// 着陸せずに触れ、カプセルだけを地球へ、本体は次の小惑星へ · 2016-055A
OSIRIS-REx
→ OSIRIS-APEX
ベンヌを測量・周回してNightingaleへTAGSAMだけを短時間接触させ、121.6 gを地球へ返した。試料カプセル分離後も母船は飛び続け、2025年の地球重力アシストを経て、未来のApophis会合へ向かう。
01基本情報
試料を持つSRCと、その後も飛ぶ母船を分けて読むと、帰還と延長任務の両方が見える。
| 打上げ | 2016-09-08 23:05 UTCAtlas V 411 / Cape Canaveral SLC-41 |
|---|---|
| 地球重力アシスト | 2017-09-22高度17,237 km / Bennuの軌道面へ |
| Bennu到着・初周回 | 2018-12-03 / 12-31Preliminary Survey後にOrbital A |
| TAG / 採取量 | 2020-10-20 / 121.6 g要求60 gを超えて回収 |
| SRC地球帰還 | 2023-09-24母船は地球へ着陸していない |
| 機体構成 | 三軸安定バス + TAGSAM + SRCTAGSAMアーム長3.35 m |
|---|---|
| 電力 | 太陽電池2翼・総面積8.5 m²太陽距離により1,226–3,000 W |
| 通信 | X帯 / 2 m高利得アンテナ / DSN測距・指令・科学データ |
| 現況 | OSIRIS-APEX Active Mission2025-09-23 地球重力アシスト実行済み |
| 未来 | Apophis会合 2029-06予定2029-04-13地球接近は将来イベント |
02ミッション
Bennuへ行って戻る一本線ではない。測量で地図を作り、周回で航法を学び、短時間接触で採り、地球前でSRCと母船が別の未来へ分かれた。
地球の重力でBennuの軌道面へ
2016年9月8日に出発したOSIRIS-RExは約一年太陽を回り、2017年9月22日に地球表面から17,237 kmを通過した。地球重力アシストは速度を得るだけでなく、探査機の太陽周回軌道面をBennuの傾いた軌道へ合わせる操作だった。2018年8月から接近撮像を始め、相対速度を段階的に落として12月3日に「Bennuへ向かう巡航」から「Bennu周辺の運用」へ移った。
到着と周回は同じ日ではない
到着直後のPreliminary Surveyでは、北極・赤道・南極を含む五回の双曲線的フライバイを約7 kmから行い、質量、スピン、形状を更新した。その情報を使い12月31日に8秒の噴射で初周回へ入った。Orbital Aは高度約1.6–2.1 km、周期約61.4時間で、恒星基準から地表ランドマーク基準の航法へ移る訓練だった。2019年には軌道をいったん離れてDetailed Surveyの多方向通過を重ね、画像、OLA地形、OVIRS・OTES組成から安全性・採取可能性・科学価値の地図を作った。Orbital B/C/Rなどの周回は、その地図と重力解をさらに精密化した。
Nightingaleでは母船を着陸させていない
予想された砂浜ではなく巨石だらけだったため、チームは直径約16 mのNightingaleへNatural Feature Trackingで自律誘導した。2020年10月20日、軌道離脱後に高度125 mのCheckpoint、高度54 m付近のMatchpointを経て約10 cm/sで接近。表面に触れたのは3.35 mアーム先端のTAGSAMヘッドだけで、接触約1秒後に窒素ガスを放出した。約6秒後に後退噴射を始め、約9秒後に機体の降下が上昇へ変わり、約16秒後にヘッドが表面から抜けた。静止・滞在する着陸ではなく、接触中から離脱を始めるTouch-And-Goである。
採った後は、漏れを見て手順を変えた
SamCam画像はTAGSAMヘッドが要求60 gを大きく超える粒子で満ち、一部が漏れていることを示した。チームは予定していた回転式の質量測定を省き、2020年10月28日にヘッドをSample Return Capsuleへ早期格納した。2021年4月7日にTAG地点の変化を最終撮像し、5月10日に主エンジンを7分噴射して約1,000 km/hでBennuから離脱。二回太陽を回る2年半の地球帰還航行へ入った。
地球へ帰ったのはカプセル、本体は次の航路へ
