// Serviceable Space Observatory · NASA / ESA · 1990-037B
ハッブル宇宙望遠鏡
HUBBLE SPACE TELESCOPE
低軌道へ運び、宇宙飛行士が5回訪ね、眼鏡・カメラ・ジャイロ・電池まで交換した2.4 m望遠鏡。ハッブルの本当の発明は、宇宙天文台を「完成品」ではなく、直して育てる施設にしたことだった。
01基本情報
大気吸収の外で115–2500 nmを捉え、シャトルが届く低軌道を保守拠点に変えた汎用天文台。
| 開発・運用 | NASA / ESA Goddardが飛行運用、STScIが科学運用 |
|---|---|
| 打上げ・展開 | 1990年4月24–25日 Discovery / STS-31 |
| 寸法・質量 | 長さ13.2 m / 約12,200 kg SM4後 |
| 状態 | 運用中 2024年から1ジャイロモード |
| 光学系 | 2.4 mカセグレン反射望遠鏡 |
|---|---|
| 軌道 | 高度およそ500 km / 傾斜角28.5° 大気抵抗と過去のリブーストで変動 |
| 周期・速度 | 約95分 / 約27,000 km/h |
| 観測帯域 | 115–2500 nm 紫外・可視・近赤外 |
02ミッション
ハッブル宇宙望遠鏡は、低軌道から大気のゆらぎを避けて紫外・可視・近赤外を観測する汎用天文台である。失敗した鏡を軌道上で補正し、以後30年以上にわたって天文学の基準器になった。
大気の外に置く意味
地上望遠鏡は大気の乱流、吸収、夜空の明るさ、天候に縛られる。ハッブルは高度およそ500 kmの低軌道に出ることで、紫外線を含む波長を安定して受け、点像の鋭い画像と分光データを得る。口径2.4 mは現代の地上望遠鏡より小さいが、観測条件を宇宙側へ持ち上げたことが科学性能の本体だった。
鏡の失敗から、修理できる天文台へ
1990年の打上げ後、主鏡の球面収差で画像がぼけることが判明した。通常なら致命的な欠陥だが、ハッブルはスペースシャトルで訪問し、機器を交換できる設計だった。1993年の第1回サービスミッションで補正光学系COSTARとWFPC2が取り付けられ、望遠鏡は本来の視力を取り戻した。
サービスミッションが科学寿命を作った
1993、1997、1999、2002、2009年の5回のサービスミッションで、カメラ、分光器、ジャイロ、太陽電池パドル、電源系が更新された。WFC3、ACS、COS、STISなどの機器は、1990年に打ち上げた望遠鏡を時代ごとの最先端観測所へ変え続けた。ハッブルは「修理できる衛星」という設計思想が科学成果を何十年も延ばした稀な例である。
深宇宙画像は統計データになった
ハッブル・ディープ・フィールドやウルトラ・ディープ・フィールドは、明るい天体がない小さな空域を長時間露光し、遠方銀河を大量に拾い上げた。美しい画像であると同時に、銀河進化、星形成史、宇宙膨張を読むための公開データセットでもある。何もなさそうな一点を見続ける観測戦略が、宇宙史の標本を作った。
Webb時代でも消えない役割
JWSTは赤外線で初期宇宙や低温天体を強力に見るが、ハッブルは紫外・可視で熱い星、電離ガス、銀河の形、太陽系天体を読む。両者を組み合わせることで、同じ天体の若い星、塵、暖かい分子、古い恒星を分けて理解できる。ハッブルは後継機に置き換えられたのではなく、波長の違う基幹観測所として残っている。
- 1977議会が大型宇宙望遠鏡を承認NASAとESAの協力で、後のHubble Space Telescope計画が本格化。
- 1990-04-24STS-31で打上げDiscoveryがHubbleを低軌道へ運び、翌日に放出。
- 1990主鏡の球面収差が判明期待された解像度が出ず、補正計画が組まれる。
- 1993-12第1回サービスミッションCOSTARとWFPC2で光学補正を実施し、Hubbleの視力を回復。
- 1995-12Hubble Deep Field観測約150軌道を使い、遠方銀河の深い標本を作る。
- 2009-05最後のサービスミッションWFC3とCOSを搭載し、現在の主力構成へ更新。
- 2024-061ジャイロモードへ使用するジャイロを1基に絞り、残る2基を予備として科学運用を継続。
