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// 日本初の海洋観測衛星 · 1987-018A

もも1号
MOMO-1 (MOS-1)

もも1号は海色、海面温度、水蒸気、海氷を可視・赤外・マイクロ波で広域観測することを目的に設計された海洋・地球観測ミッションである。光学・熱赤外に加えて受動マイクロ波MSRを併載し、雲の影響を受ける画像と全天候に近い広域量を相補的に運用した。 成果だけでなく、設計判断と異常時の選択までを追うと、日本の宇宙開発が一機ごとの経験を次へ渡してきた道筋が見える。

740
公式代表質量(kg)
909
代表軌道高度(km)
103
軌道周期(分)
運用終了🇯🇵 NASDA(現JAXA)海洋・地球観測

01基本情報

運用史と機体仕様を、ミッションの読み解きに必要な単位で整理する。

打上げ日1987-02-19現地表記は一次資料に準拠
国際標識番号1987-018ACOSPAR ID
打上げ機N-IIロケット16号機N-II
射場種子島宇宙センター日本
質量740 kg打上げ時または公式代表値
近地点909 km公式公称値
遠地点909 km公式公称値
軌道傾斜角99°赤道面基準
軌道周期103分公称値
姿勢制御三軸バイアスモーメンタム観測・通信の基準
外形箱形本体+片翼太陽電池パドル展開物を除く場合あり
運用状態終了(1995-11-29)公式機関の分類

02ミッション

海色、海面温度、水蒸気、海氷を可視・赤外・マイクロ波で広域観測するという目標を、高度約909 km、17日回帰の太陽同期軌道で、同じ地方時の海面を反復観測した。という軌道・運用条件の中で実現した。初期世代のセンサーは空間分解能、波長帯、記録・送信容量が限られ、海色・温度・水蒸気を同じ解像度では比較できなかった。

問いを機体へ変える

もも1号の出発点は、海色、海面温度、水蒸気、海氷を可視・赤外・マイクロ波で広域観測するという、地上観測や短時間のロケット実験だけでは解けない問いだった。資源利用と環境保全のため、日本が独自の海洋リモートセンシング系列を持つ最初の実用挑戦だった。 そこで計画は、観測器だけを宇宙へ運ぶのではなく、姿勢、時刻、電力、通信、較正を一つの測定系として成立させることを目標に置いた。衛星の価値は取得した信号の量ではなく、その信号がどの場所・条件で得られ、地上の研究者が再検証できるかで決まる。この考え方が機体構成、運用手順、データ公開までを貫き、もも1号を同時代の一回限りの実験から、後続計画が参照できる宇宙システムへ変えた。

軌道が決めた観測の文法

高度約909 km、17日回帰の太陽同期軌道で、同じ地方時の海面を反復観測した。 軌道は単なる所在地ではない。高度と傾斜角は観測対象を通過する頻度、日照と食、地上局との可視時間、放射線量を同時に決める。運用チームは一周ごとの電力収支とデータ量を読み、観測時間、姿勢変更、記録、送信を割り付けた。制約の多い周回を繰り返せる手順に変換したことが、単発の成功より重要だった。もも1号の成果を読む際には、画像やスペクトルだけでなく、それを可能にした軌道上の待ち時間、較正観測、通信窓まで含めて一つの観測として捉える必要がある。

計画を変えた転機

光学・熱赤外に加えて受動マイクロ波MSRを併載し、雲の影響を受ける画像と全天候に近い広域量を相補的に運用した。 この出来事は、当初計画を守ることより、残った能力で科学・技術目標を再構成する判断が重要であることを示した。地上側は状態量を照合し、仮説ごとに安全な確認手順を作り、観測側は欠測や性能変化を解析条件へ明記した。転機の後に得られたデータは、平常時の性能表だけでは説明できない運用知を含む。成功した機能と失われた機能を切り分け、優先順位を更新した過程そのものが、後続衛星の故障検知、冗長設計、運用規則に受け継がれた。

失敗と限界を記録する

初期世代のセンサーは空間分解能、波長帯、記録・送信容量が限られ、海色・温度・水蒸気を同じ解像度では比較できなかった。 ここで重要なのは、結果を成功か失敗かの二語に畳まないことだ。原因が機器、電源、姿勢、推進、環境、運用のどこにあり、どの観測値がなお使えるかを分けて記録して初めて、次の設計判断へ接続できる。もも1号では、異常の前後でテレメトリと地上設備の記録を突き合わせ、運用可能な範囲を見極めた。到達できなかった目標も、想定が足りなかった境界条件を具体化したという意味で技術成果である。アーカイブでは華やかな成果と同じ重さでこの限界を置く。

データが残した発見

海面温度、クロロフィルに関係する海色、雲・水蒸気、海氷分布を取得し、1995年11月29日まで設計寿命を超えて運用した。 観測の意味は、衛星単独の値ではなく、地上観測、他衛星、理論モデルと同じ時間軸へ置いたときに大きくなる。チームは較正値、姿勢情報、観測条件を合わせて解析し、個々のイベントから統計的な傾向へ議論を進めた。もも1号が作ったデータ系列は、後年の再解析で新しい較正法やモデルを試す土台にもなった。ミッション終了は知識生産の終了ではなく、安定したデータ形式と一次資料が次の研究者へ渡る節目なのである。

後継機へ渡したもの

複数波長の海洋観測、17日回帰、MOS-1bによる継続性を確立し、ADEOSやGCOM-W/Cの水循環・気候観測へ基礎を渡した。 継承されたのは部品の設計図だけではない。異常時にどの情報を先に確保するか、国際チームで時刻と較正をどう合わせるか、利用者へ品質情報をどう伝えるかという運用の作法も含まれる。後継機の性能向上は、もも1号の不足を隠すのではなく、観測できなかった領域や壊れやすかった経路を要件へ書き直すことで生まれた。したがって本機は、完成した答えというより、次の衛星がより鋭い問いを立てるための基準点として評価すべきミッションである。

