// Asteroid Sample-Return Mission · 2014-076A
はやぶさ2
HAYABUSA2
C型小惑星「リュウグウ」を旅した日本の小惑星探査機。 世界初の人工クレーター生成、2度のピンポイントタッチダウンを経て 5.4gのサンプルを地球へ届け、いまも次の小惑星へ向けて航海を続けている。
01基本情報
打上げ・機体・運用の主要諸元。
| 開発・打上げ国 | 日本 宇宙航空研究開発機構 JAXA / 宇宙科学研究所 ISAS |
|---|---|
| 打上げ日時 | 2014年12月3日 13:22:04 JST 種子島宇宙センター 大型ロケット発射場 |
| ロケット | H-IIA 202型 26号機 相乗り: PROCYON, しんえん2, ARTSAT2-DESPATCH |
| 開発開始 | 2011年5月 プロジェクト正式移行 構想・検討は初代はやぶさ運用中の2006年頃から |
| 現在の状態 | 拡張ミッション運用中 「はやぶさ2♯(シャープ)」として小惑星1998 KY26へ巡航中(2031年到着予定) |
| 国際標識番号 | 2014-076A |
| 質量 | 約609 kg(打上げ時・推進剤含む) |
|---|---|
| 本体寸法 | 1.0 × 1.6 × 1.25 m 太陽電池パドル展開時 幅6.0 m |
| 発生電力 | 約2.6 kW(地球距離 1 au 時) |
| バス | はやぶさ(MUSES-C)ヘリテージの専用バス μ10イオンエンジン+化学推進(2液式)のハイブリッド構成 |
| 主推進 | μ10 マイクロ波放電式イオンエンジン ×4基 推力 最大約10 mN/基、比推力 約3,000 s |
| 通信 | X帯・Ka帯 平面ハイゲインアンテナ2枚(はやぶさの教訓による冗長化) |
02ミッション
目的は「生命の原材料はどこから来たか」に迫ること。水や有機物を含むとされる C型小惑星リュウグウ(162173 Ryugu)からサンプルを持ち帰り、太陽系初期の物質を直接調べる。 初代はやぶさが「技術実証」だったのに対し、はやぶさ2は最初から理学成果を狙う「本番機」として設計された。
なぜC型小惑星なのか
地球の水はどこから来たのか。生命の材料となった有機物は、最初どこで作られたのか。 その答えの候補が、太陽系が生まれた46億年前の姿をほぼそのまま保存しているとされる「始原天体」——C型(炭素質)小惑星である。 初代はやぶさが訪れたイトカワは岩石質のS型で、太陽系の「石」の歴史を語る天体だった。 対してリュウグウのようなC型は、含水鉱物と有機物、つまり「水」と「生命の材料」の歴史を抱えていると考えられていた。 地上に落下してくる隕石は大気圏突入と地上での汚染を免れないため、「どの天体から来たか分かっている、汚染ゼロの試料」を直接取りに行くこと自体に決定的な科学的価値がある。
6年・52億kmの航海設計
リュウグウは地球に近い軌道を持つとはいえ、ランデブーには精密な軌道設計が要る。 はやぶさ2は打上げ後まず地球とほぼ同じ軌道で1年間巡航し、2015年12月の地球スイングバイで軌道面を変えてリュウグウ遷移軌道へ乗った。 そこからはμ10イオンエンジンが主役となる。1円玉を持ち上げる程度(約10mN)の推力しかないが、燃費は化学エンジンの約10倍。 これを数百日単位で吹き続けることで、総計約2km/sの増速を電気推進だけで稼ぎ出した。 リュウグウ到着後は高度20kmの「ホームポジション」に静止するように滞在する。地球との通信は往復で最大約40分かかるため、 タッチダウンのような一発勝負の運用は地上からの指令では間に合わず、最終降下は探査機自身の自律判断で行われた。
「表面」と「地下」の両方を採る
はやぶさ2のサンプリング計画の核心は、同じ天体から性質の異なる2種類の試料を採ることにある。 第1回タッチダウンで採取した表面の物質は、長年太陽風や宇宙線に晒されて変質(宇宙風化)している。 そこで衝突装置SCIで直径14.5mの人工クレーターを開け、第2回タッチダウンでその近傍に降り、 宇宙風化を受けていない地下の新鮮な物質を採取した。 天体に人工クレーターを作ってその内部物質を持ち帰るのは世界初であり、「風化した表面」と「素顔の地下」の比較は、 リュウグウの過去を読み解く物差しそのものになった。
