// 宇宙実験室 · 2011-053A
天宮1号
Tiangong-1
神舟宇宙船との自動・手動ランデブーを検証した中国初の軌道実験室。神舟8・9・10号を受け入れ、後の天宮宇宙ステーションに必要な接近運用を確立した。
01基本情報
打ち上げ、機体、軌道、運用の主要諸元。数値だけでなく任務上の役割を併記する。
| 開発・運用 | 中国 CMSA / CNSA |
|---|---|
| 打ち上げ | 2011年09月29日 Jiuquan |
| ロケット | Long March 2F/G |
| 国際標識 | 2011-053A |
| 状態 | 運用終了 |
| 質量 | 約8,506 kg |
|---|---|
| 軌道・航路 | 低軌道ランデブー・ドッキング |
| 電源 | 太陽電池 |
| 設計形式 | single-port-lab |
| 主要目標 | 自動・有人ドッキングと短期滞在 |
02ミッション
自動・有人ドッキングと短期滞在を、要求・機体・軌道・運用判断・遺産の五層から読む。
何を変えるための飛行だったか
宇宙ステーション建設前に、標的機への自動・手動接近、ドッキング、短期滞在、複合体の姿勢制御を段階実証することが使命だった。 Tiangong-1を理解する出発点は、打ち上げ年や機体サイズではなく、当時まだ測れなかった量、成立していなかった運用、あるいは越えられていなかった距離を特定することにある。中心課題は「自動・有人ドッキングと短期滞在」。その要求は観測装置だけで完結せず、軌道、電力、通信、熱、地上系を同時に縛った。
代表値の3 機(訪問した神舟)、2 回(有人滞在)、6.4 m³(居住容積)は、単なる記録ではない。どの局面へ設計余裕を配分したかを示す手掛かりである。神舟宇宙船との自動・手動ランデブーを検証した中国初の軌道実験室。神舟8・9・10号を受け入れ、後の天宮宇宙ステーションに必要な接近運用を確立した。 本ページでは成果だけでなく、その成果を可能にした判断の連鎖まで追う。
要求を機体へ落とし込む
小径の資源区画と大径の実験区画から成り、前端に一基のドッキングポート、側面に二枚の太陽電池翼、後部に推進・電力・熱制御系を持った。 機体は約8,506 kg、電源は太陽電池。主要構成のAPAS(前部ドッキング機構)、LAB(実験・居住区画)、RESOURCE(資源区画)は独立した部品ではなく、観測または運用の要求をデータへ変え、保存し、地上へ渡す一本の経路を作る。SOLAR(二枚太陽電池翼)はその途中で姿勢・環境・相対位置の条件を整える。
さらにGNC(相対航法系)とPROP(推進系)を組み合わせることで、一つの故障がただちに全任務へ波及しないよう機能を分担した。重量や消費電力を増やせば安全になるとは限らず、打上げ能力、放熱面積、指向精度、通信時間との交換になる。Tiangong-1の設計は、限られた資源を任務の決定的瞬間へ集中させた結果として読むべきである。
軌道は移動経路ではなく実験装置
無人の神舟8号が二度の自動ドッキングを行い、神舟9号では乗員が手動ドッキングを実施。神舟10号は再び自動で結合し、軌道上授業も行った。 有人会合では、低い追跡軌道の方が速く進むという軌道力学を使い、位相を合わせながら高度を段階的に上げる。最終接近では保持点ごとに相対速度、姿勢、通信、退避経路を確認し、結合後は二機を一つの剛体として制御する。図では追跡軌道、接近弧、目標機を分け、機体が接近弧を実際に通る。帰還を伴う飛行では、離脱と逆噴射から再突入回廊までを別経路で示す。
打上げにはLong March 2F/Gを使い、Jiuquanから低軌道ランデブー・ドッキングへ入った。2011-11の「神舟8号結合」から2018-04の「再突入」まで、軌道変更は観測の前準備ではなくミッションそのものだった。下のアニメーションでは、主要天体の運動、遷移航路、目的地近傍の運用を意図的に別速度で示している。
運用現場で何を判断したか
一基しかないポートで接近船を安全に受け入れるため、地上追跡、相対航法、衝突回避、結合後の質量特性切替を一連の運用として検証した。 実際の運用では、取得したテレメトリを正常・異常の二値に分けるだけでは足りない。姿勢誤差、電池残量、温度、通信余裕、推進剤、次の可視時間を並べ、今すぐ続行する価値と安全側へ戻る価値を比較する。自動シーケンスは通信遅延を埋める一方、誤った前提のまま進む危険も持つため、停止条件と地上復帰点が設計された。
