// X-ray observatory · JAXA / NASA / ESA · 2023
XRISM
X-RAY IMAGING AND SPECTROSCOPY MISSION
XRISMは、高温プラズマの速度と化学組成をX線で測る天文衛星。銀河団、超新星残骸、ブラックホール周辺のガスを、画像ではなく「線幅」と「エネルギーのずれ」から読む。
01基本情報
失われたHitomiの科学を、より絞った機器構成で取り戻す国際X線天文台。
| 開発・運用 | JAXA NASA、ESA、関係研究機関が協力 |
|---|---|
| 打上げ | 2023年9月7日 08:42:11 JST H-IIAロケット47号機、種子島宇宙センター |
| 状態 | 運用中 NASA ScienceではActive Missionとして扱われる |
| 観測対象 | 高温プラズマ 銀河団、超新星残骸、活動銀河核など |
| 質量 | 約2.3 t |
|---|---|
| 軌道 | 高度550 ± 50 km 軌道傾斜角 約31度 |
| 機器 | Resolve / Xtend 軟X線分光器と軟X線撮像器 |
| 国際標識番号 | 2023-137A |
02ミッション
XRISMが見るのは、宇宙で最も熱く、最も薄く、地上実験室では再現しにくい物質の流れである。
温度ではなく運動を読むX線分光
銀河団の中には数千万度のガスが広がり、ブラックホールの周囲では高速の風が吹く。可視光写真では構造が見えても、その物質がどの元素ででき、どちらへどれだけ速く動いているかは分からない。XRISMはX線のエネルギーを精密に測り、スペクトル線のずれと広がりから速度、温度、化学組成を読み取る。
Hitomiの空白を埋める
2016年のHitomiは短期間ながら、ペルセウス銀河団のガス運動を驚くほど静かに測った。その成果は強烈だったが、ミッションは早期終了した。XRISMは同じ科学的問いを再び追えるように、分光性能を中心に再構成された衛星である。
広視野と精密分光の二段構え
Resolveは小さな視野で非常に精密なX線分光を行い、Xtendは広い視野でX線画像を作る。ひとつは成分を読む顕微鏡、もうひとつは空の地図を描くカメラとして働く。
「色」の精度で宇宙の流れを見る
X線天文学でいう色は、検出器に届く光子のエネルギーである。プラズマ中の鉄や酸素が放つX線スペクトル線は、ガスがこちらへ近づくか遠ざかるかでわずかにずれる。XRISMはこのずれと線幅を使い、銀河団の乱流、ブラックホール周辺のアウトフロー、超新星残骸で元素が広がる過程を読み解く。
大望遠鏡の時代につなぐ橋
XRISMは巨大な次世代X線天文台ではない。けれど、Hitomiで示されたマイクロカロリメータ分光の威力を、実際の天文学コミュニティへ再び戻す役目を担っている。精密分光の対象選び、解析手法、国際共同観測の経験は、将来のAthenaなどへ引き継がれる。
初期成果で何を見せたか
JAXAは2025年に、XRISMの観測に基づくNature論文やブラックホール風の成果を公表している。これはResolveの高分散分光が、銀河団の静かなガスだけでなく、活動銀河核からの高速アウトフローにも効くことを示す。運用中の新ミッションなので数字は更新されるが、精密な線幅とエネルギーシフトで宇宙の流体を測るという主題はすでに実データで走り始めている。
- 2016Hitomi早期終了高分散X線分光の成果を残しつつ、衛星喪失で観測が途切れる。
- 2017XARMとして再始動Hitomi喪失後、JAXA/NASA/ESAで代替機検討が進む。
- 2018XRISM計画へ代替ミッションとしてJAXA、NASA、ESAが協力。
- 2023-09-07打上げ成功SLIMとともにH-IIA F47で打ち上げられ、低軌道へ投入。
- 2023-10初期機能確認ResolveとXtendを段階的に立ち上げ、性能確認観測へ。
- 2024性能検証観測銀河団、超新星残骸、活動銀河核などで初期観測を進める。
- 2025-02Nature論文成果を発表XRISM観測データに基づく初期科学成果が公表される。
- 2025-05ブラックホール風の成果超高速度のアウトフローをXRISMが明らかにしたとJAXAが発表。
- 2025以降初期成果が拡大ブラックホール風や銀河団プラズマの論文が発表される。
03エピソード
XRISMは、失われた観測の続きから再出発した静かなリベンジミッションでもある。
開かない弁を前提に、観測公募を組み直す
