// Venus climate orbiter · JAXA / ISAS · 2010-020D
あかつき
AKATSUKI / PLANET-C
あかつきは、金星大気を赤外・可視・紫外で測った日本の金星気候衛星。一度は周回投入に失敗し、5年後に姿勢制御スラスターで金星軌道へ入った。
01基本情報
金星の雲と大気循環を、複数波長のカメラで立体的に読む惑星気象衛星。
| 開発・運用 | JAXA / ISAS |
|---|---|
| 打上げ | 2010年5月21日 6:58 JST H-IIA 17号機、種子島 |
| 金星投入 | 2015年12月7日 再実行で成功 |
| 状態 | 運用終了 JAXAは2025年9月18日に運用完了を発表 |
| 質量 | 約520 kg 打上げ時 |
|---|---|
| 軌道 | 金星楕円軌道 周期約11日 |
| 高度 | 近金点 約1,000 km / 遠金点 約360,000 km |
| 機器 | UVI / LIR / IR1 / IR2 / LAC / USO |
02ミッション
金星は地球に近い大きさを持ちながら、二酸化炭素の厚い大気、硫酸雲、秒速100 m級の雲頂風を持つ。あかつきは金星を「一枚の写真」ではなく、時間変化する惑星気象として観測した。
金星を気象衛星として見る
あかつきの目的は、雲に覆われた金星の大気循環を、赤外・可視・紫外の複数波長で立体的に読むことだった。金星大気は惑星本体の自転よりはるかに速く東西に巡るスーパーローテーションを示す。JAXAは、あかつきが五つのカメラで大気を撮影し、40-85 kmの温度分布、雲の流れ、組成、雷や火山活動の可能性を調べる探査機だと説明している。
波長ごとの役割
紫外イメージャUVIは283 nmと365 nmで、二酸化硫黄と未同定吸収物質の分布を追う。IR1は1 µm帯、IR2は2 µm帯で雲下や夜面の赤外放射を測り、LIRは8-12 µmで雲頂温度を測る。LACは夜側の雷・大気光を探し、USOを使う電波掩蔽は温度や密度の鉛直構造を読む。つまり、金星を同じ時刻・同じ惑星で「高度別に重ねる」設計である。
失敗後に成立した科学
2010年12月7日の金星周回投入は、軌道制御用主エンジンの故障で失敗した。探査機は金星周回ではなく太陽周回へ入り、次の会合まで5年待つことになる。2015年12月7日の再投入では姿勢制御用スラスターを使い、当初とは違う大きな楕円軌道に入った。近金点は約1,000 km、遠金点は約360,000-370,000 km、周期は約11日で、近づく時は細かく、遠ざかる時は金星全体を長く見る運用に切り替えられた。
成果と終幕
あかつきは、太陽系最大級の山岳波、赤道ジェット、夜側雲頂循環、熱潮汐とスーパーローテーションの関係、金星データ同化など、惑星気象として読み解ける成果を積み上げた。JAXAは2024年4月末ごろに通信が途絶した後も復旧を試み、2025年9月18日に運用完了を発表した。設計寿命を大きく超えて、金星大気の長期データを地上に残した探査機である。
- 2001金星気象衛星PLANET-Cとして構想が固まる金星のスーパーローテーションを連続画像で追う、日本の惑星気象ミッションとして設計が進んだ。
- 2010-05-21H-IIA 17号機で打上げ6:58 JST、種子島宇宙センターからIKAROSなどと相乗りで出発した。
- 2010-12-07初回の金星周回投入に失敗軌道制御用主エンジンの故障で減速が足りず、金星を通過して太陽周回へ入った。
- 2011-2015太陽周回で再会合を待つ探査機の温度・電力・姿勢を保ちながら、金星と再び出会う軌道へ運用をつないだ。
- 2015-12-07姿勢制御スラスターで再投入成功本来の主エンジンではなくRCSを長時間噴射し、金星楕円軌道へ入った。
- 2016-04本格観測へ移行搭載機器の確認後、雲追跡、赤外温度、電波掩蔽などの観測を始めた。
- 2017山岳波と赤道ジェットを発表LIRやIR2/UVIの観測から、巨大な定在重力波と低・中層雲の赤道ジェットが論文になった。
- 2021夜側雲頂循環をNatureに発表2年分のLIR画像から、昼夜で異なる南北流と熱潮汐の役割が示された。
- 2024-04通信途絶低精度姿勢維持モードに関わる事象の後、地上との通信が途絶した。
- 2025-09-18運用完了復旧運用を経て、JAXAが金星探査機「あかつき」の運用完了を発表した。
03エピソード
失敗した主エンジン、五年後の再投入、そこで初めて見えた金星大気を一続きで読む。
壊れた主エンジンを捨て、五年後の窓を選ぶ
2010年12月7日の金星周回投入で、燃料供給弁が閉じたため異常燃焼が起き、主エンジンOMEは破損した。探査機は金星を通過して太陽周回へ出たが、JAXAチームは即時に任務を終えず、軌道が再び金星へ会う2015年12月7日を次の窓に定めた。壊れたOMEの再使用は断念し、酸化剤を捨てて軽量化し、太陽周回中の軌道修正も姿勢制御用スラスターで実施。五年間を機体保存と再会合のための新しい巡航期へ変えた。
23 N級四基を20分燃やし、観測できる楕円へ落とす
2015年12月7日、あかつきは本来の500 N級OMEではなく、約23 N級の姿勢制御スラスター4基を20分28秒噴射した。得られた速度変化は134.8 m/sで、世界で初めて姿勢制御エンジンだけによる惑星周回投入に成功する。ただし捕獲直後は遠金点約44万 km、周期約14日の長大な楕円だった。翌年、長い食で電力を失う危険を避けるよう遠金点を約36万 km、周期10.5日へ調整し、救済軌道を全球像と近接像を交互に得る観測軌道へ作り替えた。
