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// 紫外線で初めて撮ったオーロラ · 1978-014A

きょっこう
KYOKKO (EXOS-A)

きょっこうはオーロラの紫外画像と粒子・プラズマ・波動を同時に観測することを目的に設計されたオーロラ・磁気圏ミッションである。内之浦だけでは受信機会が不足するため、南極昭和基地とカナダ・チャーチルにもテレメトリ局を設け、国際分散受信を実運用した。 成果だけでなく、設計判断と異常時の選択までを追うと、日本の宇宙開発が一機ごとの経験を次へ渡してきた道筋が見える。

126
公式代表質量(kg)
3970
代表軌道高度(km)
134
軌道周期(分)
運用終了🇯🇵 ISASオーロラ・磁気圏

01基本情報

運用史と機体仕様を、ミッションの読み解きに必要な単位で整理する。

打上げ日1978-02-04現地表記は一次資料に準拠
国際標識番号1978-014ACOSPAR ID
打上げ機M-3Hロケット2号機M-3H
射場鹿児島宇宙空間観測所(内之浦)日本
質量126 kg打上げ時または公式代表値
近地点630 km公式公称値
遠地点3970 km公式公称値
軌道傾斜角65°赤道面基準
軌道周期134分公称値
姿勢制御スピン安定観測・通信の基準
外形直径95 cm、高さ80 cmの円筒展開物を除く場合あり
運用状態終了(1992-08-02)公式機関の分類

02ミッション

オーロラの紫外画像と粒子・プラズマ・波動を同時に観測するという目標を、傾斜角65度、遠地点3,970 kmの楕円軌道で高緯度上空を通り、オーロラ帯を広い視野で見下ろした。という軌道・運用条件の中で実現した。極域楕円軌道は観測機会を増やす一方、地上局可視とデータ回収を難しくした。機体性能だけでは解けない制約を地上網の追加で補った。

問いを機体へ変える

きょっこうの出発点は、オーロラの紫外画像と粒子・プラズマ・波動を同時に観測するという、地上観測や短時間のロケット実験だけでは解けない問いだった。国際磁気圏観測計画IMSへ参加し、極夜でも太陽散乱光の影響を抑えてオーロラ全体像を捉えた。 そこで計画は、観測器だけを宇宙へ運ぶのではなく、姿勢、時刻、電力、通信、較正を一つの測定系として成立させることを目標に置いた。衛星の価値は取得した信号の量ではなく、その信号がどの場所・条件で得られ、地上の研究者が再検証できるかで決まる。この考え方が機体構成、運用手順、データ公開までを貫き、きょっこうを同時代の一回限りの実験から、後続計画が参照できる宇宙システムへ変えた。

軌道が決めた観測の文法

傾斜角65度、遠地点3,970 kmの楕円軌道で高緯度上空を通り、オーロラ帯を広い視野で見下ろした。 軌道は単なる所在地ではない。高度と傾斜角は観測対象を通過する頻度、日照と食、地上局との可視時間、放射線量を同時に決める。運用チームは一周ごとの電力収支とデータ量を読み、観測時間、姿勢変更、記録、送信を割り付けた。制約の多い周回を繰り返せる手順に変換したことが、単発の成功より重要だった。きょっこうの成果を読む際には、画像やスペクトルだけでなく、それを可能にした軌道上の待ち時間、較正観測、通信窓まで含めて一つの観測として捉える必要がある。

計画を変えた転機

内之浦だけでは受信機会が不足するため、南極昭和基地とカナダ・チャーチルにもテレメトリ局を設け、国際分散受信を実運用した。 この出来事は、当初計画を守ることより、残った能力で科学・技術目標を再構成する判断が重要であることを示した。地上側は状態量を照合し、仮説ごとに安全な確認手順を作り、観測側は欠測や性能変化を解析条件へ明記した。転機の後に得られたデータは、平常時の性能表だけでは説明できない運用知を含む。成功した機能と失われた機能を切り分け、優先順位を更新した過程そのものが、後続衛星の故障検知、冗長設計、運用規則に受け継がれた。