初の有人・手動ドッキング。 この一局面を成立させたのは、個別装置の性能より、時刻基準と状態遷移を全系で共有したことだった。観測機なら較正と指向、通信衛星なら回線と姿勢、有人機なら生命維持と退避経路、探査機なら自律航法とセーフモードが判断軸になる。Tiangong-1の運用史は、設計図では見えない余裕の使い方を記録している。
残ったデータと設計遺産
約4年半の制御運用後に通信を終え、2018年に制御不能状態で再突入した。得られた結合・滞在・管制経験は天宮2号と大型ステーションへ継承された。 成果は発表時の新規性だけでなく、後年の再解析、後継機との比較、規格や訓練の変更に耐えるかで価値が決まる。Tiangong-1が残したものは、観測値、運用ログ、軌道決定値、故障時の判断、製作試験の記録を結び付けた参照系である。
後継計画は同じ機体を再現するのではなく、APAS(前部ドッキング機構)で得た能力を更新し、GNC(相対航法系)で見えた制約を別の技術で解く。成功した任務も、終了・失敗した任務も、どの前提が正しくどの余裕が不足したかを具体化した点で次の設計に効く。一次資料とアーカイブを併記したのは、物語だけでなく検証可能な記録へ戻れるようにするためである。
ESA — Tiangong-1 mission and re-entry FAQ、NASA Technical Reports Server、ESA — Tiangong-1 re-entry confirmationを突き合わせると、2011年09月29日の打上げから2018-04の「再突入」までが、単なる出来事の列ではなく、要求、実装、軌道上判断、成果公開の因果関係として読める。本文では確定した事実と後年の評価を混同せず、数値には対象と条件を添えた。図も同じ原則で、距離や天体寸法を実寸比例にはせず、自動・有人ドッキングと短期滞在に必要だった遷移、会合、観測区間の順序を優先している。したがってTiangong-1の価値は「飛んだか」だけではなく、どの設計仮説が実運用で支持され、どの不確かさが次の計画へ持ち越されたかまで追跡して初めて見えてくる。
- 開発期設計と訓練宇宙ステーション建設前に、標的機への自動・手動接近、ドッキング、短期滞在、複合体の姿勢制御を段階実証することが使命だった。
- 2011-09-29打ち上げLong March 2F/Gで低軌道ランデブー・ドッキングへ出発。
- 2011-09-29初期機能確認前部ドッキング機構と実験・居住区画を立ち上げ、電力・熱・通信・姿勢の基準状態を確立。
- 2011-11神舟8号結合中国初の自動宇宙ドッキング。
- 2012-06神舟9号滞在初の有人・手動ドッキング。
- 2018-04再突入南太平洋上空で運用を終えた。
- 飛行後成果の継承約4年半の制御運用後に通信を終え、2018年に制御不能状態で再突入した。得られた結合・滞在・管制経験は天宮2号と大型ステーションへ継承された。
03開発・運用エピソード
成果の背後にあった判断、制約、故障対応を一次資料へ戻れる形で記録。
夜側で成功した自動dockを、太陽光の中でもう一度試す
神舟8号と天宮1号の初回dockは2011年11月3日01時36分、光学sensorへ太陽光が入らない地球夜側で行われた。これだけでは有人船が任意の照明条件で接近できる証明にならない。再試験前の13日22時37分、天宮1号は軌道を乱すengineではなくmomentum wheelでyawを180度変え、14日20時ごろの昼側で神舟8号を受け直した。中国有人航天工程の公式記録では、強い迷光を避けるsoftware調整を加えて二度目も成功。最初の安全条件を守るだけでなく、次の神舟9・10号に必要な昼夜両条件へ試験範囲を広げた。
140 mで自動制御を切り、人の手で最後の7分を閉じる
2012年6月24日11時12分、神舟9号は天宮1号から分離し、約400 m後方へ退いた。自動dockだけではsensorやsoftware異常時の有人backupを実証できないため、12時38分、距離140 mで劉旺が手動制御を引き継いだ。相対速度と姿勢を合わせ、12時48分に接触、捕獲・緩衝・修正・引寄せ・剛結合を経て12時55分に完了したと中国有人航天工程は報告した。乗員が近距離の並進と回転を処理できた結果、6月18日の自動dockと対になる冗長な接近手段が実飛行で確認された。
制御再突入の計画を失い、最後の一周を13組織で絞る
