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// Surface Water and Ocean Topography · NASA/CNES · 2022-173A

SWOT
SURFACE WATER AND OCEAN TOPOGRAPHY

地球のすべての水面の「高さ」を測る、史上初の全球水面測量衛星。 10mのブームの両端に載せたKa帯干渉レーダで、海の渦から名もない川や湖の水位まで、 これまで線でしか測れなかった水面を「面」として地図にする。

120km
1度に測れる観測幅(従来は直下の線のみ)
10m
干渉計の基線 — 宇宙で開いた「物差し」
100m〜
水位を測れる川幅(要求値)
運用中 🌐 NASA/JPL・CNES(+CSA・UKSA) 水循環・海洋観測

01基本情報

海洋学と陸水学をひとつの衛星でつなぐ、日米欧加英の国際共同ミッション。

開発・運用NASA/JPL・仏CNES カナダCSA(KaRIn送信管)・英UKSAも機器を分担
打上げ2022年12月16日 Falcon 9、米ヴァンデンバーグ宇宙軍基地
構想の起点2007年 米地球科学デカダルサーベイ 海洋・陸水の2分野が広域高度計を勧告。打上げまで15年
現在の状態運用中 2023年7月から21日回帰の科学軌道で本観測
国際標識番号2022-173A
設計寿命3年(要求)・5年分の推進剤を搭載
質量約2,000 kg(打上げ時)
寸法展開時 約5.0×10.6×1.5 m KaRInマスト全幅10 m、太陽電池パドル約35 m²
発生電力約2 kW バッテリ320 Ah、データレコーダ2.3 TB
バスCNES提供(タレス・アレニア・スペース製) ペイロードモジュールはNASA/JPL
軌道高度890.5 km / 傾斜角77.6° 非太陽同期円軌道・21日回帰(校正期は1日回帰軌道)
主機器KaRIn(Ka帯干渉レーダ) 35.75 GHz・ピーク送信1,500 W・観測幅120 km

02ミッション

「地球の水はどこに、どれだけあり、どう動いているか」。 この単純な問いに、人類は打上げ前まで観測でまともに答えられなかった。 SWOTの仕事は、水の会計簿を宇宙から初めて全球でつけることである。

水面の「高さ」がすべてを語る

水面の高さは、ただの数字ではない。海面のわずかな盛り上がりや傾きは海流と渦の存在そのものであり (海水は高いところから低いところへ地衡流として流れる)、川の水面勾配は流量を、湖の水位変化は貯水量の増減を語る。 つまり高さを測ることは、水の動きと量を測ることだ。SWOTはこの1つの物理量——水面高度——を、 海と陸の区別なく数cm〜10cm級の精度で測ることに全てを賭けた衛星である。

「線」の30年から「面」へ

1992年のTOPEX/Poseidon以来、衛星高度計は海面の高さを測り続けてきたが、測れるのは衛星直下の細い1本の線だけ。 測線の間隔は赤道付近で数百kmも空き、その隙間にある中規模の渦や、そもそも細長い川は捉えられなかった。 SWOTのKaRInは左右あわせて幅120 kmの帯を一度に測量し、海面では15〜20km規模の小さな渦まで解像する。 海洋のエネルギーの大部分はこうした小さな渦が運んでいると考えられており、気候モデルが「見ずに推定してきた」領域に、 初めて実測の目が届いた。

視差で高さを測る — 干渉計の原理

広い帯の高さを測る種明かしが干渉計だ。10mブームの両端にあるアンテナから同じ地点のレーダ反射を受けると、 2つのアンテナまでの距離にごくわずかな差が生じる。この差(位相差)は水面までの角度、すなわち高さの関数になる—— 人間が両目の視差で奥行きを知るのと同じ理屈である。周波数35.75 GHz(Ka帯)という高い電波を使うのは、 波長が短いほど同じ基線で角度分解能が稼げるからで、10mの基線と890kmの高度から水面高度をcm級で割り出す。

世界中の川と湖を、初めて同じ物差しで

陸側の目標は、幅100m以上のすべての川と、250m四方以上のすべての湖沼・貯水池の水位・水面勾配を 繰り返し測ること(要求値。目標はさらに小さい水体まで)。地上の水位計は先進国の大河川に偏り、 アフリカや高緯度の流域はほぼ空白だった。国境をまたぐ川の水利データは政治的に共有されないことも多い。 宇宙からの一律測量は、水文学のデータ地図を書き換えると同時に、「誰の許可もいらない水の観測」という 新しい公共財でもある。

