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// 極域88度まで届く干渉レーダー高度計 · 2010-013A

CryoSat-2
CryoSat-2

CryoSat-2はSIRALレーダー高度計で海氷freeboardと氷床縁の高さを測る。通常の太陽同期を外して南北88°まで届く軌道を選び、2026年も氷に加えて海洋・磁気へ観測価値を広げている。

88
最高到達緯度 度
720
打上げ質量 kg
369
軌道反復周期 日
運用中🌐 European Space Agency氷床・高度観測

01基本情報

運用史と機体仕様を、ミッションの読み解きに必要な単位で整理する。

打上げ日2010-04-08UTC基準の日付
COSPAR ID2010-013A国際標識番号
打上げ機Dneprミッション投入に使用
射場Baikonur Cosmodrome打上げ地点
打上げ質量720 kg公式公表値または代表値
軌道平均高度約717 kmの非太陽同期極軌道369日repeat、30日sub-cycle、南北88°まで
公転・周回周期約99分極域を高密度に交差
軌道傾斜角92°太陽同期より高緯度を優先
設計寿命3.5年(commissioning含む)16年以上運用中
運用状態運用中2026年時点Active、2026–2028延長確認
主目的海氷freeboard、氷床・氷河高度変化のSAR干渉レーダー測定一次資料に基づく要約
データ・通信SIRAL、DORIS、星追跡器、レーザー反射器、X帯downlink運用モードを地表種別に合わせ切替

02ミッション

CryoSat-2は「氷の上までの距離」だけでなく、衛星の位置、二アンテナの向き、反射点の横方向を同時に解いて、海氷freeboardと氷床高度の長期変化へ変換する。

極の近くを測るため太陽同期を外す

平均高度717 km、傾斜角92°の非太陽同期軌道は、南北88°まで毎周到達する。地方太陽時を一定に保つ通常の地球観測軌道より熱・発電条件は厳しいが、極域の未観測域を小さくし、軌道交差を増やせる。369日反復の中に30日サブサイクルを持たせ、同じ地域を異なる交差方向から重ねることが高度変化の基準になる。

地表に合わせ三つのレーダーモードを切り替える

SIRALのLRMは海洋や氷床内部で通常のパルス制限高度計として働く。SARは短い間隔のバーストをDoppler処理し、海氷上で沿軌道約250 mの帯へ分ける。SARInは第二受信アンテナを加え、二つのエコーの位相差から反射方向を求めるため、傾斜した氷床縁でも反射点のずれを補正できる。運用モードは地理マスクと軌道予報から計画される。

距離を地表高へ変える

SIRALの往復時間だけでは地表高にならない。DORISで衛星軌道を精密決定し、レーザー反射器で独立に確かめ、アンテナベンチ直付けの三台の星追跡器で干渉基線の向きを測る。地上処理がレーダー距離、衛星高度、姿勢、伝搬補正を一つの座標系へ統合して、海面・海氷面・氷床面の高さを確定する。

一日の大量データを一局へ返す

観測データは256 Gbitの固体記録器へ蓄え、Kiruna地上局との可視時間に100 MbpsのX帯で送る。S帯のコマンド・状態監視、DORISの精密軌道処理、Kirunaでの科学データ処理、長期アーカイブまでが観測系の一部である。短い通信窓の間も記録と再生を並行できる設計が連続観測を支える。

設計寿命を越えて役割を増やす

2010年の打上げから16年を越えて運用が続く。2023年には窒素推進系の漏れに対応して予備系へ切り替え、2025年末には姿勢制御用磁力計から科学データを生成するソフトウェアを追加した。2026年1月の地磁気嵐ではSwarmを補完する磁場データを取得したが、主目的は今も極域の氷と海洋の高度変化である。

  1. 1999
    Earth Explorerとして選定
    海氷厚と氷床高度変化をレーダー干渉高度計で測る計画が始動。
  2. 2005-10-08
    初代CryoSatを打上げで喪失
    衛星ではなくRockot上段の異常で軌道投入に失敗した。
  3. 2006
    代替機CryoSat-2を承認
    科学目的を継承し、SIRALなどを冗長化した機体を再製作。
  4. 2010-04-08
    Dneprで打上げ
    Baikonurから平均高度約717 km、傾斜角92°へ投入された。
  5. 2010-11
    科学運用開始
    LRM・SAR・SARInの定常観測とデータ配布へ移行。
  6. 2023-11-21
    予備推進系へ切替
    窒素漏れによる寿命短縮を避けるため、未使用だったバックアップ系を起動。
  7. 2025年末
    磁力計ソフト更新
    運用用磁力計から科学品質の新データパケットを生成。
  8. 2026
    16年を越えて観測継続
    氷・海洋に加え、地磁気変動も補完観測する。

