// 地球資源観測 · 1984-021A
ランドサット5号
Landsat 5
設計3年を大幅に超えて29年間撮像し、都市化・森林・氷河を同じTMセンサーで追った長寿命衛星。
01基本情報
打ち上げ、機体、軌道、運用の主要諸元。数値だけでなく任務上の役割を併記する。
| 開発・運用 | 米国 NASA |
|---|---|
| 打ち上げ | 1984年03月01日 Vandenberg |
| ロケット | Delta 3920 |
| 国際標識 | 1984-021A |
| 状態 | 運用終了 |
| 質量 | 約1,938 kg |
|---|---|
| 軌道・航路 | 高度約705 km太陽同期 |
| 電源 | 太陽電池 |
| 設計形式 | earth-observer |
| 主要目標 | 陸域の長期マルチスペクトル記録 |
02ミッション
陸域の長期マルチスペクトル記録を、要求・機体・軌道・運用判断・遺産の五層から読む。
何を変えるための飛行だったか
Landsat記録を連続させ、可視から熱赤外までの陸域変化を同じ画素尺度で測ることが目的だった。 Landsat 5を理解する出発点は、打ち上げ年や機体サイズではなく、当時まだ測れなかった量、成立していなかった運用、あるいは越えられていなかった距離を特定することにある。中心課題は「陸域の長期マルチスペクトル記録」。その要求は観測装置だけで完結せず、軌道、電力、通信、熱、地上系を同時に縛った。
代表値の29 年(運用期間)、7 band(TM)、30 m(主要分解能)は、単なる記録ではない。どの局面へ設計余裕を配分したかを示す手掛かりである。設計3年を大幅に超えて29年間撮像し、都市化・森林・氷河を同じTMセンサーで追った長寿命衛星。 本ページでは成果だけでなく、その成果を可能にした判断の連鎖まで追う。
要求を機体へ落とし込む
MSSと7波長Thematic Mapper、TDRSS通信、姿勢基準をMultimission Modular Spacecraftへ統合した。 機体は約1,938 kg、電源は太陽電池。主要構成のTM(Thematic Mapper)、MSS(マルチスペクトルスキャナ)、TDRSS(中継通信系)は独立した部品ではなく、観測または運用の要求をデータへ変え、保存し、地上へ渡す一本の経路を作る。TAPE(広帯域記録器)はその途中で姿勢・環境・相対位置の条件を整える。
さらにACS(三軸姿勢系)とPROP(推進系)を組み合わせることで、一つの故障がただちに全任務へ波及しないよう機能を分担した。重量や消費電力を増やせば安全になるとは限らず、打上げ能力、放熱面積、指向精度、通信時間との交換になる。Landsat 5の設計は、限られた資源を任務の決定的瞬間へ集中させた結果として読むべきである。
軌道は移動経路ではなく実験装置
16日回帰で世界の観測要求を割当て、地上局直接受信と記録再生を組み合わせた。 地球周回では高度だけでなく、軌道傾斜角、昇交点の向き、地方時、地上局可視時間が観測と通信を決める。投入後は姿勢確立、太陽電池展開、初期捕捉、軌道補正を順に行い、定常運用の地上軌跡へ収束させる。図では地球自転と衛星公転を別周期で動かし、同じ地点の上に静止しているように見えない実際の関係を表した。
打上げにはDelta 3920を使い、Vandenbergから高度約705 km太陽同期へ入った。1984の「観測開始」から2013の「運用終了」まで、軌道変更は観測の前準備ではなくミッションそのものだった。下のアニメーションでは、主要天体の運動、遷移航路、目的地近傍の運用を意図的に別速度で示している。
運用現場で何を判断したか
推進剤・ジャイロ・送信機の劣化に対し、冗長系切替と軌道維持の縮小で寿命を延ばした。 実際の運用では、取得したテレメトリを正常・異常の二値に分けるだけでは足りない。姿勢誤差、電池残量、温度、通信余裕、推進剤、次の可視時間を並べ、今すぐ続行する価値と安全側へ戻る価値を比較する。自動シーケンスは通信遅延を埋める一方、誤った前提のまま進む危険も持つため、停止条件と地上復帰点が設計された。
