// Outer planets and interstellar mission · NASA/JPL · 1977-084A
ボイジャー1号
VOYAGER 1
ボイジャー1号は、木星と土星を駆け抜け、太陽圏の外へ出た人類最遠の探査機。1977年の電子機器が、半世紀近く経っても恒星間空間から信号を返している。
01基本情報
もとは木星・土星フライバイ機。いまは太陽圏の外側を測る唯一級の恒星間探査機である。
| 開発・運用 | NASA / Jet Propulsion Laboratory |
|---|---|
| 打上げ | 1977年9月5日 Titan IIIE-Centaur, Cape Canaveral |
| 状態 | 拡張ミッション中 |
| 主目標 | 木星、土星、タイタン、太陽圏外縁、恒星間空間 |
| 電源 | RTG 放射性同位体熱電発電機 |
|---|---|
| 通信 | 3.7 m高利得アンテナ / X帯 |
| 軌道 | 太陽脱出軌道 |
| 搭載物 | 科学機器群 / ゴールデンレコード |
02ミッション
惑星直列に近い機会を使って、外惑星を短時間で巡る。ボイジャー1号はその後、太陽圏の境界を測る長い第二のミッションへ入った。
グランドツアーの子ども
1970年代後半、外惑星を重力アシストで連続訪問しやすい配置が訪れた。ボイジャー計画はこの機会を使い、木星と土星を近距離から観測した。ボイジャー1号は特に土星の衛星タイタンへ接近する軌道を選び、その代わりに天王星・海王星へ向かう道は閉ざされた。
惑星探査から恒星間探査へ
木星と土星のフライバイ後、探査機は太陽から離れ続けた。太陽風が星間物質とぶつかる境界へ近づき、2012年に太陽圏の外側、恒星間空間へ到達したとNASAは説明している。もはや惑星を撮る探査機ではなく、太陽が宇宙に作る泡の外を測る測定器になった。
電力を削りながら生き延びる
RTGの出力は時間とともに下がる。運用チームはヒーターや機器を順番に止め、科学的価値を最大化するように電力を配分してきた。2026年4月にはNASAが、ボイジャー1号の機器を一つ停止し、なお2つの科学機器が稼働していると発表した。
地球から遠すぎる管制
通信は光速でも片道で長い時間がかかる。コマンドを送っても返事はすぐ来ない。古いコンピュータ、限られた電力、巨大な距離の組み合わせは、近代的な宇宙機運用とは別種の忍耐を要求する。
長寿命運用が科学になる
ボイジャー1号では、機器を動かすこと自体が年々難しくなる。RTG出力の低下、メモリの制約、姿勢制御用推進剤、地上側DSNの感度が、どの観測を残すかを決める。ミッション後半の科学は、電力配分の判断と不可分である。
恒星間空間では画像ではなく、粒子、磁場、プラズマ波のような環境測定が主役になる。惑星探査機として作られた機体が、太陽圏の境界を越えた物理観測所へ役割を変えた点が重要である。
- 1977-09-05打上げボイジャー2号より後に打ち上げられたが、より速い軌道へ。
- 1979-03-05木星フライバイ巨大惑星と衛星系を近距離観測。
- 1980-11-12土星・タイタン接近タイタン観測を優先し、太陽系外へ向かう軌道へ。
- 1990-02-14太陽系家族写真Pale Blue Dotを含む一連の画像を撮影し、惑星撮像機器を停止する節目になった。
- 2004ヘリオシースへ接近太陽風が星間物質と相互作用する外縁領域の観測へ重点が移った。
- 2012-08-25恒星間空間へ人類初の恒星間探査機となる。
- 2026電力節約のため機器停止残る科学観測を延ばすため、NASAは一部機器を停止する運用判断を行った。
03エピソード
ボイジャー1号の面白さは、設計寿命を超えた長寿だけでなく、選ばなかった未来まで見えることにある。
タイタンを選び、二つの惑星を手放す
NASA/JPLは1万通りを超える外惑星軌道を比較した末、Voyager 1に土星最大の衛星Titanへの近接観測を優先させた。厚い大気を詳しく測るには土星通過時の位置を厳密に固定する必要があり、その重力アシストは探査機を黄道面の北へ曲げ、天王星・海王星へ続く道を閉じる。1980年11月のTitan接近で大気と表面を覆う霞を観測できた一方、残る二惑星はVoyager 2へ託された。観測対象を一つ深く選ぶ判断が、双子機のその後を分けた。
最後の34分を、地球へ振り向ける
惑星探査を終えた1990年2月14日、NASA/JPLはVoyager 1を約60億km先から太陽系内側へ振り向け、60枚で「Family Portrait」を撮る指令を実行した。太陽近くへカメラを向ける危険と、限られた電力・データ容量に対し、地球を含む6惑星を分割撮像した。04時48分GMTにPale Blue Dotを露光し、34分後の05時22分には電力節約のためカメラを永久停止した。データはDeep Space Networkの4回の受信を経て5月1日に揃い、最後の撮像が最も遠い地球像になった。
2013年のプラズマ音で、2012年の境界を決める
Voyager 1ではプラズマ科学装置が1980年から使えず、2012年に宇宙線や粒子が急変しても太陽圏界面を越えたか即断できなかった。NASA/JPLは磁場だけで結論を急がず、2013年4月9日に太陽フレア由来の衝撃波が周囲のプラズマを振動させた「音」から電子密度を求めた。密度が太陽圏鞘の40倍以上と分かり、以前の振動まで遡って比較した結果、越境日は2012年8月25日と判定された。後日の物理量が、9か月前の出来事を確定した。
壊れた記憶領域を避け、コードを分割する
2023年11月、Voyager 1は飛行データ系FDSから解読不能な反復列だけを返し、工学状態を読めなくなった。2024年3月のメモリ読出しから、NASA/JPLはFDSコードの一部を持つ単一チップ故障を特定したが、残るどの領域にも失ったコードを丸ごと置く余裕がない。そこでコードを複数箇所へ分け、参照先も書き換えて4月18日に送信した。その結果、4月20日に約5か月ぶりの工学データを受信できた。ここで述べる復旧はNASAが4月22日に確認した実績までで、その後の状態は推測していない。