失敗と限界を記録する

極域楕円軌道は観測機会を増やす一方、地上局可視とデータ回収を難しくした。機体性能だけでは解けない制約を地上網の追加で補った。 ここで重要なのは、結果を成功か失敗かの二語に畳まないことだ。原因が機器、電源、姿勢、推進、環境、運用のどこにあり、どの観測値がなお使えるかを分けて記録して初めて、次の設計判断へ接続できる。きょっこうでは、異常の前後でテレメトリと地上設備の記録を突き合わせ、運用可能な範囲を見極めた。到達できなかった目標も、想定が足りなかった境界条件を具体化したという意味で技術成果である。アーカイブでは華やかな成果と同じ重さでこの限界を置く。

データが残した発見

1,300 Å付近の紫外線でオーロラ画像を世界で初めて取得し、出現時にプラズマ擾乱と強い電磁波が伴うことを示した。 観測の意味は、衛星単独の値ではなく、地上観測、他衛星、理論モデルと同じ時間軸へ置いたときに大きくなる。チームは較正値、姿勢情報、観測条件を合わせて解析し、個々のイベントから統計的な傾向へ議論を進めた。きょっこうが作ったデータ系列は、後年の再解析で新しい較正法やモデルを試す土台にもなった。ミッション終了は知識生産の終了ではなく、安定したデータ形式と一次資料が次の研究者へ渡る節目なのである。

後継機へ渡したもの

画像・粒子・波動の同時観測と極域地上局連携を、あけぼの、れいめい、あらせへつないだ。 継承されたのは部品の設計図だけではない。異常時にどの情報を先に確保するか、国際チームで時刻と較正をどう合わせるか、利用者へ品質情報をどう伝えるかという運用の作法も含まれる。後継機の性能向上は、きょっこうの不足を隠すのではなく、観測できなかった領域や壊れやすかった経路を要件へ書き直すことで生まれた。したがって本機は、完成した答えというより、次の衛星がより鋭い問いを立てるための基準点として評価すべきミッションである。

  1. 1978年・打上げ前
    最終設計と射場準備
    スピン円筒に紫外オーロライメージャと粒子・波動センサーを配置し、一周内で広域像と局所量を対応づけた。という構成を確定し、機体と地上系を一つの運用手順として検証した。
  2. 1978-02-04
    打上げ
    M-3Hロケット2号機で鹿児島宇宙空間観測所(内之浦)から打ち上げられた。
  3. 1978-02-04
    軌道投入・初期捕捉
    1978-014Aとして追跡され、電源、通信、姿勢の初期確認へ移った。
  4. 初期運用期
    観測系の立上げ
    展開物、搭載機器、較正と地上処理を順に確認し、定常運用の観測手順を作った。
  5. 1978-02-24
    ミッションの転機
    内之浦だけでは受信機会が不足するため、南極昭和基地とカナダ・チャーチルにもテレメトリ局を設け、国際分散受信を実運用した。
  6. 1992-08-02
    運用の終点
    1,300 Å付近の紫外線でオーロラ画像を世界で初めて取得し、出現時にプラズマ擾乱と強い電磁波が伴うことを示した。 運用終了後もデータと設計教訓が利用されている。

03エピソード

数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を一次資料と結び直す。

内之浦で見えない周回を、昭和基地とChurchillで拾う

1978年2月4日16時、ISASは126 kgの「きょっこう」を近地点630 km・遠地点3,970 km、傾斜角65°の楕円軌道へ投入し、2月24日に全観測器で観測を始めた。極域を通る134分軌道はオーロラには好都合でも、鹿児島の一局だけでは衛星が地平線下にいる時間が長く、貴重なtelemetryを取りこぼす。そこで南極・昭和基地とCanada・Churchill研究基地にも受信局を設置し、三地域で可視時間を分担した。宇宙機だけを高性能化するのではなく、観測軌道が生む地上の死角を国際分散受信で埋めた判断が、極域dataの取得率を科学成果へつないだ。

