// Solar power sail demonstrator · JAXA · 2010-020E
IKAROS
INTERPLANETARY KITE-CRAFT ACCELERATED BY RADIATION OF THE SUN
IKAROSは、太陽光の圧力で加速し、膜上の薄膜太陽電池で発電する小型ソーラー電力セイル実証機。深宇宙で「帆」を広げた、日本らしい工学実験だった。
01基本情報
太陽光圧による推進と、膜面太陽電池による発電を同時に試した深宇宙実証機。
| 開発・運用 | JAXA / ISAS |
|---|---|
| 打上げ | 2010年5月21日 6:58 JST H-IIA 17号機、種子島 |
| 相乗り | あかつき(PLANET-C)と同時打上げ |
| 状態 | 実証終了 |
| 本体 | 直径1.6 m × 高さ0.8 m |
|---|---|
| セイル | 一辺14 m、対角20 mの正方形膜 |
| 質量 | 約310 kg |
| 軌道 | 太陽周回軌道 金星近傍を通過 |
02ミッション
ロケットや燃料だけではなく、太陽光そのものを推進に使えるか。IKAROSはそのアイデアを、地球周回ではなく惑星間空間で試した。
太陽帆とは何か
光にはわずかな運動量があり、反射する膜には圧力がかかる。力は非常に小さいが、燃料を消費せずに長時間受け続けられる。深宇宙では、この小さな加速を積み上げることで新しい軌道設計が可能になる。
「電力セイル」という発想
JAXAは、IKAROSを太陽光圧で進み、膜上の薄膜太陽電池で電力も得るソーラー電力セイルと説明している。将来、膜で発電した電力をイオンエンジンへ送れば、光子加速と電気推進を組み合わせた柔軟な深宇宙航行が狙える。
棒なしで膜を広げる
巨大な帆を支柱で広げると重くなる。IKAROSは機体を回転させ、遠心力で膜を展開して張力を保つ方式を採った。軽量化と大型化の両方を狙うため、展開方式そのものが実証の中心だった。
金星へ向かう相乗り実証
IKAROSはあかつきと同じロケットで打ち上げられ、金星方向へ飛んだ。主目的は金星探査ではなく、惑星間空間で帆を開き、姿勢を制御し、光圧による加速を確認することだった。
光圧を数値として測る
IKAROSで重要だったのは、帆が広がった写真だけではない。JAXAは2010年7月に、軌道決定から太陽光圧による加速を確認したと発表した。196 m²級の薄膜が受ける力は約mN級で、推進剤を噴くロケットとは桁違いに小さい。それでも、抵抗の少ない惑星間空間では、力を長く受け続けることで軌道に差が出る。
工学実証機に科学観測を同居させる
IKAROSには、ALADDINのダスト検出器やGAPガンマ線バースト偏光計も搭載された。ソーラーセイルの展開・発電・姿勢制御を試すだけでなく、惑星間空間の塵や突発天体の偏光を測ったのである。小型実証機に複数の目的を積むところに、ISAS/JAXAの深宇宙機らしい密度がある。
- 2010-05-21地球から金星遷移へあかつきと同じH-IIAで出発し、太陽周回軌道へ。
- 2010-06-09セイル完全展開スピンと4個の先端マスで14 m四方の薄膜を張り、薄膜太陽電池の発電も確認。
- 2010-07-09光圧加速を確認2-wayドップラーから3.6×10⁻⁶ m/s²の加速度を測定。
- 2010-07-23液晶デバイスで姿勢制御膜外周の反射率をスピンに同期して切り替え、光圧トルクを発生。
- 2010-12-08金星フライバイ金星夜側の約80,800 kmを通過。光圧による軌道制御を惑星間航行で実証。
- 2011-12推進薬ほぼ枯渇気液平衡スラスタの液体推進薬が気化し、能動姿勢制御が困難に。
- 2012-01 → 09冬眠と最初の再捕捉低発電で電源を停止。9月8日に電波を再確認し、自然な姿勢・軌道運動の予測を検証。
- 2015-04 → 055回目の冬眠明けと再突入4月に再捕捉し、5月21日に再び冬眠へ。これが最後の受信となった。
- 2025-05-15探索運用終了JAXAが追跡を終了。飛行データと冬眠中の運動モデルを残した。
03エピソード
数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を一次資料と結び直す。
四枚の扇を先にほどき、最後の遠心力で正方形にする
