止トランスファ軌道で、放射線帯を一周ごとに横断して部品へ強い環境履歴を与えた。 この軌道選択は所在地の指定ではなく、通信距離、地上局可視、日照と食、放射線、大気抵抗、相対運動を実験条件として作る判断だった。運用チームは一周ごとの電力と推進剤、機器温度、リンク時間を見積もり、準備、実行、停止、データ回収を一組の試験シーケンスにした。同じ条件を反復する場合も、軌道要素や機器劣化を記録して比較可能性を守った。つばさの成果は、設計値へ一度到達したかだけでなく、異なる条件で再現できたか、地上側を含む手順が運用可能だったかによって評価される。

計画を組み替えた転機

打上げ後のスピンアップ、太陽捕捉、2月6日の3 m磁力計マスト展開を完了し、民生部品を含む多数の実験を一体運用した。 この転機では、当初の試験表を機械的に守るのではなく、残った軌道、推進剤、電力、通信時間から実施可能な項目を再選定した。地上側は状態量とコマンド履歴を照合し、次の操作が別の故障を誘発しないことを段階ごとに確認した。成功した機能、制限付きで使える機能、停止すべき機能を切り分けたことで、予定していた全項目を実行できなくても、設計判断に使える結果を回収できた。この再計画能力もまた、軌道上サービスや実用通信、低軌道運用へ受け継ぐべき実証成果だった。

不具合を合否判定へ戻す

過酷な放射線環境で部品が劣化・誤動作すること自体が取得すべき結果であり、故障を避け切るのでなく、時刻・線量・状態を対応づける設計を選んだ。 技術実証では、異常を成功談の脇へ追いやると試験の意味が失われる。原因候補を打上げ機、推進、電源、姿勢、通信、機構、地上手順に分解し、異常前後のテレメトリ、コマンド、軌道決定値を突き合わせる必要がある。つばさは、到達できなかった要求、条件付きで達成した要求、設計どおり達成した要求を分け、後続機が同じ境界を踏まないための入力にした。予定外の結果であっても、故障の波及経路と安全に停止できた範囲を特定できれば、それは設計審査へ戻せる具体的な技術データになる。

軌道上で証明した性能

民生半導体、太陽電池、材料、電子機器の放射線・帯電・劣化データを取得し、2003年9月27日まで利用運用した。 ここで得られた数値と運用履歴は、単体機器の性能表ではなく、電力、熱、姿勢、軌道、地上設備を含む総合系の実績である。チームは試験開始前の基準状態、実行中の入力と応答、終了後の状態を揃え、再現性と劣化傾向を確認した。通信、機構、材料、部品の実証では、最高性能へ一度到達したかだけでなく、停止後の復帰、環境変化、複数条件での反復が実用性を左右する。つばさは、宇宙で働くことを宣言するのではなく、どの手順と余裕を用意すれば運用へ持ち込めるかを示した。

次のシステムへ渡した設計条件

部品単体の宇宙実証を独立ミッションにする方法、民生品採用判断のデータベース、短期開発のシステム統合手法を残した。 継承されたのは部品や回路だけではない。異常時に確保すべき状態量、操作を止める閾値、地上局間で共有する時刻、試験結果の版管理、運用者が迷わない手順までが含まれる。後続計画はつばさの不足を隠すのではなく、失敗した経路を分離し、成功した機能には実運用で必要な余裕を加えて要件を書き直した。実証機は完成品の縮小版ではなく、未知の境界を安全に踏み、次の実用システムが負うリスクを減らす装置である。その意味で本機の転機と限界は、達成した最高性能と同じ重さを持つ。

  1. 2002年・打上げ前
    最終設計と射場準備
    実験品と実績あるバス機器を同居させ、衛星バス・実験・地上評価を一つのシステムとして開発した。という構成を確定し、機体と地上系を一つの運用手順として検証した。
  2. 2002-02-04
    打上げ
    H-IIAロケット2号機で種子島宇宙センターから打ち上げられた。
  3. 2002-02-04
    軌道投入・初期捕捉
    2002-003Aとして追跡され、電源、通信、姿勢の初期確認へ移った。
  4. 初期運用期
    実験系の立上げ
    展開物、搭載機器、試験手順と地上設備を順に確認し、合否判定に使う基準状態を確立した。
  5. 2002-02-06
    ミッションの転機
    打上げ後のスピンアップ、太陽捕捉、2月6日の3 m磁力計マスト展開を完了し、民生部品を含む多数の実験を一体運用した。
  6. 2003-09-27
    運用の終点
    民生半導体、太陽電池、材料、電子機器の放射線・帯電・劣化データを取得し、2003年9月27日まで利用運用した。 運用終了後も試験結果と設計教訓が後続システムへ利用されている。