持ち帰った答え
2020年12月に帰還したカプセルには、目標0.1gの54倍にあたる5.4gの黒い砂礫が入っていた。 初期分析からは約20種類のアミノ酸、RNAの塩基であるウラシル、 さらに鉱物結晶の中に閉じ込められた炭酸水(液体の水)の痕跡が次々と検出された。 リュウグウの物質は最も始原的な隕石とされるCIコンドライトに酷似しており、母天体は太陽系の外側の低温領域で生まれ、 氷を溶かした水で変質した後、砕かれてリュウグウとして再集積した——という誕生の物語まで描き出されつつある。 「生命の原材料は宇宙から供給されえた」ことを、汚染のない実物で示した意義は大きい。
そして旅は続く
カプセル分離後も機体は健全で、推進剤は半分以上残っていた。そこで運用は拡張ミッション「はやぶさ2♯(シャープ)」へ移行。 2026年7月に小惑星トリフネをフライバイし、2031年には直径わずか30m・約10分で自転する超高速自転小惑星 1998 KY26 とのランデブーに挑む。このクラスの微小小惑星の実態はほぼ未知であり、 地球に衝突しうる天体への備え——プラネタリーディフェンス——の基礎データになると期待されている。
- 2011-05プロジェクト正式スタート初代はやぶさ帰還の翌年、開発が正式承認される。
- 2014-12-03打上げH-IIA 26号機により種子島から出発。
- 2015-12-03地球スイングバイ地球の重力を利用してリュウグウ遷移軌道へ。
- 2018-06-27リュウグウ到着高度20kmのホームポジションに到着。そろばん珠形の姿に運用チーム騒然。
- 2018-09-21MINERVA-II1 ローバ分離世界初、小天体表面での移動探査に成功。
- 2018-10-03MASCOT 分離独DLR・仏CNES開発の着陸機が表面観測。
- 2019-02-22第1回タッチダウン弾丸(プロジェクタイル)発射により表面サンプルを採取。
- 2019-04-05SCI 衝突実験世界初、小惑星への人工クレーター生成(直径約14.5m)。
- 2019-07-11第2回タッチダウンクレーター近傍で地下物質を採取。誤差わずか60cm。
- 2019-11-13リュウグウ出発約1年5ヶ月の滞在を終え帰路へ。
- 2020-12-06カプセル帰還豪州ウーメラ砂漠に着地。サンプル5.4g(目標0.1g)を確認。
- 2020-12-06〜拡張ミッション開始本体は健在のまま次の目標へ。「はやぶさ2♯」と改名。
- 2026-07小惑星トリフネをフライバイ小惑星 98943 Torifune (2001 CC21) を高速通過観測。
- 2031-07(予定)1998 KY26 ランデブー直径約30m・高速自転する微小小惑星へ。プラネタリーディフェンスの知見を狙う。
03開発・運用エピソード
未知の瓦礫天体で、危険を測り直しながら採取・帰還・次航路までつないだ。
爆発する母船を隠し、分離カメラだけを残す
2019年4月5日、JAXAはSCIを分離し、約2 kgの銅弾を約2 km/sでRyuguへ衝突させた。噴出物が母船へ当たるため、Hayabusa2は小惑星の陰へ退避し、代わりに分離カメラDCAM3を現場へ残した。DCAM3は衝突と噴出を記録し、4月25日にONC-Tの衝突前後画像を比較して人工クレーターを確認。一台で衝突と観測を両立させず、犠牲にできる目撃機と生還すべき母船へ役割を分けた判断が、世界初の小惑星人工クレーター実験を成立させた。
汚れた着陸センサーで、地下試料へもう一度降りる
第1回着陸で舞い上がった砂塵は機体底面のセンサーを汚し、ターゲットマーカーを撮るカメラ設定も変更が必要になった。それでもJAXAは、SCIが掘り返した地下物質を採る科学価値、現在の機体状態、光学系がさらに暗くなった場合の後続運用を照合し、2019年6月25日に第2回着陸実施を決定。7月11日、3億 km級の遠隔地でマーカーを自律追尾し、目標から約60 cmの精度で接地した。成功確率だけでなく、採取後も地球帰還を壊さない条件まで確認してから危険を受け入れた。
カプセルを落とし、30分刻みの三噴射で母船を逃がす
