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// 低すぎた軌道から実験を救う · 1998-011A

かけはし
KAKEHASHI (COMETS)

かけはしは衛星間通信、Ka帯高度放送、移動体通信を静止軌道で実証することを目的に設計された通信・放送技術ミッションである。静止軌道を断念して搭載推進剤を軌道救済へ使い、周期約4時間の楕円軌道で可視時間に合わせて可能な通信実験を選別した。 成果だけでなく、設計判断と異常時の選択までを追うと、日本の宇宙開発が一機ごとの経験を次へ渡してきた道筋が見える。

7
救済軌道制御回数
5.3
終末期発生電力(kW)
3
設計寿命(年)
運用終了🇯🇵 NASDA(現JAXA)通信・放送技術

01基本情報

運用史と機体仕様を、ミッションの読み解きに必要な単位で整理する。

打上げ日1998-02-21現地表記は一次資料に準拠
国際標識番号1998-011ACOSPAR ID
打上げ機H-IIロケット5号機H-II
射場種子島宇宙センター日本
質量3900 kg打上げ時または公式代表値
近地点479 km公式公称値
遠地点17700 km公式公称値
軌道傾斜角30.1°赤道面基準
軌道周期240分公称値
姿勢制御三軸姿勢制御実証・通信の基準
外形2×3×3 m、片翼3×15 mパドル展開物を除く場合あり
運用状態終了(1999-08-06)公式機関の分類

02ミッション

衛星間通信、Ka帯高度放送、移動体通信を静止軌道で実証するという目標を、H-II第2段の第2回燃焼が早期停止して低軌道へ入り、7回の軌道制御で近地点約479 km・遠地点約17,700 kmの救済軌道を作った。という軌道・運用条件の中で実現した。打上げ機上段異常で本来の静止位置、連続可視、三年寿命を失い、通信ペイロードは設計通りでも利用条件が根本から変わった。

要求を軌道上試験へ変える

かけはしが担ったのは、衛星間通信、Ka帯高度放送、移動体通信を静止軌道で実証するという技術要求を、合否を判定できる軌道上試験へ変換することだった。大型静止衛星上で複数ビームと搭載交換を試す通信・放送総合実験機だった。 開発側は目標性能だけでなく、入力条件、許容差、判定に使うテレメトリ、異常時の停止条件まで事前に定めた。地上試験では再現しにくい真空、放射線、無重量、長距離通信、実際の軌道運動を利用し、機体、打上げ機、追跡管制、利用側設備を一つのシステムとして動かした。実証機の価値は派手な出力だけでなく、どの条件なら設計どおり働き、どこから性能が崩れるかを後続計画が使える形で残すことにあった。

軌道を試験設備として使う

H-II第2段の第2回燃焼が早期停止して低軌道へ入り、7回の軌道制御で近地点約479 km・遠地点約17,700 kmの救済軌道を作った。 この軌道選択は所在地の指定ではなく、通信距離、地上局可視、日照と食、放射線、大気抵抗、相対運動を実験条件として作る判断だった。運用チームは一周ごとの電力と推進剤、機器温度、リンク時間を見積もり、準備、実行、停止、データ回収を一組の試験シーケンスにした。同じ条件を反復する場合も、軌道要素や機器劣化を記録して比較可能性を守った。かけはしの成果は、設計値へ一度到達したかだけでなく、異なる条件で再現できたか、地上側を含む手順が運用可能だったかによって評価される。

計画を組み替えた転機

静止軌道を断念して搭載推進剤を軌道救済へ使い、周期約4時間の楕円軌道で可視時間に合わせて可能な通信実験を選別した。 この転機では、当初の試験表を機械的に守るのではなく、残った軌道、推進剤、電力、通信時間から実施可能な項目を再選定した。地上側は状態量とコマンド履歴を照合し、次の操作が別の故障を誘発しないことを段階ごとに確認した。成功した機能、制限付きで使える機能、停止すべき機能を切り分けたことで、予定していた全項目を実行できなくても、設計判断に使える結果を回収できた。この再計画能力もまた、軌道上サービスや実用通信、低軌道運用へ受け継ぐべき実証成果だった。

不具合を合否判定へ戻す

打上げ機上段異常で本来の静止位置、連続可視、三年寿命を失い、通信ペイロードは設計通りでも利用条件が根本から変わった。 技術実証では、異常を成功談の脇へ追いやると試験の意味が失われる。原因候補を打上げ機、推進、電源、姿勢、通信、機構、地上手順に分解し、異常前後のテレメトリ、コマンド、軌道決定値を突き合わせる必要がある。かけはしは、到達できなかった要求、条件付きで達成した要求、設計どおり達成した要求を分け、後続機が同じ境界を踏まないための入力にした。予定外の結果であっても、故障の波及経路と安全に停止できた範囲を特定できれば、それは設計審査へ戻せる具体的な技術データになる。

軌道上で証明した性能

衛星間通信、高度放送、移動体通信の一部を楕円軌道で実施し、1999年8月6日まで救済運用を続けた。 ここで得られた数値と運用履歴は、単体機器の性能表ではなく、電力、熱、姿勢、軌道、地上設備を含む総合系の実績である。チームは試験開始前の基準状態、実行中の入力と応答、終了後の状態を揃え、再現性と劣化傾向を確認した。通信、機構、材料、部品の実証では、最高性能へ一度到達したかだけでなく、停止後の復帰、環境変化、複数条件での反復が実用性を左右する。かけはしは、宇宙で働くことを宣言するのではなく、どの手順と余裕を用意すれば運用へ持ち込めるかを示した。

