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// Mars explorer · ISAS · 1998-041A

のぞみ
NOZOMI / PLANET-B

のぞみは、日本初の火星探査機。火星周回には届かなかったが、月・地球スイングバイ、長期のトラブル対応、火星衝突回避まで、深宇宙運用の厳しさを具体的に残した。

1998
打上げ
540kg
質量
2003
火星接近・断念
運用終了🇯🇵 ISAS / JAXA火星探査

01基本情報

火星上層大気と太陽風の相互作用を調べるため計画された、日本初の火星周回探査機。

開発・運用ISAS 現 JAXA宇宙科学研究所
打上げ1998年7月4日 03:12 JST M-V-3、内之浦
状態運用終了 2003年12月9日、火星周回投入断念
国際標識番号1998-041A
質量約540 kg
寸法1.6 × 1.6 × 0.58 m ワイヤアンテナ端間52 m
軌道太陽周回軌道 火星近傍を通過
主目的火星上層大気、太陽風相互作用、磁場、表面・衛星リモートセンシング

02ミッション

のぞみは成功物語としては語りにくい。けれど、失敗の細部が日本の火星・深宇宙探査にとって大きな教材になった。

火星大気はどこへ消えたのか

のぞみの科学目的は、火星上層大気と太陽風の相互作用を調べることだった。火星は地球ほど強い全球磁場を持たず、大気が宇宙へ逃げる過程が重要になる。上層大気、プラズマ、磁場、紫外線、ダストを多角的に測る計画だった。

軌道変更の連鎖

1998年の月スイングバイと地球スイングバイを使い、火星へ向かう計画だった。しかし地球スイングバイ時の推力不足で燃料消費が増え、予定どおりの到着はできなくなった。ISASは、その後、2002年と2003年の地球スイングバイで火星へ向かう軌道を再構成したと記録している。

太陽フレアとシステム故障

長い迂回の途中、通信・熱制御系に深刻な不具合が起きた。火星周回投入に必要な機能を回復できず、2003年12月9日に投入を断念した。火星へ衝突させないため、探査機の進路を変える判断が行われた。

失敗から残るもの

のぞみは火星周回観測を実現できなかったが、水素ライマンアルファ光などの観測データを残した。さらに、長期クルーズ中のトラブル対応、再計画、惑星保護判断は、後続の日本深宇宙ミッションへ経験として残った。

惑星保護まで含めて火星探査である

火星周回投入を断念した後も、探査機の仕事は終わらなかった。火星へ偶然衝突すれば、地球由来の物質を持ち込むおそれがあるため、最後の運用では衝突回避が重視された。科学観測ができない状態でも、惑星を汚染しない経路へ移す判断は火星探査の一部である。

後続機への痛い経験値

のぞみの経緯は、推進系、通信系、熱制御、長期クルーズ中の冗長性、スイングバイ再計画の難しさを具体的に示した。あかつき、はやぶさ、MMXへ続く日本の深宇宙ミッションは、成功例だけでなく、こうした未達ミッションの運用記録からも設計条件を受け取っている。

  1. 1998-07-04
    打上げ
    M-Vで火星へ向けて出発。
  2. 1998-08-24
    第1回月スイングバイ
    地球周回長楕円軌道から火星遷移へ向けた加速を開始。
  3. 1998-12-18
    第2回月スイングバイ
    火星へ向かう地球脱出前の軌道調整を実施。
  4. 1998-12-20
    地球スイングバイ
    推力不足により予定軌道から外れる。
  5. 2002-2003
    再スイングバイ
    地球接近を使って火星到達を再計画。
  6. 2002-12
    再地球スイングバイ
    到着延期後の火星到達軌道を再構成。
  7. 2003-06
    最後の地球スイングバイ
    火星接近へ向かうが、通信・熱制御系の問題が残る。
  8. 2003-12-09
    火星周回投入断念
    火星衝突を避ける軌道へ変更。

