// Exoplanet space telescope · NASA Ames / JPL · 2009-011A
ケプラー
KEPLER / K2
ケプラーは一つの星野を4年間見つめ、恒星の光が惑星でわずかに欠ける瞬間を積み重ねた。姿勢制御を失っても、太陽光圧を「第三の車輪」に変えてK2として復活し、燃料が尽きるまで空を測り続けた。
01基本情報
地球の昼夜から離れた太陽周回軌道、動かない測光器、精密姿勢制御を一つの観測系として組んだDiscovery計画の宇宙望遠鏡。
| 開発・運用 | NASA Ames / JPL / Ball Aerospace / LASP |
|---|---|
| 打上げ | 2009年3月6日 Delta II, Cape Canaveral |
| 状態 | 退役 2018年10月30日にNASAが退役を発表 |
| 打上げ質量 | 1,039 kg |
| 主目的 | 地球サイズ惑星の頻度を統計的に測る |
| 種類 | 宇宙望遠鏡 / 高精度測光機 |
|---|---|
| 軌道 | 地球追尾太陽周回軌道 周期 約372.5日 |
| 測光器 | 0.95 m開口Schmidt望遠鏡 42 CCD / 約95 MP |
| 主視野 | 約115平方度 はくちょう座・こと座方向 |
| 観測方式 | トランジット測光 恒星光の周期的減光を検出 |
| 国際標識番号 | 2009-011A |
02ミッション
2009年の一点注視、2013年の制御喪失、2014年のK2再起動、2018年の静かな退役。ケプラーは故障を境に、同じ機体で二つの観測戦略を完遂した。
狭く深く、同じ星を見続ける
ケプラーの観測対象は全天ではなく、はくちょう座・こと座方向の一つの広い視野だった。同じ恒星を長期間測ることで、年単位の周期を持つ惑星が何度も通過するのを待つ。惑星の存在を直接撮るのではなく、恒星光の落ち込みを何十万本もの光度曲線から探し、惑星の半径と周期の統計を作ることが目的だった。
地球サイズ惑星の頻度を測る
ケプラー以前にも系外惑星は見つかっていたが、巨大惑星や短周期惑星に偏っていた。ケプラーは、太陽のような恒星のハビタブルゾーンに地球サイズの惑星がどれだけあるのか、という数量的な問いへ踏み込んだ。個別の発見だけでなく、銀河に惑星がどれほどありふれているかを推定する統計観測である。
高精度測光のための宇宙機
広視野望遠鏡、42枚のCCD、熱安定化、精密姿勢制御、地球から離れた太陽周回軌道は、すべて微小な減光を安定して測るために選ばれた。地球周回の昼夜や放射線帯を避け、同じ星野を連続的に見る軌道は、機体設計と同じくらい重要な観測装置だった。
二つの車輪と太陽で、K2へ
4基あったリアクションホイールは2012年7月と2013年5月に1基ずつ失われ、三軸の精密指向ができなくなった。そこで機体の左右へ当たる太陽光圧が釣り合うよう黄道面沿いを向け、残る2基のホイールでピッチとヨー、ヒドラジンスラスターでロールを約12時間ごとに補正した。K2は一つの視野を年単位で見る代わりに、最大約83日のキャンペーンで黄道沿いの領域を次々観測した。
TESSとJWSTへつながる遺産
ケプラーは、惑星が珍しい例外ではなく、銀河に普遍的に存在することを示した。TESSは近く明るい星へ対象を移し、JWSTはその一部の大気を詳しく調べる。ケプラーの最大の成果は、次に調べるべき惑星集団を、偶然ではなく統計で示したことにある。
- 2001Discovery計画に選定地球サイズ惑星の頻度を測る宇宙測光ミッションとして採択。
- 2009-03-06打上げDelta IIで打上げ、地球を追いかける太陽周回軌道へ。
- 2009-05科学観測開始約15万個の恒星を連続測光し、トランジット探索を始める。
- 2010-01初期惑星発見Kepler-4bから8bなど、初期成果を公表。
- 2011Kepler-11発表低密度小型惑星が密集する多惑星系を示し、太陽系と違う惑星系像を広げた。
- 2012-07 / 2013-05ホイールを2基喪失精密指向に必要な3基を下回り、はくちょう座の連続観測が終わる。
- 2014-05-30K2観測開始太陽光圧との釣り合いを使い、黄道沿いをキャンペーンごとに測光。
- 2018-10-30推進剤枯渇・退役発表地球から離れた安全な太陽周回軌道で科学運用を終える。
- 2018-11-15最後の「goodnight」送信機と自動再起動機能を停止。機体は太陽を回り続ける。
03エピソード
数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を、出来事を直接確認できる資料と結び直す。
40 µmだけ鏡を動かし、最初の六週で五惑星を拾う
2009年3月6日の打上げ後、Keplerのcommissioning画像は焦点に微調整の余地を示した。Transitの明るさ低下は小さく、星像が広がれば隣の星と混ざるため、NASAの運用班は4月23日に主鏡を焦点面へ40 µm動かし、0.0072°傾けた。このためpixelへ光を集めた状態で5月13日に観測を開始し、最初の六週間だけでKepler-4bから8bまで五つを検出。その結果、地上で直せない望遠鏡を機上機構の微小移動で較正し、約10万個の恒星を同時測光する基準を作った。
壊れた二輪を、太陽光の「第三の輪」で支える
