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// 衛星でつなぐ高速インターネット · 2008-007A

きずな
KIZUNA (WINDS)

きずなはKa帯の広帯域衛星通信をアジア太平洋で実証し、小型地上局でも高速回線を作ることを目的に設計された通信技術ミッションである。東日本大震災後の通信支援や深海探査映像伝送など、実験衛星を実災害・実利用の回線へ転用し、技術評価を社会運用へ近づけた。 成果だけでなく、設計判断と異常時の選択までを追うと、日本の宇宙開発が一機ごとの経験を次へ渡してきた道筋が見える。

1200
最大通信速度(Mbps)
4850
打上げ時質量(kg)
35786
静止軌道高度(km)
運用終了🇯🇵 JAXA/NICT通信技術

01基本情報

運用史と機体仕様を、ミッションの読み解きに必要な単位で整理する。

打上げ日2008-02-23現地表記は一次資料に準拠
国際標識番号2008-007ACOSPAR ID
打上げ機H-IIAロケット14号機H-IIA
射場種子島宇宙センター日本
質量4850 kg打上げ時または公式代表値
近地点35786 km公式公称値
遠地点35786 km公式公称値
軌道傾斜角赤道面基準
軌道周期1436分公称値
姿勢制御三軸姿勢制御実証・通信の基準
外形大型展開アンテナ2基+太陽電池パドル展開物を除く場合あり
運用状態終了(2019-02-27)公式機関の分類

02ミッション

Ka帯の広帯域衛星通信をアジア太平洋で実証し、小型地上局でも高速回線を作るという目標を、静止軌道から日本・アジア太平洋へマルチビームを固定し、降雨条件の異なる地域でKa帯リンクを長期試験した。という軌道・運用条件の中で実現した。Ka帯は大容量の一方で降雨減衰が大きく、可用性を上げるには地上局電力制御、符号化、回線切替が必要だった。2019年2月に通信異常後、復旧できず運用を終えた。

要求を軌道上試験へ変える

きずなが担ったのは、Ka帯の広帯域衛星通信をアジア太平洋で実証し、小型地上局でも高速回線を作るという技術要求を、合否を判定できる軌道上試験へ変換することだった。地上回線が届きにくい島しょ・災害地へ、同じ衛星で柔軟に通信容量を向ける実験基盤として計画された。 開発側は目標性能だけでなく、入力条件、許容差、判定に使うテレメトリ、異常時の停止条件まで事前に定めた。地上試験では再現しにくい真空、放射線、無重量、長距離通信、実際の軌道運動を利用し、機体、打上げ機、追跡管制、利用側設備を一つのシステムとして動かした。実証機の価値は派手な出力だけでなく、どの条件なら設計どおり働き、どこから性能が崩れるかを後続計画が使える形で残すことにあった。

軌道を試験設備として使う

静止軌道から日本・アジア太平洋へマルチビームを固定し、降雨条件の異なる地域でKa帯リンクを長期試験した。 この軌道選択は所在地の指定ではなく、通信距離、地上局可視、日照と食、放射線、大気抵抗、相対運動を実験条件として作る判断だった。運用チームは一周ごとの電力と推進剤、機器温度、リンク時間を見積もり、準備、実行、停止、データ回収を一組の試験シーケンスにした。同じ条件を反復する場合も、軌道要素や機器劣化を記録して比較可能性を守った。きずなの成果は、設計値へ一度到達したかだけでなく、異なる条件で再現できたか、地上側を含む手順が運用可能だったかによって評価される。

計画を組み替えた転機

東日本大震災後の通信支援や深海探査映像伝送など、実験衛星を実災害・実利用の回線へ転用し、技術評価を社会運用へ近づけた。 この転機では、当初の試験表を機械的に守るのではなく、残った軌道、推進剤、電力、通信時間から実施可能な項目を再選定した。地上側は状態量とコマンド履歴を照合し、次の操作が別の故障を誘発しないことを段階ごとに確認した。成功した機能、制限付きで使える機能、停止すべき機能を切り分けたことで、予定していた全項目を実行できなくても、設計判断に使える結果を回収できた。この再計画能力もまた、軌道上サービスや実用通信、低軌道運用へ受け継ぐべき実証成果だった。