03エピソード

一つの故障ではなく、航路・電源・熱・通信を四年かけて組み直した運用記録。

推力不足を、地球へ二度戻る四年の航路へ変える

1998年12月20日、のぞみは近地点約1,000kmの地球powered swingbyでthruster valve不具合により推力が不足し、補正で推進剤を使い過ぎて1999年10月の火星投入が成立しなくなった。ISASのmission解析班は年末年始も代替軌道を探索し、太陽を周回した後、2002年12月と2003年6月に地球へ二度戻って重力で速度と軌道面を変える案を選んだ。到着を約四年遅らせる代わりに残燃料を守り、2003年6月19日の約11,000km flybyで火星へ届く航路へ復帰した。

telemetryを失い、beaconのON/OFFだけで温度を絞る

2002年4月21日の大規模solar flare後、機器の電気回路が損傷したと推定され、4月26日以降はcommon power supplyの過電流保護がON commandから約2msで働き、telemetryとheater制御を使えなくなった。地上班は保護器を無理に固定せず、機上の自律条件へ温度閾値を少しずつ与え、beaconがONかOFFかだけを往復数分かけて読む方法で状態を推定した。太陽へ近づく自然加熱と観測機器の通電を組み合わせ、8月末に凍結hydrazineが融点へ達したと確認し、姿勢・軌道制御を再開して12月の地球flybyを実行した。

周回投入を捨て、12月9日夜に火星衝突を避ける

2003年6月の地球swingbyで火星到達軌道へ戻った後も、通信・熱制御系の回復は10月末まで成功せず、12月の周回投入に必要な系統を確実に動かせなかった。ISASは科学目標を追って制御不能のまま接近するより、火星へ衝突して地球由来物質を持ち込むriskを除く判断を選んだ。12月9日夜に軌道変更を行って周回投入を正式に断念し、のぞみは火星近傍を通過して太陽周回軌道へ残った。未達を隠さず、最後の使用可能な操作を惑星保護へ使った終端だった。

04軌道

1998年は月の重力を2回使って地球を離脱。加速不足の後は太陽を3周して地球へ戻る航路へ組み替え、2002年と2003年の地球スイングバイから火星へ向かった。

のぞみの地球離脱、再設計軌道、火星通過地球月系、太陽中心軌道、火星近傍を独立した縮尺で示す。1998年の二回の月スイングバイと地球パワードスイングバイ、2002年と2003年の地球スイングバイ、火星周回投入断念後の約1000キロメートル通過を区別する。 NOZOMI / TRAJECTORY RECORD 01 地球—月系 / 1998LOCAL SCALE 地球 高楕円軌道で遠地点を拡大月スイングバイ 1月スイングバイ 212/20 地球パワードスイングバイ推力不足 → 航路を再設計 02 太陽中心 / 1999–2003HELIOCENTRIC SCALE 太陽 地球軌道 地球 2002/1236,000 km 2003/6 高度約11,000 km 太陽を3周して地球へ戻る2回の地球スイングバイで軌道面と火星到着時刻を調整 03 火星近傍 / 2003MARS LOCAL SCALE 12/14表面から約1,000 km 火星周回投入は未達衝突回避軌道で通過12/16 火星圏離脱 その後:太陽周回軌道 1998 地球離脱 → 1999–2003 太陽周回 → 2003 火星通過 → 太陽周回を継続
到達と成功を分けるのぞみは火星へ到達したが、火星周回機にはならなかった。2003年12月9日に衝突回避軌道へ変更し、14日に火星表面から約1,000 kmを通過、16日に火星重力圏を離れて太陽周回軌道へ入った。

05搭載機器

MIC / UVS

撮像・紫外観測

火星表面、衛星、上層大気をリモートセンシングする計画だった。

MGF / PWS

磁場・プラズマ波

火星周辺の磁場とプラズマ波を測り、太陽風との相互作用を探る装置。

MDC / NMS

ダスト・中性粒子

火星周辺と惑星間空間のダスト、粒子環境を測る機器群。

06設計

端間52 mの電界アンテナ、14種の科学機器、火星捕獲用500 Nエンジンを約540 kgの機体へ統合した。外形と機能系統を分けて、どの装置が何を支えるかを読む。

のぞみの機体配置と機能系統箱形バス、太陽電池パドル、高利得アンテナ、52メートル電界アンテナ、磁力計マスト、500ニュートン主エンジン、科学機器群、電力、姿勢、通信、データの関係を静的に示す。 NOZOMI / SPACECRAFT + FUNCTIONAL ARCHITECTURE PWS / LFA電界アンテナ端間52 m SPACECRAFT BUS1.6 × 1.6 × 0.58 m SOLAR ARRAYSOLAR ARRAY展開端間 6.22 m 高利得アンテナ MGF 磁力計マスト 500 N 二液式主エンジン MIC/UVS粒子・場MDC/NMS REAL FUNCTIONAL RELATIONSHIPS / STATIC MAP 太陽電池・電池発電・蓄電電源・熱制御配電・保温データ処理・テレメトリ時刻・状態を統合S帯通信 / HGA測距・指令・送信臼田深宇宙局・運用軌道決定・復旧判断 14種の科学機器MIC・UVS・XUV・PWS/LFAMGF・粒子・MDC・NMSほか姿勢センサー・AOCS太陽・恒星基準観測視線と通信指向姿勢用ヒドラジン姿勢変更・軌道微調整長期巡航で保温対象500 N主エンジン系地球離脱・火星捕獲酸化剤加圧弁が要点 科学機器は独立した観測入口として共通の電力・時刻・テレメトリを利用する

