// 木星の雲を極から透かし、衛星の重力で次の周回を組む · 2011-040A
ジュノー
Juno
地球をかすめて加速し、35分の噴射で木星に捕獲された太陽電池式の極軌道機。主エンジン再点火を見送り53日軌道で科学を続け、ガニメデ、エウロパ、イオの重力を順に使って33日軌道へ移った。
01基本情報
「当初計画」「実行済み」「現在」「将来計画」を混ぜず、周期変化と機体構成を整理する。
| 打上げ | 2011-08-05Atlas V 551 / Cape Canaveral SLC-41 |
|---|---|
| 地球重力アシスト | 2013-10-09地球の公転運動量を借りて木星へ |
| 木星軌道投入 | 2016-07-04(米国時刻)主エンジン35分噴射 / 初期53日極軌道 |
| 運用主体 | NASA / JPL / SwRICOSPAR 2011-040A |
| 現在の周期 | 33日2024-02-03の第2回イオ近接後 |
| 機体構成 | 3翼・スピン安定・チタン放射線vault展開時の幅は20 m超 |
|---|---|
| 電力 | 太陽電池11パネル + 55 Ah Li-ion電池×2木星の日射は地球付近の約1/25 |
| 通信 | X帯通信 / X・Ka帯ドップラー追跡高利得アンテナからDSNへ |
| 現況 | Active MissionNASA表示の基準日 2026-07-04 |
| 将来終端 | 確定日を置かない2025 Senior Reviewは廃棄噴射不要・運用可能な限り科学継続と評価 |
02ミッション
直行では届かない木星へ地球の重力で加速し、一度の捕獲噴射、反復近木点観測、四度の衛星フライバイへ任務をつないだ。
地球へ戻ってから、木星へ
2011年8月5日にAtlas V 551で打ち上げられたジュノーは、木星へ直線的に向かったのではない。いったん太陽を回り、2012年8月と9月の深宇宙噴射で地球再接近を整え、2013年10月9日に地球をフライバイした。これは中心へ落ちる線ではなく、地球の公転運動量を借りて木星へ向かうエネルギーを増す通過である。以後は太陽電池三翼を太陽へ向けながら約3年航行した。
35分で捕獲、53日で一周
2016年7月4日、地球からの片道通信に約48分かかる状況で、探査機は木星軌道投入を自律実行した。主エンジンを約35分噴射し、木星を南北にまたぐ長楕円の53日極軌道へ捕獲された。当初は二周後に再噴射して14日軌道へ短縮する計画だったが、主エンジン系のヘリウム逆止弁が試験時に数秒ではなく数分かけて開いた。望ましくない軌道へ入るリスクを避け、NASAは2017年2月17日に53日軌道の維持を決めた。
「遅くなる」は科学を失うことではなかった
53日軌道では近木点が約二週ごとではなく約七週ごとになる。しかし一回の近木点で木星へ最接近する高度と、雲頂・重力・磁場・極光を集中観測する約二時間の窓は変わらない。ジュノーは近木点ごとに同じ向きで周回を重ね、放射線帯の危険域を短時間で横切り、遠木点側で記録データを地球へ送った。長い遠木点区間は、当初計画より広い磁気圏を測る機会にもなった。
衛星の重力が次の時間割を作った
拡張任務ではエンジンで強引に折り返す代わりに、ガリレオ衛星の運動量を利用した。2021年6月7日にガニメデへ1,038 kmまで接近して53日から43日へ、2022年9月29日にエウロパへ352 kmまで接近して43日から38日へ短縮。2023年12月30日と2024年2月3日の二度はイオの約1,500 km上空を通り、38日から35日、さらに33日へ移った。どの接近も衛星中心で止まったり反対向きに回り始めたりする操作ではなく、連続した双曲線的通過が木星周回軌道のエネルギーを変える。
現在と将来を分けて読む
NASAの旧い拡張任務説明には2025年9月までという当時の計画が残るが、公式ミッションページは2026年7月4日更新時点でジュノーをActive Missionと表示する。さらに2025 Planetary Mission Senior Reviewは、進化した軌道がガリレオ衛星から離れるため惑星保護上の廃棄噴射は不要で、関連装置と機体が機能する限り科学を続けられると評価した。したがってこのページは終了日や木星突入を実行済み事実として置かず、将来終端を日付未確定の計画状態として扱う。2026年7月22日のJPLによるイオ内部熱の発表も、2023年・2024年の近接データを解析した成果であり、「2026年に新たなイオ近接を行った」という意味ではない。
- 2011-08-05打上げ太陽周回へ出発。
- 2012-08/09深宇宙噴射地球へ戻る軌道を整える。
- 2013-10-09地球重力アシスト連続通過で木星行きのエネルギーを得る。
- 2016-07-04木星軌道投入35分噴射で53日極軌道へ捕獲。
- 2017-02-1714日化を中止弁リスクを避け、53日軌道で科学を継続。
- 2021-06-07ガニメデ1,038 km / 53→43日。
