// 陸・大気・海・放射を同時に測る最初のEOS旗艦 · 1999-068A
Terra
Terra
TerraはNASA Earth Observing System最初の旗艦として、地表、植生、雲、エアロゾル、一酸化炭素、放射収支を五装置で同時観測した。2026年も縮退しながら科学データを取得している。
01基本情報
運用史と機体仕様を、ミッションの読み解きに必要な単位で整理する。
| 打上げ日 | 1999-12-18UTC基準の日付 |
|---|---|
| COSPAR ID | 1999-068A国際標識番号 |
| 打上げ機 | Atlas IIASミッション投入に使用 |
| 射場 | Vandenberg SLC-3E打上げ地点 |
| 打上げ質量 | 4864 kg公式公表値または代表値 |
| 軌道 | 高度約705 kmの太陽同期軌道(現在はdrift)当初午前10:30下降、2020年に傾斜維持終了 |
| 公転・周回周期 | 約99分1日約14.5周 |
|---|---|
| 軌道傾斜角 | 98.2°極域を含む全球観測 |
| 設計寿命 | 6年26年以上運用中 |
| 運用状態 | 運用中2026年8月時点Active、複数装置を電力制約下で継続 |
| 主目的 | 陸・海・大気・生物・放射の相互作用を同時全球観測一次資料に基づく要約 |
| データ・通信 | X帯データ、S帯TT&C、EOSDIS長期アーカイブ標準プロダクトと迅速画像を世界公開 |
02ミッション
Terraは一つの環境問題を追うのではなく、火災がエアロゾルとCOを放ち、雲と放射を変え、地表へ戻る連鎖を同じ通過で見ることを目指した。
目的を測定へ
この段階の核心は、陸・海・大気・生物・放射の相互作用を同時全球観測を「一度だけ成功させる実験」ではなく、検証可能な観測・運用手順へ変換したことにある。MODISは36帯域で地表、海色、雲、エアロゾル、雪氷、火災の世界標準データを作った。ここで重要なのは結果だけではない。姿勢、時刻、軌道、校正、通信状態を同時に記録し、地上側が別の観測や計算と突き合わせられる形にしたため、後続計画は成功条件と失敗条件の双方を具体的に学べた。
初期運用
Terraが切り開いたのは、単純な性能競争ではなく、測定系全体の信頼性を設計する考え方だった。MISRの9方向カメラは同じ地点を異なる角度から見て、エアロゾル特性、雲・煙の高さ、表面構造を推定した。得られたデータは装置固有の癖や軌道による偏りを含むため、運用班と解析班は較正履歴を残し、観測できなかった領域まで明示した。その慎重さが、短い運用期間の成果も長期記録へ接続できる理由になった。
転機への対応
転機は、計画書どおりに進まない状況で優先順位を組み替えた点にある。ASTERは日本提供の14帯域高分解能撮像と立体視で火山、鉱物、地表温度、標高を測った。限られた電力、推進剤、通信時間、熱余裕のどれを守るかは科学価値と機体寿命の交換条件だった。チームは安全側に倒すだけでなく、どの測定を残せば目的の中核を保てるかを判断し、運用変更そのものを次世代の設計資料にした。
成果の確定
陸・海・大気・生物・放射の相互作用を同時全球観測という目標は、単独のセンサーだけでは成立しない。MOPITTは宇宙から対流圏一酸化炭素を長期観測し、汚染源と大陸間輸送を追ったが2025年4月に停止した。軌道決定、姿勢推定、時刻同期、地上局、処理ソフト、公開アーカイブが一つの測定器として働いて初めて、数値に物理的な意味が生まれる。Terraは、この連鎖のどこか一つが弱ければ全体の精度が失われることを、成果とトラブルの両方で示した。
記録の継承
科学的な価値は、最初の発見だけで決まらなかった。燃料節約のため2020年に軌道傾斜角維持を終え、赤道通過地方時が徐々に変化している。同じ条件で繰り返した観測、別装置との比較、後年の再処理によって、当初は背景雑音に見えた信号にも新しい意味が与えられた。一次データと校正情報を保存した判断は、計画終了後も研究を更新できる「時間を越える観測装置」を残した。
次世代への遺産
Terraの遺産は、成功を神話化することではなく、制約を公開可能な知識へ変えた点にある。2025~2026年の電力制約でCERES Aft、MOPITT、ASTER熱赤外を順次停止し、残存装置を優先した。達成できた項目、断念した項目、故障後に残った能力を分けて記録することで、後継機は単なる大型化を避け、必要な冗長性、観測帯域、軌道、運用自動化を選び直せた。現在の標準的な手法の多くは、この具体的な試行錯誤の上にある。
- 1988EOSを再構成地球システム科学の旗艦プラットフォームを具体化。