次のシステムへ渡した設計条件

軌道投入失敗後に衛星推進・地上局・実験計画を統合して価値を回収する危機運用と、H-II上段改良の具体的教訓を残した。 継承されたのは部品や回路だけではない。異常時に確保すべき状態量、操作を止める閾値、地上局間で共有する時刻、試験結果の版管理、運用者が迷わない手順までが含まれる。後続計画はかけはしの不足を隠すのではなく、失敗した経路を分離し、成功した機能には実運用で必要な余裕を加えて要件を書き直した。実証機は完成品の縮小版ではなく、未知の境界を安全に踏み、次の実用システムが負うリスクを減らす装置である。その意味で本機の転機と限界は、達成した最高性能と同じ重さを持つ。

  1. 1998年・打上げ前
    最終設計と射場準備
    大電力片翼パドル、Ka帯・ミリ波アンテナ、衛星間通信、再生中継を2トン級静止バスへ統合した。という構成を確定し、機体と地上系を一つの運用手順として検証した。
  2. 1998-02-21
    打上げ
    H-IIロケット5号機で種子島宇宙センターから打ち上げられた。
  3. 1998-02-21
    軌道投入・初期捕捉
    1998-011Aとして追跡され、電源、通信、姿勢の初期確認へ移った。
  4. 初期運用期
    実験系の立上げ
    展開物、搭載機器、試験手順と地上設備を順に確認し、合否判定に使う基準状態を確立した。
  5. 1998年・7回の救済軌道制御
    ミッションの転機
    静止軌道を断念して搭載推進剤を軌道救済へ使い、周期約4時間の楕円軌道で可視時間に合わせて可能な通信実験を選別した。
  6. 1999-08-06
    運用の終点
    衛星間通信、高度放送、移動体通信の一部を楕円軌道で実施し、1999年8月6日まで救済運用を続けた。 運用終了後も試験結果と設計教訓が後続システムへ利用されている。

03エピソード

数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を、出来事を直接確認できる資料と結び直す。

短く止まった第二段を、七回の噴射で実験軌道へ

1998年2月21日16時55分、H-IIロケット5号機の第二段は二回目の燃焼を予定より早く停止し、「かけはし」を静止transfer軌道より低く放した。搭載推進剤を静止化へ使い切れば実験前に失うため、NASDAは目標を捨てて七回の軌道変更を実施。近地点約480 km、遠地点約17,000 km、周期約319分の二日九周回準回帰軌道へ整えた。その結果、連続静止通信はできなくても可視窓ごとに衛星間通信・高度放送・移動体通信を選び、1999年1月31日まで定常実験を最大限回収できた。

04軌道

H-II第2段の第2回燃焼が早期停止して低軌道へ入り、7回の軌道制御で近地点約479 km・遠地点約17,700 kmの救済軌道を作った。

かけはし / 軌道・航路概念図 地球 距離・天体サイズは経路理解のため模式化
  1. 01投入H-IIロケット5号機から分離し、地上局が初期捕捉する。
  2. 02確立姿勢と電力を安定させ、軌道要素を確定する。
  3. 03定常試験準備、実行、状態記録、送信を軌道周期に合わせて反復する。
  4. 04後期運用終了後は試験記録と設計教訓を後続計画へ渡す。
主航路・運用軌道探査機マーカー概念図。正確な軌道要素は基本情報と出典を参照。

05搭載機器

観測目的を、実際に信号へ変えた機器群。

ICE

衛星間通信実験系

低軌道衛星とのデータ中継を試験。

ABE

高度放送実験系

Ka帯広帯域・地域別放送を実証。

MCE

移動体通信実験系

再生中継とビーム間接続を評価。

MBA

マルチビームアンテナ

複数地域へ高周波ビームを形成。

06設計 — 15 m片翼と多周波アンテナ面

2トン級箱形バスの片側へ3 × 15 mの柔軟太陽電池パドルを展開。地球指向面には衛星間、Ka帯放送、ミリ波・移動体通信のアンテナを集めた。

かけはしの機体外形と通信機器配置片側へ展開した15メートル太陽電池パドル、箱形バス、地球指向面の衛星間通信・Ka帯放送・ミリ波・移動体通信アンテナ、背面のアポジエンジンを示す。 COMETS / KAKEHASHI DEPLOYED PHYSICAL LAYOUT構体 約2 × 3 × 3 m 片翼パドル 約3 × 15 m GaAs柔軟太陽電池パドル 片翼終末期 約5.3 kW / カンチレバー支持 ICE 衛星間通信低軌道機との捕捉・追尾ABE Ka帯高度放送高周波・広帯域中継MCE / MBA ミリ波・移動体通信再生中継とビーム間接続 1,700 Nアポジエンジン静止化用推進剤を軌道救済へ転用 片翼で大電力を得て、同じ地球指向面で多周波を実験

片翼の電力を、多周波アンテナ面へ集める

かけはしは3 × 15 mの柔軟パドルを片側だけへ伸ばす非対称な外形を持つ。地球側の面には衛星間通信、Ka帯高度放送、ミリ波・移動体通信のアンテナをまとめ、同じ2トン級バスで周波数帯と中継方式を横断して試した。低軌道投入後はアポジエンジン用推進剤を救済へ使い、この地球指向面を楕円軌道で追尾できるよう運用した。

08関連文献

設計と成果を検証できる論文・公式技術資料。

  • かけはし 公式ミッションページ
    NASDA(現JAXA)・機体諸元、運用、成果 · 一次資料
  • H-II 公式打上げ機資料
    JAXA/ISAS・打上げシステムと記録 · 一次資料
  • 1998-011A spacecraft record
    NASA NSSDCA・国際標識番号と軌道記録 · 一次資料