動き出した成果

2023年夏からの観測で、海面ではこれまで見えなかった微細な渦や内部波の「面」の姿が続々と得られ、 陸ではユーコン川のような大河から無名の湖まで水位の時系列が蓄積し始めた。 河川流量の全球推定、氷河湖の決壊監視、高潮・洪水の事後解析など応用は拡大中で、 フィヨルドの奥の異常な水面傾斜から「9日間地球を揺らした謎の信号」の実体を捉えるという 予想外の仕事までやってのけた(エピソード参照)。

  1. 2007
    米デカダルサーベイが勧告
    海洋学と水文学、2つの分野がそれぞれ広域高度計を要望し、1つのミッションに統合される。
  2. 2022-12-16
    打上げ
    Falcon 9でヴァンデンバーグから。NASA/CNES協力の高度計シリーズの集大成。
  3. 2023-01
    KaRInマスト展開
    数日がかりで10mブームと両端のアンテナを展開。
  4. 2023-01末
    KaRIn停止
    主機器の高出力増幅系に異常。観測開始前に心臓が止まる。
  5. 2023-03
    予備系で復旧
    冗長ユニットへの切替に成功し、試験観測へ復帰。
  6. 2023-07
    科学軌道で本観測開始
    1日回帰の校正軌道から、高度890.5km・21日回帰の科学軌道へ移行。
  7. 2024-09
    「9日間の震動」解明に関与
    グリーンランドの地滑り津波をめぐるScience論文が話題に。
  8. 2025-05
    セイシュの直接観測を発表
    SWOTのフィヨルド水面観測が「誰も見ていない津波」を実測で裏付けた(Nature Communications)。

03エピソード

15年待った衛星は、打上げ1ヶ月で止まり、そして誰も見たことのない現象を最初に「見た」。

打上げ1ヶ月で、心臓が止まった

2023年1月中旬、チームはKaRInを初めてフル起動した。ところが同月末、電波を生み出す高出力増幅サブシステムに異常が発生し、KaRInは停止。構想から15年、これがなければただの高度計衛星になる主機器である。原因究明の末、チームは3月に冗長系(予備ユニット)への切替を実行し、KaRInは復活した。「主装置には必ず予備を積む」という伝統的な冗長設計が、量産衛星時代にも一点物の科学衛星を救うことを見せつけた1ヶ月半だった。

「9日間地球を揺らした信号」を見ていた唯一の目

2023年9月、世界中の地震計が周期92秒の謎の振動を9日間も記録し続けた。2024年のScience論文が「グリーンランドのディクソン・フィヨルドで起きた地滑り津波が、狭い入り江の中で往復し続けた(セイシュ)」と突き止めたが、現場を見た者はいない。ここでSWOTが決定打を出す。たまたまフィヨルド上空を通過した際の広域水面測量に、入り江の中で水面が傾いたまま揺れ続ける様子が写っていたのだ。幅数kmのフィヨルド内部の水面勾配など、従来の衛星には測る手段すらなかった——「面で水を測る」能力が、地球物理の未解決事件の物証を出した。

宇宙で10mの物差しを開く

KaRInの2つのアンテナは、グラファイト複合材のマストで左右5mずつ張り出した先端に付いている。干渉計は「2つの目の間隔」が狂えば高さの答えがそのまま狂うため、この10mの展開構造物には、打上げの振動に耐えて開き、その後は熱変形すら許されないという矛盾した要求が課された。打上げ後、マストは数日がかりで慎重に展開され、地上のチームはその一部始終をテレメトリで見守った。折り畳み傘のように開いた棒の先で、cm級の測量が成立している。

別々の学会が、同じ衛星を要求した

2007年の米デカダルサーベイ(10年ごとの優先ミッション勧告)で、海洋学者は「海の小さな渦を測る広域高度計」を、水文学者は「川と湖の水位を測る広域高度計」を、それぞれ別々に要望した。技術の中身がほぼ同じだと気づいた両者は、縄張りを争う代わりに1機に相乗りする道を選ぶ。以来15年、SWOTは2つの学問分野が観測要求のすり合わせから運用まで共同で作り上げた稀有なミッションになった。「海と陸の水を同じシステムとして見る」という現在の水循環科学の視点は、この妥協と共闘の産物である。