03開発・運用エピソード

一度の喪失を再設計で越え、運用中の故障さえ新しい観測へ変えた。

300秒で失った初代を、85項目直してもう一度

2005年10月8日、初代CryoSatを載せたRockotは機上飛行制御から停止指令が出ず、第二段エンジンが燃料切れまで動き続けた。上段と衛星は分離できず、打上げ約300秒後にグリーンランド北方の海へ落下した。それでも氷厚変化を測る科学要求は消えず、ESA加盟国は2006年2月に回復ミッションを承認。単純な複製ではなくソフトウェアや運用を含む85項目を改良し、CryoSat-2は2010年4月8日15時57分CESTにDneprで再打上げ、17分後に分離信号を返した。

13年触れなかった予備配管へ、25分の沈黙を賭ける

2016年に姿勢制御用窒素の微小漏れが見つかり、2023年11月には搭載37 kgのうち約13 kgまで減少。このままなら2025年に任務終了と見積もられた。予備系は13年間一度も使われず、長期休眠による損傷も否定できない。運用班は11月21日10時45分、SvalbardとKirunaの可視時間に弁を開き系統を切替え、次のTroll局まで25分間結果を待った。主系を閉じ、翌日に大型スラスタも確認できたため、保証ではないものの寿命を5〜10年延ばせる可能性が生まれた。

姿勢用磁力計を、16年目に科学装置へ変える

CryoSatの磁力計は本来、衛星の向きを知るための運用センサーで、地球磁場を測る科学装置として校正されていなかった。ところが運用16年目の2025年末、地上からソフトウェアを更新し、Swarm衛星の観測を基準に補正して科学データへ転用した。2026年1月18日のX級太陽フレアから約25時間後、磁場擾乱が始まり3日ほど続いた様子を捉えた。新しいハードウェアを加えず、極域を飛ぶ既存センサーの測定をSwarmの空間的な隙間を埋める観測へ変えた。

04軌道

便利な太陽同期を捨て、南北88°まで届く92°軌道を選んだ。軌道の交差を増やす369日反復と30日サブサイクルが、極域の高さ変化を同じ座標へ重ねる。

CRYOSAT-2 / POLAR ALTIMETRY ORBIT平均高度 717 km 傾斜角 92° 非太陽同期 南北 88° 地球88°N88°S 地表が決める3つの測定LRM / 低分解能モード海洋・氷床内部の通常高度計測SAR / 合成開口処理海氷を沿軌道約250 mの帯へ分離SARIn / 干渉モード氷床縁の斜面で反射方向も測定 軌道を重ねる時間軸1周 約99分30日 sub-cycle369日 repeat右欄は観測幾何の拡大図。
  1. 01高緯度へ一周約99分の同方向周回で南北88°まで到達する。
  2. 02地表を判別地理マスクに従いLRM・SAR・SARInを自動選択する。
  3. 03距離と方向パルス往復時間に、二受信アンテナの位相差を加える。
  4. 0430日で交差別の地表軌跡を積み重ね、極域の高さ分布を密にする。
  5. 05369日で比較反復軌道へ戻り、海氷freeboardと氷床高度の変化を抽出する。
92°非太陽同期軌道周回方向地球と軌道高度は見やすさのため拡大。

