// 三日間が残した磁気圏データ · 1972-064A
でんぱ
DENPA (REXS)
でんぱは太陽系を満たすプラズマの波動、密度、電子、電磁場を高度方向に測ることを目的に設計された地球磁気圏科学ミッションである。アンテナ、磁力計、電子温度センサーの展開と全観測器の正常動作を確認したが、打上げ三日後の8月22日09時04分以降、コマンドへの応答が途絶えた。 成果だけでなく、設計判断と異常時の選択までを追うと、日本の宇宙開発が一機ごとの経験を次へ渡してきた道筋が見える。
01基本情報
運用史と機体仕様を、ミッションの読み解きに必要な単位で整理する。
| 打上げ日 | 1972-08-19現地表記は一次資料に準拠 |
|---|---|
| 国際標識番号 | 1972-064ACOSPAR ID |
| 打上げ機 | M-4Sロケット4号機M-4S |
| 射場 | 鹿児島宇宙空間観測所(内之浦)日本 |
| 質量 | 75 kg打上げ時または公式代表値 |
| 近地点 | 250 km公式公称値 |
| 遠地点 | 6570 km公式公称値 |
|---|---|
| 軌道傾斜角 | 31°赤道面基準 |
| 軌道周期 | 161分公称値 |
| 姿勢制御 | スピン安定観測・通信の基準 |
| 外形 | 八角柱展開物を除く場合あり |
| 運用状態 | 終了(1972-08-22)公式機関の分類 |
02ミッション
でんぱは250 × 6,570 kmの一周で、電離層から内部磁気圏までのプラズマ密度・電子温度・粒子・電磁波・地磁気を同時にたどる75 kgの観測所だった。
一周を高度方向の実験室にする
近地点250 kmでは電離層、遠地点6,570 kmでは内部磁気圏へ入り、161分ごとに同じ観測器群で高度断面を作る。傾斜角31°の長楕円軌道は、低緯度域でプラズマ波、密度、電子フラックス、電磁波、地磁気の関係を同じ時刻系へ揃えるための観測装置そのものだった。
軌道投入直後に測定系を立ち上げる
1972年8月19日、M-4Sロケット4号機で内之浦から打ち上げられた。軌道投入と第4段分離に続き、科学観測用アンテナ、磁力計、電子温度センサの伸展を確認した。電磁波・プラズマ波、プラズマ諸量、磁場変動、電子温度、内部環境、太陽電池性能の各装置は作動し、太陽電池出力も計画値を満たした。
3日間でも観測系列は成立した
通信と観測が続いた間に、電離層・磁気圏のプラズマ密度、電子温度、VLF電磁波の強度スペクトル、LF電波放射、地球磁場分布を受信した。粒子・波動・磁場は互いを順番に通るのではなく並列に測定されるため、短い期間でも同じ軌道位置の環境を複数の物理量から照合できた。
第26周の電源投入が転機になる
8月22日09時04分、第26周に電子フラックス測定装置へ初めて電源を投入した後、衛星の作動が異常となった。1972年の公式報告は、符号器A/D変換器の不作動、コマンド受信の誤動作、400 MHz送信機の出力低下と変調特性劣化を記録する。コマンド符号の変更で一部解読は回復したものの、項目群を選ぶリレーが応答せず、観測装置の電源を再投入できなかった。
故障原因とその後を分けて記録する
現在のJAXA資料は、放電で電源回路が異常となり、過電圧に弱いトランジスタなどの半導体部品を損傷した可能性を挙げる。運用停止日は1972年8月22日だが、機体が即座に地球へ落ちたわけではない。無制御の楕円周回を続け、近地点側の大気抵抗で長期に軌道を失い、1980年5月19日に再突入した。
- 1972-08-19 11:40 JSTM-4S-4で打上げ鹿児島宇宙空間観測所から75 kgのREXSを長楕円軌道へ送った。
- 同日「でんぱ」と命名軌道投入、第4段分離、アンテナ・磁力計・電子温度センサ伸展を確認。
- 第1〜25周電離層・磁気圏観測プラズマ密度、電子温度、VLF/LF電波、地磁気などを計画どおり受信。
- 1972-08-22 09:04第26周で作動異常電子フラックス測定装置の初回電源投入後、電源・符号化・指令・送信系に異常。
- 1972-08-22観測運用終了観測装置を再投入できず、科学データ取得を停止。
- 1980-05-19大気圏再突入約8年の無制御周回と自然減衰を経て落下した。
03エピソード
正常に始まった全装置が、三日後に共通電源から失われた。その境界を二つの記録で追う。
遠地点6,570 kmへ向かう前に、すべての展開を通す
1972年8月19日11時40分、東京大学宇宙航空研究所はM-4Sロケット4号機で75 kgの「でんぱ」を打ち上げ、近地点250 km・遠地点6,570 kmの長楕円軌道へ投入した。長いアンテナ、磁力計、電子温度センサーを八角柱本体から伸ばす作業は、一本でも失敗すれば粒子・波動・磁場の同時観測が崩れる。運用班は展開を順に確認し、全観測器と太陽電池出力が計画値であることを確かめた。その結果、短い初期運用ながら電離層から磁気圏へ上昇する同じ周回内で、プラズマ密度、電子温度、VLF/LF波動、地磁気分布を対応付けて受信できた。