中国側は2016年3月21日、天宮1号が打上げから1,630日で機能を失い、data serviceを終えたと発表した。UNOOSAへの通知でも3月16日の機能停止が記録され、予定していた制御再突入は実行できなくなった。残存寿命の予測誤差は一週間前でも約20%あり、ESAを含むIADCの13組織がradarと追跡値を共有した。TIRAは2018年4月1日に高度161 kmで機体を捉え、ESAは4月2日02時16分CEST、南緯13.6度・西経164.3度付近の再突入を独立に確定。国家発表だけでなく国際追跡で終端を閉じた。
04軌道・遷移
有人会合では、低い追跡軌道の方が速く進むという軌道力学を使い、位相を合わせながら高度を段階的に上げる。最終接近では保持点ごとに相対速度、姿勢、通信、退避経路を確認し、結合後は二機を一つの剛体として制御する。図では追跡軌道、接近弧、目標機を分け、機体が接近弧を実際に通る。帰還を伴う飛行では、離脱と逆噴射から再突入回廊までを別経路で示す。
- 01設計と訓練開発期 · 宇宙ステーション建設前に、標的機への自動・手動接近、ドッキング、短期滞在、複合体の姿勢制御を段階実証することが使命だった。
- 02打ち上げ2011-09-29 · Long March 2F/Gで低軌道ランデブー・ドッキングへ出発。
- 03初期機能確認2011-09-29 · 前部ドッキング機構と実験・居住区画を立ち上げ、電力・熱・通信・姿勢の基準状態を確立。
- 04神舟8号結合2011-11 · 中国初の自動宇宙ドッキング。
- 05神舟9号滞在2012-06 · 初の有人・手動ドッキング。
- 06再突入2018-04 · 南太平洋上空で運用を終えた。
- 07成果の継承飛行後 · 約4年半の制御運用後に通信を終え、2018年に制御不能状態で再突入した。得られた結合・滞在・管制経験は天宮2号と大型ステーションへ継承された。
05主要機器・サブシステム
任務を実際に成立させた六つ以上の固有コンポーネント。
前部ドッキング機構
神舟を捕捉・剛結合。他系統の時刻・姿勢・電力情報と結合して運用される。
実験・居住区画
乗員活動と実験を収容。他系統の時刻・姿勢・電力情報と結合して運用される。
資源区画
推進剤・電力・熱機器を搭載。他系統の時刻・姿勢・電力情報と結合して運用される。
二枚太陽電池翼
複合体へ電力供給。他系統の時刻・姿勢・電力情報と結合して運用される。
相対航法系
接近船と姿勢・距離情報を交換。他系統の時刻・姿勢・電力情報と結合して運用される。
推進系
軌道維持と結合後姿勢制御。他系統の時刻・姿勢・電力情報と結合して運用される。
06設計
天宮1号は、宇航員が滞在する密閉式の実験舱と、推進・電力・姿勢制御を担う資源舱の2舱構成。実験舱前端の受動ドッキング機構と交会測量装置、資源舱の太陽電池翼と推進器、Shenzhouとの結合構成を実機の位置で読む。
作図根拠: CNSA — Tiangong I spacecraft / CNSA/CMSA — 天宮一号 / CNSA — Tiangong I / Shenzhou VIII docking
2舱で役割を分ける
実験舱は乗員の活動空間と科学・技術実験を受け持つ。資源舱は非密閉の機器舱として、発電、蓄電、推進、姿勢制御を担う。
ドッキング試験のための前端
実験舱前端に受動ドッキング機構、交会測量協力目標、通信装置を集約した。Shenzhouは自律接近し、捕捉、緩衝、引き寄せ、剛結合を経て密閉移乗通路を形成する。
太陽電池と推進は資源舱に集約
2枚の太陽電池翼が天宮1号と結合中のShenzhouへ電力を供給する。後端の推進器は軌道維持と姿勢制御を行い、実験舱の居住容積を機器から分離する。
07写真・図版
出典とライセンスを画像ごとに記載。機体・運用・成果を異なる視点から確認する。
![天宮1号に関するen:Tiangong-1 final orbit, using JPL Horizons ephemeris, earth map [1] . Live IR cloud data from http://www.ssec.wisc.edu/data/comp/ir .](https://commons.wikimedia.org/wiki/Special:FilePath/Tiangong%201-finalorbit.png?width=1600)

08一次資料・技術文献
仕様、軌道、運用史、データへ戻るための代表的な入口。