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// 一機で木星トロヤ群の化石標本を巡る · 2021-093A

ルーシー
Lucy

木星と同じ軌道を回るトロヤ群を初探査するNASA機。2023年ディンキネシュ、2025年ドナルドヨハンソンを通過し巡航中。

11
訪問予定の小惑星
12
計画期間(年)
7.3
太陽電池翼直径(m級)
運用中🇺🇸 NASA / SwRI / GSFC小惑星多重フライバイ

01基本情報

運用史と機体仕様を、ミッションの読み解きに必要な単位で整理する。

打上げ2021-10-16UTC基準の公式記録
識別符号2021-093ACOSPAR国際識別符号
打上げ機Atlas V 401上段を含むミッション表記
射場Cape Canaveral SLC-41発射施設
運用主体NASA / SwRI / GSFCアメリカ合衆国
主対象小惑星ディンキネシュ、ドナルドヨハンソン、木星トロヤ群小惑星多重フライバイ
機体構成2枚の大型円形太陽電池翼、高利得アンテナ、指向プラットフォームを持つフライバイ機観測と飛行を統合した構成
電力・熱直径約7 m級の円形太陽電池翼2枚と蓄電池環境条件に合わせた供給方式
通信Xバンド高利得アンテナとDSN地球とのデータリンク
最終状態2026年時点で健康、2027年最初のトロヤ群遭遇へ巡航運用継続

02ミッション

組成も形も異なる多数の小天体を同じ装置で測り、初期太陽系の材料がどこで作られ移動したかを比較する。

なぜこの旅が必要だったか

トロヤ群の色・組成・密度・衛星を同じ観測条件で比較し、巨大惑星移動モデルを小天体の実物で検証する任務だった。ルーシーは、巡航中に機体を保ち、短い接近時間へ観測を集中する任務として設計された。目標を通過した後に同じ幾何をやり直せないため、軌道、姿勢、装置視野、記録容量、地上局を遭遇時刻から逆算した。到達の記録だけでなく、接近前後を連続した時系列として返すことが科学成果の条件だった。

計画を変えた難所

片側太陽電池翼が展開時にラッチせず、チームは巻取りモーターを反復駆動。完全固定ではないが十分な張力と発電を確保した。ルーシーの転機では、航法誤差、装置異常、予想外の粒子環境などを限られた残り時間で評価し、照準、機体保護、観測、送信の優先順位を決めた。通信往復に時間がかかる局面では、地上がすべてを逐次指示できないため、事前シーケンスと故障時分岐が一度きりの遭遇を守った。

観測が書き換えた像

ディンキネシュで接触二重衛星セラムとその二葉形状を発見し、2025年のドナルドヨハンソンでは細長い二葉形天体を接近撮像した。フライバイで得る画像、分光、粒子、磁場、電波掩蔽などの種類は対象と搭載装置によって異なる。ルーシーでは、距離と位相角が急速に変わる中で取得時刻をそろえ、接近前の全球像、最接近付近の高分解能記録、離脱後の環境測定を結ぶことで、短い通過を立体的な資料に変えた。

運用というもう一つの探査

各遭遇は数時間の自律列で進み、地球重力アシストごとに軌道誤差と将来7標的の幾何を同時調整する。ルーシーの巡航では、観測のない期間にも軌道修正、姿勢維持、熱・電力管理、定期点検を続け、必要なら休眠で消耗を抑えた。現在も公式に確認できる範囲で、残存電力と通信能力に合わせて巡航・観測計画を更新している。

残された設計思想

2026年公開のNASA可視化はドナルドヨハンソン詳細像を示し、機体は2027年Eurybatesからトロヤ群本番へ入る。ルーシーが後続へ渡したのは、一度きりの通過で最大の情報を得るための時間設計である。装置を同時に動かす順序、機体を守る姿勢、記録と即時送信の配分、遭遇後に再生するデータの優先度までが遺産になった。異なる時代の探査機データも、時刻・距離・視線が残っているため同じ対象の変化として比較できる。この経緯を通して見ると、ルーシーの評価軸は最終到達点だけではない。2021-10-17の「翼展開異常」と2027-08の「トロヤ群開始予定」を結ぶことで、途中の判断が成功条件、失敗条件、取得できた記録の範囲をどう変えたかを追える。最終状態が「2026年時点で健康、2027年最初のトロヤ群遭遇へ巡航」であっても、保存された任務記録は後続計画の要求値、試験項目、異常時手順を具体化する一次資料として働き続ける。フライバイの資料は、最接近画像だけで完結しない。接近前後の距離、視線、装置切替、機体姿勢を連続して残すことで、短い遭遇を対象の大きさ、表面、周辺環境の一貫したモデルへ変えられる。再訪できない幾何で何を優先し、何を送信し切れなかったかも、後続の遭遇計画を現実的にする重要な記録である。

  1. 2021-10-16
    打上げ
    アトラスVで地球近傍軌道へ。
  2. 2021-10-17
    翼展開異常
    片側太陽電池翼の未ラッチを確認。
  3. 2022-10-16
    第1地球アシスト
    主帯小惑星方向へ速度変更。
  4. 2023-11-01
    ディンキネシュ
    初フライバイで接触二重衛星を発見。
  5. 2025-04-20
    ドナルドヨハンソン
    主帯小惑星を接近観測。
  6. 2027-08
    トロヤ群開始予定
    Eurybatesと衛星Quetaを訪問予定。

