// 6000 Kの光球から数百万 Kのコロナへ · 2006-041A
ひので
HINODE / SOLAR-B
太陽表面の磁場を測るSOT、コロナの温度と流れを分光するEIS、高温プラズマを撮るXRT。同じ場所を三つの物差しで同時に見ることで、磁気エネルギーが光球からコロナへ運ばれ、フレアとして解放されるまでを一つの現象として追う。ひのでは、望遠鏡三台を載せた衛星ではなく、太陽を指し続ける一つの軌道天文台である。
01基本情報
大きさ、軌道、指向性能が、三望遠鏡を同じ太陽面へ向ける条件をつくる。
| 打上げ | 2006-09-23 06:36 JST内之浦宇宙空間観測所 |
|---|---|
| ロケット | M-Vロケット7号機国際標識 2006-041A |
| 質量 | 約900 kg |
| 機体寸法 | 約1.6 × 1.6 × 4 m太陽電池パドル端間 約10 m |
| 軌道 | 円軌道・太陽同期極軌道 |
| 高度 | 約680 km |
| 軌道傾斜角 | 98° |
|---|---|
| 軌道周期 | 98分 |
| 姿勢 | 三軸安定・太陽指向4基のモーメンタムホイール、磁気トルカ |
| 電力 | 約1,100 W太陽電池パドル+Ni-Cd蓄電池 |
| 記録 | 8 Gbitデータレコーダ |
| 主要観測器 | SOT/XRT/EIS |
02ミッション
磁場、温度、流れを同時刻・同領域でそろえるため、軌道、指向、記録、地上局までを一つの観測系にした。
三望遠鏡で太陽大気を縦につなぐ
SOTは光球・彩層の偏光から磁場ベクトルを測り、EISは極端紫外輝線からコロナの温度・密度・ドップラー速度を求め、XRTは高温コロナとフレアの形を撮る。三台は別々の光学系と検出器を持ち、同じ太陽領域を並列に観測する。光球で組み上がった磁場と、その上空で起きる加熱・噴出を時刻で結ぶことが、ひのでの観測設計である。
一年の九か月は太陽が沈まない
高度約680 km、傾斜角98°の太陽同期極軌道は、一年の約九か月にわたり地球の影へ入らず太陽を連続観測できる。おおむね5月から8月の食季には一周に一度、最大約30分の太陽遮蔽が入り、高放射線域でも観測が中断する。衛星は同じ向きに周回を続け、日照へ戻るたびに電力・温度・観測を復帰させる。
二段構えで像を止める
衛星全体は超高精度太陽センサ、恒星センサ、ジャイロ、モーメンタムホイールで太陽を追う。その上でSOTの相関トラッカーが太陽粒状斑のずれを検出し、焦点面のチップ・チルト鏡を閉ループで補正する。大きな機体の揺れを姿勢系、小さな像揺れを望遠鏡内部で受け持つ分業が、0.2〜0.3秒角級の観測を支える。
フレアを三台で取り逃がさない
搭載MDPは三望遠鏡のコマンドとデータをまとめる。XRTがフレアを検出すると自身の観測テーブルを切り替え、SOTとEISにも通知できる。観測データは8 Gbitレコーダへ保存され、X帯でスヴァールバル局や内之浦局へ送る。常時すべてを最高速度で撮るのではなく、現象に合わせて画角、露出、圧縮、記録配分を組み替える。
壊れた一台ではなく、残った系で再設計する
2016年2月25日、SOTのFiltergramカメラが電気的短絡で停止した。共通電源を持つSPと相関トラッカーを守るためFGを切り離し、3月3日に偏光分光観測を再開。使われなくなった通信容量はSP・EIS・XRTへ再配分された。長期運用とは、初期仕様を固定することではなく、実在する能力で観測全体を組み直すことでもある。
- 2006-09-23M-V-7で打上げ内之浦から高度約680 kmの太陽同期極軌道へ投入された。
- 2006-10-23XRTファーストライト高温コロナを軟X線で捉える観測が始まった。
- 2006-10-25SOTファーストライト宇宙から光球磁場を高分解能で測る観測系が立ち上がった。
- 2006-10-28EISファーストライト極端紫外分光が加わり、三望遠鏡の共同観測がそろった。
- 2016-02-25SOT/FG停止SPと相関トラッカーを保護し、偏光分光へ観測を再構成した。
- 現在軌道天文台として継続地上望遠鏡や他の太陽観測衛星と共同観測し、取得データを公開している。
03エピソード
高解像度は望遠鏡だけで生まれない。像揺れ、食、通信量までを観測へ変える。
毎秒580回の像ずれを、14 Hzで鏡だけへ返す