不具合を合否判定へ戻す

Ka帯は大容量の一方で降雨減衰が大きく、可用性を上げるには地上局電力制御、符号化、回線切替が必要だった。2019年2月に通信異常後、復旧できず運用を終えた。 技術実証では、異常を成功談の脇へ追いやると試験の意味が失われる。原因候補を打上げ機、推進、電源、姿勢、通信、機構、地上手順に分解し、異常前後のテレメトリ、コマンド、軌道決定値を突き合わせる必要がある。きずなは、到達できなかった要求、条件付きで達成した要求、設計どおり達成した要求を分け、後続機が同じ境界を踏まないための入力にした。予定外の結果であっても、故障の波及経路と安全に停止できた範囲を特定できれば、それは設計審査へ戻せる具体的な技術データになる。

軌道上で証明した性能

最大1.2 Gbps級の高速通信、可搬局・超小型局、ビーム間交換、災害通信と国際共同実験を実証した。 ここで得られた数値と運用履歴は、単体機器の性能表ではなく、電力、熱、姿勢、軌道、地上設備を含む総合系の実績である。チームは試験開始前の基準状態、実行中の入力と応答、終了後の状態を揃え、再現性と劣化傾向を確認した。通信、機構、材料、部品の実証では、最高性能へ一度到達したかだけでなく、停止後の復帰、環境変化、複数条件での反復が実用性を左右する。きずなは、宇宙で働くことを宣言するのではなく、どの手順と余裕を用意すれば運用へ持ち込めるかを示した。

次のシステムへ渡した設計条件

高スループット衛星のビーム・交換・地上局技術と、災害時に衛星回線を即応配置する運用ノウハウを残した。 継承されたのは部品や回路だけではない。異常時に確保すべき状態量、操作を止める閾値、地上局間で共有する時刻、試験結果の版管理、運用者が迷わない手順までが含まれる。後続計画はきずなの不足を隠すのではなく、失敗した経路を分離し、成功した機能には実運用で必要な余裕を加えて要件を書き直した。実証機は完成品の縮小版ではなく、未知の境界を安全に踏み、次の実用システムが負うリスクを減らす装置である。その意味で本機の転機と限界は、達成した最高性能と同じ重さを持つ。

  1. 2008年・打上げ前
    最終設計と射場準備
    日本向けマルチビームアンテナ、アジア太平洋向けマルチビームアンテナ、搭載交換機を大型静止バスへ載せた。という構成を確定し、機体と地上系を一つの運用手順として検証した。
  2. 2008-02-23
    打上げ
    H-IIAロケット14号機で種子島宇宙センターから打ち上げられた。
  3. 2008-02-23
    軌道投入・初期捕捉
    2008-007Aとして追跡され、電源、通信、姿勢の初期確認へ移った。
  4. 初期運用期
    実験系の立上げ
    展開物、搭載機器、試験手順と地上設備を順に確認し、合否判定に使う基準状態を確立した。
  5. 2011年3月
    ミッションの転機
    東日本大震災後の通信支援や深海探査映像伝送など、実験衛星を実災害・実利用の回線へ転用し、技術評価を社会運用へ近づけた。
  6. 2019-02-27
    運用の終点
    最大1.2 Gbps級の高速通信、可搬局・超小型局、ビーム間交換、災害通信と国際共同実験を実証した。 運用終了後も試験結果と設計教訓が後続システムへ利用されている。

03エピソード

数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を一次資料と結び直す。

2.4 m車載局へ1.2 Gbps、都市回線の速さを衛星へ持ち込む

2008年5月2日、JAXAとNICTは「きずな」の固定マルチビームアンテナと鹿島の直径2.4 m車載局を結び、622 Mbpsを2波、合計1.2 Gbpsで伝送した。当時の衛星Internetは下り1.5〜10 Mbps級で、Ka帯は大容量化できる一方、降雨減衰と高精度指向が難しい。そこで衛星側に広帯域中継器、地上側に超高速局を組み合わせ、従来HDTVの16倍量に相当する回線を成立させた。実験は「孤立地へ細い回線」ではなく、地上網のbackupや大容量映像を任せられる衛星通信という設計基準を実測で引き上げた。