05搭載機器

観測目的を、実際に信号へ変えた機器群。

SIRAL

Synthetic Aperture Interferometric Radar Altimeter

Ku帯SAR高度計で氷・海面高さを測定。

DORIS

Doppler Orbitography System

精密軌道決定用Doppler受信機。

LRR

Laser Retroreflector

地上レーザー測距で軌道を検証。

STR

Three Star Trackers

SIRALアンテナベンチ姿勢を高精度決定。

MAG

Platform Magnetometer

姿勢制御用磁場センサー、2025年から科学データも生成。

06設計

測るのは数センチ級の高さ変化。固定太陽電池の屋根、熱安定なSIRALベンチ、そこへ直付けした星追跡器までを一つの測定器として組んだ。

CRYOSAT-2 / MEASUREMENT SYSTEM可動部は推進系の弁を除きほぼゼロ 4.60 × 2.34 × 2.20 m 固定GaAs太陽電池「屋根」電子機器 / ナディア放熱面SIRAL Tx/RxSIRAL RxSTR ×3前端放熱器X帯S帯 電力固定太陽電池 ×2各850 W nominal電力調整・配電Li-ion電池78 Ah共通電力バス 姿勢・軌道制御STR ×3 + DORIS姿勢 / 時刻 / 軌道統合データ処理AOCS computer磁気トルカ主姿勢トルクN₂コールドガス10基 × 10 mNLRRは地上レーザー測距で精密軌道を独立検証 観測 → 記録 → 地上SIRALKu帯 Tx / Rx1 / Rx2LRM・SAR・SARIn科学データ処理エコー + STR姿勢DORIS時刻・軌道Solid-StateRecorder256 GbitX帯送信100 Mbps8.100 GHzKiruna地上局精密軌道と統合氷高プロダクト測定値が成立する条件距離SIRALのパルス往復時間反射方向Rx1/Rx2位相差 + STR基線姿勢衛星位置DORIS精密軌道 + LRR独立検証地表高軌道高度 − レーダー距離 − 補正固定構造は、二アンテナ間の基線と星追跡器の相対姿勢を熱変形から守る。
固定構造、観測、電力、姿勢・軌道制御、記録、通信の実関係を示す静止図。

屋根は発電機であり熱設計

92°の非太陽同期軌道では太陽の入射角が大きく変わる。展開・追尾するパドルを使わず、二枚のGaAs太陽電池を屋根状に固定して、どの太陽角でも必要電力を得る構成にした。可動部を減らすことは、姿勢への外乱と故障点を同時に減らす。

二つの受信アンテナを一枚の基準面へ

SARIn測定では、二アンテナの位相差から反射方向を求めるため、アンテナ間の基線が熱で変形すると高さ誤差へ直結する。SIRALアンテナを熱安定なベンチへ載せ、三台の星追跡器も同じ支持構造へ直接取り付けた。機体姿勢ではなく、観測基線そのものの向きを測る配置である。

ホイールを使わない三軸制御

星追跡器とDORISの情報を統合計算機へ入れ、通常の姿勢トルクは磁気トルカで作る。地磁気と平行な方向には磁気トルカが効かないため、10基の10 mN窒素コールドガススラスタを補助に使う。反作用ホイールを積まない構成も、ほぼ無可動部という方針に沿う。

一局運用を記録器と高速回線で成立させる

SIRALは大量のエコーを生むが、Kiruna地上局との接触は一日の一部に限られる。256 Gbitの固体記録器へ蓄え、100 MbpsのX帯で再生しながら次の観測を記録する。S帯はコマンドと状態監視を担い、科学データ経路とは役割を分けた。

高度は衛星単独では決まらない

SIRALが測るのは衛星から反射面までの距離である。DORISの精密軌道、レーザー反射器による独立検証、星追跡器の基線姿勢を地上で統合して初めて地表高になる。CryoSat-2の設計は、機体から地上処理までを一つの高度計として閉じた。

08関連文献

軌道、観測幾何、CryoSat-2実機の電力・姿勢制御、記録・通信をESA資料で相互照合する。

  • CryoSat — ESA mission
    ESA・目的、打上げ、現行ミッション情報 · 一次資料
  • Satellite / CryoSat’s instruments
    ESA・固定太陽電池の屋根、SIRALベンチ、星追跡器、S/X帯、三モードの測定原理 · 機体 / 観測器
  • CryoSat-2 facts — satellite and launcher
    ESA・720 kg、推進剤37 kg、各850 W、78 Ah、10基×10 mN、256 Gbit · 一次資料
  • CryoSat System — ESA Bulletin 122
    ESA・統合AOCS、固体記録器、X帯100 Mbps、Kiruna一局運用のシステム設計 · 技術資料PDF
  • How does an ice satellite detect a geomagnetic storm?
    ESA・2025年末の磁力計ソフト更新と2026年1月の観測 · 一次資料