2020年12月5日、Hayabusa2はRyugu試料入りカプセルを地球へ放したが、母船まで大気へ入れば拡張任務は失われる。分離後15時30分から16時30分まで30分間隔で三回の軌道修正を行い、16時31分に地球圏離脱を確認。翌6日、豪州Woomeraでカプセル本体・耐熱シールド・パラシュートを回収し、後にA・B・C室合計約5.4 gを計量した。帰還と離脱を同じ接近軌道の分岐として設計したため、試料を地上へ届けながら探査機本体も深宇宙へ戻せた。
残ったキセノンから354天体を探し、十七年目の標的を選ぶ
地球帰還時にもイオンエンジン用キセノンが約半分残る見込みだったため、JAXAは機体を止めず、残燃料で届く354候補を探索した。軌道制御量、対象軌道の確かさ、運用可能性、天体の大きさ・自転・科学価値を順に評価して二案へ絞り、最終的に2026年のTorifuneフライバイを経て2031年7月に高速自転小惑星1998 KY26へ会合するHayabusa2♯を選んだ。ただし機器寿命は保証外である。余剰燃料だけでなく、十七年運用という劣化リスクまで明記した延長判断である。
04軌道
太陽を中心とした模式図。はやぶさ2は地球とほぼ同じ軌道から出発し、イオンエンジンの連続加速と 地球スイングバイでリュウグウの軌道(近日点0.96 au・遠日点1.42 au)へ乗り移った。図はスケール・周期を誇張した概念図。
05搭載機器
リモートセンシング機器・サンプリング系・分離ペイロードの三本柱。
光学航法カメラ
望遠+広角2台の計3台。航法用でありながら7バンドフィルタで表面組成の科学観測も担う主力カメラ。
近赤外分光計
3μm帯で含水鉱物を検出。リュウグウ表面の水(OH基)の存在を初めて突き止めた。
中間赤外カメラ
表面温度分布を撮像し、岩塊の空隙率・熱慣性を推定。リュウグウが「スカスカ」であることを示した。
レーザ高度計
高度30m〜25kmを測距。航法の要であると同時に、形状モデル構築と重力推定にも貢献。
サンプラホーン
接地の瞬間に5gの弾丸を秒速300mで発射し、舞い上がった砂礫をホーンで捕集する独創機構。
衝突装置
2kgの銅板を爆薬で秒速2kmに加速して撃ち込む「宇宙のインパクタ」。人工クレーター生成に成功。
分離カメラ
SCI衝突の瞬間を安全距離から撮影するために切り離された小型カメラ。決定的瞬間の目撃者。
小型ローバ ×3
ホップ(跳躍)して移動する超小型ローバ群。世界初の小天体表面移動探査を実現。
小型着陸機(独DLR・仏CNES)
約17時間、リュウグウ表面で分光・磁場・熱観測を敢行した国際協力ペイロード。
再突入カプセル
直径40cm。秒速12kmで大気圏に突入し、サンプルを無傷でウーメラに届けた。
ターゲットマーカ ×5
お手玉のように跳ねない再帰反射球。タッチダウンの「道しるべ」として投下された。
イオンエンジン ×4
マイクロ波放電式。初代はやぶさから耐久性を強化し、推力も10mNに向上した心臓部。
06内部設計・バス構成
箱形バスの上面に平面ハイゲインアンテナ2枚(X帯・Ka帯)、下面にサンプラホーンとカプセル、 背面(反太陽面)にイオンエンジン4基という配置。初代はやぶさの故障経験がすべて冗長設計に反映されている。
初代はやぶさからの改良点
- イオンエンジンの推力を約25%向上(8→10mN)、中和器の耐久性を強化
- リアクションホイールを3基→4基に冗長化(初代は2基故障で危機に)
- 平面アンテナ2枚構成でKa帯高速通信を追加
- 姿勢喪失時も自動復帰できる自律機能を強化
バス系サマリ
| 姿勢制御 | 三軸安定(RW×4 + RCS) |
|---|---|
| 化学推進 | 2液式スラスタ 20N級 ×12 |
| 推進剤 | キセノン 66kg / ヒドラジン系 48kg |
| 設計寿命 | ノミナル6年(既に11年以上運用) |
初代の故障履歴を設計仕様に変える
はやぶさ2の設計は、初代はやぶさの単なる大型化ではない。初代で実際に起きたリアクションホイール故障、イオンエンジン中和器の劣化、通信・姿勢喪失、サンプル採取の不確実性を、一つずつ設計要求へ戻した機体である。リアクションホイールを4基に増やしたのは、姿勢制御の余裕を増やすためであり、X帯とKa帯の平面ハイゲインアンテナを分けたのは、通信の冗長性とデータ量の両方を確保するためだった。初代が「戻ってこられた」経験を、後継機では「計画通りに科学を取りに行く」設計へ変換している。