2010年6月3日、IKAROSは金星へ向かう途中で直径1.6 mの本体から膜面展開を開始した。厚さ7.5 µm級の14 m四方の膜へ剛性mastを付ければ質量が増えるため、JAXAは回転の遠心力だけで広げる二段階方式を選択。まず四つのtip massを放ち、折り畳んだ膜を十字のstripとして静的にほどき、拘束を外して動的に正方形へ開いた。6月10日、地球から約770万 kmで分離cameraが全展開と薄膜太陽電池の発電を確認し、棒のない大面積帆を絡ませず宇宙で形にした。
3.6×10⁻⁶ m/s²を、光だけの推力として取り出す
2010年6月9日の帆展開後、IKAROSの軌道は重力と姿勢制御だけの予測から少しずつ外れた。太陽光圧による加速度は約3.6×10⁻⁶ m/s²と極小で、航法誤差や熱放射と区別しなければ推進成功とは言えない。JAXAの運用班は地上電波のDopplerと距離データを長時間積み、帆の太陽に対する角度と反射率をmodelへ入れて残差を比較した。その結果、連続的な光子圧加速を確認し、燃料噴射の瞬間ではなく、小さな力を積み上げて軌道を変えるsolar sailを世界で初めて惑星間飛行として実証した。
八つの液晶面を白黒に変え、燃料なしで帆を傾ける
2010年7月13日、JAXAはIKAROS膜面外周の液晶device八区画を切り替え、姿勢制御性能を軌道上で測った。各区画は鏡のように光を反射する状態と、拡散反射する状態で受ける太陽光圧が異なるため、対向する面の反射率差が回転する帆へ微小torqueを与える。スラスタなら有限の推進剤を消費する難所を、可動部のない電気的な反射率変更へ置き換えた結果、得られた姿勢角変化は事前予測の90%以上。大面積帆の向きを光そのもので制御できることを示し、長期航行で燃料を温存する設計を成立させた。
04軌道
地球から金星へ向かう途中で帆を開き、太陽光圧で軌道と姿勢を変えた。金星夜側を通過した後も太陽周回を続け、低発電時の冬眠と再捕捉を繰り返した。上段は太陽中心の惑星間飛行、下段は帆が光圧・発電・姿勢制御を担う関係を示す。
05搭載機器・実証要素
帆の展開だけでなく、発電・光圧航法・無燃料姿勢制御と2種類の科学観測までを同じ飛行で確かめた。
薄膜ソーラーセイル
7.5 μmのポリイミド膜をスピンで展開し、太陽光圧を推進力へ変える。
薄膜太陽電池
膜面へ搭載した太陽電池で発電し、ソーラー「電力」セイルを実証。
液晶デバイス
外周の反射率をスピンに同期して変え、光圧の偏りから姿勢トルクを作る。
大面積宇宙塵センサ
広い膜面を生かし、惑星間空間を飛ぶ微粒子の衝突を検出。
ガンマ線バースト偏光計
突発天体から届くガンマ線の偏光を測り、放射機構を探る。
分離カメラ
本体から離れて展開済みの帆を撮影し、膜と液晶デバイスの状態を確認。
06設計
対角20 mの柔らかい膜を4個の先端マスとスピンで張る。膜は帆であると同時に、発電面・姿勢制御面・宇宙塵センサの支持体でもある。
展開と飛行を同じスピンで成立させる
収納した膜は、先端マスを遠心力で引き出す一次展開と、固定を解いて正方形へ広げる二次展開を経る。展開後もスピンの張力が柔らかい膜の形を保つため、回転数と膜のしわは構造・姿勢・航法のすべてに影響した。
軌道制御と姿勢制御は同じ光圧の問題
帆を太陽へどう傾けるかで、加速度の向きが変わる。外周の液晶デバイスは反射率を場所ごとに切り替え、光圧の偏りからスピン軸を傾けるトルクを作った。一方、気液平衡スラスタは展開前後のスピン調整や能動姿勢制御を担い、2011年末までに液体推進薬を使い切った。
膜上の機能は直列ではない
薄膜太陽電池は電力を、ALADDINは宇宙塵データを、液晶デバイスは姿勢トルクを生む。GAPや分離カメラもそれぞれ独立した観測系であり、共通するのは中央本体の電力・記録・通信を利用する点である。IKAROSは1枚の膜へ異なる役割を並列に統合した宇宙機だった。
07写真・図版
JAXA公式の実機イメージと展開図で、セイルの大きさと膜面機能を確認する。



08関連文献
IKAROSはソーラーセイル展開、光子加速、GAP観測までDOI付き論文で追える。公式一次資料はリンク集に残し、ここでは工学実証と搭載観測の論文を置く。
- First Solar Power Sail Demonstration by IKAROS
- Mission Report on The Solar Power Sail Deployment Demonstration of IKAROS
- Achievement of IKAROS - Japanese deep space solar sail demonstration mission
- Gamma-Ray Burst Polarimeter (GAP) aboard the Small Solar Power Sail Demonstrator IKAROS