切れた沿岸回線を一週間で結び、その経験を災害医療の手順へ変える

2011年3月11日の東日本大震災で固定・携帯回線が途絶えると、JAXAは岩手県の要請を受け、可搬局2組、TV会議装置2組、無線LAN 4組と要員5人を現地へ送った。「きずな」は県庁と釜石・大船渡を結び、HD会議、Internet、安否確認を地上網復旧まで支えた。ただし一度つながるだけでは次の災害に間に合わない。JAXAと日本医師会は2012年7月26日に医療chart・避難所情報をcloud共有する模擬訓練を行い、2013年1月30日に共同実証協定を締結。実災害の臨時回線を、誰が何を運びどう情報共有するかという制度へ固定した。

04軌道

静止軌道から日本・アジア太平洋へマルチビームを固定し、降雨条件の異なる地域でKa帯リンクを長期試験した。

きずな / 軌道・航路概念図 地球 距離・天体サイズは経路理解のため模式化
  1. 01投入H-IIAロケット14号機から分離し、地上局が初期捕捉する。
  2. 02確立姿勢と電力を安定させ、軌道要素を確定する。
  3. 03定常試験準備、実行、状態記録、送信を軌道周期に合わせて反復する。
  4. 04後期運用終了後は試験記録と設計教訓を後続計画へ渡す。
主航路・運用軌道探査機マーカー概念図。正確な軌道要素は基本情報と出典を参照。

05搭載機器

観測目的を、実際に信号へ変えた機器群。

MBA-J

日本向けマルチビームアンテナ

国内主要地域へ固定Ka帯ビームを形成。

MBA-AP

アジア太平洋向けアンテナ

広域の複数地域へ高速リンクを提供。

ABS

搭載交換システム

ビーム間の再生交換と柔軟な回線設定を実証。

APAA

アクティブ・フェーズドアレイアンテナ

電子走査で通信方向を切り替える実験系。

06設計 — 2基のMBAと走査するAPAA

全幅21.5 mの両翼と縦長バスを基盤に、地球指向面へ国内・近隣国用と東南アジア用の2基の展開MBA、送受信用APAA、搭載交換系をまとめた。

きずなの太陽電池パドルと通信アンテナの配置左右へ延びる太陽電池パドル、中央の縦長バス、地球指向面上部の2基のマルチビームアンテナ、送受信用アクティブフェーズドアレイ、内部のマルチポートアンプとATM交換機を示す。 WINDS / EARTH-FACING COMMUNICATION DECK本体 2 × 3 × 8 m | 両翼展開後 21.5 m | 約2,700 kg | 5.2 kW以上 太陽電池パドル:全幅21.5 mKa帯高出力増幅と交換処理へ5.2 kW以上を供給 MBA:国内・近隣国向け固定マルチビーム反射鏡MBA:東南アジア向け固定マルチビーム反射鏡 MPAATM ROUTERAPAA:送信/受信各128ホーンでビームを電子走査MPA・搭載交換機出力配分とビーム間の高速交換 固定ビーム2面と電子走査面を、同じ地球指向面へ集約

固定する地域と、走査する地域を物理的に分ける

きずなの二つのMBAは、日本・近隣国と東南アジアの主要都市へ固定ビームを向ける。APAAは別の送受信面でアジア太平洋の任意方向へビームを電子走査する。大電力MPAとATM交換機を地球指向面の背後へまとめ、アンテナ、増幅、交換、放熱を短い機内経路で結ぶ構成である。

08関連文献

設計と成果を検証できる論文・公式技術資料。

  • きずな 公式ミッションページ
    JAXA/NICT・機体諸元、運用、成果 · 一次資料
  • H-IIA 公式打上げ機資料
    JAXA/ISAS・打上げシステムと記録 · 一次資料
  • 2008-007A spacecraft record
    NASA NSSDCA・国際標識番号と軌道記録 · 一次資料