// 彗星へ衝突体を放ち、内部を光で読む · 2005-001A
ディープ・インパクト
Deep Impact / EPOXI
テンペル第1へ自律誘導する衝突体を放ち、観測母船は噴出物を撮りながら通過。生き残った同じ機体は、さらにハートレー第2まで飛んだ。
01基本情報
運用史と機体仕様を、ミッションの読み解きに必要な単位で整理する。
| 打上げ | 2005-01-12UTC基準の公式記録 |
|---|---|
| 識別符号 | 2005-001ACOSPAR国際識別符号 |
| 打上げ機 | Delta II 7925-9.5上段を含むミッション表記 |
| 射場 | Cape Canaveral LC-17B発射施設 |
| 運用主体 | NASA / JPLアメリカ合衆国 |
| 主対象 | テンペル第1彗星・ハートレー第2彗星彗星探査 |
|---|---|
| 機体構成 | 観測母船と自律誘導する銅主体の衝突体を分離する二機構成観測と飛行を統合した構成 |
| 電力・熱 | 太陽電池パネルと蓄電池、衝突体は一次電池環境条件に合わせた供給方式 |
| 通信 | Xバンド母船通信とSバンド衝突体リンク、DSN地球とのデータリンク |
| 最終状態 | EPOXI延長任務後、2013年に通信途絶ミッション終了 |
02ミッション
彗星の表面を眺めるのではなく、既知の質量と速度で衝突させ、出てきた物質を衝突前後で比較する。衝突体と観測母船を分けた能動実験だった。
彗星の内部を一度だけ露出させる
太陽加熱で変質した表層の下に、太陽系形成時の物質がどの程度残るかを調べるため、372 kgの衝突体をTempel 1へ約10.3 km/sで命中させた。期待される運動エネルギーは約19 GJ。衝突体の約113 kgを銅としたのは、水と急速に反応して観測スペクトルを紛らわせにくい材料だったからである。
分離後の24時間を二機で解く
衝突体は核から約880,000 kmの地点で分離し、ITS画像とAutoNavで核の位置を更新しながら最大3回の修正噴射を行った。母船は分離12分後から14分間の退避噴射を行い、速度を102 m/sだけ変えた。これで衝突体は核へ進み続け、母船は同じ進行方向から衝突経路を外れて観測位置へ移った。
衝突の14分後に母船が通過する
衝突時、母船は核から8,606 km離れてHRIとMRIを向けていた。その後も接近し、衝突14分後に約500 kmで最接近した。約700 kmからは撮像を止めて防塵姿勢へ移り、内側コマを抜けた後に振り返って核と噴出物を観測した。衝突体の最終画像はS帯で母船へ、母船の観測はX帯でDSNへ送られた。
明るい噴出雲が見せた「弱い核」
噴出物は予想以上に細かな粉末が多く、Tempel 1の外層が低強度で多孔質であることを示した。水氷や炭素を含む物質も検出された。一方、明るい噴出雲が衝突孔を隠したため、クレーターそのものは後にStardust-NExTが再訪して確認した。単独の母船だけで完結せず、地上・宇宙望遠鏡と後続探査を合わせて一回の実験を読んだ成果である。
生き残った母船を別の実験へ
主ミッション後の母船はEPOXIとして再利用され、EPOChでは恒星を連続測光して系外惑星を研究し、DIXIでは三度の地球フライバイを経てHartley 2へ向かった。2010年11月4日、同じHRIとMRIで約700 kmから別の彗星を観測し、CO₂ジェットが大きな氷粒を運び出す活動を捉えた。衝突実験用の母船が、機器差のない二彗星比較へ役割を変えた。
- 2005-01-12打上げDelta IIで地球を離れ、172日でTempel 1へ。
- 2005-07-03衝突体分離約880,000 km手前で分離。母船は退避噴射。
- 2005-07-04衝突とフライバイ衝突体が命中し、母船は14分後に約500 kmを通過。
