// 地球の水循環を午後軌道から統合するEOS旗艦 · 2002-022A
Aqua
Aqua
Aquaは水蒸気、雲、降水、海氷、雪、地表・海面温度、放射収支を同じ午後軌道から測るEarth Observing System旗艦である。設計6年を超え、2026年も四装置で観測を続ける。
01基本情報
運用史と機体仕様を、ミッションの読み解きに必要な単位で整理する。
| 打上げ日 | 2002-05-04UTC基準の日付 |
|---|---|
| COSPAR ID | 2002-022A国際標識番号 |
| 打上げ機 | Delta II 7920-10Lミッション投入に使用 |
| 射場 | Vandenberg SLC-2W打上げ地点 |
| 打上げ質量 | 3117 kg公式公表値または代表値 |
| 軌道 | 高度約705 kmの太陽同期軌道(現在はfree-drift)当初A-Train午後上昇軌道、2021年末に軌道維持終了 |
| 公転・周回周期 | 約99分1日約14.5周 |
|---|---|
| 軌道傾斜角 | 98.2°極域を含む全球観測 |
| 設計寿命 | 6年24年以上運用中 |
| 運用状態 | 運用中2026年8月時点で四装置を運用、同年秋から恒久停止処置を開始予定 |
| 主目的 | 地球水循環、放射収支、気温・雲・海洋・雪氷の統合観測一次資料に基づく要約 |
| データ・通信 | X帯直接送信、S帯TT&C、EOSDIS処理・公開複数装置の標準プロダクトを長期配布 |
02ミッション
Aquaは『水』を単一変数にせず、相変化、雲、放射、海洋、陸面を同じ時間帯で観測し、地球システムの結合を長期記録にした。
目的を測定へ
この段階の核心は、地球水循環、放射収支、気温・雲・海洋・雪氷の統合観測を「一度だけ成功させる実験」ではなく、検証可能な観測・運用手順へ変換したことにある。AIRSとAMSUは赤外・マイクロ波サウンディングを組み合わせ、雲の影響を抑えた気温・水蒸気鉛直分布を作った。ここで重要なのは結果だけではない。姿勢、時刻、軌道、校正、通信状態を同時に記録し、地上側が別の観測や計算と突き合わせられる形にしたため、後続計画は成功条件と失敗条件の双方を具体的に学べた。
初期運用
Aquaが切り開いたのは、単純な性能競争ではなく、測定系全体の信頼性を設計する考え方だった。MODISは36波長帯で雲、エアロゾル、海色、雪氷、植生、火災を毎日級に全球観測した。得られたデータは装置固有の癖や軌道による偏りを含むため、運用班と解析班は較正履歴を残し、観測できなかった領域まで明示した。その慎重さが、短い運用期間の成果も長期記録へ接続できる理由になった。
転機への対応
転機は、計画書どおりに進まない状況で優先順位を組み替えた点にある。CERESは地球が反射する太陽光と宇宙へ放つ熱を測り、雲と放射収支の長期変化を記録した。限られた電力、推進剤、通信時間、熱余裕のどれを守るかは科学価値と機体寿命の交換条件だった。チームは安全側に倒すだけでなく、どの測定を残せば目的の中核を保てるかを判断し、運用変更そのものを次世代の設計資料にした。
成果の確定
地球水循環、放射収支、気温・雲・海洋・雪氷の統合観測という目標は、単独のセンサーだけでは成立しない。JAXAのAMSR-Eは2011年10月にアンテナ回転異常で高品質観測を停止し、2016年に完全停止した。軌道決定、姿勢推定、時刻同期、地上局、処理ソフト、公開アーカイブが一つの測定器として働いて初めて、数値に物理的な意味が生まれる。Aquaは、この連鎖のどこか一つが弱ければ全体の精度が失われることを、成果とトラブルの両方で示した。
記録の継承
科学的な価値は、最初の発見だけで決まらなかった。ブラジルのHSBは約9か月の高品質データ後、2003年2月に故障した。同じ条件で繰り返した観測、別装置との比較、後年の再処理によって、当初は背景雑音に見えた信号にも新しい意味が与えられた。一次データと校正情報を保存した判断は、計画終了後も研究を更新できる「時間を越える観測装置」を残した。
次世代への遺産