- 1999-12-18打上げAtlas IIASで午前太陽同期軌道へ。
- 2000-02最終軌道到達一連の上昇噴射後、約705 kmへ。
- 2000五装置データ公開全球地球システム観測を開始。
- 2020傾斜維持終了推進剤を保存し自然な地方時driftへ。
- 2025-01CERES Aft停止電力余裕を守るため一台を停止。
- 2025-04MOPITT停止25年超のCO観測を終了。
- 2026-01ASTER TIR停止熱赤外系を非可逆停止、VNIRは再開。
- 2026縮退運用継続MODIS、MISR、CERES-Foreなどが科学観測中。
03エピソード
数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を一次資料と結び直す。
43枚まで減った記録器を、12時間かけて全数復帰させる
2021年6月28・29日、Terraの固体記録器で二枚のprinted wire assemblyが停止し、MISRとMODISのデータが失われた。過去の停止分も重なって稼働基板は43枚まで減り、極域観測の削減か通信回数増加かを迫られた。運用班は2001年に一枚を回復した再起動を選び、9月22日に約12時間、基板を一枚ずつ起動した。再起動対象を順に戻し、58枚が運用状態となって五装置の完全な科学取得を再開。老朽化を均等な縮退で受け入れず、一度データを止める判断で打上げ時相当の記録容量を取り戻した。
残り燃料を時刻維持ではなく、隊列からの安全な退出へ残す
Terraは比較可能な照明を保つため年平均4回の軌道傾斜調整を続けたが、燃料を使い切れば高度705 kmのEarth Science Constellationから安全に離れられない。NASAは2020年2月に地方時維持を止め、衝突回避と退出分を温存した。赤道通過が10時15分へ早まった後、運用班は2022年10月12日と19日に二回の逆行噴射を実施し、高度694 kmへ低下させた。MODISは21日に扉を開き、22日に通常運用、23日から処理を再開。観測時刻の一貫性を少し譲る判断が、隊列の安全と残存科学を両立させた。
04軌道
午前10時30分下降軌道を20年以上維持した後、燃料と電力を科学寿命へ振り向けるdrift運用へ移った。
- 01軌道上昇打上げ後11週間の点検と複数噴射で最終軌道へ。
- 02定時観測午前10:30下降で照明をそろえ五装置を同期運用。
- 03傾斜維持終了2020年以降は地方時が早い側へdrift。
- 04縮退延命装置停止で電力余裕を作り、2026年も残存観測を継続。
05搭載機器
観測目的を、実際に信号へ変えた機器群。
Advanced Spaceborne Thermal Emission and Reflection Radiometer
高分解能14帯域と立体視、2026年から熱赤外停止。
Clouds and the Earth's Radiant Energy System
地球放射収支を測定、Foreが継続。
Multi-angle Imaging SpectroRadiometer
9方向撮像でエアロゾル・雲・地表を立体解析。
Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer
36帯域で地球表層を全球反復観測。
Measurements of Pollution in the Troposphere
対流圏COを測定、2025年停止。
06機体設計と五つの地球観測装置
Terraは6.8 m級の大型機体に、ASTER、CERES、MISR、MODIS、MOPITTを同じ地球指向面へ配置した。大型単翼太陽電池と観測器デッキを分け、同じ通過で地表・大気・雲・放射を同時に測る。
五装置を同じ通過へ揃える
ASTER、CERES、MISR、MODIS、MOPITTを同じ地球指向面に載せ、同じ大気・地表を異なる波長と視角で観測した。機体は五つの単独衛星ではなく、一つのEarth system observatoryである。
固定九眼で角度を変える
MISRは直下1台と前後4方向ずつ、計9台の固定カメラを並べた。鏡を首振りせず、飛行に伴って同じ地点を九つの角度から順に見る。
大型単翼が観測面を空ける
太陽追尾する大型単翼を機体側面から離し、地球指向デッキには広い観測視野を確保した。Terra本体は長さ6.8 m、幅3.5 m、打上げ時質量5,190 kgだった。
07写真・図版
実機と観測成果を、出典・ライセンスとともに確認する。


08関連文献
設計と成果を検証できる論文・公式技術資料。
- Terra ミッション概要
- Terra 宇宙機カタログ
- Terra 技術・運用資料