// Lunar orbiter · JAXA · 2007-039A
かぐや
KAGUYA / SELENE
かぐやは、日本の大型月周回探査機。月の起源と進化を調べる科学観測に加え、HDTVによる地球出・地球入りの映像で、月探査を一般の記憶にも刻んだ。
01基本情報
主衛星と2機の小型衛星を組み合わせ、月全体を多角的に測った総合月探査ミッション。
| 開発・運用 | JAXA |
|---|---|
| 打上げ | 2007年9月14日 10:31:01 JST H-IIA 13号機、種子島 |
| 状態 | 運用終了 2009年6月11日 03:25頃(JST)に月面へ制御落下 |
| 目的 | 月の起源・進化、将来探査技術、月面環境の観測 |
| 構成 | 主衛星 / リレー衛星おきな(Rstar) / VRAD衛星おうな(Vstar) |
|---|---|
| 主軌道 | 高度100 km・傾斜角90°の月極円軌道 |
| 子衛星軌道 | おきな 100×2,400 km / おうな 100×800 km |
| 低高度運用 | 50 km、さらに近月点10–30 kmへ降下 |
02ミッション
月は近いが、全球を同じ品質で測るには周回機が必要だった。かぐやは月の地形、組成、重力場、磁場、プラズマをまとめて観測した。
月の起源と進化を読む
月の表面には、衝突、火山活動、地殻形成、宇宙風化の記録が重なっている。かぐやは元素・鉱物・地形・重力を組み合わせ、月がどのように冷え、分化し、現在の姿になったのかを調べた。
裏側を測るための子衛星
月の裏側では、地球から直接電波が届かない。かぐやはリレー衛星「おきな」とVLBI用の「おうな」を使い、重力場や軌道決定の精度を高めた。主衛星だけでなく、三機構成で月を測る設計だった。
低高度で細部を見る
通常観測後、かぐやは高度50km、さらに近月点10-30kmの低高度へ降下した。月表面に近づくほど、地形や磁場、粒子環境を細かく測れる。最後は観測を終え、月面へ制御落下した。
映像が探査の入口になった
HDTVによる月面や地球出の映像は、科学データとは別に大きな意味を持った。月から見る地球の姿は、探査を専門家だけのものにせず、一般の人が月周回の視点を体験する窓になった。
地形・重力・鉱物を同じ月面へ重ねる
かぐやの強みは、1種類の観測に閉じなかったことにある。レーザ高度計で高さを測り、地形カメラで形を撮り、多バンドイメージャとスペクトルプロファイラで鉱物を読み、ガンマ線・X線で元素分布を調べた。月の起源と進化は一つの装置だけでは解けないため、複数の観測を同じ座標系へ重ねる設計が必要だった。
データは月探査の基準地図になった
地形や重力場のデータは、かぐや単体の成果にとどまらない。着陸候補地の評価、月裏側の内部構造、極域の日照・地形条件、地下空洞の議論など、後の月探査計画で参照され続ける。探査機が月面へ落下しても、全球データは月科学の基盤として残った。
- 2007-09-14打上げ・地球周回H-IIAで出発。地球を約2周して月遷移軌道へ。
- 2007-10-04月周回投入 LOI1近月点101 km・遠月点11,741 kmの捕獲楕円軌道へ。
- 2007-10-09おきな(Rstar)分離100×2,400 kmの楕円軌道で月裏側の4-wayドップラー観測を中継。
- 2007-10-12おうな(Vstar)分離100×800 kmの楕円軌道へ分離し、差分VLBI観測を支援。
- 2007-10-19高度100 km極円軌道段階的な軌道変更を終え、主衛星が観測軌道へ到達。
- 2007-12-21定常観測開始15種類の観測ミッションで月全球を測定。
- 2009-02-01高度50 kmへ後期運用で主衛星の円軌道を半分の高度へ降下。
- 2009-02-12おきな月面衝突4-wayドップラー観測を完了し、自然に月面へ到達。
- 2009-04-16近月点10–30 km南極域などをさらに低い高度から観測。
- 2009-06-11主衛星を制御落下周回方向を保ったまま南緯65.5°・東経80.4°付近へ接触し、03:25頃(JST)に完了。
03エピソード
数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を、出来事を直接確認できる資料と結び直す。
月の裏側を、四本の電波で直接量る
