SATELLITE ARCHIVE

// 高度167.4kmへ降りた衛星 · 2017-082B

つばめ
TSUBAME (SLATS)

つばめは大気抵抗と原子状酸素が強い200 km級以下で軌道保持・材料・高解像度撮像を実証することを目的に設計された超低軌道技術ミッションである。2019年4月から定常的な軌道保持へ入り、イオンエンジンで連続的に大気抵抗を相殺しながら高度を一段ずつ下げた。 成果だけでなく、設計判断と異常時の選択までを追うと、日本の宇宙開発が一機ごとの経験を次へ渡してきた道筋が見える。

167.4
最低到達高度(km)
6
軌道保持実証高度数
0.5
実証地上分解能(m級)
運用終了🇯🇵 JAXA超低軌道技術

01基本情報

運用史と機体仕様を、ミッションの読み解きに必要な単位で整理する。

打上げ日2017-12-23現地表記は一次資料に準拠
国際標識番号2017-082BCOSPAR ID
打上げ機H-IIAロケット37号機H-IIA
射場種子島宇宙センター日本
質量400 kg打上げ時または公式代表値
近地点268 km公式公称値
遠地点268 km公式公称値
軌道傾斜角97.3°赤道面基準
軌道周期90分公称値
姿勢制御三軸姿勢制御実証・通信の基準
外形箱形本体+太陽電池パドル+イオンエンジン展開物を除く場合あり
運用状態終了(2019-10-01)公式機関の分類

02ミッション

大気抵抗と原子状酸素が強い200 km級以下で軌道保持・材料・高解像度撮像を実証するという目標を、初期軌道から段階的に高度を下げ、271.1 kmから181.1 kmの6高度で保持し、最後に167.4 kmの地球観測衛星最低高度記録を得た。という軌道・運用条件の中で実現した。超低軌道では推進停止が急速な高度低下へ直結し、原子状酸素が外装を侵食する。長寿命より、計画的に高度を変えて環境データを回収する有限実証を選んだ。

要求を軌道上試験へ変える

つばめが担ったのは、大気抵抗と原子状酸素が強い200 km級以下で軌道保持・材料・高解像度撮像を実証するという技術要求を、合否を判定できる軌道上試験へ変換することだった。低高度ほど小さな望遠鏡で高分解能を得られる一方、通常軌道の約千倍強い抵抗・原子状酸素に耐える必要があった。 開発側は目標性能だけでなく、入力条件、許容差、判定に使うテレメトリ、異常時の停止条件まで事前に定めた。地上試験では再現しにくい真空、放射線、無重量、長距離通信、実際の軌道運動を利用し、機体、打上げ機、追跡管制、利用側設備を一つのシステムとして動かした。実証機の価値は派手な出力だけでなく、どの条件なら設計どおり働き、どこから性能が崩れるかを後続計画が使える形で残すことにあった。

軌道を試験設備として使う

初期軌道から段階的に高度を下げ、271.1 kmから181.1 kmの6高度で保持し、最後に167.4 kmの地球観測衛星最低高度記録を得た。 この軌道選択は所在地の指定ではなく、通信距離、地上局可視、日照と食、放射線、大気抵抗、相対運動を実験条件として作る判断だった。運用チームは一周ごとの電力と推進剤、機器温度、リンク時間を見積もり、準備、実行、停止、データ回収を一組の試験シーケンスにした。同じ条件を反復する場合も、軌道要素や機器劣化を記録して比較可能性を守った。つばめの成果は、設計値へ一度到達したかだけでなく、異なる条件で再現できたか、地上側を含む手順が運用可能だったかによって評価される。

計画を組み替えた転機

2019年4月から定常的な軌道保持へ入り、イオンエンジンで連続的に大気抵抗を相殺しながら高度を一段ずつ下げた。 この転機では、当初の試験表を機械的に守るのではなく、残った軌道、推進剤、電力、通信時間から実施可能な項目を再選定した。地上側は状態量とコマンド履歴を照合し、次の操作が別の故障を誘発しないことを段階ごとに確認した。成功した機能、制限付きで使える機能、停止すべき機能を切り分けたことで、予定していた全項目を実行できなくても、設計判断に使える結果を回収できた。この再計画能力もまた、軌道上サービスや実用通信、低軌道運用へ受け継ぐべき実証成果だった。