- 2022-09-29エウロパ352 km / 43→38日。
- 2023-12-30イオ #1約1,500 km / 38→35日。
- 2024-02-03イオ #2約1,500 km / 35→33日。
- 2026-07-04 基準Active Mission将来終端は確定日なし。計画と実績を分離。
03エピソード
数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を、出来事を直接確認できる資料と結び直す。
35分の点火を、地球の返事なしで完遂する
2016年7月4日、Junoは木星到着時に科学装置を止め、地球からの即時介入なしでJupiter Orbit Insertionへ入った。主エンジン噴射中の姿勢ぶれは捕獲失敗へ直結するため、機体は約5分で2 rpmから5 rpmへ増速し、command sequenceが35分の燃焼を自律実行した。終了後は5 rpmから2 rpmへ戻し、太陽指向とtelemetry送信を再開。その結果、約53日周期の長楕円極軌道へ捕獲され、放射線帯を短時間で横切る近木点観測を始められた。
数秒の弁が数分かかり、14日軌道を捨てる
2016年10月、Junoの主エンジン系を加圧すると二つのhelium check valveが、過去の数秒ではなく数分かけて開いた。予定どおり再点火すれば53日周期を14日へ縮められる一方、弁の不確実な動作は望ましくない軌道へ入る危険を生む。このためNASAは複数案を審査し、2017年2月17日に噴射中止を決定した。近木点の高度と約2時間の観測窓は変わらないので、観測間隔を2週から7週へ組み直す代わりに放射線帯滞在を減らし、遠い磁気圏も調べる53日計画へ転換した。
失った14日計画を、三つの月で33日へ縮め直す
主エンジン再点火を封じたJunoは、衛星の重力を軌道変更へ使った。2021年6月7日にGanymedeへ1,038 kmまで接近して周期を53日から43日へ、2022年9月29日のEuropa高度352 km通過で38日へ短縮。さらに2023年12月30日と2024年2月3日にIoへ約1,500 kmまで接近し、35日を経て33日へ移った。このため危険な主エンジンを再使用せず、拡張任務の衛星観測そのものを次の近木点へ早く戻る軌道設計へ重ねられた。
04軌道
同じ木星を時間順に再掲し、捕獲後は毎段で必ず一周してから次の衛星フライバイへ進む。すべて時計回りで、接近点に折返しを作らない。
図の根拠: NASA Juno mission(打上げ・JOI・衛星接近・2026現況)、NASA Juno Orbits(53日・33日軌道)、JPL, 2017-02-17(14日化の中止)、JPL Io flybys(38→35→33日)。時間展開図であり、木星を空間上に複製したものではない。
- 012011-08-05 · 地球出発Atlas V 551で打上げ。木星へ直行せず、太陽周回軌道へ入った。
- 022012-08/09 · 深宇宙噴射地球へ戻る軌道を整える二回のDeep Space Maneuver。
- 032013-10-09 · 地球重力アシスト地球の公転運動量を借り、木星へ向かうエネルギーを得た。
- 042016-07-04 · 木星軌道投入自律実行した35分の主エンジン噴射で捕獲。最初の53日極軌道へ。
- 052017-02-17 · 14日化を中止ヘリウム逆止弁が想定より遅く開いたため、主エンジン再点火のリスクを避け53日を維持。
- 0653日極軌道 · 反復科学各近木点の約2時間に雲頂・重力・磁場・極光観測を集中。遠木点側でデータを送信。
- 072021-06-07 · ガニメデ高度1,038 kmのフライバイで周期を53日から43日へ。
- 082022-09-29 · エウロパ高度352 kmのフライバイで43日から38日へ。
- 092023-12-30 · イオ #1約1,500 kmまで接近し38日から35日へ。
- 102024-02-03 · イオ #2再び約1,500 kmを通過し35日から33日へ。逆向きの周回には変わらない。
- 112026-07-04基準 · ActiveNASAの現行表示はActive Mission。2025 Senior Reviewは廃棄噴射不要・機体と科学が有効な限り継続可能と評価し、終端日は確定イベントとして描かない。
05搭載機器
内部・大気・磁場・極光を、相補的な10系統で同じ近木点通過に重ねる。
Gravity Science
X/Ka帯ドップラーから探査機の微小加速度を読み、木星内部の質量分布を推定。
Microwave Radiometer
6波長のマイクロ波で雲下の水・アンモニアと大気深部を測る。
Magnetometer
太陽電池翼先端のブームで機体磁場から離れ、木星磁場を三次元測定。
Jovian Auroral Distributions Experiment
