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// おりひめ・ひこぼしの自動接近 · 1997-074B

きく7号
KIKU-7 (ETS-VII)

きく7号は無人衛星同士の自動ランデブー・ドッキングと遠隔宇宙ロボット作業を実証することを目的に設計されたランデブー・宇宙ロボットミッションである。初回実験の不具合解析後に制御ソフトと手順を修正し、自動・遠隔操縦を含むランデブー・ドッキングを計3回成功させた。 成果だけでなく、設計判断と異常時の選択までを追うと、日本の宇宙開発が一機ごとの経験を次へ渡してきた道筋が見える。

3
ランデブー・ドッキング成功回数
1.5
設計寿命(年)
2860
機体質量(kg)
運用終了🇯🇵 NASDA(現JAXA)ランデブー・宇宙ロボット

01基本情報

運用史と機体仕様を、ミッションの読み解きに必要な単位で整理する。

打上げ日1997-11-28現地表記は一次資料に準拠
国際標識番号1997-074BCOSPAR ID
打上げ機H-IIロケット6号機H-II
射場種子島宇宙センター日本
質量2860 kg打上げ時または公式代表値
近地点550 km公式公称値
遠地点550 km公式公称値
軌道傾斜角35°赤道面基準
軌道周期96分公称値
姿勢制御三軸姿勢制御実証・通信の基準
外形箱形チェイサー+分離式ターゲット展開物を除く場合あり
運用状態終了(2002-10-30)公式機関の分類

02ミッション

無人衛星同士の自動ランデブー・ドッキングと遠隔宇宙ロボット作業を実証するという目標を、高度550 kmの円軌道で、ひこぼし(チェイサー)とおりひめ(ターゲット)が分離・接近・結合を反復した。という軌道・運用条件の中で実現した。接近航法のセンサー・制御矛盾は衝突へ直結するため、実験を中断して原因を切り分ける保守的な判断が必要だった。2002年6月には姿勢制御装置が停止した。

要求を軌道上試験へ変える

きく7号が担ったのは、無人衛星同士の自動ランデブー・ドッキングと遠隔宇宙ロボット作業を実証するという技術要求を、合否を判定できる軌道上試験へ変換することだった。将来の軌道上組立、補給、保守へ必要な接近・把持・遠隔操作を一つの実験系にまとめた。 開発側は目標性能だけでなく、入力条件、許容差、判定に使うテレメトリ、異常時の停止条件まで事前に定めた。地上試験では再現しにくい真空、放射線、無重量、長距離通信、実際の軌道運動を利用し、機体、打上げ機、追跡管制、利用側設備を一つのシステムとして動かした。実証機の価値は派手な出力だけでなく、どの条件なら設計どおり働き、どこから性能が崩れるかを後続計画が使える形で残すことにあった。

軌道を試験設備として使う

高度550 kmの円軌道で、ひこぼし(チェイサー)とおりひめ(ターゲット)が分離・接近・結合を反復した。 この軌道選択は所在地の指定ではなく、通信距離、地上局可視、日照と食、放射線、大気抵抗、相対運動を実験条件として作る判断だった。運用チームは一周ごとの電力と推進剤、機器温度、リンク時間を見積もり、準備、実行、停止、データ回収を一組の試験シーケンスにした。同じ条件を反復する場合も、軌道要素や機器劣化を記録して比較可能性を守った。きく7号の成果は、設計値へ一度到達したかだけでなく、異なる条件で再現できたか、地上側を含む手順が運用可能だったかによって評価される。

計画を組み替えた転機

初回実験の不具合解析後に制御ソフトと手順を修正し、自動・遠隔操縦を含むランデブー・ドッキングを計3回成功させた。 この転機では、当初の試験表を機械的に守るのではなく、残った軌道、推進剤、電力、通信時間から実施可能な項目を再選定した。地上側は状態量とコマンド履歴を照合し、次の操作が別の故障を誘発しないことを段階ごとに確認した。成功した機能、制限付きで使える機能、停止すべき機能を切り分けたことで、予定していた全項目を実行できなくても、設計判断に使える結果を回収できた。この再計画能力もまた、軌道上サービスや実用通信、低軌道運用へ受け継ぐべき実証成果だった。