推進系は巡航と精密接近の二段構え
長距離の軌道変更はμ10イオンエンジン4基が担い、リュウグウ近傍での姿勢・位置調整は化学推進系が支える。イオンエンジンは1基あたり約10 mNという小さな推力だが、数百日単位で積み重ねることで地球スイングバイ後の遷移軌道を作る。一方、リュウグウ近傍では数m単位の位置取り、ターゲットマーカーへの接近、タッチダウン直前の姿勢維持が重要になる。燃費のよい電気推進と応答の速い化学推進を分担させたことが、52.4億 kmの航海と60 cm級の着地点精度を同じ機体で成立させた。
観測系と航法系を分けすぎない
ONC、NIRS3、TIR、LIDARは科学観測のための装置であると同時に、着陸運用の目でもあった。ONCはリュウグウの形と地形を撮り、LIDARは高度を測り、TIRは表面温度から岩塊の性質を読む。NIRS3は含水鉱物を探すだけでなく、どの場所が科学的に価値を持つかを判断する材料になる。はやぶさ2では、科学的に面白い場所ほど岩だらけで危険という緊張があったため、観測データは論文用の素材ではなく、運用判断そのものだった。
地下試料を取るための一回限りの火薬系
衝突装置SCIは、探査機本体から分離したあと、銅板を秒速約2 kmまで加速してリュウグウ表面へ撃ち込む。爆薬を使うため、探査機本体は小惑星の陰へ退避し、分離カメラDCAM3だけが衝突の瞬間を見届けた。この設計は、単に派手な実験をするためではない。表面の宇宙風化を受けた試料と、人工クレーター周辺の新鮮な地下由来試料を比べるために必要だった。サンプルリターン機の中に、一度しか使えない衝突実験機を同居させたことが、はやぶさ2を初代とは違う科学ミッションにしている。
カプセル分離後も探査機として生き残る
再突入カプセルは直径約40 cmの小さな回収機で、探査機本体とは別に大気圏へ入る。カプセルを地球へ届けた後、本体は地球に衝突せず、軌道修正して拡張ミッションへ進んだ。これは「帰還で終わる」設計ではなく、カプセル分離、地球退避、太陽周回軌道への復帰までを最初から運用として扱っていたことを意味する。2026年のトリフネフライバイ、2031年の1998 KY26ランデブーへつながる余力は、設計段階の燃料・電力・通信・熱の余裕が残っていたからこそ使えた。
07写真・図版
パブリックドメインまたはCCライセンスの図版を出典明記のうえ引用。
08関連文献
システム設計からサンプル初期分析まで、代表的な査読論文。
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System design of the Hayabusa 2 — Asteroid sample return mission to 1999 JU3
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Hayabusa2 arrives at the carbonaceous asteroid 162173 Ryugu — a spinning top–shaped rubble pile
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The surface composition of asteroid 162173 Ryugu from Hayabusa2 near-infrared spectroscopy
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The geomorphology, color, and thermal properties of Ryugu
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Preliminary analysis of the Hayabusa2 samples returned from C-type asteroid Ryugu