04軌道

高度890.5 km・傾斜角77.6°の非太陽同期円軌道。下図は地球と軌道を同一縮尺で描いた図(衛星アイコンのみ誇張)。 21日でほぼ全世界の水面を測り終える回帰軌道で、打上げ直後の校正期には「毎日同じ場所に戻る」1日回帰軌道を使った。 あえて太陽同期にしないのは、潮汐の信号を1日の同じ時刻に固定させないためである。

EARTH ALT 890.5 km INC 77.6 DEG NON-SUN-SYNC 120 km SWATH PERIOD ~112 MIN / 21-DAY REPEAT CYCLE
円軌道(地球と同一縮尺) KaRInの観測帯(足元の120 km) 衛星アイコンのみ誇張

05搭載機器

主役の干渉レーダに、30年物の高度計技術と精密軌道決定の全部盛りを組み合わせた「測量システム」。

KaRIn

Ka帯レーダ干渉計

本機の存在理由。35.75 GHz・ピーク送信1,500 W。10m基線の両端で反射波を受け、位相差から幅120 kmの水面高度地図を作る世界初の装置。

POS-3C

Poseidon-3C 直下高度計

TOPEX/Poseidon以来の系譜を継ぐC/Ku帯高度計。30年続く海面高度の連続記録とSWOTを接続する「換算の基準」。

AMR

マイクロ波放射計

大気中の水蒸気は電波を遅らせ、高度をcm単位で狂わせる。その遅延を測って補正する縁の下の装置。

DORIS

ドップラー軌道決定系

世界中の地上ビーコン網の電波から衛星位置をcm級で決定。CNESの高度計ミッション標準装備。

GPSP

GPS受信機

DORISと独立に精密軌道を決めるもう一つの目。高度計の精度は「自分の位置の精度」で頭打ちになる。

LRA

レーザ反射鏡

地上からのレーザ測距に応える受動反射鏡。軌道決定の最終検証用。

06内部設計・バス構成

仏のバスに米の干渉計を載せ、送信管はカナダ、部品は英国。高度計ミッション30年の国際分業がそのまま機体構成になっている。

KaRIn電子機器 高出力増幅系(冗長) バス(CNES/TAS) SSR 2.3 TB 直下高度計/AMR KaRInアンテナ(左) KaRInアンテナ(右) 10mマスト(グラファイト複合材) 太陽電池 約35 m² / 2 kW 直下視の高度計・放射計群 ▼ 地球側 — 両端アンテナの位相差から幅120kmの水面高度を得る
※ 実機の正確な配置図ではなく、主要コンポーネントの構成を示す模式図

干渉計という選択の代償と対策

  • 基線10mの姿勢誤差・変形はそのまま高さ誤差になる — ロール角の知識が最重要要求
  • ピーク1,500Wの送信管は一点故障源 — 冗長系を搭載し、2023年に実際に切替で復旧
  • 展開マストはグラファイト複合材で熱変形を最小化
  • 位置決定はDORIS+GPS+レーザ反射鏡の三重系で相互検証

バス系サマリ

姿勢制御三軸安定(高精度ロール知識要求)
電力太陽電池約35 m² / 約2 kW、バッテリ320 Ah
データレコーダ2.3 TB — KaRInは従来高度計と桁違いのデータを生む
推進ヒドラジン系(軌道変更・維持・離脱用に5年分)

08関連論文

計画立案から初期成果、そして予想外の応用まで。

  • The SWOT Mission and Its Capabilities for Land Hydrology
    Biancamaria, S., Lettenmaier, D. P. & Pavelsky, T. M. (2016) Surveys in Geophysics 37, 307–337 · doi:10.1007/s10712-015-9346-y — 陸水観測側の設計思想と要求値のまとめ。まずこれ。
  • Global Observations of Fine-Scale Ocean Surface Topography With SWOT
    Morrow, R. et al. (2019) Frontiers in Marine Science 6, 232 · doi:10.3389/fmars.2019.00232 — 海洋側の科学目標。なぜ15kmの渦が気候に効くのか。
  • The Surface Water and Ocean Topography Mission: A Breakthrough in Radar Remote Sensing of the Ocean and Land Surface Water
    Fu, L.-L. et al. (2024) Geophysical Research Letters 51 · doi:10.1029/2023GL107652 — 初期観測の総括。ファーストライトの科学的位置づけ。
  • Observations of the seiche that shook the world
    Monahan, T. et al. (2025) Nature Communications 16 · doi:10.1038/s41467-025-59851-7 — グリーンランドの9日間セイシュをSWOTが直接観測した論文。