SATELLITE ARCHIVE

// Exoplanet survey telescope · NASA / MIT · 2018

TESS
TRANSITING EXOPLANET SURVEY SATELLITE

TESSは、月の重力を借りて13.7日周期の高楕円軌道へ入り、4台のカメラで空を約27日ずつ測る。Keplerが惑星の普遍性を示した後、TESSは「詳しく調べられる、近く明るい星の惑星」を全天から探している。

13.7日
月P/2共鳴軌道
24×96°
一度に見る空
192 MP
16枚のCCD
拡張運用中🇺🇸 NASA・MIT系外惑星探査

01基本情報

打上げ、月フライバイ、測光、データ下送までを一つの周期へ組んだ、NASA Explorer計画の全天時系列望遠鏡。

開発・運用NASA / MIT NASA Explorer Program
打上げ2018年4月18日 Falcon 9、Cape Canaveral
状態科学観測中 NASA Cycle 8 / 2026
観測方法トランジット法 星の減光を時系列で検出
軌道月P/2共鳴高楕円軌道 名目17–59地球半径 / 平均約13.7日
機器4台の広視野カメラ 各10 cm・f/1.4・24°角
検出器16 CCD / 192 MP 約600–1000 nm
観測単位1セクター 約27.4日 宇宙機2周分

02ミッション

地球を回る2周で一つの空を測り、次の約27度幅へ向き直る。南天、北天、黄道面、再訪領域を重ね、全天を一枚絵ではなく時間の地図にしていく。

広く浅く、明るい星を狙う

TESSの主役は、近く明るい恒星の時系列データである。4台の広視野カメラで24度×96度の短冊状の空を見張り、各セクターを約27日間観測する。トランジット法では、惑星そのものではなく、恒星光が周期的にわずかに暗くなる形を読む。明るい星で見つけるほど、地上分光やJWSTで質量・大気を調べやすくなる。

Keplerの次の問いへ進む

Keplerは、銀河に惑星がありふれていることを統計的に示した。しかしKeplerの多くの標的は遠く暗く、発見後の詳細観測が難しかった。TESSは全天の約85%を掃き、近傍星の惑星候補リストを作ることで、発見を「調べられる惑星」へつなげる。ミッション設計はカタログ数だけでなく、追跡観測のしやすさを重視している。

月共鳴軌道が測光を支える

TESSは平均約13.7日周期の高楕円軌道を使い、宇宙機が2周する間に月が1周するP/2共鳴を保つ。名目近地点17地球半径、遠地点59地球半径は放射線帯の大部分より外側で、CCDを約−75℃に保ちやすい。軌道維持噴射を必要としない長期安定性と、地球近くでの高速データ下送を両立する。

惑星以外の時間変化も拾う

TESSの光度曲線には、惑星だけでなく、食連星、脈動星、超新星、小惑星、活動銀河核も現れる。広視野で同じ空を何週間も測るため、時間領域天文学のデータベースとしても価値がある。系外惑星探査機でありながら、変光天体を横断的に観測する監視装置にもなった。

拡張ミッションで空を重ね撮りする

2年間の主ミッション後もTESSは拡張運用を続け、南天・北天の再訪、黄道面の空白補完、特別観測を加えた。フルフレーム画像は主ミッションの30分から10分、Cycles 5以降は200秒へ短縮され、選択天体には2分・20秒データもある。長周期惑星、恒星活動、超新星、彗星まで、同じ空を重ねて見る価値が増している。

  1. 2006
    民間支援で初期設計が進む
    MITなどで、全天トランジットサーベイ衛星の構想が具体化。
  2. 2013-04
    NASA Explorer計画に選定
    TESSがMedium Explorerミッションとして採択される。
  3. 2015
    設計審査を通過
    4台カメラと月共鳴高楕円軌道を中核に製造へ進む。
  4. 2018-04-18
    Falcon 9で打上げ
    駐機軌道から複数の近地点噴射で遠地点を月の距離まで引き上げる。
  5. 2018-05-17
    月フライバイ
    月面上空約8,000 kmを通過し、重力で軌道面を黄道に対し約40度へ傾ける。
  6. 2018-05-30
    周期調整噴射
    月P/2共鳴の最終科学軌道へ周期を合わせる。
  7. 2018-07-25
    科学観測開始
    第1セクターの南天観測を始め、明るい星の測光データを蓄積。
  8. 2018-09
    初期画像を公開
    4台カメラによる広視野測光能力を示す最初の科学画像が公開される。
  9. 2019
    π Mensae cなど初期成果
    明るい恒星を周回する小型惑星の確認が進み、追跡観測向け候補の価値が示される。
  10. 2020-07
    主ミッション完了
    南天と北天の主サーベイを終え、拡張ミッションへ移る。
  11. 2022-09
    第2拡張ミッションへ
    フルフレーム画像を200秒間隔へ高頻度化。
  12. 2026
    Cycle 8観測
    南天を再訪しながら科学運用を継続。公開アーカイブも毎セクター成長する。