不具合を合否判定へ戻す

超低軌道では推進停止が急速な高度低下へ直結し、原子状酸素が外装を侵食する。長寿命より、計画的に高度を変えて環境データを回収する有限実証を選んだ。 技術実証では、異常を成功談の脇へ追いやると試験の意味が失われる。原因候補を打上げ機、推進、電源、姿勢、通信、機構、地上手順に分解し、異常前後のテレメトリ、コマンド、軌道決定値を突き合わせる必要がある。つばめは、到達できなかった要求、条件付きで達成した要求、設計どおり達成した要求を分け、後続機が同じ境界を踏まないための入力にした。予定外の結果であっても、故障の波及経路と安全に停止できた範囲を特定できれば、それは設計審査へ戻せる具体的な技術データになる。

軌道上で証明した性能

0.5 m級光学画像、大気密度・原子状酸素密度、材料劣化、6高度でのイオンエンジン軌道保持を実証し、2019年10月1日に停止・再突入した。 ここで得られた数値と運用履歴は、単体機器の性能表ではなく、電力、熱、姿勢、軌道、地上設備を含む総合系の実績である。チームは試験開始前の基準状態、実行中の入力と応答、終了後の状態を揃え、再現性と劣化傾向を確認した。通信、機構、材料、部品の実証では、最高性能へ一度到達したかだけでなく、停止後の復帰、環境変化、複数条件での反復が実用性を左右する。つばめは、宇宙で働くことを宣言するのではなく、どの手順と余裕を用意すれば運用へ持ち込めるかを示した。

次のシステムへ渡した設計条件

小口径で高分解能を得る超低軌道衛星へ、推進剤効率、抗力予測、耐原子状酸素材料、運用高度選択の実測値を残した。 継承されたのは部品や回路だけではない。異常時に確保すべき状態量、操作を止める閾値、地上局間で共有する時刻、試験結果の版管理、運用者が迷わない手順までが含まれる。後続計画はつばめの不足を隠すのではなく、失敗した経路を分離し、成功した機能には実運用で必要な余裕を加えて要件を書き直した。実証機は完成品の縮小版ではなく、未知の境界を安全に踏み、次の実用システムが負うリスクを減らす装置である。その意味で本機の転機と限界は、達成した最高性能と同じ重さを持つ。

  1. 2017年・打上げ前
    最終設計と射場準備
    高比推力イオンエンジン、ガスジェット、SHIROP、原子状酸素・材料モニターを一つの低抗力バスへ統合した。という構成を確定し、機体と地上系を一つの運用手順として検証した。
  2. 2017-12-23
    打上げ
    H-IIAロケット37号機で種子島宇宙センターから打ち上げられた。
  3. 2017-12-23
    軌道投入・初期捕捉
    2017-082Bとして追跡され、電源、通信、姿勢の初期確認へ移った。
  4. 初期運用期
    実験系の立上げ
    展開物、搭載機器、試験手順と地上設備を順に確認し、合否判定に使う基準状態を確立した。
  5. 2019-04-02
    ミッションの転機
    2019年4月から定常的な軌道保持へ入り、イオンエンジンで連続的に大気抵抗を相殺しながら高度を一段ずつ下げた。
  6. 2019-10-01
    運用の終点
    0.5 m級光学画像、大気密度・原子状酸素密度、材料劣化、6高度でのイオンエンジン軌道保持を実証し、2019年10月1日に停止・再突入した。 運用終了後も試験結果と設計教訓が後続システムへ利用されている。

03開発・運用エピソード

数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を一次資料と結び直す。

六つの高度で抗力を消し、同じ街を1.1 mから0.52 mへ近づける

2019年4月2日からJAXAは「つばめ」を271.5 kmへ一か月固定し、その後271.1~181.1 kmの六高度でorbit keepingした。200~300 kmでは通常の地球観測高度より大気抵抗が約千倍強く、姿勢と高度を保てなければ近距離撮像の利点を使えないため、低推力・高比推力のion engineで抗力を連続相殺した。東京・四谷見附を高度381 kmから撮った2018年6月像は1.1 m、181.1 kmから撮った2019年9月像は0.52 m相当となり、車線まで鮮明化。推進実験を実際の画質改善へ結びつけた。

