// 4000 cm²でX線の「時間」をつかむ · 1987-012A
ぎんが
GINGA (ASTRO-C)
画像を撮る衛星ではない。8台の比例計数管を一方向へそろえ、X線天体が秒ごとに明滅し、スペクトルを変える過程を大面積で追った。打上げ18日後に現れたSN 1987Aを同年8月にX線で捉え、約350天体・1000件超の観測を残した日本の第3号X線天文衛星。
01基本情報
低軌道、三軸姿勢制御、大面積検出器。観測の強みと制約はこの組合せから生まれた。
| 打上げ | 1987-02-05M-3SIIロケット3号機 |
|---|---|
| 射場 | 鹿児島宇宙空間観測所内之浦 |
| 国際標識 | 1987-012AASTRO-Cは打上げ前名称 |
| 質量・寸法 | 420 kg・1 × 1 × 1.5 m太陽電池パドル4枚 |
| 科学観測 | LAC・ASM・GBD1.5–500 keVを相補的に観測 |
| 公称軌道 | 近地点530 km・遠地点595 kmISAS/JAXA掲載値 |
|---|---|
| 傾斜角・周期 | 31°・96分低傾斜の近円軌道 |
| 姿勢制御 | 三軸安定モーメンタムホイール、4ジャイロ、磁気トルカ |
| 記録 | 41.9 Mbitバブルメモリー高レートで42.7分、低レートで22.73時間 |
| 運用終了・再突入 | 1991-11-01軌道減衰後、同日に大気圏へ再突入 |
02ミッション
狭い視野で深く見るLAC、広く見張るASM、全天の突発現象を拾うGBD。三つを直列にせず、同じ時刻系で働かせた。
大面積を時間分光へ振り向ける
主観測器LACは8台の比例計数管を同じ方向へそろえ、約4000 cm²の有効面積と低い内部背景を得た。視野はおよそ1° × 2°で、望遠鏡像ではなく到来したX線のエネルギーと時刻を数える。暗いX線源のスペクトルだけでなく、ブラックホール候補や連星が短時間に変動する様子を追えることが「ぎんが」の核心だった。
監視装置は主検出器の前段ではない
ASMは二つの比例計数管で広い空を1〜2日ごとに走査し、増光した天体を見つけてLACの指向観測候補を作った。GBDは比例計数管とシンチレーション検出器で1〜500 keVの突発現象を独立に監視し、放射線帯の高粒子環境も検知した。三装置はそれぞれ別の空・時間尺度を測り、機上の時刻とテレメトリで地上解析へ集約された。
ゆっくり向きを変え、長く見る
機体はモーメンタムホイールと4ジャイロで三軸安定し、磁気トルカで指向を変えた。Z軸の旋回は遅く、1日未満の短い指向観測は現実的でなかった。さらに太陽電池パドルを太陽方向の±45°以内に保つ電力制約が、季節ごとにLACで見られる天域を決めた。観測計画は「いつ見たいか」だけでなく「いつ安全に向けられるか」から組まれた。
自動同定の壁を地上運用で越える
搭載星センサーによる恒星の自動同定は軌道上で難しいと分かり、当初想定した自動姿勢決定をそのまま使えなかった。運用はジャイロ情報を中心に組み直し、地上で姿勢を再構成した。指向精度は6分角より良く、解析用の姿勢再構成は約1分角に達した。装置の故障を隠すのではなく、使える観測幾何を運用と較正で回復した例である。
低軌道の終わりも一続きの軌道
約96分ごとに観測、機上記録、地上局への再生を繰り返し、約350天体を1000回以上観測した。低軌道は徐々に減衰し、1991年11月1日、周回速度を保った近地点側が高層大気へ触れて急速に軌道エネルギーを失い、再突入した。
- 1987-02-05近円軌道へ投入M-3SII-3から分離し、96分周期・傾斜角31°の低軌道で初期確認を開始。
- 1987-02〜03観測系を立ち上げ姿勢決定をジャイロ中心の運用へ組み替え、LAC・ASM・GBDを較正。
- 1987-02-23SN 1987Aが出現打上げ18日後、大マゼラン雲に超新星が現れた。
- 1987-08超新星からX線を検出爆発後に成長したX線放射を捉え、時間変化を追跡。
- 1987–1991約350天体を観測連星、活動銀河核、クエーサー、超新星残骸などを時間分光。
- 1991-11-01自然減衰から再突入周回軌道が低下し、運用終了と同日に大気圏へ再突入。
03エピソード
大面積だけでは成果にならない。突発現象、姿勢、記録容量を一つの観測計画へ結び付けた。
打上げ18日後の超新星へ、翌々日から望遠鏡を向ける
ISASが1987年2月5日に「ぎんが」を打ち上げ、観測器の高電圧を2月24日に入れた直後、2月23日に大マゼラン雲でSN 1987Aが出現したとの報が届いた。機器立上げを続けながら突発天体へ向きを変える必要があったため、運用班は2月26日から急きょ観測態勢へ入り、光学的に明るい時期だけで結論を出さずX線の出現を待った。その結果、同年8月から超新星のX線を検出し、爆発噴出物が周囲と相互作用して放射を変える初期過程を追跡した。偶然の近さを成果へ変えたのは、打上げ直後に観測計画を組み替えた判断だった。