世界の土地被覆変化を蓄積。 この一局面を成立させたのは、個別装置の性能より、時刻基準と状態遷移を全系で共有したことだった。観測機なら較正と指向、通信衛星なら回線と姿勢、有人機なら生命維持と退避経路、探査機なら自律航法とセーフモードが判断軸になる。Landsat 5の運用史は、設計図では見えない余裕の使い方を記録している。
残ったデータと設計遺産
ギネス級の長寿命地球観測として数百万画像を残し、気候・土地利用の長期基線となった。 成果は発表時の新規性だけでなく、後年の再解析、後継機との比較、規格や訓練の変更に耐えるかで価値が決まる。Landsat 5が残したものは、観測値、運用ログ、軌道決定値、故障時の判断、製作試験の記録を結び付けた参照系である。
後継計画は同じ機体を再現するのではなく、TM(Thematic Mapper)で得た能力を更新し、ACS(三軸姿勢系)で見えた制約を別の技術で解く。成功した任務も、終了・失敗した任務も、どの前提が正しくどの余裕が不足したかを具体化した点で次の設計に効く。一次資料とアーカイブを併記したのは、物語だけでなく検証可能な記録へ戻れるようにするためである。
USGS — Landsat 5、NASA Technical Reports Server、NASA Earthdata Searchを突き合わせると、1984年03月01日の打上げから2013の「運用終了」までが、単なる出来事の列ではなく、要求、実装、軌道上判断、成果公開の因果関係として読める。本文では確定した事実と後年の評価を混同せず、数値には対象と条件を添えた。図も同じ原則で、距離や天体寸法を実寸比例にはせず、陸域の長期マルチスペクトル記録に必要だった遷移、会合、観測区間の順序を優先している。したがってLandsat 5の価値は「飛んだか」だけではなく、どの設計仮説が実運用で支持され、どの不確かさが次の計画へ持ち越されたかまで追跡して初めて見えてくる。
- 開発期要求と方式の確定Landsat記録を連続させ、可視から熱赤外までの陸域変化を同じ画素尺度で測ることが目的だった。
- 1984-03-01打上げDelta 3920で高度約705 km太陽同期へ投入。
- 1984-03-01初期機能確認Thematic Mapperとマルチスペクトルスキャナを立ち上げ、電力・熱・通信・姿勢の基準状態を確立。
- 1984観測開始TM/MSSで陸域記録を継続。
- 1990年代長期基線世界の土地被覆変化を蓄積。
- 2013運用終了29年の観測後に退役。
- 飛行後成果の継承ギネス級の長寿命地球観測として数百万画像を残し、気候・土地利用の長期基線となった。
03エピソード
数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を一次資料と結び直す。
回らない太陽電池の代わりに、衛星全体を一周ごとに踊らせる
Landsat 5では2005年1月に主solar-array drive、同年11月に予備driveも故障し、翼を太陽へ回せなくなった。固定翼のまま地表を向き続ければ、日照中にもbatteryを十分充電できず、三年設計を越えた任務は終わる。USGSとNASAの運用班は発想を逆転し、夜から日照へ出る直前に機体全体をpitchして翼を太陽へ向け、撮像時だけ地球指向へ戻し、再び日陰前に太陽指向するsequenceを作った。2006年1月30日に撮像を再開し、動かない一部を機体姿勢で補う日々の「dance」が、その後七年以上の画像取得を支えた。
1995年に眠らせたMSSを17年後に起こし、最後の送信路へつなぐ