2023年9月24日、母船は地球表面から102,000 kmでSRCを分離した。カプセルは約4時間単独飛行し、44,500 km/hで高度133 kmの大気へ入り、パラシュートでユタ州へ着地した。分離20分後、母船は地球衝突を避けるdivert burnを行い、OSIRIS-APEXへ改名。2025年9月23日には地球から3,438 kmを通る重力アシストを実行し、2026年時点でApophisへ航行中である。
Apophisは未来の任務
Apophisの地球最接近は2029年4月13日、OSIRIS-APEXの会合はNASA現行ページで2029年6月予定であり、いずれもまだ実行されていない。計画では4月2日ごろから遠距離撮像し、地球接近時のスピン・表面変化を見届け、会合後約18か月を観測する。Bennuで使ったカメラ、分光器、レーザー高度計と母船を再利用するが、試料を収めたTAGSAMヘッドとSRCは地球にある。Apophisでは採取・帰還ではなく、母船の推進器を表面近くで噴射し、舞い上がる物質から浅い地下を調べる計画である。
- 2016-09-08地球出発Atlas V 411で太陽周回へ。
- 2017-09-22地球重力アシスト軌道面をBennuへ合わせる。
- 2018-12-03Bennu到着Preliminary Surveyを開始。
- 2018-12-31Orbital ABennu初周回へ。
- 2019詳細測量・地点選定多方向通過と複数周回で地図化。
- 2020-10-20Nightingale TAGTAGSAMだけが短時間接触。
- 2020-10-28SRCへ早期格納粒子漏れを見て手順変更。
- 2021-05-10Bennu離脱7分噴射で地球帰還へ。
- 2023-09-24SRC帰還 / 母船回避カプセルはUtahへ、本体はdivert。
- 2025-09-23APEX地球重力アシスト高度3,438 kmを通過済み。
- 2029-04-13Apophis地球接近(未来)地表から約32,000 kmの計画イベント。
- 2029-06Apophis会合(未来)約18か月の近接観測を予定。
03エピソード
数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を一次資料と結び直す。
50 mの砂浜を捨て、8 mの岩間へ画像で降りる
OSIRIS-REx到着前、teamはBennuに直径50 mの障害物のない採取域を想定し、LIDARで高度と速度を測って降下する計画だった。2018年12月の接近像が示したのは砂浜でなく建物級boulderに覆われた表面で、最大の比較的安全な場所も約16 m、Nightingaleの実採取域は約8 mしかなかった。そこでNASA Goddard・Lockheed Martin・University of Arizonaのteamは、625 mと250 mの偵察画像からcraterと岩のcatalog・hazard mapを作り、機上camera像と照合するNatural Feature Trackingを追加した。予測接触点が危険なら自律離脱するsoftwareに切り替えた結果、2020年10月20日に狭いNightingaleへ到達した。邪魔だった岩を位置標識へ変え、観測地図そのものを航法sensorにした判断だった。
五秒の接触で48.8 cm沈み、「地面」の弱さを測る
2020年10月20日、OSIRIS-RExは約4時間の降下後、125 mでCheckpoint burn、続くMatchpoint burnでBennuの自転へ速度を合わせ、二階建てほどのboulderをかすめてNightingaleへ触れた。TAGSAM headは約5秒接触して窒素gasを噴射したが、後解析では表面へ48.8 cmも沈み、back-away thrusterがなければさらに潜った可能性が示された。硬い小惑星面を軽く叩く想定に対し、粒子間のcohesionが極端に弱く、機体の小さな力でも大量の岩とdustが動いたのである。採取映像・加速度・最終flybyの前後像を組み合わせたため、試料を得る操作が同時にpenetration experimentとなり、rubble-pile asteroidの表層が固い殻ではないことを物理量で確かめた。
重さを測るspinを中止し、漏れる試料を先に封じる