星を自動同定できず、非撮像LACの向きを地上で解き直す
「ぎんが」は星姿勢計で恒星を自動同定して姿勢制御する計画だったが、1987年の軌道上試験で自動同定が難しいと判明した。しかも主装置LACは像を作らず、視野内のどこに天体があるかを検出器自身では判別できない。そのためISAS運用班はgyroで姿勢を保持し、星姿勢計を時折mapping modeにして得た星像を地上で解き、鹿児島局との交信中に微調整する方式へ変更した。日々のoperation reportへ姿勢解と調整時刻を残した結果、見かけの強度変化が天体由来か指向ずれかを後年の解析でも区別でき、計画した大面積時間分光を継続できた。
41.9 Mbitを、一周96分のどこへ配るか
NASA HEASARCが公開する「ぎんが」の搭載bubble memoryは41.9 Mbitで、高rateでは42.7分、mediumでは5.68時間、lowでは22.73時間を保存できた。一方、衛星は約96分で地球を一周し、観測中ずっと地上局が見えるわけではない。高rateを一周通して選べば記録器が先に満杯になるため、ISASと共同観測班は天体の変動時間、地上局pass、再生時間に合わせて三つのrateを切り替えた。その結果、短いburstや連星変動には時間分解能を与え、長い背景・活動銀河観測には記録時間を残すという、同じ検出器を現象別に使い分ける運用が成立した。
04軌道
約96分の周回を4年8か月反復。高度低下は軌道運動の連続した螺旋として進み、最後の接線が高層大気へ触れた。
- 01投入と初期捕捉M-3SII-3から分離し、傾斜角31°の低軌道で捕捉。
- 02近円軌道の確立三軸姿勢と電力を確立し、96分周期の観測を開始。
- 03指向観測の反復LACを天体へ向け、ASMとGBDは独立に監視。
- 04記録と地上再生41.9 Mbitへ記録し、地上局可視中に高速再生。
- 05緩やかな軌道減衰空気抵抗で近地点が少しずつ低下し、周回を継続。
- 06高層大気への接触周回方向の速度を保ったまま高層大気へ入り、1991年11月1日に再突入。
05搭載機器
三つの科学装置は同じ信号経路の段階ではなく、異なる視野と時間尺度を並行して受け持った。
Large Area Counter
8台の比例計数管、約4000 cm²。1.5–37 keVを狭い視野で測る主観測器。
All-Sky Monitor
2台の比例計数管で1–20 keVを走査。1〜2日ごとに全天を監視し、突発増光を探す。
Gamma-ray Burst Detector
比例計数管とシンチレーション検出器で1–500 keVを31.3 ms刻みで監視。
姿勢基準系
4ジャイロ、2台のCCD星追跡器、モーメンタムホイール、三軸磁気トルカで指向を支えた。
06設計
狭視野の大面積LACを正確に向け、広視野監視装置は並行して空を見張る。観測、姿勢、記録、通信を実際の関係で分けて読む。
LACは指向軸、ASMとGBDは監視軸
LACの8計数管は同じ方向へ並び、一つの天体を大面積で測る。ASMは広視野走査、GBDは突発現象と高粒子環境の監視を独立に行う。三装置から出る計数値には共通時刻が付けられ、記録器または直接テレメトリへ渡された。
観測可能な空は姿勢と電力で決まる
4ジャイロとモーメンタムホイールが指向を保ち、三軸磁気トルカが旋回と運動量管理を担った。太陽電池パドルは太陽方向の±45°以内という条件があり、LACの視野と発電条件を同時に満たす天体を選んだ。
一周より短い記録容量
41.9 Mbitのバブルメモリーは96分の軌道一周すべてを最高レートで保存できない。観測データを三つのレートから選び、地上局との交信時に記録器を高速再生する設計が、長時間の天体変動を途切れにくくした。
姿勢履歴まで含めて一つの観測
狭いLAC視野で得た計数を天球上の正しい位置へ戻すには、検出時刻だけでなくジャイロと星追跡器が記録した姿勢履歴が必要になる。地上では時刻、姿勢、軌道位置を統合して光度曲線を再構成し、ASMやGBDが捉えた突発時刻と照合した。機器を直列に動かすのではなく、独立した観測を共通の時計と姿勢基準で重ねる設計である。
07写真・図版
実機と観測成果を、出典・ライセンスとともに確認する。


08関連文献
機体諸元、装置性能、観測データを公式アーカイブで照合できる。
- GINGA — ISAS mission record
- The Ginga Observatory
- GINGALAC archive description