03開発・運用エピソード

数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を一次資料と結び直す。

七、八年の順番を一つへ束ね、三年で実証機を飛ばす

従来の実用衛星は衛星bus、mission機器、追跡管制、実験評価を段階ごとに開発し、打上げまで通常7~8年を要した。民生部品はその間にも世代交代するため、NASDAはMDS-1で四系統を一つのsystemとして並行開発し、実績ある機器と新規部品を同居させる一段階方式を選んだ。開発着手から約3年後の2002年2月4日に「つばさ」を打ち上げ、1年間のmissionを完遂。単に日程を縮めただけでなく、軌道上試験の結果を次の部品選定へ間に合わせる開発cycleを実証した。

地上試験と合わない多bit反転を、放射線帯の実測で残す

2002年、MDS-1のCSD実験は七種類の民生memoryを静止transfer軌道へ運び、Van Allen beltを横切るたびSEUとmulti-bit upsetを数えた。微細化したmemoryでは地上照射から軌道上誤り率を予測しにくく、実際にDRAMとSRAMでSEU・MBUを検出し、とくに無視できない数のMBUと、地上試験に一致しない例が現れた。一方で全memoryにsingle-event latchupはなかった。故障を隠さず粒子環境・時刻と結んだため、民生品を一括排除せず、modelの限界を含めて採否を判断できるdataになった。

一系統の電池異常を、次の百分食と二十五年基準で終端判断へ変える

定常mission終了後の2003年7月30日、「つばさ」のbattery #1充放電回路または電池周辺に異常が発生した。約90分の食なら正常なbattery 2で支えられたが、8月末から100分を超える食へ入れば電力維持が難しい。NASDAは既に所要dataを取得済みであることとspace debris防止標準STD-18Aを合わせ、復旧を長引かせず近地点を約200 kmへ下げ、25年以内に再突入させる処置を決定した。9月25日に停波commandを送り、成果確保後の余力を軌道環境の安全へ使った。

04軌道

近地点209 km、遠地点35,204 kmの静止トランスファ軌道で、放射線帯を一周ごとに横断して部品へ強い環境履歴を与えた。

つばさ / 軌道・航路概念図 地球 距離・天体サイズは経路理解のため模式化
  1. 01投入H-IIAロケット2号機から分離し、地上局が初期捕捉する。
  2. 02確立姿勢と電力を安定させ、軌道要素を確定する。
  3. 03定常試験準備、実行、状態記録、送信を軌道周期に合わせて反復する。
  4. 04後期運用終了後は試験記録と設計教訓を後続計画へ渡す。
主航路・運用軌道探査機マーカー概念図。正確な軌道要素は基本情報と出典を参照。

05搭載機器

観測目的を、実際に信号へ変えた機器群。

CPE

民生部品実験

市販半導体の放射線耐性と誤動作を評価。

SDS

宇宙環境劣化センサー

線量・帯電・粒子環境を部品状態と同時測定。

MAM

材料実験モニター

外装・材料の原子状酸素や放射線劣化を評価。

MAG

磁力計

3 mマスト先端で背景磁場を測定。

06設計 — 回転する試験台

1.2 × 1.2 × 1.5 mの箱型本体から2枚の太陽電池パドルと3 m磁力計マストを展開し、毎分5回の太陽指向スピンで安定化。外面の太陽電池・放射線センサと内部の民生部品を、同じGTO環境に置いて比較した。

つばさ(MDS-1)の箱型機体と実験機器配置箱型本体、左右の太陽電池パドル、3メートル磁力計マスト、外面のTSC太陽電池試料とSEDA放射線センサ、内部のCSD、CPV、SSR、PCS実験機器区画を示す。 MDS-1 / SPIN-STABILIZED TEST PLATFORM本体 1.2 × 1.2 × 1.5 m | 約480 kg | 太陽指向スピン安定 5 rpm | GTO 太陽電池パドル 1 / 2両翼を展開し、スピン軸を太陽へ向ける MDS-1 バス電力・通信・姿勢・推進 CPE / CSD / CPV / SSR / PCS民生部品・電池・記録器・計算機 MAM / TSC|外面試料Si系10枚・GaAs系8枚を外面で曝露 SDS / SEDA|環境センサGTO環境と部品応答を同時計測MAG|3 m磁力計3段折りマストで機体磁場を回避 5 rpm|太陽指向スピン安定

衛星そのものを環境試験設備にする

つばさは、太陽電池試料を外面へ置き、放射線・線量センサと3 m先の磁力計で周囲の環境を同時に記録した。内部ではCSD、CPV、SSR、PCSを運転し、環境値と誤動作・劣化を同じ時刻で比較する。箱型バス、2枚のパドル、伸展マストという物理配置が、評価データの信頼性を支えた。

08関連文献

設計と成果を検証できる論文・公式技術資料。

  • つばさ 公式ミッションページ
    NASDA(現JAXA)・機体諸元、運用、成果 · 一次資料
  • H-IIA 公式打上げ機資料
    JAXA/ISAS・打上げシステムと記録 · 一次資料
  • 2002-003A spacecraft record
    NASA NSSDCA・国際標識番号と軌道記録 · 一次資料