8月22日09時04分、コマンドが電源系を壊す
打上げ3日後の1972年8月22日09時04分、地上局がコマンドを送ると「でんぱ」からの送信が突然途絶えた。アンテナも観測器も正常で、自然な軌道落下ではなく、指令を契機に全系が沈黙した点が難しかった。調査は、電源回路の放電が過電圧を生み、トランジスターなどの半導体部品を損傷した可能性を示した。運用班はコマンド符号を変えて一部復旧を試みても負荷選択リレーが応答せず、再投入を断念した。機体自体は1980年5月19日まで周回したが、科学運用は3日で終了し、単一電源異常をサージ抑制と系統分離で封じる必要を後続設計へ残した。
04軌道
地球すれすれの近地点250 kmから遠地点6,570 kmへ伸びる161分軌道が、電離層と内部磁気圏を一本の高度断面にした。3日で観測は止まったが、機体は約8年後まで周回を続けた。
- 01長楕円軌道へM-4S-4で250 × 6,570 km、傾斜角31°へ投入された。
- 02展開・確認観測アンテナ、磁力計、電子温度センサを展開し、全観測器を確認した。
- 03高度断面161分ごとに電離層から内部磁気圏まで粒子・波動・磁場をたどった。
- 04第26周電子フラックス測定器の電源投入を境に電源系異常が発生し、観測を失った。
- 05自然減衰制御のない周回を続け、1980年5月19日に大気圏へ再突入した。
05搭載機器
1972年の公式報告が挙げる観測器を、共通の電源・符号器へ並列接続した。
電磁波・プラズマ波測定装置
VLF電磁波の強度スペクトルとLF電波放射を捉える。
プラズマ諸量測定装置
電離層・磁気圏のプラズマ密度を高度方向に測る。
電子温度測定装置
機体から展開したセンサで電子温度を測定する。
電子フラックス測定装置
第26周の初回電源投入を境に衛星の作動が異常となった。
磁場変動測定装置
伸展した磁力計で地球磁場の分布と変動を記録する。
電磁波励起実験装置
軌道上ではおおむね順調に作動したと公式報告に残る。
内部環境・太陽電池計測
衛星内部環境と太陽電池性能を工学データとして監視する。
06設計
八角柱の外周を太陽電池で覆い、電波アンテナ、磁力計、電子温度センサを機体から展開する。粒子・波動・磁場を並列に符号化し、共通の電源とテレメトリで地上へ送った。
75 kgの八角柱を測定基準にする
外周面の太陽電池で発電し、軌道投入後に科学観測アンテナ、磁力計、電子温度センサを機体から伸展した。公式記録は、展開後に全観測器・搭載装置と太陽電池出力が計画どおりであったとする。磁力計や温度センサを構体から離す配置は、機体自身の電磁・熱環境を測定へ混ぜないためである。
粒子・波動・磁場は並列に測る
電磁波・プラズマ波、プラズマ諸量、電子温度、電子フラックス、磁場変動は、互いを順番に通る装置ではない。それぞれのセンサ出力を共通の符号器へ独立に入れ、同じ時刻の高度断面として地上へ送る。内部環境と太陽電池性能の工学計測も、科学データと同じ衛星状態を説明する補助系列だった。
共通電源とコマンドが観測を切り替える
外周太陽電池と蓄電池から電源回路を介して各負荷へ配電し、地上コマンドは受信機と負荷選択リレーを通じて観測器の電源を切り替えた。観測値は符号器のアナログ/デジタルチャンネルでテレメトリ化され、送信機から地上へ戻る。短い運用期間でも、電力・指令・符号化・送信の全経路が一つの観測装置を構成した。
第26周で共通経路へ異常が波及
1972年8月22日09時04分、第26周に電子フラックス測定装置へ初めて電源を投入した後、衛星の作動が異常となった。1972年の公式報告はA/D変換器、コマンド受信、400 MHz送信の劣化を記し、現在のJAXA資料は電源回路の放電と過電圧に弱い半導体の損傷を推定原因としている。電源系の異常が共通の電源・指令・符号化経路へ波及した。
停止後も軌道は続いた
科学データを取得できたのは3日間だったが、衛星本体は近地点の大気抵抗で軌道を少しずつ失いながら周回した。再突入は1980年5月19日である。設計を読むときは、観測成功、共通系故障、その後約8年の自然減衰を別の時間尺度として分ける必要がある。
07写真・図版
実機と観測成果を、出典・ライセンスとともに確認する。


08関連文献
軌道・初期作動・第26周の異常・再突入日を公的記録で照合する。
- 電波観測衛星「でんぱ」
- 第15回宇宙開発委員会 資料2
- M-4S 公式打上げ機資料
- 1972-064A spacecraft record