不具合を合否判定へ戻す

接近航法のセンサー・制御矛盾は衝突へ直結するため、実験を中断して原因を切り分ける保守的な判断が必要だった。2002年6月には姿勢制御装置が停止した。 技術実証では、異常を成功談の脇へ追いやると試験の意味が失われる。原因候補を打上げ機、推進、電源、姿勢、通信、機構、地上手順に分解し、異常前後のテレメトリ、コマンド、軌道決定値を突き合わせる必要がある。きく7号は、到達できなかった要求、条件付きで達成した要求、設計どおり達成した要求を分け、後続機が同じ境界を踏まないための入力にした。予定外の結果であっても、故障の波及経路と安全に停止できた範囲を特定できれば、それは設計審査へ戻せる具体的な技術データになる。

軌道上で証明した性能

自動ドッキング、遠隔操縦、ロボットアームによる小部品操作・流体補給などを実施した。 ここで得られた数値と運用履歴は、単体機器の性能表ではなく、電力、熱、姿勢、軌道、地上設備を含む総合系の実績である。チームは試験開始前の基準状態、実行中の入力と応答、終了後の状態を揃え、再現性と劣化傾向を確認した。通信、機構、材料、部品の実証では、最高性能へ一度到達したかだけでなく、停止後の復帰、環境変化、複数条件での反復が実用性を左右する。きく7号は、宇宙で働くことを宣言するのではなく、どの手順と余裕を用意すれば運用へ持ち込めるかを示した。

次のシステムへ渡した設計条件

HTVのランデブー、きぼうロボットアーム、軌道上サービス研究へ、相対航法・安全停止・時間遅延下テレオペレーションを渡した。 継承されたのは部品や回路だけではない。異常時に確保すべき状態量、操作を止める閾値、地上局間で共有する時刻、試験結果の版管理、運用者が迷わない手順までが含まれる。後続計画はきく7号の不足を隠すのではなく、失敗した経路を分離し、成功した機能には実運用で必要な余裕を加えて要件を書き直した。実証機は完成品の縮小版ではなく、未知の境界を安全に踏み、次の実用システムが負うリスクを減らす装置である。その意味で本機の転機と限界は、達成した最高性能と同じ重さを持つ。

  1. 1997年・打上げ前
    最終設計と射場準備
    チェイサーとターゲットを一体打上げ後に分離し、相対GPS、レーザー、近傍センサーを距離に応じて切り替えた。という構成を確定し、機体と地上系を一つの運用手順として検証した。
  2. 1997-11-28
    打上げ
    H-IIロケット6号機で種子島宇宙センターから打ち上げられた。
  3. 1997-11-28
    軌道投入・初期捕捉
    1997-074Bとして追跡され、電源、通信、姿勢の初期確認へ移った。
  4. 初期運用期
    実験系の立上げ
    展開物、搭載機器、試験手順と地上設備を順に確認し、合否判定に使う基準状態を確立した。
  5. 1998年・再実験成功
    ミッションの転機
    初回実験の不具合解析後に制御ソフトと手順を修正し、自動・遠隔操縦を含むランデブー・ドッキングを計3回成功させた。
  6. 2002-10-30
    運用の終点
    自動ドッキング、遠隔操縦、ロボットアームによる小部品操作・流体補給などを実施した。 運用終了後も試験結果と設計教訓が後続システムへ利用されている。

03エピソード

数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を、出来事を直接確認できる資料と結び直す。

145 mで止め、故障した噴射方向をsoftwareから外す

1998年8月、「きく7号」のひこぼしは、おりひめへ約145 mまで接近したところで姿勢異常を検知し、安全modeへ退避した。衝突を避けるため二機を約1.2 km離して保持し、NASDAは推進系と制御logicを再解析。問題を起こすZ軸thrusterを使わない組合せを選べるよう機上softwareを改修した。その結果、1999年10月27日20時43分JSTの再実験では自動接近・結合を完遂し、失敗時に離れる停止点と飛行後の再構成が無人dockingの安全条件として残った。