2011年11月、Thematic Mapper dataを送る電子部品が故障寸前となり、USGSは撮像を止めた。代替回路も回復せず、TMを動かしても地上へ画像を渡せない。そこで運用班は、近赤外band故障で1995年8月から停止していた旧式MSSと、そのために残っていた別の通信linkへ目を向けた。2012年、17年間通電していないMSSを再起動すると動作し、米国内のdata取得を再開できた。高性能な主装置に固執せず、低性能でも送れる経路へ任務を縮退した判断が、Landsat 8就役前の記録断絶をもう一年抑えた。
最後のgyroを賭けず、燃料を使い切って705 kmの席を空ける
2012年11月、Landsat 5の姿勢保持用gyro一基が故障した。残るgyroで撮像は続けられても予備がなく、次の一故障なら制御不能のまま価値の高い705 km観測軌道へ残る。USGSは29年目の継続より安全な終端を選び、2013年1月6日の最終画像後、1月15日と23日の燃焼で約22.9 km低い処分軌道へ移した。6月5日には使用可能な燃料を使い切り、可動部、発電・蓄電、送信機を順に停止。150,000周超・250万画像を増やす余地より、Landsat 8と他衛星が使う軌道を非操縦物体から守る帰結を優先した。
04軌道・遷移
地球周回では高度だけでなく、軌道傾斜角、昇交点の向き、地方時、地上局可視時間が観測と通信を決める。投入後は姿勢確立、太陽電池展開、初期捕捉、軌道補正を順に行い、定常運用の地上軌跡へ収束させる。図では地球自転と衛星公転を別周期で動かし、同じ地点の上に静止しているように見えない実際の関係を表した。
- 01要求と方式の確定開発期 · Landsat記録を連続させ、可視から熱赤外までの陸域変化を同じ画素尺度で測ることが目的だった。
- 02打上げ1984-03-01 · Delta 3920で高度約705 km太陽同期へ投入。
- 03初期機能確認1984-03-01 · Thematic Mapperとマルチスペクトルスキャナを立ち上げ、電力・熱・通信・姿勢の基準状態を確立。
- 04観測開始1984 · TM/MSSで陸域記録を継続。
- 05長期基線1990年代 · 世界の土地被覆変化を蓄積。
- 06運用終了2013 · 29年の観測後に退役。
- 07成果の継承飛行後 · ギネス級の長寿命地球観測として数百万画像を残し、気候・土地利用の長期基線となった。
05主要機器・サブシステム
任務を実際に成立させた六つ以上の固有コンポーネント。
Thematic Mapper
7波長で30 m陸域観測。他系統の時刻・姿勢・電力情報と結合して運用される。
マルチスペクトルスキャナ
旧系列との連続性を維持。他系統の時刻・姿勢・電力情報と結合して運用される。
中継通信系
地上局外データを送信。他系統の時刻・姿勢・電力情報と結合して運用される。
広帯域記録器
世界撮像データを蓄積。他系統の時刻・姿勢・電力情報と結合して運用される。
三軸姿勢系
走査幾何を安定化。他系統の時刻・姿勢・電力情報と結合して運用される。
推進系
16日回帰軌道を維持。他系統の時刻・姿勢・電力情報と結合して運用される。
06機体設計とThematic Mapper
Landsat 5は、単翼の可動太陽電池アレイと、2関節・4 mブーム上の高利得アンテナを持つMMS機体。直下を向くTMとMSSを同居させ、観測とTDRSS中継を分離して指向した。
TMが七つの窓で地表を見る
Thematic Mapperは可視・近赤外・短波赤外・熱赤外の7帯域を走査した。反射域は30 m級、熱赤外は120 m級で、水・植生・地質・表面温度を同じ場面から分ける。
旧型MSSを並行搭載
4帯域MSSも天底面に残し、Landsat 1–3との観測継続性を確保した。2011年にTM送信系が不調となった後、MSSは2012年に再び観測へ使われた。
観測と通信を別々に指向
太陽電池は一軸で太陽を追い、4 mブーム上の高利得アンテナは二つの関節でTDRSSを追う。機体は反応輪によるゼロモーメンタム三軸安定で地球指向を保った。
07写真・図版
出典とライセンスを画像ごとに記載。機体・運用・成果を異なる視点から確認する。


08一次資料・技術文献
仕様、軌道、運用史、データへ戻るための代表的な入口。