// 盾を先頭に、二つの彗星を横切る · 1985-056A
ジオット
Giotto
1986年、68.4 km/sでハレー彗星の核から596 kmを通過し、暗い核と噴流を初めて間近に見せたESA初の深宇宙探査機。塵で損傷しながら生き残り、地球重力アシストを経て1992年にグリッグ=シェレルップ彗星へ100〜200 kmまで迫った。
01基本情報
高速遭遇で生き残る盾、スピンする本体、地球を向き続けるアンテナが一体になった。
| 打上げ | 1985-07-02Ariane 1 V14・クールー |
|---|---|
| 国際標識 | 1985-056AESA初の深宇宙ミッション |
| 機体寸法 | 直径1.867 m・高さ2.848 mGEOS由来の円筒バス |
| 姿勢 | 15 rpmスピン安定高利得アンテナはデスパン |
| 科学搭載量 | 約60 kg・10実験撮像、ガス、塵、プラズマ、磁場、電波科学 |
| ハレー最接近 | 596 ± 2 km1986-03-14 00:03:01.84 UTC |
|---|---|
| ハレー相対速度 | 68.4 km/s約4時間の正式遭遇区間 |
| 地球重力アシスト | 高度22,730 km1990-07-02 |
| 第2彗星最接近 | 約100〜200 km1992-07-10 |
| 運用終了 | 1992-07-23軌道調整後、3回目の休眠へ |
02ミッション
三周して地球を離れ、盾を前にハレーを横切り、地球で進路を曲げ、別の彗星を横切る。Giottoの軌道は四つの局所運動で読む。
三周してから惑星間へ
Ariane 1はGiottoを静止トランスファ軌道へ投入した。探査機は地球を3周した後、近地点で中央推力管内のMage 1SB固体モーターを点火し、約1.4 km/sを加えてハレー迎撃の太陽周回軌道へ入った。打上げから遭遇までは8か月。ハレー核の位置誤差は先行したVega探査機の観測で75 kmまで絞られた。
盾を核へ、アンテナを地球へ
本体は毎分15回転し、スピン軸と二層防塵シールドを進行方向の彗星核へ向けた。直径1.47 mの高利得アンテナだけはデスパンして地球を追い続けた。1986年3月14日00:03 UTC、Giottoはハレーの太陽側を596 kmで通過した。4時間の遭遇データは40 kbit/sでリアルタイム送信され、機上記録器には頼らなかった。
7.6秒前の衝突
最接近7.6秒前、大きな塵粒子が角運動量ベクトルを約1°ずらし、32分間、科学データは断続的になった。それでもスラスタが姿勢を回復し、探査機は離脱後も約24時間データを返した。HMCを含む複数機器は使用不能または損傷したが、機体と推進系は生き残った。
地球へ戻って次の彗星へ
三回の小さな軌道修正後、1986年4月2日に休眠。1419日後の1990年2月に低利得アンテナで呼び覚まされ、同年7月2日に地球の雲頂上空22,730 kmを通過した。深宇宙から戻った探査機による初の地球重力アシストで、グリッグ=シェレルップへの軌道へ変わった。
画像なしでも比較できる
1992年7月10日、Giottoは活動の弱いグリッグ=シェレルップ核から約100〜200 kmを通過した。HMCはハレーで損傷したバッフルに遮られ撮像できなかったが、残存した塵・プラズマ・磁場観測で、二つの彗星環境を同じ機体で比較した。7月23日に運用を終え、1999年7月1日には通信を行わないまま地球から約22万 kmを通過した。現在も太陽周回軌道を飛行している。
- 1985-07-02打上げ・地球周回Ariane 1でGTOへ入り、3周後に固体モーターを点火。
- 1986-03-14ハレー彗星を596 kmで通過68.4 km/sで太陽側を横切り、核の姿と組成を観測。
- 1986-04-02第1休眠地球帰還へ軌道を整え、1419日間の休眠へ。
- 1990-02再起動低利得アンテナが起動信号を受け、1週間で完全制御を回復。
- 1990-07-02地球重力アシスト雲頂上空22,730 kmで進路を変更。
- 1992-07-10第2彗星を約100〜200 kmで通過グリッグ=シェレルップの塵、プラズマ、磁場を観測。
- 1992-07-23運用終了最終軌道調整を終え、3回目の休眠状態へ。
- 1999-07-01地球を再通過通信なしで地球から約22万 kmを通過し、太陽周回を継続。
03エピソード
一度きりの高速通過は、何を測るかだけでなく、いつまでに地球へ届かせるかで設計された。
生き残ってから再生、という順番を捨てる
1986年3月14日、ESAのGiottoはハレー彗星へ相対速度約68 km/sで突入した。濃い塵流で機体や記録器を失えば、最接近後にデータを回収する方式では成果も一緒に消える。そのため観測班は画像と粒子・ガス測定を約40 kbit/sで地球へ即時送信し、カメラ像も核から1,372 kmまで届いた分を先に確保した。結果として最接近直前に通信が乱れても、それ以前のbit列から暗い核と噴流を復元できた。耐える盾だけでなく「壊れる前に地球へ渡す」通信順序そのものが、一度きりの高速flybyを科学へ変えた。