03エピソード
数字だけでは見えない判断、危機、発見の瞬間を一次資料と結び直す。
1.3 mmの治具ずれが、2.2 µmの鏡面誤差になる
1990年6月27日、NASAはHubbleの像が設計どおり鋭くならない原因を主鏡の球面収差と発表した。研磨時に鏡を測るnull correctorの間隔が1.3 mmずれ、直径2.4 mの主鏡外縁が約2.2 µm平らすぎる形で完成していた。地上試験の異なる測定結果を退けて誤った治具を信じたことが難所だった一方、誤差が不規則な傷ではなく非常に滑らかで正確な形だったため、NASAは波面を逆向きに補う光学系を設計できた。製造失敗の規則性が、軌道上修理を可能にする条件へ変わった。
五回の船外活動で、宇宙望遠鏡に眼鏡を掛ける
1993年12月2日に打ち上げられたServicing Mission 1では、Endeavourの7人がHubbleを捕捉し、5回・計35時間28分の船外活動を行った。主鏡を交換することはできないため、宇宙飛行士は補正光学COSTARと、補正機能を内蔵したWFPC2を取り付け、太陽電池やgyroも交換した。複数装置へ同じ球面収差を逆算して与える設計により、12月18日午前1時には修理後最初の明瞭な星像を取得。地上で作った固定望遠鏡を、軌道上で部品交換できる観測所として設計していたことが、性能回復を現実にした。
所長裁量の150周を、何もない一点へ賭ける
1995年12月18〜28日、Hubbleは北斗七星近くの暗く見える小領域だけを150周、10日間見続け、WFPC2の342露光を重ねた。通常の公募なら成果が読めない空白域へ大量時間を割くのは難しかったが、STScI所長Robert Williamsは所長裁量時間を使い、取得直後にデータを公開する判断をした。青・赤・赤外の像を積算すると、肉眼限界の約40億分の1という暗さまで約3000銀河が現れた。既知天体を一つ詳しく見る代わりに「何もない」を深く測る観測設計が、宇宙史を一枚で比較するDeep Fieldを生んだ。
04軌道
ハッブルは約95分で同じ向きに周回し続ける。一方、軌道高度は大気抵抗でゆっくり下がり、シャトル訪問時のリブーストで上がった。この二つの時間尺度を分けて読む。
01 / one 95-minute orbit
02 / altitude across 36 years
05搭載機器
広視野カメラ
可視・紫外・近赤外画像で銀河、星形成、太陽系天体を撮る主力。
分光器
光を波長に分け、ガス、星、銀河、系外惑星大気の物理を読む。
精密誘導センサ
観測中の姿勢を安定させ、シャープな星像を支える。
06設計
星の光が画像・スペクトルになり、地上の研究者へ届くまで。独立した観測機器は並列に描き、姿勢制御と電力はそれぞれが観測全体を支える実際の関係だけを結ぶ。
鏡より先に視線を止める
ジャイロが回転を検出し、FGSがガイド星を追い、計算機が4基のリアクションホイールを制御する。2024年以降は1基のジャイロで科学運用し、残る2基を予備にしている。
日向で発電、地球影は電池
2枚の太陽電池は日照中に約5.5 kWを生み、観測機器・計算機・ヒータへ配電しながら6基のニッケル水素電池を充電する。約95分ごとの夜側では電池が全系を支える。
低軌道だから人が直せた
把持具、手すり、開閉扉、交換可能な機器ベイを備えた。32人の宇宙飛行士が展開と5回の保守に参加し、光学補正から科学機器、電源、姿勢系まで更新した。
07写真・図版
シャトルから見たサービス可能な外観と、長時間露光が切り開いた深宇宙観測の代表成果。



08関連文献
- The Hubble Deep Field: Observations, Data Reduction, and Galaxy Photometry
- Final Results from the Hubble Space Telescope Key Project to Measure the Hubble Constant
- Detection of an Extrasolar Planet Atmosphere
- The on-orbit performance of WFPC2