壊れやすい金色filmを六か月さらし、密度と傷みを同じ時刻で測る

高度300 km未満ではatomic oxygen密度も通常軌道の約千倍となり、金色のthermal-control filmなど有機材料を侵食する。しかし地上beam試験だけでは、実際の大気密度変動と劣化量を同じ履歴で結べない。そこで「つばめ」はAOFSで原子状酸素fluenceを、MDMで曝露試料の変化を同時測定し、300 km未満で約6か月の長期monitoringを実施した。2019年9月までにJAXA開発材料が長期曝露へ耐えることを確認し、取得dataを大気model精度と日本初の超低軌道衛星設計指針へ渡した。

04軌道

初期軌道から段階的に高度を下げ、271.1 kmから181.1 kmの6高度で保持し、最後に167.4 kmの地球観測衛星最低高度記録を得た。

つばめ / 軌道・航路概念図 地球 距離・天体サイズは経路理解のため模式化
  1. 01投入H-IIAロケット37号機から分離し、地上局が初期捕捉する。
  2. 02確立姿勢と電力を安定させ、軌道要素を確定する。
  3. 03定常試験準備、実行、状態記録、送信を軌道周期に合わせて反復する。
  4. 04後期運用終了後は試験記録と設計教訓を後続計画へ渡す。
主航路・運用軌道探査機マーカー概念図。正確な軌道要素は基本情報と出典を参照。

05搭載機器

観測目的を、実際に信号へ変えた機器群。

SHIROP

小型高分解能光学センサー

口径20 cmで0.5 m級地表撮像を実証。

OPS

光学センサー

超低高度からの地球観測性能を評価。

AOFS

原子状酸素フルエンスセンサー

原子状酸素量を直接計測。

MDM

材料劣化モニター

曝露試料の原子状酸素劣化を軌道上評価。

06設計 — 空気を切る低い機体

展開時2.5 × 5.2 × 0.9 mの低い機体に、進行方向を向く原子状酸素センサと材料試料、地球側の20 cm光学系、後部のイオンエンジンをまとめた。超低軌道で抗力を抑えながら、環境・撮像・推進を同時に実証する配置である。

つばめ(SLATS)の低抗力機体と搭載機器配置低く細長い本体、2枚の太陽電池パドル、進行方向のAOFS原子状酸素センサとMDM材料劣化モニタ、地球側のSHIROP光学センサ、後部のイオンエンジンを示す。 SLATS / LOW-DRAG PHYSICAL LAYOUT軌道上 2.5 m(X)× 5.2 m(Y)× 0.9 m(Z) | 383 kg | 三軸姿勢制御 太陽電池パドル 2翼Y方向へ展開・発生電力1140 W以上 低抗力バス電力・姿勢制御・キセノン供給 AOFS|AOセンサ+X面などへ6ヘッド+2モニタMDM|材料劣化13試料を曝露・撮像進行方向 +X SHIROP / OPS|光学センサ開口20 cm・地球側から0.5 m級撮像地球側(−Z) IES|イオンエンジン後部(−X)から連続推力で抗力を相殺

観測面と推進軸を、軌道上の流れに合わせる

つばめは、衛星の+X面を進行方向へ向けて原子状酸素の衝突量と材料劣化を測り、−Z側のSHIROPで地球を撮像した。後部のイオンエンジンは大気抵抗と逆向きの連続推力を与える。太陽電池パドルを含む全高を0.9 mに抑えた外形そのものが、超低軌道を維持するための機能になっている。

08関連文献

設計と成果を検証できる論文・公式技術資料。

  • つばめ 公式ミッションページ
    JAXA・機体諸元、運用、成果 · 一次資料
  • H-IIA 公式打上げ機資料
    JAXA/ISAS・打上げシステムと記録 · 一次資料
  • 2017-082B spacecraft record
    NASA NSSDCA・国際標識番号と軌道記録 · 一次資料