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// Geostationary Meteorological Satellite · 2016-064A

ひまわり9号
HIMAWARI-9

東経140.7度の静止軌道から、東アジアと西太平洋を10分ごとに見つめる日本の現役気象衛星。 台風の渦、集中豪雨を生む雲、火山灰、海面温度、そして遠い観測所からの信号までを受け取り、 天気予報と防災情報の背後で休みなく働き続けている。

140.7°E
静止位置
16ch
AHI観測バンド
10
全球観測間隔
運用中 🇯🇵 日本 / 気象庁 静止気象衛星

01基本情報

打上げ・静止化・運用体制と、ひまわり8号と同型の機体系。

開発・運用国日本 気象庁 Japan Meteorological Agency (JMA)
打上げ日時2016年11月2日 15:20:00 JST 06:20:00 UTC、種子島宇宙センター 大型ロケット発射場
ロケットH-IIAロケット31号機 H-IIA F31 / 202構成、打上げ後約27分51秒で分離確認
開発開始MTSATシリーズ後継としてひまわり8号・9号を開発 プライムコントラクタ: 三菱電機
現在の状態運用中 2022年12月13日から主衛星。ひまわり8号はバックアップ運用
国際標識番号2016-064A SATCAT 41836
質量約3,500 kg(打上げ時) ドライ質量 約1,300 kg
寸法軌道上展開後 全長約8 m
電力約2.6 kW 太陽電池アレイによる発電
バスDS2000 三菱電機の静止衛星バス、衛星本体設計寿命15年以上
姿勢・推進三軸姿勢制御 スラスタとリアクションホイールでロール・ピッチ・ヨーを制御
通信Ka / Ku / UHF Ka帯: 観測データ下り、Ku帯: TT&C、UHF: DCS上り

02ミッション

ひまわり9号の任務は、雲画像を撮ることにとどまらない。観測の空白を減らし、 数値予報、防災気象情報、航空・船舶の安全、地球環境監視までを支える「時間分解能のインフラ」である。

静止軌道に置かれた防災の目

気象衛星が強いのは、海洋、砂漠、山岳地帯のように地上観測網を密に置けない場所まで、同じ視点で一様に監視できることだ。 日本の天気は西から東へ移るだけではなく、南の海で発達する台風や、海上で急に組織化する積乱雲に大きく左右される。 ひまわり9号は東経140.7度の静止軌道から東アジア・西太平洋を見続け、地上レーダーが届かない洋上の変化を予報官へ渡す。 その役割は「きれいな地球画像」ではなく、まだ災害になる前の兆候を時間で追うことにある。 だからこの衛星の価値は、1枚の名写真よりも、10分ごとに途切れず積み上がる観測列に宿っている。

MTSATからの飛躍

ひまわり6号・7号(MTSAT-1R/2)の可視赤外放射計は5バンドだったが、ひまわり8号・9号のAHIは16バンドへ増えた。 可視3、近赤外3、赤外10という構成により、雲の高さや相、上空の水蒸気、火山灰、エーロゾル、海面温度をより細かく分けて読むことができる。 全球観測の間隔も約30分から10分へ短縮され、日本域は2.5分ごとの高頻度観測が可能になった。 水平分解能も従来比でおおむね2倍へ向上し、赤色可視バンドでは衛星直下点で0.5 km級に達する。 これは「見えるものが増えた」だけではない。雲が発達する速度そのものを追えるようになり、短時間強雨の監視に時間の余裕を生み出した。

6年間待ち続けた主役交代

ひまわり9号は2016年11月に打ち上げられ、同月11日に所定の静止軌道へ投入された。 しかしすぐ主衛星になったわけではない。2017年3月からは、同型のひまわり8号を支えるバックアップ機として待機し、軌道上で機能を維持した。 そして2022年12月13日14時(JST)、観測運用はひまわり8号からひまわり9号へ切り替わる。 8号は7年以上にわたり主衛星として働き、9号がその役割を引き継いだ後はバックアップ機へ回った。 ここに派手な探査機のような「到着」はないが、止めてはいけない社会インフラを二機体制で渡すという、静止気象衛星らしい緊張感がある。

データは予報へ、警報へ、現場へ

AHIで得られた放射輝度は雲画像として表示されるだけでなく、コンピュータ処理により風向風速、雲解析、海面温度、火山灰、エーロゾルなどのプロダクトへ変換される。 その一部は数値予報モデルの初期値にも入り、予報の背骨を作る。 ひまわり9号はまたDCS(Data Collection System)を備え、海上・離島・遠隔地の観測点(Data Collection Platform)からの気象・海象データも中継する。 さらに地震・津波関連情報の伝達にもDCSが使われる。 つまりこの衛星は、上から地球を撮るだけでなく、地上の小さな観測点の声を集める通信ノードでもある。

