// Lunar swing-by engineering test spacecraft · ISAS · 1990-007A

ひてん
HITEN / MUSES-A

ひてんは、日本の月・深宇宙航行技術を鍛えた工学実験機。月スイングバイを何度も行い、地球大気を使うエアロブレーキも試し、最後は月面へ到達した。

1990
打上げ
10
月スイングバイ
1993
月面到達
運用終了🇯🇵 ISAS / JAXA月軌道技術実証

01基本情報

月スイングバイ、軌道制御、光学航法、エアロブレーキを実地で試した日本の月探査前史の重要機。

開発・運用ISAS 現 JAXA宇宙科学研究所
打上げ1990年1月24日 20:46 JST M-3SII-5、内之浦
状態運用終了 1993年4月11日、月面衝突
国際標識番号1990-007A
質量197 kg 孫衛星ハゴロモ含む
寸法直径1.4 m、高さ79 cm
軌道高楕円地球軌道 / 二重月スイングバイ
搭載物ハゴロモ、ダストカウンタ、光学航法系

02ミッション

ひてんは月を調べる衛星というより、月を使って航法を学ぶ衛星だった。

月スイングバイを自分のものにする

月の重力を使って軌道を変えるには、軌道決定と制御の精度が必要になる。ひてんは月スイングバイを実際に繰り返し、ISASが将来の月・惑星探査で使う航法技術を鍛えた。公式ページでは、最大10回の月スイングバイ実験に成功したと記録されている。

地球大気で速度を削る

ひてんは高度約120kmの地球大気をかすめるエアロブレーキ実験も行った。燃料を吹くのではなく、大気抵抗で軌道エネルギーを変える。危険だが、将来の惑星周回投入や軌道変更に関わる重要な発想である。

ハゴロモという小さな月周回機

ひてんは約11kgの孫衛星ハゴロモを搭載した。通信確認には課題があったが、月をめぐる複数機構成の先駆けとして、後の月探査へつながる試みだった。

最後は月へ

1993年4月11日、ひてんは月面へ到達して運用を終えた。観測成果よりも、軌道設計と運用経験を残すタイプのミッションだった。

  1. 1990-01-24
    打上げ
    高楕円地球軌道へ投入。
  2. 1990
    ハゴロモ分離
    月周回を狙う小型孫衛星を分離。
  3. 1991-1993
    月スイングバイ・エアロブレーキ
    軌道制御技術を繰り返し実証。
  4. 1993-04-11
    月面衝突
    月面で運用終了。

03エピソード

ひてんは「月に行く」よりも、「月を使って飛び方を覚える」機体だった。

月は目的地であり、操縦装置でもあった

ひてんにとって月は観測対象というより、重力で軌道を変えるための大きな道具だった。月のそばをどこで、どの速度で通るかが、その後の軌道を決める。航法の難しさがそのままミッションの中身だった。

エアロブレーキは、地球の大気を使う大胆な実験だった

高度120km級の大気圏上端をかすめれば、わずかな抵抗で速度が変わる。しかし下げすぎれば危険で、上げすぎれば効果がない。ひてんはその境界を実地で試した。

出典: ISAS results

光学航法をスピン衛星で試す

公式ページでは、スピン安定衛星として世界初の光学航法システムを搭載したとされている。星や天体の見え方から自分の位置を読む技術は、深宇宙探査の自立性に関わる。

関連資料: ISAS instrument list

かぐや以前の月探査の足場

ひてんは大型の月科学衛星ではないが、日本が月の重力場と軌道運用を扱う経験を作った。かぐやのような本格月周回衛星の前に、こうした航法実験の蓄積がある。

関連資料: かぐやページ

04軌道

高楕円地球軌道から月スイングバイを繰り返す概念図。スケールは模式的。

EarthMoon

05搭載機器

MDC

ダストカウンタ

地球と月の間の宇宙塵を測定した、ミュンヘン工科大学との共同研究機器。

OPS

光学航法系

天体を見て軌道決定を助ける航法技術をスピン衛星で試した。

HAGOROMO

孫衛星ハゴロモ

約11kgの小型月周回衛星。複数機構成の月探査を試した。

06設計

ひてんは、観測装置を多数積む科学衛星ではなく、軌道制御を実験するための工学衛星だった。高楕円軌道、月スイングバイ、エアロブレーキ、孫衛星分離という、軌道力学そのものが設計対象だった。

197kgに軌道実験を詰める

本体は小さいが、挑戦は大きい。月の重力と地球大気を使い、燃料だけに頼らない軌道変更を実地で確かめた。

最後まで軌道で学ぶ

月面衝突は単なる終わりではなく、運用計画の終端でもある。ひてんは、軌道を作って、変えて、最後に月へ届けるまでを一つの実験にした。

08資料