Aquaの遺産は、成功を神話化することではなく、制約を公開可能な知識へ変えた点にある。燃料節約のため2021年12月に最後のdrag makeup maneuverを行い、現在はA-Trainから離れてfree-drift中である。達成できた項目、断念した項目、故障後に残った能力を分けて記録することで、後継機は単なる大型化を避け、必要な冗長性、観測帯域、軌道、運用自動化を選び直せた。現在の標準的な手法の多くは、この具体的な試行錯誤の上にある。
- 1991EOS PM構想午後軌道から水循環を測る旗艦衛星を設計。
- 2002-05-04打上げDelta IIで約705 km太陽同期軌道へ。
- 2002六装置観測開始AIRS、AMSU、CERES、MODIS、AMSR-E、HSBを較正。
- 2003-02HSB停止約9か月の観測後に故障。
- 2011-10AMSR-E異常アンテナ回転が停止し通常観測終了。
- 2016-03AMSR-E電源停止較正用の低速運用も終了。
- 2021-12最後の軌道維持drag makeupを終えfree-driftへ。
- 2026延長運用四装置で高品質データを継続。
03エピソード
六つの観測装置を一枚岩として扱わず、故障・較正・推進剤の制約ごとに科学を残した運用を追う。
9か月で止まったHSBを、衛星全体の終わりにしない
ブラジル提供の湿度サウンダHSBは2002年5月4日の打上げ後に観測を始めたが、2003年2月5日、走査鏡モーターの故障で高品質データ取得を終えた。雲を透過するマイクロ波湿度観測の一部を早く失った一方、NASAは装置単位で電力とデータ経路を分離していたため、AIRS、AMSU、CERES、MODIS、AMSR-Eを巻き込まずに運用を継続できた。六装置の同時観測という計画を、五装置で成立する長期記録へ組み替えた最初の転機だった。
40 rpmで止まったAMSR-Eを、2 rpmの較正器として戻す
JAXAのAMSR-Eは設計寿命3年を超えて9年以上回り続けた後、2011年10月4日に軸受または潤滑の異常で40 rpmを維持できず、通常観測を停止した。大きな回転体を再始動すればAquaをセーフホールドへ入れる危険があるため、チームは姿勢への不釣合いを評価し、2012年12月4日に2 rpmだけで再起動。後継GCOM-WのAMSR2と約3年間交差較正し、2016年3月3日に電源を切った。壊れた観測器を無理に科学復帰させず、後継の物差しへ役割を変えた。
2021年12月1日、最後の軌道維持を科学計画へ変える
Aquaは午後のA-Trainで他衛星との通過時刻をそろえてきたが、推進剤を使い続ければ安全な終末運用に必要な余裕まで失う。運用チームは2021年12月1日のdrag makeupを最後とし、隊列維持をやめてfree-driftへ移る判断をした。以後は高度と地方時が少しずつ変わるため、時刻ドリフトを観測メタデータとして追跡し、気候変化と日変化を混同しない処理へ切替。隊列の同時性を手放す代わりに、残る四装置の観測期間と安全余裕を延ばした。
04軌道
Aquaは午後の太陽同期軌道を約20年保ち、2022年から自然降下と地方時ドリフトを受け入れて観測を続けている。
- 01705 km午後軌道傾斜角98.2°、約99分周期の太陽同期軌道で、午後の上昇赤道通過を維持した。
- 02A-Train協調観測衛星群の通過時刻をそろえ、同じ大気や地表を異なるセンサーで連続観測した。
- 03最終軌道維持2021年12月1日のdrag makeup maneuverを最後に高度維持を終了した。
- 04free-drift2022年1月にA-Trainを離れ、自然降下と遅い地方時への移行を追跡しながら四装置を運用している。
05搭載機器
観測目的を、実際に信号へ変えた機器群。
Atmospheric Infrared Sounder
高分解能赤外分光で気温・水蒸気・微量気体を測定。
Advanced Microwave Sounding Unit
雲を通して気温鉛直分布を補完。
Clouds and the Earth's Radiant Energy System
短波・長波放射と雲の放射効果を測定。
Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer
36帯域で陸・海・雲・雪氷を全球観測。
Advanced Microwave Scanning Radiometer-EOS
海氷、降水、水蒸気などを観測、2011年通常停止。
Humidity Sounder for Brazil
マイクロ波湿度サウンダ、2003年停止。
06設計
Aquaは故障を装置ごとに隔離し、共通の時刻・姿勢・記録系を保ちながら、AIRS、AMSU、CERES、MODISの四装置を24年以上運用してきた。
水循環を六つの視点でつなぐ
Aquaは地球の「水」を、単一のセンサーで測る対象として扱わなかった。AIRSは2378の赤外チャンネルで大気の温度と水蒸気を細かく分光し、AMSU-Aは15のマイクロ波チャンネルで雲の影響を受けにくい温度情報を加える。両者は一体のサウンディング系として同じ視野を解析する。MODISは36波長帯と2330 kmの広い観測幅で雲、海色、陸面、雪氷、火災を結び、CERESの二台の走査計は反射太陽光と地球放射を測る。AMSR-Eは海面温度・風、土壌水分、降水、海氷をマイクロ波で測り、HSBは湿度鉛直分布を補った。六装置は異なる物理量を同じ通過時刻と位置へ重ね、水循環と放射収支を立体的に読めるようにした。
並列の観測デッキ
地球指向面に置かれた各装置は、共通の電源、時刻、姿勢、軌道情報を受けながら独立してデータを生成した。AIRSとAMSU-Aは観測幾何を合わせる強い連携を持つ一方、MODIS、CERES、AMSR-E、HSBはそれぞれの走査と較正を保つ。観測データは共通のSolid-State Recorderへ収容され、Xバンドで地上へ送られる。独立した並列構成により故障や保守を個別に隔離でき、HSB停止後も、AMSR-Eのアンテナ異常後も衛星全体の観測を継続させた。2026年8月時点ではAIRS、AMSU-A、CERES、MODISが科学運用を続けている。
二十年を比較可能にする較正
長期記録では、検出器の感度変化が地球の変化に見える危険がある。MODISは太陽拡散板、分光放射較正器、黒体、宇宙空間・月観測を組み合わせて可視から熱赤外までの応答を追跡した。CERESは短波、8–12 µmの大気窓、全波長の三チャンネルを持ち、二台のうち一台をcross-track、もう一台を二軸走査に使って角度依存を調べた。AIRSとAMSU-Aも内部較正源、宇宙視野、地上検証を結び、各観測へ温度、姿勢、時刻と品質フラグを付けた。再処理では同じ較正履歴を過去へ適用し、二十年以上の記録を同じ物差しへ戻す。
残存能力を支える衛星バス
3117 kgのEOS共通プラットフォームは、大型の単翼太陽電池アレイ、24セルのニッケル水素電池、三軸姿勢制御、推進系、S・Xバンド通信を備える。2025年5月の運用資料では太陽電池132ストリング中99が使用可能で、電池は24セルすべてが稼働し、Solid-State Recorderは136 Gbit中135.74 Gbitを利用できた。Xバンドは科学データと直接放送を担い、Sバンドは指令・状態監視を担う。電力、熱、記録容量、通信、姿勢の余裕を装置別に管理し、停止した機器を切り離して四装置へ資源を残す運用が、設計寿命6年を大きく超える継続観測を可能にした。
free-driftをデータへ織り込む
高度維持は2021年12月1日の噴射で終わり、Aquaは2022年1月にA-Trainを離れた。以後は大気抵抗で高度がゆっくり下がり、上昇赤道通過地方時も午後の遅い時刻へ移る。照明、地表温度、雲の日変化が観測値へ加わるため、軌道・地方時・太陽角を各プロダクトへ正確に添えることが重要になった。地上系は軌道ドリフトを継続して予測し、較正と解析へ反映している。NASAは2026年秋から恒久停止処置を始める計画を案内しており、その時点まで四装置のデータ品質と機体安全を監視する。Aquaの終盤運用は、長寿命機の残存能力を科学記録へ変えるための設計と運用の連携を示している。
07写真・図版
実機と観測成果を、出典・ライセンスとともに確認する。


08関連文献
設計と成果を検証できる論文・公式技術資料。
- Aqua ミッション概要
- Aqua 宇宙機カタログ
- Aqua 技術・運用資料