TAG二日後の2020年10月22日、TAGSAM headを撮った画像に、採れ過ぎた大粒子がMylar flapを押し開け、姿勢を変えるたび試料がsalt shakerのように逃げる様子が写った。本来は採取前後の回転慣性差で質量を測る予定だったが、spin操作はさらに粒子を放出させる。teamは質量測定を捨て、11月初め予定のstowを前倒しし、10月24〜28日に二日間連続でarmをSample Return Capsuleへ収めた。地球から3億3,000万 km、片道18.5分超のため、各stepの画像とtelemetryを確認してから次のcommandを送った。量を知るという科学的満足より、既に得た物を失わないことを優先し、headを一回でcapture ringへ固定した判断が地球帰還試料を守った。
外れない二本のfastenerのため、汚さない工具から作る
sample capsuleは2023年9月24日にUtahへ帰還したが、Johnson Space CenterでTAGSAM headを開く終盤、二本のfastenerが既存toolで緩まなかった。力任せに外せばBennu試料へ地球物質を混ぜ、将来の有機物・水質分析を壊すため、curation teamは窒素glovebox内で使え、材質・清浄度を管理できる専用toolを新しく設計した。headを閉じたままでも外側とflap越しに70.3 gを回収して初期解析を進め、2024年1月に新toolで残部を開放、さらに51.2 gをtrayへ移した。2月15日に確定したbulk massは121.6 gで、最低要求60 gの二倍超。帰還を成功の終点にせず、汚染を避ける地上判断まで含めて初めて試料が科学dataになった。
04軌道
時間展開で同じBennuを再掲し、周回からTAG降下・上昇まで一方向に接続。地球前ではSRCと母船を二本の経路へ分ける。
図の根拠: NASA OSIRIS-REx In Depth(航路・到着・離脱)、University of Arizona Asteroid Operations(測量・周回段階)、NASA TAG record(約6秒後の後退噴射)、NASA FAQ(SRC分離・地球再突入)、NASA 2025 Earth assist result、NASA OSIRIS-APEX(2029年予定)。
- 012016–2017 · 地球出発と重力アシスト地球を通過してBennuの軌道面へ。
- 022018-12 · 到着、予備測量、初周回到着後五回の測量通過を行い、質量解を得てからOrbital Aへ。
- 032019–2020 · 詳細測量と複数周回通過と周回を組み合わせ、安全性・採取可能性・科学価値を地図化。
- 042020-10-20 · TAG母船中心線は表面へ入れず、TAGSAMだけを接触表示。降下・上昇は同じ進行方向で連続。
- 052021 · Bennu離脱最終撮像後、7分噴射で地球帰還航路へ。
- 062023-09-24 · 二つの経路へ分岐SRCは再突入・着地。母船は20分後にdivert burnを行い地球を回避。
- 072025-09-23 · APEX地球重力アシスト高度3,438 kmの通過は実行済み。2026年時点は巡航中。
- 082029 · Apophis(未来)4月13日の地球接近と6月会合は予定。破線で実績から分離。
05観測・採取・帰還系
地図を作る装置、接触して採る機構、地球へ密封して返す容器は、それぞれ別の仕事を担う。
PolyCam / MapCam / SamCam
遠距離捕捉、高解像度測量、色地図、TAGと格納を撮像。APEXでも主撮像系として再利用。
OSIRIS-REx Laser Altimeter
レーザー測距を走査してBennuの三次元地形を作成。Apophisの地形測量にも再利用予定。
Visible and Infrared Spectrometer
0.4–4.3 µmの反射スペクトルから水和鉱物・有機物・組成を地図化。
Thermal Emission Spectrometer
熱赤外スペクトルと表面温度から鉱物・熱慣性・粒径を調べる。
Regolith X-ray Imaging Spectrometer
太陽X線で励起される蛍光X線からBennu表面の元素分布を測る主ミッション機器。
Navigation / NFT / Stowage Cameras
光学航法、Natural Feature Tracking、SRC格納確認を担い、地上応答を待てない近接操作を支える。
Touch-and-Go Sample Acquisition Mechanism
3.35 mアーム先端から窒素を放出し粒子を捕集。採取ヘッドはSRCとともに地球へ帰還済み。
Sample Return Capsule
TAGSAMヘッドを密封し、母船から分離して単独再突入。熱防護とパラシュートでUtahへ届けた。