秒速100 mの風に流されない、1万 kmの弓
周回投入直後の2015年12月、LIRは雲頂約65〜70 kmに南北約1万 kmの弓形模様を捉えた。背景の超回転は約100 m/sなのに、模様は四日間ほぼ同じ地表位置へ留まり、通常の雲では説明できなかった。立教大学・ISAS/JAXAなどは数値計算を重ね、アフロディーテ大陸付近の地形が下層大気を揺らし、重力波として雲頂まで伝わる解釈を提示。見えない地表近くの擾乱を、70 km上の温度模様から読む新しい金星気象学へつながった。
04失敗から金星周回へ
左は2010年の主エンジン停止後に金星を通過し、太陽周回で再会合した5年間。右は2015年に姿勢制御スラスター4基で捕獲された後の金星長楕円軌道で、二つは別縮尺として分けている。
- 01 · 2010-12-07OMEが158秒で停止当初の金星周回投入に必要な減速を得られず、金星を通過して太陽周回軌道へ入った。
- 02 · 2011–2015太陽周回で再会合OMEを断念し酸化剤を投棄。RCSで軌道を修正し、金星より内側の経路から5年後の再会合へつないだ。
- 03 · 2015–2016RCSで捕獲、軌道を調整23 N級スラスター4基を約20分噴射。400×440,000 km、13日14時間で捕獲後、約10.8日へ整えた。
- 04 · 2016–2025長楕円を科学に使う遠金点で全球雲を長時間追跡し、近金点で細部と鉛直構造を観測。2024年通信喪失、2025年運用完了。
05搭載機器
紫外イメージャ
283 nmと365 nmで、二酸化硫黄と未同定吸収物質を可視化する。雲頂の化学模様を追い、風速推定にも使われる。
長波赤外カメラ
8-12 µmで雲頂からの熱放射を測り、昼夜を問わず雲頂温度と熱潮汐を読む。
1 µm・2 µmカメラ
IR1は地表や下層大気、IR2は高度35-50 km付近の赤外放射を測る。夜側や雲下の情報を補う。
雷・大気光カメラ
金星夜側の雷発光と大気光を探す。雲の厚い惑星で、電気活動の有無を直接狙う装置だった。
超高安定発振器・電波科学
地球との通信電波が金星大気をかすめる時の変化から、温度や密度の鉛直構造を推定する。
科学データアーカイブ
UVI、LIR、RS、SPICE、データ同化プロダクトが公開され、運用後も再解析できる形で残されている。
06内部設計・観測系統
五つのカメラを同じ方向へ向け、波長ごとに異なる高度を同じ金星へ重ねる。金星近傍の強い日射に対し、平面型アンテナ、可動太陽電池、放熱面、電源管理が観測姿勢を支えた。
あかつきは、箱形の探査機本体に二翼の太陽電池パドルを持つ小型の金星周回機である。JAXAの運用完了発表では、打上げ時質量は約520 kg、探査機本体は1.0 m × 1.5 m × 1.4 m、パドルは1.0 m × 1.4 mの2翼とされている。金星は地球より太陽に近く、探査機は強い日射と熱環境を受けるため、電力を得るだけでなく、機器を保護する姿勢と熱設計が重要だった。
観測機器を「同じ天気図」に重ねる
機体設計の中心は、一つの大型望遠鏡ではなく、複数の波長を担うカメラ群で金星を同時代的に見ることだった。UVIは雲頂の化学的な濃淡、LIRは雲頂温度、IR1/IR2は近赤外で雲下や夜面の熱放射、LACは雷・大気光、USOは電波掩蔽を受け持つ。波長が変わると見える高度や物質が変わるため、同じ雲模様を「色」ではなく物理量の重なりとして読む設計になっている。
通信と観測の両立
遠金点が非常に高い楕円軌道では、金星全体を長い時間視野に入れやすい一方、地球との通信、姿勢、観測タイミングをそろえる必要がある。金星全体の雲を長時間追う観測では、画像の連続性が風速推定の品質に直結する。探査機は観測機、通信機、姿勢制御機として同時に働かなければならず、スケジュール設計も機体設計の延長にある。
熱環境と姿勢制御
金星探査では、太陽に近いことが常に制約になる。太陽電池は発電源である一方、日射を受ける面積と機体温度を左右する構造物でもある。観測時にはカメラを金星へ向け、通信時にはアンテナを地球へ向け、同時に太陽光の入り方を管理する必要がある。あかつきの設計は、観測視野、通信方向、熱、電力、推進剤残量を一つの運用問題として扱うタイプの探査機だった。
故障後の設計余裕
あかつきの物語で特に重要なのは、故障後に姿勢制御スラスターを軌道投入へ使い直せた点である。これは本来の使い方ではないため、得られる減速量や熱・推進剤・姿勢の条件は厳しい。それでも再投入に成功したことで、探査機は当初の低い周回軌道とは違う大きな楕円軌道で科学を成立させた。設計の余裕、運用の再設計、解析側の適応が一つにつながった例である。
07写真・図版
公式画像は改変せず、英語ラベルや観測波長の意味は日本語キャプションで補う。




08関連文献
公式解説だけでなく、再投入、観測成果、データ処理を裏取りできる査読論文を併記する。
- AKATSUKI returns to Venus
- Large stationary gravity wave in the atmosphere of Venus
- Equatorial jet in the lower to middle cloud layer of Venus revealed by Akatsuki
- The nightside cloud-top circulation of the atmosphere of Venus
- Overview of Akatsuki data products: definition of data levels, method and accuracy of geometric correction