1300 Åの像と同時の波動が、光る場所の上空を事件にする

「きょっこう」のAurora Imagerは1978年、地球大気に吸収され地上から見えない1300 Åの紫外域でオーロラ像を取得した。ISASが公式成果として示す範囲では、ATVによる紫外線オーロラ撮像は世界初だった。だが像だけでは、どの電子とplasma過程が発光を作ったか分からない。機体には低energy電子分析器とplasma波動・電子温度計も同時搭載され、同じ通過で光、粒子、電磁波を対応付けた。その結果、オーロラ出現時の上空でplasmaが乱れ強い電磁波を放つことを示し、きれいな一枚を発生機構へ踏み込む同時観測へ変えた。

04軌道

傾斜角65度、遠地点3,970 kmの楕円軌道で高緯度上空を通り、オーロラ帯を広い視野で見下ろした。

きょっこう / 軌道・航路概念図 地球 距離・天体サイズは経路理解のため模式化
  1. 01投入M-3Hロケット2号機から分離し、地上局が初期捕捉する。
  2. 02確立姿勢と電力を安定させ、軌道要素を確定する。
  3. 03定常観測、記録、送信を軌道周期に合わせて反復する。
  4. 04後期運用終了後は追跡・データ保存へ重点が移る。
主航路・運用軌道探査機マーカー概念図。正確な軌道要素は基本情報と出典を参照。

05搭載機器

観測目的を、実際に信号へ変えた機器群。

ATV

オーロラ紫外撮像器

1,300 Å帯でオーロラ全体像を撮像。

PWE

プラズマ波動計

オーロラ時の電磁波を測定。

LEP

低エネルギー電子分析器

降下電子のエネルギースペクトルを取得。

TEL

電子温度・密度計

背景プラズマ状態を測定。

06設計 — 円筒の前後とスピン面を使い分ける

直径95 cm・高さ80 cmのスピン円筒に、前後を見る2基の電子分析器、前方端のイオン入口、軸方向と半径方向の波動センサー、安定ブーム沿いのダイポールを配置した。

きょっこうの円筒本体と観測器の配置太陽電池面を持つ円筒本体、前後端の電子エネルギー分析器、前方端のイオン質量分析器入口、紫外オーロラ撮像器、軸方向と半径方向のファラデーカップ、安定ブームに沿うダイポールアンテナを示す。 EXOS-A / SPIN-AXIS INSTRUMENT LAYOUT直径95 cm × 高さ80 cm | 円筒形 | 126 kg 1.9 mダイポール × 2伸展式安定ブームに沿って配置 本体表面の太陽電池セル円筒全周でスピン中の日照を受ける 前方端:ESP + MSP入口降下電子と正イオンをスピン軸方向から受ける後方端:ESP反対向きの電子分布を同時測定前方後方 ATV:紫外オーロラ撮像視野60°・約130 nm・128秒ごとに撮像ファラデーカップ軸平行1基・軸直交1基 前後・軸方向・スピン面の観測を一つの円筒で同期

向きの違う観測器を、スピン軸で束ねる

きょっこうは、前後端のESPで磁力線に沿う電子を両向きから測り、前方端のMSP入口でイオンを受ける。波動系はスピン軸に平行・直交するファラデーカップと、安定ブーム沿いのダイポールを使う。円筒側面のATVが得る紫外像と、同じ時刻の粒子・波動を対応づけられる物理配置である。

08関連文献

設計と成果を検証できる論文・公式技術資料。

  • きょっこう 公式ミッションページ
    ISAS・機体諸元、運用、成果 · 一次資料
  • M-3H 公式打上げ機資料
    JAXA/ISAS・打上げシステムと記録 · 一次資料
  • 1978-014A spacecraft record
    NASA NSSDCA・国際標識番号と軌道記録 · 一次資料