03エピソード

数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を一次資料と結び直す。

345°で止まった翼を、使うはずのなかった二つのmotorで引く

2021年10月16日の打上げ後、Lucyの二枚の直径7 m級solar arrayの片方が完全展開・latchせず、約345°で止まった。発電は予定の90%以上あったが、固定されない翼でmain-engine burnを行えば振動損傷のriskがある。NASA、SwRI、Goddard、Lockheed Martin、Northrop Grummanはtelemetryからlanyardがspoolで弛んだと推定し、単独使用を想定した主・予備motorを同時駆動する手順を地上modelで検証した。2022年5月6日〜6月16日の短時間駆動で353〜357°まで開き張力を増加。完全latchより安定した現状を選び、2023年1月19日に追加展開を止めて巡航を継続した。

430 kmを4.5 km/sで横切る追尾試験が、二葉の月Selamを見つける

2023年11月1日、Lucyは直径1 km未満のDinkineshを約430 kmまで接近し、4.5 km/sで通過した。主目標のTrojanより10〜100倍小さく、接近数分前までcamera上で十分な大きさにならないため、地上commandだけでは視野中央を保てない。運用班は一時間前からT2Camのterminal trackingで標的位置を反復測定し、機体とinstrument platformを自律回転させる初の実飛行試験にした。追尾は成功し、後送された六分後の画像でDinkineshの月が二つの約220 m lobesを接触させたSelamだと判明。航法rehearsalが、別の小惑星を回る初のcontact-binary衛星という予想外の発見を生んだ。

2025年4月20日のdress rehearsalが、二軸で揺れるpeanutをほどく

2025年4月20日、LucyはDonaldjohansonを約1,000 kmで通過し、30,000 mph級の相対速度で三装置をTrojan遭遇とほぼ同じsequenceに入れた。接近前の光度変化から細長い形は予想されたが、点像では単純回転か複雑なtumblingか決められない。39日間の光学航法と近接画像・赤外分光を組み合わせ、NASAが2026年6月18日に公表した解析では、約8 kmの二葉peanut形、二軸回転、鉄に富むclayを確認した。155 million年前の衝突破片が再集合し、太陽熱放射のYORP torqueで回転を変えた履歴まで読み、2027年Trojan本番前のrehearsalを独立した小天体科学へ変えた。

04軌道

地球重力アシストを反復し、主帯小惑星を経て木星L4・L5トロヤ群を長いループで訪問。

ルーシー / 軌道・航路概念図 太陽 出発点 小惑星 距離・天体サイズは経路理解のため模式化
  1. 01地球脱出木星トロヤ群へ向かう長周期軌道へ出発。
  2. 02地球重力アシスト複数回の地球通過で遠日点と軌道面を段階的に変更。
  3. 03主帯小惑星フライバイディンキネシュなどで自律追尾と観測列を実証。
  4. 04トロヤ群連続フライバイ木星前方・後方群の複数天体を一つの航路で訪問。
主航路・運用軌道探査機マーカー概念図。正確な軌道要素は基本情報と出典を参照。

05搭載機器

観測目的を、実際に信号へ変えた機器群。

L’LORRI

Lucy Long Range Reconnaissance Imager

高分解能白黒撮像と光学航法。

L’Ralph

Multispectral Visible Camera and Infrared Spectrometer

色・鉱物・有機物・氷を分光。

L’TES

Thermal Emission Spectrometer

表面温度と熱慣性を測定。

T2CAM

Terminal Tracking Cameras

遭遇時の標的追尾と広角形状記録。

06設計 — 円形太陽電池翼と観測プラットフォーム

小さな探査機本体を直径7.3 mの円形翼2枚が挟み、木星距離の弱い日射から電力を得る。望遠・分光・熱観測器は同じ指向台に集められた。

ルーシーの機体外形と搭載位置左右に展開した2枚の円形太陽電池翼、中央の探査機本体、2メートル高利得アンテナ、機体下側の観測機器指向プラットフォームを示す。 LUCY / DEPLOYED PHYSICAL LAYOUT全幅 15.82 m 円形翼 直径7.3 m × 2 円形太陽電池翼木星距離でも約504 Wを供給円形太陽電池翼収納時は扇状に折り畳む 2 m 高利得アンテナX帯で深宇宙通信 観測機器指向台 IPPL’LORRI L’Ralph L’TEST2CAMも同じ台から標的を追う 翼が電力を稼ぎ、IPPが観測方向をそろえる小天体フライバイを短時間で撮像・分光・測温

翼の大きさそのものが、遠距離太陽電力の答え

ルーシーは本体よりはるかに大きい2枚の円形翼を広げる。扇のように収納できる構造で打上げ容積を抑えながら、木星トロヤ群まで届く受光面積を確保した。観測器は機体に散らさずIPPへ集約され、接近時間の短いフライバイで同じ標的を望遠撮像・可視赤外分光・熱測定へ渡す配置になっている。

08関連文献

設計と成果を検証できる論文・公式技術資料。