XRISMのResolveでは打上げ後、検出器を汚染から守るgate valveを開く操作を複数回試みたが、JAXAが2024年1月10日に公表した時点で開放を確認できなかった。弁が閉じたままでは本来の約0.3〜12 keVのうち軟X線が遮られ、実用帯域はおおむね1.7〜12 keVになる。そこでJAXA/NASAは故障原因を断定して観測を止めず、閉状態の応答ファイルと提案上の注意を公開し、GO Cycle 1をこの構成で実施すると決めた。その結果、失った低エネルギー感度を明示したまま科学観測を始められた。
閉じた弁の向こうで、5 eV未満を測る
JAXAは機器確認中の2023年10月14〜24日にXtendで銀河団Abell 2319を、12月4〜11日にResolveで超新星残骸N132Dを観測した。gate valveのためResolveは約1.8 keV未満を見られない一方、透過する帯域では輝線を分ける能力そのものを検証できる。そこで両機器の初光を別天体で評価し、Xtendの広視野像とResolveの詳細スペクトルを突き合わせた。その結果、Resolveは軌道上で5 eV未満のエネルギー分解能を達成し、弁の制約と分光器本体の性能を混同せず公表できた。
04軌道
高度550±50 km、傾斜角約31度、周期約96分の低軌道。XRISMは天体を見続けられる静止望遠鏡ではなく、地球による遮蔽や放射線環境を避けながら、Resolveの精密分光とXtendの広視野撮像を同時に積み重ねる天文台である。
05搭載機器
軟X線分光器
マイクロカロリメータでX線1個ごとのエネルギーを測り、ガスの速度と元素組成を読む中核装置。
軟X線撮像器
広い視野でX線天体の形と明るさを撮るCCDカメラ。分光観測の文脈を与える。
軟X線望遠鏡
斜入射ミラーでX線を反射し、ResolveとXtendへ集光する。
06設計
XRISMの設計は、華やかな多目的衛星というより、高分散X線分光を確実に成立させるための集中型である。冷却した検出器、X線ミラー、姿勢制御、地上解析系を、Hitomiで得た経験を踏まえて組み直した。観測装置の数は絞られているが、そのぶん「X線の色を精密に測る」という目的が明快になっている。
冷やすことが観測性能になる
マイクロカロリメータは、X線が入った瞬間の温度上昇を測る。だから検出器を極低温に保つ冷却系は、単なる補助装置ではなく観測装置そのものに近い。衛星の熱設計、冷凍機、姿勢制御、観測スケジュールが一体で初めて、数eV級のエネルギー分解能が意味を持つ。
国際分業で成立する天文台
XRISMはJAXAの衛星でありながら、NASAやESA、大学・研究機関の協力で成り立つ。X線望遠鏡、検出器、データ解析、観測提案の仕組みが国境を越えて組まれ、世界の研究者が使う共同天文台として運用される。
ResolveとXtendの役割分担
Resolveは視野が小さい代わりに、数eV級のエネルギー分解能でプラズマの速度を読む。Xtendは38分角級の広い視野で構造全体を写し、Resolveが見た一点を天体の文脈に戻す。片方だけでは、精密だが狭い、または広いが粗い観測になるため、二つの装置は一組で設計されている。
低軌道天文台の運用制約
高度550 km級の低軌道では、地球による遮蔽、南大西洋異常帯、地球縁からの散乱、熱環境の周期変化を避けて観測計画を組む必要がある。観測対象、姿勢変更、冷却系の安定、データ下り回線、地上局パスは一体で管理される。XRISMの科学性能は、検出器だけでなく、低軌道で高分散分光を乱さず続ける運用設計に支えられている。
Hitomiの継承と絞り込み
XRISMはHitomiの完全な再製作ではなく、失われた科学の中核である軟X線精密分光へ機能を絞った再構成である。硬X線系を持たない代わりに、ResolveとXtend、冷却系、姿勢・運用系を確実に成立させ、観測機会を共同利用へ戻すことを優先した。設計の価値は、装置を増やすことではなく、最も重要な測定を壊れにくい形で再開した点にある。
07写真・図版
公式画像と日本語模式図で、精密X線分光の意味を確認する。


08関連文献
新しい運用中ミッションのため、公式一次資料と最新プレプリントを併用する。査読出版済みDOIは確認でき次第、追加対象とする。
- JAXA XRISM project page
- XRISM official project site
- Xtend, the Soft X-ray Imaging Telescope for XRISM
- Status of Xtend telescope onboard XRISM
- Optimization of x-ray event screening using ground and in-orbit data for Resolve