// Asteroid Belt Orbiter - NASA/JPL - 2007-043A
ドーン
DAWN
ドーンは、メインベルトの二つの大きな天体、ベスタとケレスをそれぞれ周回したNASAの探査機である。 一つの探査機が地球以外の二つの天体を周回したこと自体が特別で、その鍵は弱いが長く働くイオン推進だった。 岩石質の原始惑星ベスタと、氷を含む準惑星ケレスを比較し、惑星ができかけた時代の材料と分岐を見せた。
01基本情報
化学ロケットの一撃ではなく、イオンエンジンの長い息で小惑星帯の二つの世界を訪れた。
| 開発・運用 | NASA / Jet Propulsion Laboratory Discovery Program |
|---|---|
| 打上げ | 2007年9月27日 Delta II、ケープカナベラル |
| 探査対象 | ベスタ、ケレス 小惑星帯の大型天体 |
| ミッション終了 | 2018年11月1日 ヒドラジン枯渇により通信不能 |
| 国際標識番号 | 2007-043A |
| 推進 | キセノンイオン推進 30 cm級イオンスラスタ3基、1基は予備 |
|---|---|
| 最大推力 | 約91 mN / 基 小さい推力を長時間積み上げる |
| 推進剤 | キセノン約425 kg |
| 主機器 | Framing Camera / VIR / GRaND |
| 代表成果 | ベスタの原始惑星的性質、ケレスの明るい塩類堆積物と氷関連地形 |
02ミッション
ドーンは、速く行く探査機ではなく、少しずつ軌道を変え続ける探査機だった。その粘りが二つの天体を一度の旅に収めた。
一つの探査機で二つを周回する
通常、天体を周回するには大きな速度変更が必要になる。 まして、ひとつ目の天体を周回してから離脱し、別の天体へ行き、また周回するのは非常に重い要求である。 ドーンはイオン推進によってこの制約を破った。 推力は紙一枚を押す程度でも、何年も噴射を続ければ大きな速度変化になる。 ドーンは「低推力を長く使う」ことで、二つの世界を同じ探査機で比較した。
ベスタはできかけの惑星
ベスタは小惑星と呼ばれるが、内部で分化が進んだ原始惑星に近い性格を持つ。 ドーンはベスタの巨大な南極盆地、玄武岩質の表面、隕石との関係を詳しく観測した。 地球に落ちてくるHED隕石の母天体としての理解も深まり、実験室の隕石と小惑星帯の天体が結びついた。
ケレスは氷を含む準惑星
ケレスはベスタより大きく、より水や揮発性物質に富む天体である。 ドーンはクレーター内の明るい斑点や、塩類を含む堆積物、氷に関連する地形を観測した。 小惑星帯の内側に、乾いた岩石天体だけでなく、氷と塩水の履歴を持つ世界があることを示した。
比較することの強さ
ベスタとケレスは、同じ小惑星帯にありながらまったく違う進化をたどった。 ベスタは熱く乾いた岩石質の原始惑星、ケレスは氷と塩類を抱えた準惑星。 一機が両方を同じ観測思想で見たことで、太陽系初期の温度、材料、形成場所の違いが比較しやすくなった。
ケレスの周りで眠る
ドーンはヒドラジンを使い切り、地球へアンテナを向ける姿勢制御ができなくなった。 そのため通信が失われ、ミッションは終了した。 探査機はケレス周回軌道に残されており、惑星保護の観点から、長期間ケレス表面へ落ちにくい軌道が選ばれていた。
- 2007-09-27打上げDelta IIで小惑星帯へ向けて出発。
- 2009-02火星フライバイ重力アシストでベスタへ向かう軌道を整える。
- 2011-07ベスタ周回開始大型小惑星を詳細観測。
- 2012-09ベスタ離脱イオン推進でケレスへ向かう。
- 2015-03ケレス周回開始準惑星を初めて周回観測。
- 2018-11-01ミッション終了姿勢制御用ヒドラジンの枯渇で通信不能になった。
03エピソード
ドーンの物語は、力任せではなく、ずっと押し続けることで軌道を変える物語である。
推力は小さいが、時間は味方だった
ドーンのイオンエンジンの推力は約91 mN程度で、人間の感覚ではほとんど頼りない。しかし宇宙では摩擦がなく、何千時間も噴射を続けられる。小さな力を長く積み上げる発想が、二つの天体を周回するという大胆な計画を現実にした。
ベスタで隕石と母天体がつながった
地球で見つかるHED隕石は、ベスタ由来と考えられてきた。ドーンの観測は、ベスタ表面の組成と地形を直接調べ、隕石研究と小惑星探査を橋渡しした。手元の石と遠い小惑星が、同じ物語の両端になった。
ケレスの明るい斑点
ドーンがケレスへ近づくと、クレーター内の明るい斑点が大きな注目を集めた。後に塩類を含む明るい堆積物として理解が進み、ケレス内部や地下の水・塩水の履歴を考える入口になった。小惑星帯の準惑星は、予想よりずっと活動的な過去を持っていた。
帰らず、ケレスを汚さずに残る
ドーンはケレス周回軌道でミッションを終えた。重要なのは、ただ燃え尽きたのではなく、ケレスの表面へすぐ落ちない軌道で残されたことだ。水や有機物の可能性がある天体では、探査機の終わり方も科学と倫理の一部になる。
04軌道
地球を出発し、火星で重力アシストを受け、ベスタを周回して離脱し、さらにケレスを周回した。
05搭載機器
観測装置は少数精鋭。画像、可視赤外分光、ガンマ線・中性子で地形と組成を読む。
フレーミングカメラ
ベスタとケレスの地形、クレーター、明るい斑点、表面模様を撮影。航法カメラとしても重要だった。
可視・赤外マッピング分光計
表面の鉱物や氷関連物質をスペクトルで調べ、ベスタとケレスの材料差を読んだ。
ガンマ線・中性子検出器
元素組成や水素の分布を測り、ケレスの氷・揮発性物質の理解に貢献した。
イオン推進系
科学機器ではないが、ミッション成立の中核。3基の30 cm級イオンスラスタで長期加速を行った。
キセノン推進剤
約425 kgのキセノンを電気的に加速して噴射。化学推進より高い効率で大きな総速度変化を得た。
高利得アンテナ
小惑星帯から観測データを地球へ送る通信系。姿勢制御用ヒドラジン枯渇後は地球指向できなくなった。
06設計
ドーンの設計は、巨大な瞬発力ではなく、電力とキセノンを長い時間に変える設計だった。
設計の要点
- 30 cm級イオンスラスタ3基を搭載し、うち1基は予備として運用余裕を持たせた。
- 太陽電池パネルは小惑星帯でも十分な電力を得るため大きく展開された。
- 化学推進は姿勢制御などに使い、主な軌道変更はイオン推進が担った。
- 同じ科学装置でベスタとケレスを観測し、比較惑星学の精度を上げた。
推進の意味
| 推力 | 小さいが、長時間連続で使える |
|---|---|
| 効率 | 化学推進より高い比推力 |
| 成果 | ベスタ周回、離脱、ケレス周回を一機で実現 |
| 制約 | 瞬間的な大加速には向かず、計画的な長期運用が必要 |
07図解
ベスタとケレスは同じ小惑星帯にいるが、ドーンが見せた姿は対照的だった。
08資料・論文
公式ミッション資料と、イオン推進・ベスタ・ケレスの成果を読む入口。
- NASA Science: Dawn
- Dawn ion propulsion
- NSSDCA/COSPAR record: Dawn
- Vesta and Ceres comparative studies