静かな継続運用の技術

静止衛星は空の一点に止まって見えるが、実際には軌道保持、姿勢制御、太陽校正、食期間の太陽回避などを繰り返している。 気象庁の運用情報には、東西・南北方向の軌道制御、可視バンド校正、一時的な画像品質低下まで細かく記録される。 ひまわり9号のミッションは、劇的な1回の成功で完結するものではない。 毎日同じ時刻に、同じ範囲を、同じ品質で観測し続けることが成果である。 そしてその継続性こそ、台風進路予報、航空路の安全、豪雨への早期警戒を下支えする。

  1. 2014-10-07
    同型機ひまわり8号 打上げ
    MTSAT後継となる新世代ひまわりの1号機が先行して宇宙へ。
  2. 2015-07-07
    ひまわり8号 主衛星運用開始
    新世代AHIによる10分全球観測が本格運用に入る。
  3. 2016-11-02
    ひまわり9号 打上げ
    H-IIA F31により種子島から打上げ。約27分51秒後に正常分離。
  4. 2016-11-11
    静止化完了
    東経140.7度の赤道上空、所定の静止軌道への投入を確認。
  5. 2017-01-24
    初の全球トゥルーカラー画像
    AHIによる初期観測画像が公開され、地球全体を新しい色で見せた。
  6. 2017-03
    待機運用開始
    ひまわり8号のバックアップ機として、軌道上で健全性を維持。
  7. 2022-11-11
    主衛星切替を発表
    気象庁が12月13日の8号から9号への観測切替を公表。
  8. 2022-12-13
    主衛星として運用開始
    05:00 UTC / 14:00 JSTにひまわり9号がフル運用へ。8号はバックアップへ。
  9. 2024-11-10
    宇宙機異常による画像品質低下
    一時的な品質低下をイベントログに記録。運用情報の透明性もミッションの一部。
  10. 2026-07
    定常運用継続
    軌道保持や可視バンド校正を行いながら、気象観測を継続中。

03エピソード

「6年間なにもしない衛星」の裏には、日本が自前の気象衛星を失いかけた事件がある。

アメリカから「目」を借りた2年間

ひまわり9号の存在理由は、1999年11月15日の夜に遡る。ひまわり5号の後継を載せたH-IIロケット8号機が打上げに失敗し、衛星は海に消えた。設計寿命5年の5号は延命運用を強いられ、劣化した観測機をかばうために観測回数を減らす事態に。そして2003年5月、日本はついに観測をアメリカの中古衛星GOES-9に肩代わりしてもらう。気象大国・日本が自前の静止気象衛星で空を見られなかった約2年間——「予備機なしで運用する」ことの代償を、これ以上ない形で思い知らされた事件だった。

「6年間なにもしない」という任務

その反省から、8号と9号は「1機を運用し、もう1機を軌道上で待機させる」前提でほぼ同時に整備された。9号は2016年の打上げから2022年12月13日の主運用交代まで、約6年間ずっと控えのまま。莫大な費用をかけた最新鋭機を宇宙で寝かせておくのは一見壮大な無駄だが、台風の最中に観測が1日止まったときの損失と比べれば安い保険である——GOES-9事件を知っていれば、この設計の意味は一発で分かる。

「日本の目」の網膜はアメリカ製

ひまわり9号の心臓部であるイメージャAHIは、実は米ITT Exelis社(現L3Harris)製で、アメリカの気象衛星GOES-Rシリーズが積むABIとは兄弟機にあたる。「日の丸気象衛星」の網膜は国産ではない——一方で、その目を10分ごとの全球観測でフル回転させる運用は日本が世界に先行し、各国の気象機関がひまわりのデータを利用する。衛星開発が純国産主義では成立しない国際分業であることを、ひまわりは静かに示している。

台風だけを2.5分ごとに見つめる

ひまわりは全球を10分ごとに撮る一方、「機動観測域」という小さな枠を持っていて、台風が発生するとこの枠を移動させて2.5分ごとに撮り続ける。雲の渦がほぼ動画として見えるこのデータは、台風の中心位置と強度の推定精度を直接引き上げた。予報円が昔より小さくなったと感じるなら、その一因は静止軌道上のこの「ズームレンズ」にある。