  1. 1987年・打上げ前
    最終設計と射場準備
    MESSR、VTIR、MSRという三原理のセンサーを片翼パドルの三軸バスへ搭載した。という構成を確定し、機体と地上系を一つの運用手順として検証した。
  2. 1987-02-19
    打上げ
    N-IIロケット16号機で種子島宇宙センターから打ち上げられた。
  3. 1987-02-19
    軌道投入・初期捕捉
    1987-018Aとして追跡され、電源、通信、姿勢の初期確認へ移った。
  4. 初期運用期
    観測系の立上げ
    展開物、搭載機器、較正と地上処理を順に確認し、定常運用の観測手順を作った。
  5. 1987年・定常観測開始
    ミッションの転機
    光学・熱赤外に加えて受動マイクロ波MSRを併載し、雲の影響を受ける画像と全天候に近い広域量を相補的に運用した。
  6. 1995-11-29
    運用の終点
    海面温度、クロロフィルに関係する海色、雲・水蒸気、海氷分布を取得し、1995年11月29日まで設計寿命を超えて運用した。 運用終了後もデータと設計教訓が利用されている。

03エピソード

異なる三センサーを、検証実験と二機の重複運用で海洋データへ育てた。

1987〜89年、衛星・航空機・海上観測を同じ海へ重ねる

1987年2月19日に打ち上げたMOS-1は、MESSRの約50m画像、VTIRの広域温度像、MSRのマイクロ波量を同じ解像度では比較できず、光学系は雲にも遮られた。そこでNASDAは1987〜89年のVerification Programで、衛星通過に航空機と海上・地上観測を合わせ、各装置の値を独立資料と突き合わせた。その結果、高分解能画像で場所を特定し、広域のMSRを水蒸気、雲水量、海氷分布や積雪深へ変換できる範囲を確かめ、三方式の違いは弱点ではなく、互いの空白を埋める観測手順になった。

二年設計を越え、同型二機で九年の海をつなぐ

MOS-1の設計寿命は二年だったが、初号機は1987年2月から1995年11月29日まで約8年9か月働いた。途中の1990年2月7日には同じ三センサーを持つMOS-1bを打ち上げ、1996年4月17日まで観測を継続した。単機の長寿命だけへ賭けず、同型機を約5年9か月重ねたため、受信局・処理・較正手順を切らずに比較できた。日本初の地球観測衛星で得た海色・海面温度・水蒸気・海氷の長期運用が、ADEOSやGCOM-W/Cへ渡す実測済みの基盤になった。

04軌道

高度約909 km、17日回帰の太陽同期軌道で、同じ地方時の海面を反復観測した。

もも1号 / 軌道・航路概念図 地球 距離・天体サイズは経路理解のため模式化
  1. 01投入N-IIロケット16号機から分離し、地上局が初期捕捉する。
  2. 02確立姿勢と電力を安定させ、軌道要素を確定する。
  3. 03定常観測、記録、送信を軌道周期に合わせて反復する。
  4. 04後期運用終了後は追跡・データ保存へ重点が移る。
主航路・運用軌道探査機マーカー概念図。正確な軌道要素は基本情報と出典を参照。

05搭載機器

観測目的を、実際に信号へ変えた機器群。

MESSR

可視近赤外放射計

海色・陸域を多波長で撮像。

VTIR

可視熱赤外放射計

雲と海面温度を広域観測。

MSR

マイクロ波放射計

水蒸気、海氷、海面状態を受動観測。

DCS

データ収集系

海上・離島プラットフォームの観測値を中継。

06設計 — 片翼パドルと三方式センサー

縦長の箱形本体から5.18 mの太陽電池パドルを片側だけへ展開。地球指向面には可視近赤外、可視熱赤外、マイクロ波の3方式を並べた。

海洋観測衛星もも1号の機体外形と搭載位置縦長箱形の衛星本体、片側へ伸びる太陽電池パドル、地球指向面のMESSR、VTIR、MSR、Xバンド・Sバンド・DCS中継アンテナを示す。 MOS-1 / MOMO-1 PHYSICAL LAYOUT本体 約1.3 × 1.5 × 2.4 m 太陽電池パドル 約2.0 × 5.18 m 片翼太陽電池パドルバイアスモーメンタム三軸制御で地球面を保持 MESSR可視近赤外 / 観測幅 約100 kmVTIR可視熱赤外 / 観測幅 約1,500 kmMSRマイクロ波放射計 / 観測幅 約320 km Xバンド画像伝送観測画像を地上局へ送信Sバンド / DCS中継管制通信と海上ブイ信号の受信 狭い高精細像・広い熱像・全天候マイクロ波三つの空間尺度を同じ地球指向面から測る

三つのセンサーは、同じ海を違う広さで見る

もも1号は、50 m級の細部を読むMESSR、約1,500 kmの広域を測るVTIR、雲を通して水蒸気・氷雪を捉えるMSRを同じ地球指向面へ載せた。5.18 mの太陽電池パドルは片側だけに展開し、三軸制御で観測面を地球へ保つ。通信系もXバンド画像伝送、Sバンド管制、海上ブイのDCS中継を外面へ分けている。

08関連文献

設計と成果を検証できる論文・公式技術資料。

  • もも1号 公式ミッションページ
    NASDA(現JAXA)・機体諸元、運用、成果 · 一次資料
  • N-II 公式打上げ機資料
    JAXA/ISAS・打上げシステムと記録 · 一次資料
  • 1987-018A spacecraft record
    NASA NSSDCA・国際標識番号と軌道記録 · 一次資料