52 mは火星プラズマを聞く長さ

PWSとLFAが使う電界アンテナは端間52 mに達し、本体1.6 m級という数字よりはるかに大きい。これは見栄えのための展開物ではなく、低周波のプラズマ波と電離層エコーを捉える測定基線である。磁力計MGFは機体電装の磁気雑音を避けるマストへ置かれ、粒子分析器と同じ時刻で場と粒子を対応させる。火星の上層大気散逸を調べるには、撮像だけでなく、電場、磁場、電子、イオンを同時に読む必要があった。

14機器は直列ではなく同時観測網

MIC、UVS、XUVは表面・衛星・大気の遠隔観測、PWS/LFAはプラズマ波、MGFは磁場、MDCはダスト、NMSは中性粒子を担当する。各機器が次の機器を動かすわけではない。共通の電源、姿勢、時刻、データ処理、通信を利用し、異なる物理量を同じ火星環境へ重ねる構成である。約540 kgの機体へ14種を載せた意味は、装置数の多さではなく、太陽風から電離層までを一つの相互作用系として測る点にあった。

捕獲用エンジンと姿勢用推進剤は役割が違う

再計画では、火星到着時に500 N主エンジンを噴射し、近火点約150 kmの長楕円周回軌道へ捕獲する構想だった。一方、姿勢変更と微小な軌道修正にはヒドラジン系を使う。1998年の地球パワードスイングバイでは酸化剤加圧弁系の不調で加速が不足し、補正のため推進剤余裕を失った。推進系を一つの箱として扱わず、主噴射、加圧、弁、姿勢制御の役割と故障伝播を分けて読む必要がある。

電源・熱・通信が再挑戦を可能にした

太陽電池パドルは展開端間6.22 mで、発電した電力を電池、保温、観測、通信へ配る。2002年の太陽フレア後はテレメトリ送信と熱制御に深刻な障害が生じたが、コマンド受信、測距、ビーコンのON/OFF、搭載自律機能を組み合わせて状態を推定した。凍結した姿勢制御用ヒドラジンは太陽へ近づく熱環境を利用して解凍され、2002年と2003年の地球スイングバイへつながった。機体と地上局の間に残った細い経路が、軌道再設計を実行可能にした。

終端判断もシステム設計の一部

2003年12月9日、周回投入に必要な機能を回復できないと確認した運用チームは、火星への衝突確率を下げる軌道変更を実施した。科学観測を優先して衝突させるのではなく、火星を約1,000 kmで通過させて太陽周回へ移す判断である。のぞみの設計を評価するとき、予定した火星周回性能だけでなく、弱った電源・通信・熱制御の中で軌道を決定し、惑星保護の終端コマンドを成立させた地上系まで含める必要がある。

08関連文献

のぞみは火星周回観測に至らなかったため公式資料が重要だが、計画時のミッション設計や搭載観測はDOI付き論文で確認できる。

  • Planet-B mission to Mars - 1998
    Tsuruda et al. (1996), Advances in Space Research。火星プラズマ・大気散逸観測を狙ったPLANET-Bの設計論文。 · doi:10.1016/0273-1177(95)00756-5
  • Mars dust counter (MDC) on board NOZOMI: Initial results
    Igenbergs et al. (2002), Planetary and Space Science。火星到着前に得られたMDC初期観測を扱う。 · doi:10.1016/S0964-2749(02)80340-7
  • Observation of the Interstellar Helium Cone by the Nozomi Spacecraft
    Yamamoto et al. (2001), book chapter。のぞみ搭載観測による惑星間空間観測の例。 · doi:10.1007/978-94-017-3230-7_70
  • Finally, Nozomi Heads for Mars
    Normile (2003), Science。長い復旧運用後に火星へ向かった時点の状況を伝える短報。 · doi:10.1126/science.300.5628.2017d