不具合を隠さない衛星

ひまわり9号のイベントログは誰でも読める場所に公開されていて、画像品質の低下やセンサの不調が時刻付きで淡々と記録されている。「常に完璧」を装うのではなく、いつどのデータが信用できなかったかを世界中の利用者が検証できるようにする——科学インフラの信頼とは無謬性ではなく透明性のことだ、という運用哲学がそこにある。

04軌道

地球周回衛星型の概念図。ひまわり9号は高度約35,800 km、東経140.7度付近の静止軌道で地球の自転と同期し、 東アジア・西太平洋をほぼ同じ視野で観測し続ける。図はスケール・周期を誇張した概念図。

EARTH / EQUATOR GEOSTATIONARY ORBIT - approx. 35,800 km 140.7E / JAPAN AREA HIMAWARI-9
静止軌道(概念図) 観測視野・データ回線 地球自転と衛星公転を同期表示

05搭載機器

観測、データ中継、衛星管制を一体化した静止気象衛星の機能ブロック。

AHI

可視赤外放射計

Advanced Himawari Imager。16バンドで雲・水蒸気・火山灰・海面温度などを観測する主センサー。

VIS / NIR

可視・近赤外バンド

0.47〜2.3 μmの6バンド。真カラー画像、植生、雲相、反射特性の把握に効く。

IR

赤外バンド

3.9〜13.3 μmの10バンド。夜間も雲頂温度・水蒸気・オゾン・火山灰を読み分ける。

DCS

データ収集システム

地上のDCPからUHFで受けた気象・海象データを中継。遠隔観測網を支える通信ペイロード。

Ka-band

観測データ下り回線

18.1〜18.4 GHzで衛星から地上設備へ観測データを伝送。高頻度・多バンド化の血管。

Ku-band

テレメトリ・コマンド系

衛星状態の監視と指令送信に使う管制回線。静止衛星を日々同じ場所に保つ。

AOCS

三軸姿勢制御系

スラスタとリアクションホイールでロール・ピッチ・ヨーを制御し、AHIの視野を地球へ向ける。

SAW / EPS

太陽電池・電源系

展開時全長約8mの機体を支える電力源。観測と通信を24時間運用するための基盤。

06内部設計・バス構成

DS2000バスにAHI、Ka/Ku/UHF通信系、DCS、姿勢制御系を載せた静止気象衛星。 観測センサーは地球方向を向き、通信系は地上局と遠隔観測点の双方へ回線を張る。

Ka / Ku ANTENNAS AHI DCS TT&C AOCS EPS DS2000 BUS / PROP AHI: 16-band imager DCS transponder / UHF uplink Ka downlink / Ku TT&C Solar array / approx. 2.6 kW 3-axis stabilization
※ 実機の正確な内部配置ではなく、主要機能を示す自作模式図

新世代ひまわりの改良点

  • 観測バンドを5から16へ増やし、雲・水蒸気・火山灰・エーロゾルを細かく判別
  • 全球観測を約30分間隔から10分間隔へ短縮
  • 日本域を2.5分ごとに高頻度観測
  • 水平分解能を従来比でおおむね2倍へ向上

バス系サマリ

静止位置東経140.7度
衛星本体寿命15年以上
ミッション寿命8年以上
地上系MSC / HOPE / HimawariCast / HimawariCloud

08関連論文

AHI、トゥルーカラー画像、利用研究、衛星データ品質を理解するための代表論文。

  • An Introduction to Himawari-8/9 — Japan's New-Generation Geostationary Meteorological Satellites
    Bessho, K. et al. (2016) Journal of the Meteorological Society of Japan 94(2), 151-183 · doi:10.2151/jmsj.2016-009 — ひまわり8/9の基礎文献。
  • True color imagery rendering for Himawari-8 with a color reproduction approach based on the CIE XYZ color system
    Murata, H. et al. (2018) Journal of the Meteorological Society of Japan · doi:10.2151/jmsj.2018-049 — 気象衛星画像を人の目に近い色へ変換する手法。
  • Improved Characterisation of Vegetation and Land Surface Seasonal Dynamics in Central Japan with Himawari-8 Hypertemporal Data
    Miura, T. et al. (2019) Scientific Reports 9, 15692 · doi:10.1038/s41598-019-52076-x — 高頻度観測が陸域季節変化の把握に効くことを示す利用例。
  • A Sight for Sore Eyes — The Return of True Color to Geostationary Satellites
    Miller, S. D. et al. (2016) Bulletin of the American Meteorological Society · doi:10.1175/BAMS-D-15-00154.1 — 静止衛星トゥルーカラー画像の背景技術。