六自由度の腕へ、地上の目と音を渡す

1997年11月に打ち上げられた「きく7号」には、NASDAの六自由度manipulatorと通信総合研究所のantenna組立機構が同居した。大型で高精度なantennaを宇宙で作るには、地上から腕を動かすだけでなく、作業者が接触状態を判断する手掛かりが要る。このためCRLはmaster–slave操作に音響feedbackを加え、eye-mark recorderで視線も記録する初期組立実験を実施した。その結果、映像以外の感覚情報を遠隔作業へ渡す設計を軌道上で評価し、将来の大型通信基盤をrobotで組み立てる具体的な試験記録を残した。

1.5年の設計寿命を越え、停止時刻まで実験にする

「きく7号」は1999年12月にdockingとrobotの計画実験を完了したが、NASDAは設計寿命1.5年を越えて機器劣化の長期監視を続けた。ところが2002年6月19日に姿勢制御装置が停止し、正常姿勢へ戻せないと判明した。このため復旧不能を曖昧にせず、10月30日15時56分JSTに終了commandを送信。その結果、打上げから約5年の運用を安全に閉じ、得た自動rendezvousと地上遠隔作業の記録をHTVとJEM Remote Manipulator Systemの開発へ引き渡した。

04軌道

高度550 kmの円軌道で、ひこぼし(チェイサー)とおりひめ(ターゲット)が分離・接近・結合を反復した。

きく7号 / 軌道・航路概念図 地球 距離・天体サイズは経路理解のため模式化
  1. 01一体打上げおりひめとひこぼしを結合状態で高度550 kmへ投入する。
  2. 02分離・相対航法相対GPSとレーザーへ航法源を切り替えて距離を縮める。
  3. 03自動ランデブー停止点で確認しながらドッキング軸へ低速進入する。
  4. 04ドッキング反復自動・遠隔操縦を含む分離と再結合を計3回実証する。
主航路・運用軌道探査機マーカー概念図。正確な軌道要素は基本情報と出典を参照。

05搭載機器

観測目的を、実際に信号へ変えた機器群。

RVD

ランデブー・ドッキング系

相対航法と接近・結合を自動制御。

RBT

宇宙ロボットアーム

地上から小部品操作と作業実験を実施。

RGPS

相対GPS

遠距離接近で二機の相対位置を推定。

PXS

近傍センサー

レーザー等で最終接近の距離・姿勢を測定。

06設計 — 2機の結合面と作業面

大型のチェイサ「ひこぼし」と小型のターゲット「おりひめ」を同じ結合軸へ配置。接近センサーとドッキング機構、側面のロボットアームを一つの作業面に集めた。

きく7号のチェイサ衛星とターゲット衛星の物理配置上方のターゲット衛星おりひめ、下方のチェイサ衛星ひこぼし、両者のドッキング面、近傍センサー、チェイサ側面のロボットアームと左右の太陽電池パドルを示す。 ETS-VII / SEPARATED PHYSICAL LAYOUTひこぼし 2.6 × 2.3 × 2.0 m | おりひめ 0.7 × 1.7 × 1.5 m ターゲット衛星「おりひめ」単翼パドル・結合機構・ターゲット標識 結合軸に近傍センサーを集中PXS・CCDで最終接近を確認 相対GPS左右の展開型太陽電池パドル三軸制御するチェイサへ電力を供給 ロボットアーム/タスクボード小部品操作・燃料補給作業を遠隔実験 分離する2機そのものが、接近・結合・作業の実験装置

結合面と作業面を一つの基準にする

きく7号は、2機を単に近づける衛星ではない。ひこぼしのドッキング面へ近傍センサーを集め、結合軸と相対姿勢の基準を一致させたうえで、同じ機体側面にロボットアームを置いた。おりひめを分離・再捕捉する構成と、結合後にタスクボードへ手を伸ばす構成を一組の実機で反復できる配置である。

08関連文献

設計と成果を検証できる論文・公式技術資料。

  • きく7号 公式ミッションページ
    NASDA(現JAXA)・機体諸元、運用、成果 · 一次資料
  • H-II 公式打上げ機資料
    JAXA/ISAS・打上げシステムと記録 · 一次資料
  • 1997-074B spacecraft record
    NASA NSSDCA・国際標識番号と軌道記録 · 一次資料