03エピソード

発見を成立させた軌道、再判定、復旧判断を一次資料へ戻れる形で記録。

月で40度まで傾け、13.7日の静かな物差しを作る

2018年4月18日の打上げ後、TESSは二回の近地点噴射で遠地点を40万 kmまで伸ばし、月flybyで黄道面傾斜を約40度へ上げた。低軌道なら放射線帯通過、食、地球反射光、熱変化が微小なtransit測光を乱すため、最後の周期調整で月の半周期に当たる約13.7日、2:1共鳴の高楕円軌道へ入れた。月が遠地点の約90度先行・後行する配置は摂動を平均化し、station keepingを要しない。約60日後に完成したこの軌道が、−75°CのCCDと一sector約27.4日の連続光度曲線を安定させた。

恒星の半径を直すと、三惑星の大きさと温度が同時に変わる

TOI 700は当初TESS databaseで太陽に近い恒星と誤分類され、transitの深さから求める三惑星も実際より大きく熱く見えていた。高校生Alton Spencerを含む研究者が誤りを見つけ、恒星を太陽の質量・半径の約40%、表面温度約半分のM dwarfへ修正すると、外側dは地球より20%大きく、37日周期で地球の86%の放射を受けるhabitable-zone候補へ変わった。Spitzerが予測時刻のtransitを再観測し、周期精度を56%、半径精度を38%改善して伴星などの偽信号も退けた。恒星値の訂正が「地球級」という帰結を作った。

二度目のsafe modeを、推進系の再加圧失敗まで戻って直す

2024年4月8日、TESSは予定されたengineering作業中にsafe modeへ入り、17日に記録済みscience dataを回収して観測へ戻った。ところが4月23日に再び停止したため、単なる再起動では同じ異常を繰り返す。運用班は二度目のtriggerをreaction wheelのmomentum unload失敗と特定し、最初のsafe mode後に推進系が正しく再加圧されていなかったためwheelから運動量を移せなかったと突き止めた。再加圧を修正して5月3日に科学運用を再開し、別件で未解明の4月8日原因とは切り分けた。

04月を借りて入る、観測のための軌道

TESSは打上げ直後から現在の楕円を回ったのではない。近地点噴射で遠地点を月まで伸ばし、フライバイで軌道面を傾け、最後の噴射で月の半周期へ合わせた。

2018:位相調整 → 月フライバイ EARTH-CENTERED TRANSFER / TIME-SEQUENCED EARTH MOON 05-17 / 約8,000 km 近地点噴射で遠地点を段階的に拡大 LUNAR GRAVITY → ≈40° ECLIPTIC INCLINATION 科学軌道:月P/2共鳴 TESS 2 LAPS : MOON 1 LAP / SAME DIRECTION EARTH 公転方向 17 R⊕ 59 R⊕ / APOGEE 平均約13.7日 / 軌道維持噴射なしで数十年規模に安定 観測の時計:2周で1セクター ≈27.4 DAYS / 24° × 96° / ANTI-SUN POINTING ORBIT A · 約13.7日観測 → データ下送 ORBIT B · 約13.7日観測 → データ下送 = 1 SECTOR4 cameras≈27°ずつ再指向 拡張観測南北を再訪黄道面を補完 DATA: 2 s exposures → FFI 30 min (prime) / 10 min (EM1) / 200 s (Cycles 5+)
左上:地球—月系での軌道投入右上:最終P/2共鳴軌道下:観測運用の時間単位
04-18打上げ・駐機軌道Falcon 9から分離し、太陽電池と姿勢系を立ち上げる。
04–05位相調整周回複数回の近地点噴射で遠地点を月の距離まで引き上げる。
05-17月フライバイ月の重力で軌道面を傾け、科学軌道へ向かう。
05-30周期調整月の半周期へ合わせ、P/2共鳴軌道を完成。
2018-07-25観測開始・継続約27.4日ごとに空を切り替え、拡張期は同じ領域も再訪。