2006年9月23日に打ち上げられた「ひので」のSOTは、衛星本体の姿勢制御だけでは残る細かな像揺れに直面した。相関トラッカーは太陽粒状斑の模様を毎秒580回比較し、誤差を14 Hzの制御信号にしてチップ・チルト鏡へ返す。二トン級の衛星全体を細かく振るのでなく、望遠鏡内部の小さな鏡だけを動かす判断により、可視光・磁場観測に必要な像の静けさをつくった。
九か月の昼と食季を、同じ98分軌道で使い分ける
「ひので」は高度約680 km、周期約98分の太陽同期軌道を飛ぶが、観測条件は一年を通して一定ではない。約9か月はほぼ連続して太陽を見られる一方、食季には毎周の地球遮蔽が長い時系列を分断し、南大西洋異常帯では高放射線も機器運用を制約する。運用班は連続日照期へ長時間観測を寄せ、食季には中断を前提とした計画へ組み替えた。同じ軌道でも季節を読む判断が、途切れの少ない太陽動画を可能にした。
FGの過電流後、残る三装置へ通信量を配り直す
2016年2月、SOTのFiltergraph(FG)は過電流を検知して観測を停止した。しかし同じ望遠鏡内のSpectro-Polarimeter(SP)と相関トラッカー、さらにXRTとEISは動作を続けられた。失った装置を無理に再投入せず、10月には計画ソフト側でも利用できるテレメトリ配分を見直し、残る装置の観測へ振り向けた。機器を独立させた設計と地上の配分変更を組み合わせ、単一故障を衛星全体の科学停止へ広げなかった。
04軌道
98分の周回を同じ向きに継続しながら、年間の季節によって太陽光の遮蔽時間が変化する。
- 01投入M-V-7から分離し、高度約680 kmの円軌道へ入る。
- 02太陽捕捉パドル展開、三軸安定、三望遠鏡の扉開放と較正を進める。
- 03連続日照一年の約九か月は太陽を遮られず、98分ごとに同方向へ周回する。
- 04食季5〜8月ごろは地球の影を通過し、日照復帰後も同じ周回方向を保つ。
- 05フレア協調XRTの検出を契機に、三望遠鏡の観測列を現象へ合わせる。
- 06記録・送信8 Gbitへ保存し、地上局可視時にX帯で観測データを下ろす。
05搭載機器
三つの独立した望遠鏡と、それらを協調させる機上処理系。
可視光・磁場望遠鏡
口径50 cm。光球・彩層を0.2〜0.3秒角級で観測し、偏光から磁場を測る。
分光偏光計
SOT焦点面装置の一つ。太陽表面の磁場ベクトルを精密に走査する。
相関トラッカー
粒状斑のずれを検出し、チップ・チルト鏡へ返してSOT像を安定化する。
X線望遠鏡
34分角四方で太陽全面と高温コロナを撮像し、機上でフレアを検出する。
極端紫外線撮像分光装置
170–210 Åと250–290 Åの輝線から温度、密度、速度を診断する。
ミッションデータプロセッサ
SOT・XRT・EISの観測列、データ処理、フレア時の協調を管理する。
06設計
三望遠鏡は並列、姿勢制御とSOT像安定化は二層、記録と通信は共有。この実関係を機体配置と系統に分けて読む。
長い機体は、三つの視線をそろえる
約4 mの太陽指向構体へSOT、XRT、EISを同居させ、太陽電池パドルは観測視野を避けて両側へ展開する。望遠鏡ごとに光学系は独立しているが、機体姿勢と時刻を共有するため、異なる温度層を同じ現象へ重ねられる。
指向と像安定は役割を分ける
AOCSは太陽・恒星センサとジャイロから機体全体を制御し、モーメンタムホイールと磁気トルカを使う。軌道補正はスラスタが担当する。SOTだけが必要とする微細な像揺れは、相関トラッカーとチップ・チルト鏡の局所ループで抑える。
フレア時だけ観測の重心を移す
三望遠鏡のデータはそれぞれMDPへ入り、時刻と観測列をそろえて記録される。XRTのフレア判定はMDPを介して観測テーブル変更を促し、8 Gbitレコーダの割当と圧縮率を現象へ集中させる。
地上局までが望遠鏡
科学データはX帯4 Mbps、ハウスキーピングとコマンドはS帯32 kbpsを用い、内之浦と高緯度のスヴァールバル局が受信する。極軌道と高緯度局の組合せが、限られた記録容量を日々空ける。
08一次資料
軌道、機体、観測器、現在の状態を検証できる公式資料。
- 太陽観測衛星「ひので」
- The Hinode (Solar-B) Mission: An Overview
- Hinode Technical Status
- Hinode Science Center Instrument Guides