04軌道
Titanを詳しく見る進入角は、そのまま次の行き先を決めた。地球から木星、Titan・土星をかすめ、黄道面の北へ離脱して太陽圏の二つの境界を越えるまでを一本の時間軸で追う。
- 01地球 → 木星より速い軌道で先発の2号を追い越し、木星重力で土星へ。
- 02Titanを選ぶ濃い大気を4,034 miまで接近観測。その進入角が以後の軌道を固定した。
- 03北へ離脱土星通過後は黄道面から北へ約35°。天王星・海王星への道はここで閉じた。
- 04星間空間2004年にtermination shock、2012年にheliopauseを通過。捕獲周回はない。
一次資料: NASA Voyager 1 / NASA Planetary Voyage / NASA Titan・土星遭遇史 / NASA Interstellar Mission
05搭載機器
惑星遭遇用の画像・分光装置から、星間空間を測る磁場・プラズマ波装置へ。NASAの2026年4月17日更新を基準に、残る2実験と停止済み装置を分けて示す。
Magnetometer
約13 mブーム先端で機体磁場を避け、星間磁場の強度と方向を測定。2026-04-17時点で稼働中。
Plasma Wave Subsystem
V字アンテナで10 Hz〜56 kHzの電場変動を検出し、停止したPLSに代わって星間プラズマ密度を読む。
Low-Energy Charged Particles
低エネルギーのイオン・電子と圧力前線を約49年観測。電力節約のため2026年4月17日に停止。
Cosmic Ray Subsystem
銀河宇宙線と太陽圏粒子のエネルギー・組成を測定。2025年2月25日に電力節約で停止。
Imaging Science System
広角・狭角ビジコンカメラで木星、土星、Titanを撮像。太陽系家族写真後の1990年2月14日に停止。
Plasma Science
低エネルギープラズマの速度・密度・温度を直接測定。性能劣化により2007年2月1日に停止。
Infrared / Ultraviolet Spectrometers
大気の温度・組成と紫外放射を観測。IRISは1998年、UVSは2016年に電力節約で停止。
Radio Astronomy / Photopolarimeter
惑星電波と散乱光・偏光を測定。PPSは1980年に性能劣化、PRAは2008年に電力節約で停止。
稼働状況の基準日: 2026-04-17。一次資料: NASA Instrument Status / NASA LECP停止発表
06設計
2026年のVoyager 1は「全部が動く探査機」ではない。減り続けるRTG電力を、姿勢・通信・二つの科学実験へ通し、故障した記憶領域や詰まりつつある推進系を地上の手順で迂回する、生存経路だけを残したシステムである。
現況基準日: 2026-04-17。一次資料: NASA Spacecraft / CCS・AACS・FDS・RTG・HGA / NASA 電力・稼働2実験 / JPL FDS復旧 / JPL rollスラスタ再起動 / JPL DESCANSO通信設計
二つの観測を送るまでが「稼働」
2026年4月17日時点で科学観測を続けるのはMAGとPWSだけだ。しかし両機器だけに電力があっても科学は成立しない。FDSがデータを整形し、RFS/TMUがX帯へ載せ、AACSとスラスタが3.7 m HGAを地球へ向け続けて初めて、片道約23時間先のDSNへ届く。残すべき負荷は二つの装置より大きい。
FDSは壊れた場所を使わず復旧した
2023年11月から読めるデータを返せなくなった原因は、FDSメモリの一部を担う単一チップだった。交換はできないため、地上チームは失われたコードを空いている複数領域へ分け、参照先も書き換えた。2024年には工学・科学データが復旧した。冗長化だけでなく、記憶配置を半世紀後に変更できることが実際の回復力になった。
姿勢スラスタは通信装置でもある
ヒドラジン配管にはタンク内ダイヤフラム由来の二酸化ケイ素が蓄積し、噴射効率が落ちている。AACSは複数のスラスタ枝を切り替え、微小パルスでHGAを地球へ保つ。2025年3月には2004年以来使えなかった主rollスラスタのヒーター回路を復活させた。推進系の延命は速度を稼ぐためではなく、通信を失わないためである。
毎年約4 W減る電力が構成を変える
3基のMHW-RTGは打上げ時に各約158 Weを生んだが、現在も1年あたり約4 Wずつ供給能力が減る。CRSを2025年、LECPを2026年に停止したのは、MAG・PWSだけでなく計算機、送信機、姿勢系、凍結を防ぐ熱を残すためだ。Voyager 1の現在形は、停止した機器を含めた負荷遮断の順序そのものである。
07写真・図版
NASA/Commons画像で、惑星フライバイ成果と太陽系を振り返った画像を確認する。


08関連文献
ボイジャー1号の現在状態はNASA/JPL公式資料で確認するが、木星遭遇と恒星間空間到達はDOI付き論文で読むべき成果である。ここでは恒星間到達を中心に置く。
- Voyager 1 Observes Low-Energy Galactic Cosmic Rays in a Region Depleted of Heliospheric Ions
- In Situ Observations of Interstellar Plasma with Voyager 1
- Search for the Exit: Voyager 1 at Heliosphere's Border with the Galaxy
- Magnetic Field Observations as Voyager 1 Entered the Heliosheath Depletion Region