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// 4万5千kmを結ぶ光の針 · 2005-031A

きらり
KIRARI (OICETS)

きらりは低軌道衛星と静止衛星・地上局の間でレーザー通信の捕捉・追尾・指向を実証することを目的に設計された光通信技術ミッションである。2005年12月にARTEMISとの双方向光衛星間通信を成立させ、2006年にはNICTやドイツDLRの地上局とも光通信に成功した。 成果だけでなく、設計判断と異常時の選択までを追うと、日本の宇宙開発が一機ごとの経験を次へ渡してきた道筋が見える。

45000
最大光リンク距離(km)
9.36
パドル展開長(m)
4
運用期間(年)
運用終了🇯🇵 JAXA/ESA/NICT光通信技術

01基本情報

運用史と機体仕様を、ミッションの読み解きに必要な単位で整理する。

打上げ日2005-08-24現地表記は一次資料に準拠
国際標識番号2005-031ACOSPAR ID
打上げ機DneprロケットDnepr
射場バイコヌール宇宙基地カザフスタン
質量570 kg打上げ時または公式代表値
近地点610 km公式公称値
遠地点610 km公式公称値
軌道傾斜角98°赤道面基準
軌道周期97分公称値
姿勢制御三軸姿勢制御実証・通信の基準
外形0.78×1.1×1.5 m、パドル展開長9.36 m展開物を除く場合あり
運用状態終了(2009-09-24)公式機関の分類

02ミッション

低軌道衛星と静止衛星・地上局の間でレーザー通信の捕捉・追尾・指向を実証するという目標を、高度約610 kmの低軌道を約97分で周回し、静止衛星ARTEMISとの距離が最大約45,000 kmまで変わる条件で光リンクを張った。という軌道・運用条件の中で実現した。レーザービームは極端に細く、雲で遮られ、衛星振動や軌道誤差で容易に相手を外す。通信容量より先に捕捉・追尾・指向の閉ループを確立する必要があった。

要求を軌道上試験へ変える

きらりが担ったのは、低軌道衛星と静止衛星・地上局の間でレーザー通信の捕捉・追尾・指向を実証するという技術要求を、合否を判定できる軌道上試験へ変換することだった。電波より小型・高速で干渉しにくい通信を、数万km離れて動く端末間で成立させる技術試験だった。 開発側は目標性能だけでなく、入力条件、許容差、判定に使うテレメトリ、異常時の停止条件まで事前に定めた。地上試験では再現しにくい真空、放射線、無重量、長距離通信、実際の軌道運動を利用し、機体、打上げ機、追跡管制、利用側設備を一つのシステムとして動かした。実証機の価値は派手な出力だけでなく、どの条件なら設計どおり働き、どこから性能が崩れるかを後続計画が使える形で残すことにあった。

軌道を試験設備として使う

高度約610 kmの低軌道を約97分で周回し、静止衛星ARTEMISとの距離が最大約45,000 kmまで変わる条件で光リンクを張った。 この軌道選択は所在地の指定ではなく、通信距離、地上局可視、日照と食、放射線、大気抵抗、相対運動を実験条件として作る判断だった。運用チームは一周ごとの電力と推進剤、機器温度、リンク時間を見積もり、準備、実行、停止、データ回収を一組の試験シーケンスにした。同じ条件を反復する場合も、軌道要素や機器劣化を記録して比較可能性を守った。きらりの成果は、設計値へ一度到達したかだけでなく、異なる条件で再現できたか、地上側を含む手順が運用可能だったかによって評価される。

計画を組み替えた転機

2005年12月にARTEMISとの双方向光衛星間通信を成立させ、2006年にはNICTやドイツDLRの地上局とも光通信に成功した。 この転機では、当初の試験表を機械的に守るのではなく、残った軌道、推進剤、電力、通信時間から実施可能な項目を再選定した。地上側は状態量とコマンド履歴を照合し、次の操作が別の故障を誘発しないことを段階ごとに確認した。成功した機能、制限付きで使える機能、停止すべき機能を切り分けたことで、予定していた全項目を実行できなくても、設計判断に使える結果を回収できた。この再計画能力もまた、軌道上サービスや実用通信、低軌道運用へ受け継ぐべき実証成果だった。