2007年11月6日、高度約100 kmの「かぐや」が月の裏へ入ると、地球からは直接電波を受けられず、従来のDoppler測定では重力変化を連続して追えなかった。JAXAは高度約2,400×100 kmの子衛星「おきな」を中継に置き、臼田局→おきな→かぐや→おきな→臼田の四本のlinkを構成。このため裏側通過中も速度変化を地上へ返し、世界初の月裏側重力場の直接観測に成功した。その結果、表側と異なる盆地のring状負異常を描き、見えない地下構造を軌道運動から比較できた。
一分のHD映像を、二十分かけて地球へ送る
「かぐや」のHDTVは、月まで約38万 kmの通信条件で放送用映像をそのまま連続送信できなかった。JAXAとNHKはtelephoto・wide-angleの二系統へ各三枚、約220万画素CCDを組み、一分の映像を機上で圧縮・記録して約20分かけて再生送信する方式を選んだ。宇宙放射線で最大約20,000個に増えるpixel欠陥も地上処理で補正した。その結果、2007年11月に高度100 kmから月面とEarth-riseをHD撮影し、通信速度と撮像速度の差を記録器で吸収した。
50 kmから降り続け、最後の十二分まで地形を測る
通常観測を終えたJAXAは「かぐや」を放置せず、2009年2月1日に高度約100 kmから50 kmへ、4月には近月点30 km級へ下げて低空観測を続けた。燃料が尽きれば落下地点を選べないため、6月11日03時25分JST、東経80.4°・南緯65.5°へ制御衝突させる終端を選択。このためHDTVの最終像とTerrain Cameraの衝突約12分前までの立体地形を回収し、17か月の全球観測を既知の時刻・地点で閉じた。最後の軌道低下そのものを高分解能観測と安全な処分へ重ねた。
04軌道
地球を約2周して月へ向かい、LOI1で101×11,741 kmの捕獲軌道へ。主衛星は段階的に100 km極円軌道へ降り、2機の子衛星は途中の楕円軌道に残された。上段の地球—月遷移と下段の月周回は、それぞれの距離尺度で示す。
05搭載機器
15種類の観測を、地形・組成・地下・重力・磁気圏・映像の同じ月座標へ重ねた。
地形と高度
ステレオ地形カメラとレーザ高度計で、月全球の形と標高を測る。
鉱物分布
多バンド画像と連続スペクトルから、月面物質の吸収特性を読む。
元素分析
ガンマ線・X線で、月表面に含まれる主要元素の分布を調べる。
地下レーダ
月面下へ電波を送り、地下構造や溶岩流の境界を探る。
重力場
おきなの中継と2子衛星の電波源で、月裏側を含む軌道の乱れを測る。
環境と月からの眺望
磁場・プラズマ・荷電粒子を測り、HDTVは月面と地球を高精細映像で記録。
06設計
主衛星は月面指向を保つ3軸安定の観測台。電力・姿勢・記録・通信を一つのバスにまとめ、RstarとVstarを加えた3機システムで月裏側の重力まで測った。おきな(Rstar)は月裏側の主衛星から受けたS帯信号を地球へ返し、4-wayドップラー観測を成立させた。さらに、おきなとおうな(Vstar)の電波源を地球上の複数局で差分VLBI観測し、3機の軌道変化を組み合わせて月全球の重力場を復元した。
子衛星は通信装置であり、重力センサでもある
月裏側では主衛星を地球から直接追跡できない。おきなは主衛星とのリンクを地球局へ中継して4-wayドップラー観測を可能にし、おきな・おうなの電波源は地球上の複数局による差分VLBIへ使われた。軌道のわずかな乱れから、月裏側を含む重力場を復元する仕組みである。
観測は並列、記録と通信は共通
地形カメラ、鉱物・元素センサ、レーダ、磁場・粒子観測、HDTVは互いを順番に通る装置ではない。それぞれが月面指向の安定した観測台から独立にデータを作り、共通の記録・通信系へ渡す。3.5 kW級の太陽電池と三軸姿勢制御が、15種類の観測を同じ月座標へ重ねる基盤になった。
07写真・図版
実機イメージ、HDTV映像、月面観測を、JAXA公式画像で確認する。



08関連文献
- The Kaguya Mission Overview
- Lunar Global Shape and Polar Topography Derived from Kaguya-LALT Laser Altimetry
- Farside Gravity Field of the Moon from Four-Way Doppler Measurements of SELENE (Kaguya)
- Detection of intact lava tubes at Marius Hills on the Moon by SELENE Lunar Radar Sounder