最接近7.6秒前、一グラムの塵が地球指向を外す
Giottoは1986年3月14日、最初の塵衝突を最接近122分前に記録し、合計約12,000回の衝突を受けた。核まであと7.6秒の時点では約1 gの粒子が当たり、スピン軸が動いて地球とのlinkが途切れたため、管制室には喪失したように見えた。しかし本体のthrusterが乱れを抑え、断続的な信号から32分後に完全な通信を回復する。その間に核から596 kmを通過し、二層shieldの後ろに置いた機器は観測を続けた。塵を完全に避けられない物理条件に対し、衝撃を局所化し、姿勢だけを取り戻す設計が致命傷を科学データへ変えた。
1,419日の沈黙を解き、傷ついた機体を第二の彗星へ送る
ハレー遭遇後もGiottoには約60 kgの燃料が残ったため、ESAは三回の小さな軌道修正で地球再会を仕込み、1986年4月2日に機器を休眠させた。1,419日後の1990年2月、主antennaの向きも状態も分からないまま低利得系へ起動信号を送り、約2時間後の弱い応答から一週間で完全制御を回復した。カメラは塵で損傷して使えなかったが、地球swing-byで軌道を変え、1992年7月10日にGrigg–Skjellerup彗星を通過して粒子・磁場を測定した。残存燃料を予備ではなく別天体との比較へ使う判断が、損傷機を二度目の探査機にした。
04軌道
地球出発、ハレー接近、地球重力アシスト、第二彗星接近を、それぞれの局所幾何と時間尺度に分けて読む。
- 01GTOを3周Ariane 1からGTOへ入り、地球を3周。
- 02固体モーターで離脱近地点でMage 1SBを点火し、接線方向へ惑星間軌道へ出る。
- 03ハレーを596 kmで通過盾を核へ向け、68.4 km/sで太陽側を横切る。
- 04休眠と再起動1986年4月から1419日間休眠し、1990年2月に再起動。
- 05地球重力アシスト1990年7月2日、雲頂上空22,730 kmで連続的に進行方向を変える。
- 06第2休眠グリッグ=シェレルップへの巡航中に再び休眠。
- 07第2彗星を通過1992年7月10日、残存機器で塵・プラズマ・磁場を測定。
05搭載機器
10の搭載実験と通信回線を使う電波科学は直列工程ではない。核の像、ガス、塵、プラズマ、磁場を同じ遭遇時刻へ重ねた。
Halley Multicolour Camera
核と噴流を多色撮像。ハレーで2000枚超を返し、最接近後は損傷で使用不能。
ガス質量分析
中性原子・分子とイオンの質量、エネルギー、同位体組成を別々に測定。
塵の質量・衝突
塵粒子の質量と組成を分析し、衝突頻度と粒径分布を測定。
Optical Probe Experiment
塵・ガス帯域のコマ輝度を測り、第2彗星では17,000 kmで塵コマ進入を検出。
プラズマ・高エネルギー粒子
太陽風、彗星イオン、電子、陽子、アルファ粒子の速度・エネルギー分布を測定。
Magnetometer
彗星周辺の磁場を測定し、太陽風との相互作用を追跡。
Giotto Radio Experiment
搭載検出器ではなく通信回線を利用し、電子量と塵による質量流束を測定。
06設計
進行方向には二層盾、外周には太陽電池、スピン軸上には推進系。回転する本体と地球を追うアンテナを機械的に分けた。
回転体と地球指向を分離
円筒本体は15 rpmでスピンし、盾を核へ向けて姿勢を安定させる。一方、直径1.47 mの高利得アンテナはデスパン機構で地球を追う。観測方向と通信方向を一つの剛体指向に縛らない構成が、最接近中の連続送信を可能にした。
盾の後ろに実験台
1 mmのアルミ前板で高速塵を気化・破砕し、23 cm後方の13.5 mm Kevlar層で破片を受ける。10実験の多くはこの盾の後ろの最下段プラットフォームに置かれた。HMCの光学系は盾越しに核を見て、中央の固体モーター噴射孔は点火後に二つのシェルで閉鎖された。
推進系は二つの仕事を分担
Mage 1SB固体モーターはGTOからハレー迎撃軌道へ約1.4 km/sを与える一度の大きな加速を担当した。69 kgのヒドラジンと冗長な2 Nスラスタ群は、スピン、姿勢、軌道修正、塵衝突後の再安定化を担った。
遭遇中は記録より送信
ハレー遭遇は生存が保証できず、全科学データを40 kbit/sで地球へリアルタイム送信した。機上の大容量記録器に依存せず、デスパンアンテナ、S/X帯通信、地上局を観測系の一部として設計した。
07写真・図版
実機と観測成果を、出典・ライセンスとともに確認する。


08関連文献
二つの遭遇、機体構造、科学データをESA一次資料でたどる。
- Giotto overview
- Giotto spacecraft and experiments
- Giotto Halley encounter dataset