05搭載機器

単一の科学ペイロードを、4台の同型カメラと機上処理装置へ分割。広い空を均質な時系列として測るための構成である。

CAMERA ×4

10 cm・f/1.4広視野光学系

各カメラは7枚のレンズで24°角を受け、4台を縦に並べて24°×96°のセクターを作る。

16 CCD

192メガピクセル焦点面

各カメラ4枚、計16枚のCCDを約−75℃で運用。赤色側に感度を持つ約600–1000 nm帯を測る。

DHU

Data Handling Unit

2秒露光を宇宙機内で積算し、FFIと選択天体の切り出しを生成。約200星/カメラの重心から姿勢情報も作る。

SSR 192 GB

科学データ記録装置

積算画像を保存し、Ka帯100 Mb/s回線で地上へ送る。観測と通信を軌道周期へ同期させる。

06内部設計・運用ループ

4台のカメラは観測装置であると同時に精密姿勢センサーでもある。光をデータへ変える流れと、星像を動かさない制御ループが同じ焦点面で交わる。

OPTICS → PUBLIC DATA 4台のカメラ10 cm · f/1.4 · 7 LENSES24° × 96° TOTAL 16 CCD192 MP / −75 °C2 s EXPOSURES DHUSTACK / COSMIC RAYFFI / POSTAGE STAMP 固体記録装置SSR 192 GBORBIT DATA Ka帯 → DSN0.7 m HGA / 100 Mb/sMAST PUBLIC ARCHIVE FINE POINTING LOOP ガイド星の重心≈200 STARS / CAMERA / 2 s MAU姿勢計算OFFSET QUATERNIONS リアクションホイール ×4FINE POINTING ヒドラジンスラスターMOMENTUM UNLOAD カメラ視線を固定STAR IMAGE STABILITY 科学カメラ自身が精密ガイド スター・トラッカー ×2COARSE ATTITUDE LEOStar-2/750 SPACECRAFT BUS 太陽電池翼 ×2415 W CAPABILITY 電力調整・蓄電≈290 W LOAD 熱設計CCD ≈ −75 °C P/2軌道LOW RADIATION / NO STATION-KEEPING
観測データ姿勢情報・制御電力・熱環境
SCIENCE HALF-ORBIT遠地点側を含む長い時間を測光へ使い、2秒露光を機上で積算する。
DATA CONTACT保存したデータをKa帯で下送。拡張期は遠地点側の下送も加え、FFIを高頻度化。
REPOINT2周で約27.4日観測後、反太陽方向の次セクターへ視線を移す。

TESSは、大口径望遠鏡で一点を深く撮る機体ではない。LEOStar-2/750バスへ4台の同型広視野カメラを載せ、明るい恒星の光度を安定して測る測光衛星である。カメラは科学画像だけでなく約200個/カメラのガイド星から2秒ごとに姿勢誤差を返し、リアクションホイールが視線を固定する。

4台カメラで空を短冊にする

各カメラは24度四方の広い視野を持ち、4台を縦に並べることで24度×96度のセクターを作る。これを約27日ごとに切り替え、南天・北天を順番に掃く。広視野の代償としてピクセルスケールは粗く、背景星の混入や食連星の偽陽性が増えるため、候補検証は地上観測とデータ解析を含めた工程になる。

熱と姿勢の安定が測光精度を決める

トランジット信号は恒星光のごく小さな変化なので、カメラ温度、姿勢揺れ、放射線帯通過、地球・月からの迷光を抑える必要がある。TESSの高楕円軌道は、観測時間を長く取り、放射線帯の影響を避け、近地点でまとめてデータを送れるよう設計された。軌道設計は観測装置の一部である。

ターゲット選定は後続観測から逆算する

TESSは暗い遠方星を大量に測るのではなく、近く明るいG/K/M型星を重視する。発見後に半径だけでなく質量、密度、大気を測れる対象を増やすためである。JWSTや地上大型望遠鏡が詳しく見る候補を渡すことが、TESSの科学的な役割になっている。

衛星だけでなくパイプラインがミッション

観測データは、2分・20秒・フルフレーム画像などのケイデンスで処理され、光度曲線、候補抽出、偽陽性検査、MASTアーカイブ公開へ進む。トランジット候補は星斑、食連星、背景天体、機器系統差を切り分ける必要がある。TESSの「搭載機器」はカメラだけでなく、公開データと追跡観測コミュニティまで含んでいる。

データをまとめて下ろす軌道設計

主ミッションと第1拡張期は近地点付近でデータを下ろし、第2拡張期からは遠地点側にも通信を加えた。2秒露光をDHUで積算し、ターゲット切り出しとフルフレーム画像を192 GBのSSRへ収め、0.7 m高利得アンテナからKa帯100 Mb/sで送る。通信機会を増やしたことで、Cycles 5以降のフルフレーム画像は200秒間隔になった。

単純なカメラ構成の強さ

4台のカメラは同じ設計を繰り返すことで、広視野を確保しながら機器リスクを抑えている。大きな可動部や複雑な分光器を載せるより、安定したレンズ、CCD、温度制御、姿勢制御を組み合わせ、長い時系列を得ることを優先した。TESSの設計は派手な単発観測ではなく、均質な測光データを大量に作るための割り切りに価値がある。

08関連文献

  • The Transiting Exoplanet Survey Satellite
    Rickerほか, JATIS 1 (2015)。TESSのミッション設計、軌道、カメラ、観測戦略の基礎論文。 · doi:10.1117/1.JATIS.1.1.014003
  • The Transiting Exoplanet Survey Satellite: Simulations of planet detections and astrophysical false positives
    Sullivanほか, ApJ 809 (2015)。予想される検出数と偽陽性の性質。 · doi:10.1088/0004-637X/809/1/77
  • TESS's first planet: a super-Earth transiting the naked-eye star π Mensae
    Gandolfiほか, A&A 619 (2018)。TESS初期の代表的な惑星確認。 · doi:10.1051/0004-6361/201834289
  • The First Habitable Zone Earth-sized Planet from TESS. I: Validation of the TOI-700 System
    Gilbertほか, AJ (2020)。TESSによるハビタブルゾーン地球サイズ惑星候補の検証例。 · doi:10.3847/1538-3881/aba4b2