- 2007-07EPOXI承認母船をEPOChとDIXIへ再使用。
- 2010-11-04Hartley 2約700 kmを12.3 km/sでフライバイ。
- 2013-09-20運用終了8月の最終交信後、通信回復を断念。
03エピソード
分離直後の退避、直せない焦点、残った母船の再利用。衝突の一瞬を支えた三つの判断。
35 cm/sで分けた直後、母船だけを102 m/s逃がす
2005年7月3日、NASA/JPLはTempel 1から約88万 kmの地点で、370 kgの衝突体をばねにより約35 cm/sで母船から分離した。遅すぎれば再接触し、速すぎれば衝突体の自律誘導範囲を外れる難しい速度だった。さらに12分後、母船は14分間のdivert burnで衝突体に対して102 m/s遅い経路へ移った。二機を反対向きへ散らすのではなく、彗星へ同じ方向に進ませたまま母船だけを核の直撃線から外した結果、衝突体は翌7月4日に約10 km/sで命中し、母船は噴出雲を近距離から観測して生還できた。
1 cmずれた焦点を直せず、ぼけ方そのものを測って戻す
2005年1月の打上げ後、Deep ImpactのHigh Resolution Instrumentで恒星像を撮ると、焦点が検出器の約1 cm手前にあり、星が約12 pixelへ広がっていた。加熱による水分除去でずれは約0.6 cm、像幅約9 pixelまで改善したが、4月4日に機上での完全修正は不可能と判定された。チームは観測を諦めず、波長と画面位置ごとの点像分布を実測してdeconvolutionへ組み込み、広視野MRIを航法と独立確認に残した。その結果、設計どおりの生画像ではなくても、Tempel 1の核と噴出物を解析できる復元像を作り、一系統の光学欠陥をミッション全体の喪失へ波及させなかった。
使い終えた母船を三度地球へ戻し、別の彗星へ
Tempel 1遭遇後も母船には推進剤とHRI/MRIが残ったため、NASAはEPOXI延長任務を採用した。2007年、2008年、2010年の三度の地球フライバイで速度方向を少しずつ変え、2010年11月4日にHartley 2へ約694 kmまで接近した。小さな核が予想以上の水を放つ理由は表面の単純な昇華だけでは説明できなかったが、赤外分光と可視像の比較から、両端のCO₂ジェットが水氷粒を引き出し、中央部へ再堆積させる構造を確認した。一度きりの衝突観測機を、同じ計器で二彗星の活動機構を比較する探査へ作り替えた。
04巡航・衝突・再航行
衝突体は直進してテンペル第1へ、母船は同じ進行方向からわずかに退避して観測を続けた。その後の母船はEPOXIとなり、三度の地球重力アシストを経て別の彗星へ向かった。
- 01テンペル第1巡航地球脱出から172日、総飛行距離4.31億 kmで遭遇へ。
- 02分離と退避衝突体をばねで分離し、母船は進行を保ったまま102 m/sだけ経路をずらす。
- 03衝突とフライバイ衝突体が命中。母船は14分後に約500 kmを通過して観測を継続。
- 04EPOXI2007・2008・2010年の地球重力アシストと、巡航中の系外惑星測光。
- 05ハートレー第2約700 kmを12.3 km/sで通過。同じHRI/MRIで二彗星を比較。
- 06最終交信2013年8月に通信途絶。回復できず9月20日に終了宣言。
05搭載機器
母船には共通プラットフォーム上のHRIとMRI、衝突体にはMRIを簡略化したITS。通信系を科学装置に数えず、光がどの検出器へ入るかで分ける。
高分解能可視撮像
口径30 cmのHRI望遠鏡から可視マルチスペクトルカメラへ光を分け、核と噴出物を高解像度で撮像。
高分解能赤外分光
同じHRI望遠鏡の光を赤外分光器へ同時供給し、水、二酸化炭素、有機物などの分布を測定。
中分解能撮像装置