不具合を合否判定へ戻す

レーザービームは極端に細く、雲で遮られ、衛星振動や軌道誤差で容易に相手を外す。通信容量より先に捕捉・追尾・指向の閉ループを確立する必要があった。 技術実証では、異常を成功談の脇へ追いやると試験の意味が失われる。原因候補を打上げ機、推進、電源、姿勢、通信、機構、地上手順に分解し、異常前後のテレメトリ、コマンド、軌道決定値を突き合わせる必要がある。きらりは、到達できなかった要求、条件付きで達成した要求、設計どおり達成した要求を分け、後続機が同じ境界を踏まないための入力にした。予定外の結果であっても、故障の波及経路と安全に停止できた範囲を特定できれば、それは設計審査へ戻せる具体的な技術データになる。

軌道上で証明した性能

宇宙―宇宙、宇宙―地上の光通信を国際的に反復し、半導体レーザー、高感度受信、精密指向の軌道上性能を実証した。 ここで得られた数値と運用履歴は、単体機器の性能表ではなく、電力、熱、姿勢、軌道、地上設備を含む総合系の実績である。チームは試験開始前の基準状態、実行中の入力と応答、終了後の状態を揃え、再現性と劣化傾向を確認した。通信、機構、材料、部品の実証では、最高性能へ一度到達したかだけでなく、停止後の復帰、環境変化、複数条件での反復が実用性を左右する。きらりは、宇宙で働くことを宣言するのではなく、どの手順と余裕を用意すれば運用へ持ち込めるかを示した。

次のシステムへ渡した設計条件

LUCASなど後続の光データ中継、光地上局網、雲を考慮したサイトダイバーシティへ、端末と運用の実測値を渡した。 継承されたのは部品や回路だけではない。異常時に確保すべき状態量、操作を止める閾値、地上局間で共有する時刻、試験結果の版管理、運用者が迷わない手順までが含まれる。後続計画はきらりの不足を隠すのではなく、失敗した経路を分離し、成功した機能には実運用で必要な余裕を加えて要件を書き直した。実証機は完成品の縮小版ではなく、未知の境界を安全に踏み、次の実用システムが負うリスクを減らす装置である。その意味で本機の転機と限界は、達成した最高性能と同じ重さを持つ。

  1. 2005年・打上げ前
    最終設計と射場準備
    LUCE光端末に粗捕捉、精追尾、送受信望遠鏡を一体化し、衛星バスの微小振動を抑える配置とした。という構成を確定し、機体と地上系を一つの運用手順として検証した。
  2. 2005-08-24
    打上げ
    Dneprロケットでバイコヌール宇宙基地から打ち上げられた。
  3. 2005-08-24
    軌道投入・初期捕捉
    2005-031Aとして追跡され、電源、通信、姿勢の初期確認へ移った。
  4. 初期運用期
    実験系の立上げ
    展開物、搭載機器、試験手順と地上設備を順に確認し、合否判定に使う基準状態を確立した。
  5. 2005年12月
    ミッションの転機
    2005年12月にARTEMISとの双方向光衛星間通信を成立させ、2006年にはNICTやドイツDLRの地上局とも光通信に成功した。
  6. 2009-09-24
    運用の終点
    宇宙―宇宙、宇宙―地上の光通信を国際的に反復し、半導体レーザー、高感度受信、精密指向の軌道上性能を実証した。 運用終了後も試験結果と設計教訓が後続システムへ利用されている。

03エピソード

数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を、出来事を直接確認できる資料と結び直す。

完成した機体を二年しまい、軌道傾斜角を35°から98°へ直す

2003年5月、OICETSはproto-flight試験まで終えていたが、相手のESA衛星ARTEMISが予定外軌道へ入り、機体は太陽電池翼などを外して保管された。ARTEMISは打上げから1年半後の2003年1月に静止化できたものの、OICETS側も打上げ機変更で軌道傾斜角を35°から98°へ改修する必要が生じた。このためJAXAは保管機を再試験し、2005年8月24日にDneprで打上げ。完成品を急いで別目的へ転用せず、相手機と軌道条件が揃うまで守った判断が、後の光linkを成立させた。