Keplerは2012年7月と2013年5月にreaction wheelを一基ずつ失い、精密指向に必要な三基を満たせなくなった。望遠鏡自体は健全だったため、JPLとNASAは太陽圧が左右で釣り合う黄道面へ視野を置き、残る二輪で二軸、thrusterでroll軸を支えるK2を設計。このため約12時間ごとにdriftを補正し、48時間ごとにmomentumを抜く運用で最長約85日の安定観測を実現した。故障を単なる寿命終了にせず、外乱だった光圧を姿勢支持へ変え、2014年5月から新しい空域を観測できた。
最後の燃料を観測に使い、地球から離れた軌道で眠る
2018年、Keplerは推進剤残量を直接測れず、tank圧とthruster性能の低下から終点を推定しながら観測とdownlinkを続けた。science dataを抱えたまま燃料が尽きれば成果も失うため、NASAは低燃料警告後もcampaignごとに姿勢を地球へ向けて記録を先に送信。10月30日、約9年で燃料切れを公表し、地球へ危険を及ぼさない太陽周回軌道で退役させた。その結果、最後の観測まで回収し、二輪故障後のK2を含む2,600個超の系外惑星発見をarchiveへ残した。
04軌道と姿勢の物語
ケプラーは地球へ戻らず、約372.5日で太陽を回りながら少しずつ地球の後方へ離れた。K2でも軌道は同じまま、変わったのは望遠鏡を支える姿勢制御だった。
05搭載機器
科学機器は一つだけ。望遠鏡・焦点面・読み出し回路を「星の明るさを測る一台のフォトメータ」として最適化した。
0.95 m開口フォトメータ
1.4 m主鏡を持つSchmidt光学系。約430–890 nmの広帯域で約115平方度を一度に受ける。
95メガピクセル焦点面
21モジュール・42枚の科学CCDを並べ、多数の恒星の画素を同時に積算した。
科学焦点面の姿勢センサー
焦点面外周の4枚のCCDがガイド星を追い、測光中の精密指向情報を姿勢制御へ返す。
約2か月分の科学記録
選んだ恒星の画素を機上で積算・圧縮して保存し、約1か月ごとの地球指向で下ろした。
06内部設計・信号経路
光、画素、記録、通信を直列につなぎ、姿勢情報と電力が横から支える。可動部をほぼ持たない構成が、微小な減光を年単位で比べる安定性を生んだ。
ケプラーは惑星を直接撮る望遠鏡ではなく、恒星の明るさを極めて安定して測る測光機である。0.95 m級の広視野望遠鏡、42枚のCCD、熱制御、精密姿勢制御、大容量データ処理が、トランジットの数十ppm級の信号を拾うために結びついている。
広視野とぼかした星像
ケプラーの焦点面は約95メガピクセル級で、多数の恒星を同時に測るために作られた。星像を点として鋭く撮るより、安定した測光が重要で、光を複数ピクセルへ分散させて飽和やピクセル感度差の影響を抑える。画像の美しさより、光度曲線の精度を優先した設計である。
姿勢制御と熱安定性
同じ星を何年も見るには、指向方向と焦点面温度が揺れてはいけない。リアクションホイール、細かなスラスター運用、太陽電池パネルの季節ごとの向き、地球追随軌道は、すべて測光の安定性を守る仕組みだった。ホイール故障後のK2では、太陽光圧のトルクを逆に利用して残りの制御能力を延命した。
宇宙機と地上解析の一体設計
ケプラーは全画面を常時そのまま下ろすのではなく、選ばれた星のピクセルを積分・圧縮して地上へ送る。偽陽性を除くには、食連星、星斑、背景星混入を解析し、地上観測で補う必要があった。衛星本体だけでなく、データパイプラインと候補検証がミッションの重要な「搭載機器」だった。
太陽周回軌道と四半期ロール
ケプラーは地球を追いかける太陽周回軌道に置かれ、地球の昼夜や放射線帯を避けて同じ星野を長く見た。太陽電池パネルの向きと熱環境を保つため、約3か月ごとに機体を90度ロールし、焦点面上の星の位置を変えながら観測を続けた。星像が検出器の別領域へ移るため、測光の較正は宇宙機運用と一体で設計されている。
故障後に残った制御資源
リアクションホイール4基のうち2基が使えなくなると、当初の一点注視は成立しなくなった。それでも機体形状、太陽電池面、スラスター、残ったホイールを組み合わせ、太陽光圧を外乱ではなく支えとして使うK2運用が組まれた。これは予備ミッションとして最初から完成していた機能ではないが、単純で安定した宇宙機構成が故障後の再設計余地を残した例である。
通信量を測光へ配分する
ケプラーは美しい全天画像を送り続ける衛星ではなく、選ばれた星の画素時系列を確実に届ける衛星だった。限られた通信量の中で、どの星を、どの画素範囲で、どの時間間隔で保存するかが科学収量を決める。機体設計、観測計画、地上処理の境目が薄いところに、ケプラーらしさがある。
07写真・図版
機体、焦点面、視野の考え方を実画像と図版で確認する。


08関連文献
- Kepler Mission Design, Realized Photometric Performance, and Early Science
- Kepler Planet-Detection Mission: Introduction and First Results
- Initial Characteristics of Kepler Long Cadence Data for Detecting Transiting Planets
- A closely packed system of low-mass, low-density planets transiting Kepler-11