低エネルギーの電子・イオンを測り、極光へ流れ込む粒子を追う。
Jupiter Energetic-particle Detector
高エネルギー粒子のエネルギー・方向・種類を測定。
Radio and Plasma Wave Investigation
電場・磁場の波を捉え、粒子加速とオーロラ電波を結ぶ。
Ultraviolet Spectrograph
紫外線で木星オーロラの形・スペクトル・時間変化を観測。
Jovian Infrared Auroral Mapper
赤外で大気・極光と、拡張任務では衛星表面の熱・組成を観測。
Visible-light Camera
可視光カラー画像を取得し、科学チームと市民画像処理へ公開。
Stellar Reference Unit
恒星で姿勢を決めるカメラを、暗部・環・衛星の科学観測にも活用。
機器構成: JPL Juno mission — Instruments。MAGにはAdvanced Stellar Compassが組み合わされ、SRUは航法用スターカメラを科学にも転用する。
06設計
木星で受ける地球近傍の約1/25の日射を3翼で集め、放射線に弱い頭脳をチタンvaultへ、測る装置を外側へ置く。
図の根拠: JPL Juno Spacecraft(3翼・11パネル・55 Ah電池×2・X/Ka通信・熱設計)、JPL “Juno Armored Up”(チタン放射線vault)、NASA Juno mission(スピン・JOI・科学機器)。機体外形と配線は機能理解のための概念配置。
三枚の翼は、電力源であり姿勢の基準
ジュノーは木星へ到達した最初の太陽電池式探査機である。三枚の翼に11枚の太陽電池パネルを載せ、展開時は20 mを超える。木星での日射は地球付近の約25分の1しかないため、大面積化だけでなく、通常時に全翼へ日光が当たるスピン姿勢を保つことが重要だった。発電はvault内の電力制御・配電へ入り、二台の55 Ahリチウムイオン電池がピーク負荷と一時的な日陰を支える。
放射線vaultは「頭脳」を守る境界
木星の強い放射線に弱いコマンド・データ処理、電源、姿勢制御などの電子回路は中央のチタンvaultへ集中する。一方、実際に外界を測るアンテナ、粒子検出器、カメラ、分光器は視野を得るため外に置く。そこで各装置の局所遮蔽と、外部センサーからvault内電子回路へ信号を渡す境界設計が必要になる。図の放射線矢印をvault壁で止めたのは、機体全体が無傷という意味ではなく、累積線量を下げて中枢の寿命を延ばす仕組みを示す。
スピン、推進、フライバイは別の役割
科学運用時は毎分およそ2回転のスピンで安定する。木星軌道投入では通信遅延のため35分噴射を自律実行し、噴射前に約5 rpmへ上げた。主エンジンは捕獲に不可欠だったが、予定した軌道短縮ではヘリウム逆止弁の遅い応答がリスクとなり再点火を見送った。その後の53→43→38→35→33日の変化は、機体を反転させる噴射ではなく、ガニメデ、エウロパ、イオの重力を使うフライバイで得た。RCSは姿勢と小さな軌道調整を担う。
科学データは姿勢情報と一緒に地球へ戻る
MWR、UVS、JIRAM、JunoCam、粒子・波動装置は機体外から信号を取り、vaultのコマンド・データ処理系が時刻と姿勢を関連付けて記録する。MAGは機体自身の磁場を避けるため一枚の太陽電池翼先端のブームに置き、恒星カメラASCで測定方向も決める。高利得アンテナのX帯が指令・テレメトリ・科学データをDSNへ運び、X/Ka帯の精密ドップラーそのものもGravity Scienceの観測量になる。JunoCam画像は同じ経路から地上へ届き、公開画像処理へつながる。
設計変更を科学へ変換する
53日軌道を維持すると近木点は二週間ごとではなく約七週間ごとになるが、一回の近木点で得られる約二時間の観測窓と近木点高度は保たれた。長い軌道は木星磁気圏の遠方を測る時間も増やした。電力、放射線、通信、推進を個別部品としてではなく一つの運用系として扱ったため、危険な主エンジン噴射をやめても科学目標を組み直し、のちには衛星の重力で軌道周期を短縮できた。
07写真・図版
実機と観測成果を、出典・ライセンスとともに確認する。


08一次資料
古い予定日を現況と取り違えないよう、公開日と資料の役割を併記する。
- Juno — Active Mission / mission chronology
- Juno Orbits — 53-day initial and 33-day current orbit
- NASA’s Juno to Remain in Current Orbit at Jupiter
- Juno Spacecraft
- 2025 Planetary Mission Senior Review — Juno EM2 evaluation
- Juno Takes Temperature of Jupiter’s Fiery Moon Io