秒速数kmの二機で、4万km先の針穴を射抜く

2005年12月9日、低軌道の「きらり」と静止衛星ARTEMISは約40,000 km離れ、互いに秒速数kmで異なる軌道を進んでいた。radioの広いbeamと違い、laserはわずかな指向誤差で相手を外すため、JAXAとESAは予報方向で粗捕捉し、端末内の精追尾でbeamを閉じる二段制御を選んだ。その結果、世界初の双方向光衛星間通信に成功し、単なる受光ではなく捕捉・追尾・送受信を一つのclosed loopとして軌道上で証明した。

雲で一度中止し、7 km/sの通過を4分44秒つなぐ

2006年3月22〜31日、NICTとJAXAは高度約600 kmを約7 km/sで通過する「きらり」を小金井の光地上局から追った。laserは大気減衰と揺らぎで受信levelが激しく変わり、3月24日の試験は曇天で中止。そこで短いpassごとに捕捉、片方向、双方向へ段階を進め、31日00時48分26秒から4分44秒の連続追尾を確認した。その結果、低軌道衛星と地上局の世界初の双方向光通信が成立し、悪天候を失敗と混同しない運用と大気揺らぎの実測値を同時に得た。

04軌道

高度約610 kmの低軌道を約97分で周回し、静止衛星ARTEMISとの距離が最大約45,000 kmまで変わる条件で光リンクを張った。

きらり / 軌道・航路概念図 地球 距離・天体サイズは経路理解のため模式化
  1. 01投入Dneprロケットから分離し、地上局が初期捕捉する。
  2. 02確立姿勢と電力を安定させ、軌道要素を確定する。
  3. 03定常試験準備、実行、状態記録、送信を軌道周期に合わせて反復する。
  4. 04後期運用終了後は試験記録と設計教訓を後続計画へ渡す。
主航路・運用軌道探査機マーカー概念図。正確な軌道要素は基本情報と出典を参照。

05搭載機器

観測目的を、実際に信号へ変えた機器群。

LUCE

レーザー利用通信装置

ARTEMIS・地上局との光送受信を実施。

CPA

粗捕捉機構

予報方向から相手機のビーコンを探索。

FPA

精追尾機構

検出した光を高精度に追尾し送信方向を補正。

LD

半導体レーザー送信器

高速データを狭い光ビームへ変調。

06設計 — 両翼の中央に置いた光端末

全幅9.36 mの二翼式パドルの中央に小型三軸バスを置き、上面の二軸ジンバルへLUCE反射望遠鏡を搭載。機体の粗指向と端末内の精追尾を重ねた。

きらりの太陽電池パドルとLUCE光通信端末の配置左右三枚ずつの太陽電池パドル、中央の箱形バス、上面の二軸ジンバル、反射望遠鏡、粗捕捉センサーと精追尾系を示す。 OICETS / LUCE POINTING LAYOUT本体 1.1 × 0.78 × 1.5 m | 二翼展開後 9.36 m | 約570 kg 二翼式パドル:片翼3枚駆動部の微小振動もLUCE追尾試験へ反映 LUCE 反射望遠鏡二軸ジンバルで捕捉・追尾粗捕捉センサー → 精追尾光学系視線:ARTEMIS / 光地上局 衛星姿勢の粗指向と、LUCE内部の精追尾を二段で重ねる

狭い光ビームを、二段の指向で外へ出す

きらりは、二翼パドルを含むバス全体で相手衛星の予報方向へ向き、LUCEの二軸ジンバルと内部追尾系で残る誤差を詰める。望遠鏡を上面へ独立して載せた配置は、電力を生む可動パドルの振動を実測しながら、光学系だけで捕捉・追尾・送信を閉じるためのものだった。

08関連文献

設計と成果を検証できる論文・公式技術資料。

  • きらり 公式ミッションページ
    JAXA/ESA/NICT・機体諸元、運用、成果 · 一次資料
  • Dnepr 公式打上げ機資料
    JAXA/ISAS・打上げシステムと記録 · 一次資料
  • 2005-031A spacecraft record
    NASA NSSDCA・国際標識番号と軌道記録 · 一次資料