構成・機能: NASA In Depth、NASA Planetary Data System instrument records。APEXの一次資料が再利用を明記するのは撮像・分光・レーザー高度計であり、地球へ帰還したTAGSAMヘッドとSRCは再利用されない。
06設計
観測装置が採取地点を選び、航法カメラが降下を守り、TAGSAMが粒子をSRCへ渡す。帰還後は残った母船系がAPEXを支える。
図の根拠: University of Arizona Spacecraft(寸法・太陽電池・電力・搭載系)、NASA PDS spacecraft record(推進・2 m HGA・SRC)、NASA TAG operations(NFT・採取・通信)、NASA OSIRIS-APEX(母船再利用・推進器攪乱)、NASA close-Sun operations(fig-leaf姿勢)。
二枚の太陽電池翼が、採取姿勢と近太陽巡航の両方を支える
二枚の太陽電池翼は総面積8.5 m²で、太陽距離に応じ1,226–3,000 Wを発生する。電力制御・蓄電池から科学機器、ヒーター、通信、推進へ配る一方、TAG時には翼を持ち上げるY-wing姿勢で巨石との衝突余裕を作った。APEXでは本来の設計より太陽へ近い0.5 AU級の通過が加わるため、翼を傾けて機体や装置へ影を作るfig-leaf姿勢にも使う。同じ部品が発電面、衝突回避、熱防護という別の制約を解いている。
観測地図が、そのまま自律航法の基準になる
OCAMSは遠距離捕捉、全球・色地図、高解像度地形、TAG記録を分担し、OLAの三次元形状、OVIRS・OTES・REXISの組成・熱・元素情報と統合して採取候補地を評価した。巨石だらけのNightingaleへ降下する際はTAGCAMSのNavCam画像をNatural Feature Trackingが機上地図と照合する。予測位置がhazard mapの危険域へ入れば退避できるため、地球からの指令往復を待たずに安全判断を閉じられた。
TAGSAMは「着陸脚」ではなく試料をSRCへ渡す一回限りの鎖
3.35 mアームの先端ヘッドだけが表面へ触れ、窒素ガスで粒子を流動させ、フィルター内へ捕集する。母船は後退噴射で上昇し、SamCamがヘッドを撮像。大量採取による粒子漏れを確認すると、回転式質量測定よりSRCへの格納を優先した。ヘッドをSRC内部の固定機構へロックし、アームから切り離して密封したため、2023年の分離後に採取ヘッドと121.6 gの試料はカプセル側、バスと空のアーム側構造は母船側へ分かれた。
通信と推進は、帰還直前に二つの軌道を作る
2 m高利得アンテナのX帯リンクはDSNとの指令、テレメトリ、科学データ、測距を担う。地球帰還では追跡と光学画像からSRCの狭い再突入回廊を狙い、分離後はカプセルに推進・通信を持たせず弾道飛行させた。母船は20分後のdivert burnで大気を避け、同じ推進・航法・通信系をOSIRIS-APEXへ引き継いだ。この設計だから、地球へ届ける物と飛び続ける物を最後の接近で安全に分けられた。
APEXは「同じ機体、同じ任務」ではない
再利用されるのは母船バス、太陽電池、通信、推進、OCAMS、OLA、OVIRS、OTESなどの観測能力とBennuで得た近接航法経験である。TAGSAM採取ヘッドとSRCは地球へ帰還済みで、Apophisから試料を持ち帰る機能は残らない。NASAの計画は、Apophis地球接近後を撮像・分光・地形測定し、最終的に母船の推進器を表面近くで噴射して物質を舞い上げ、浅い地下を遠隔観測するものだ。REXISはBennu主ミッション機器として図に残すが、現在のAPEX一次資料が再利用を明記する撮像・分光・レーザー高度計の列とは分けた。
07写真・図版
実機と観測成果を、出典・ライセンスとともに確認する。


08一次資料
実行済み記録、機体仕様、未来計画を資料の発行時点ごとに分ける。
- OSIRIS-REx — Active Mission / completed sample return
- OSIRIS-REx In Depth — mission chronology
- Asteroid Operations — ten proximity phases
- OSIRIS-REx Spacecraft
- OSIRIS-REx FAQ — 121.6 g and Earth return
- OSIRIS-APEX — Active Mission / June 2029 rendezvous
- OSIRIS-APEX Earth gravity assist result