口径12 cm・広視野。彗星全体、噴出雲、航法用の核と背景星を撮像し、AutoNavにも使う。
衝突体ターゲティング・センサー
MRIと同型の12 cm望遠鏡からフィルターホイールを省き、自律誘導と衝突直前の近接撮像を担当。
06二機構成・信号系
観測母船と372 kgの衝突体は、分離前は一機、分離後は独立した航法機。衝突体の最終画像をS帯で母船へ退避し、母船の観測と合わせてX帯で地球へ送る。
全体構成
母船と衝突体にそれぞれ撮像系を持たせ、接近像を最後まで中継しながら母船を失わない分離構成にした。観測母船と自律誘導する銅主体の衝突体を分離する二機構成。終端で失われる部分と観測・通信を担う部分の役割を明確にし、衝突までの構造強度と分離後の視野を両立させた。回収機構を持たない代わりに、照準、時刻同期、連続送信へ質量と電力を集中し、最後の瞬間まで測定経路を切らさない構成にした。
姿勢・航法
衝突体のITS画像を機上処理して目標中心を更新し、母船は別の回避軌道から高分解能望遠鏡を向けた。母船の光学航法と衝突体の自律ターゲット追尾で彗星核へ誘導。地上測距と光学情報で接近軌道を更新し、最終修正後は小さな姿勢誤差も衝突点へ換算して管理した。衝突側と観測側が分かれる任務では、相対位置と時計をそろえ、片方の噴射や姿勢変更が他方の視野を失わせない手順を組んだ。
電力と熱
母船は太陽電池、短命の衝突体は一次電池とし、分離後24時間の確実性に資源を集中した。太陽電池パネルと蓄電池、衝突体は一次電池。運用時間が短く終端が明確なため、電池または母機電源を、誘導、送信、観測のピークへ集中した。長期の熱平衡より、打上げから衝突までの過渡温度と、装置を同時作動させる短時間の負荷を保証することが設計基準になった。
通信とデータ
衝突体から母船へのSバンドと母船から地球へのXバンドを分離し、最終画像を衝突直前まで退避した。Xバンド母船通信とSバンド衝突体リンク、DSN。データは機内へ残せないため、終端へ近づくほど優先度の高い測定から連続送信した。受信側が衝突時刻と最後の正常フレームを区別できるよう、時刻情報と機体状態を科学データへ添え、リンク消失そのものも衝突確認の一部にした。
故障を前提にした設計
銅主体の衝突体は計測時の元素混入を識別しやすくし、母船は防塵シールドと自律保護で噴出雲を横切った。衝突噴出物で母船視野が飽和する可能性を、複数露光と地上・宇宙望遠鏡の同時観測で補完。終端任務の冗長性は、衝突後の復旧ではなく、照準と送信が最後まで成立する独立経路に置かれた。修正機会を複数用意し、最終段階では不要な機能を止め、姿勢・時計・通信を守る。失敗時にも軌道と信号履歴から原因を限定できるよう、地上試験と記録形式を整えた。設計を部品表ではなく相互依存する系として読むと、観測母船と自律誘導する銅主体の衝突体を分離する二機構成という全体構成、母船の光学航法と衝突体の自律ターゲット追尾で彗星核へ誘導という航法、太陽電池パネルと蓄電池、衝突体は一次電池という電力条件が同じ任務判断へ収束していることが分かる。さらにXバンド母船通信とSバンド衝突体リンク、DSNという通信制約と、衝突噴出物で母船視野が飽和する可能性を、複数露光と地上・宇宙望遠鏡の同時観測で補完という故障への備えが、任務記録を取得し地上で検証可能な形に残すところまでを設計範囲に含めた。この結び付きこそがディープ・インパクト固有の工学的な輪郭である。
07写真・図版
実機と観測成果を、出典・ライセンスとともに確認する。


08関連文献
設計と成果を検証できる論文・公式技術資料。
- Deep Impact — official mission record
- Deep Impact — Master Catalog
- Beyond Earth: A Chronicle of Deep Space Exploration