// 光子を粒子対へ変え、8 keVから300 GeV超の空を見張る · 2008-029A
フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡
Fermi Gamma-ray Space Telescope
LATは一個のガンマ線を電子・陽電子対へ変えて方向とエネルギーを復元し、GBMは機体各面の14検出器で突発の到来方向を絞る。96.5分の地球周回と広い視野を組み合わせ、短い爆発から十年以上の変動まで同じ時刻軸へ積み重ねる。
01基本情報
低地球軌道、広視野、短い通信遅延を一組にした時間領域ガンマ線観測所。
| 打上げ | 2008-06-11Cape Canaveral SLC-17B |
|---|---|
| COSPAR ID | 2008-029A |
| 打上げ機 | Delta II HeavyFSSC表記 Delta 2920H-10 |
| 打上げ質量 | 4,303 kg |
| 初期軌道 | 高度約565 kmeccentricity < 0.01 |
| 傾斜角 | 25.6° |
| 軌道周期 | 96.5 min |
|---|---|
| 軌道面歳差 | 53.4日現在のbeta angleは約46日周期成分も持つ |
| SAA停止 | 潜在観測時間の約15%LAT・GBMのPMT高電圧を下げる |
| 電力 | 太陽電池 約1,800 W-Y arrayは2018年以降固定 |
| 設計寿命 | 最低5年 / 目標10年複数回延長され運用継続 |
| 通信 | TDRSS Ku / S bandscience playback、command、real-time alert |
02ミッション
LATが高エネルギー光子を一個ずつ再構成し、GBMが低エネルギー突発を全周監視する。二つの独立観測が時刻と姿勢を共有し、全天mapと秒以下のalertを結ぶ。
LAT — 見えない光子の方向を二本の飛跡から戻す
約20 MeVから300 GeV超のガンマ線は鏡で結像しにくい。LATはtungsten foilで光子をelectron–positron pairへ変換し、16 towerのsilicon-strip trackerで飛跡を測り、下部のCsI(Tl) calorimeterでparticle showerのエネルギーを求める。外周のsegmented anti-coincidence detectorが荷電粒子の通過位置を示し、軌道上で最大約10 kHzのtriggerを約400 event/sへ絞る。地上処理後に残る天体光子は毎秒数個である。
GBM — 14方向の明るさ差から爆発を定位する
12基のNaI detectorは8 keV〜1 MeV、機体両側の2基BGO detectorは約0.15〜30 MeVを受ける。各NaIのcosine-like responseを比較してburst方向を数度へ絞り、GBM Data Processing Unitがpulse heightをdigitize・time-tagし、rate increaseを自律検出する。LATとGBMのenergy bandは重なり、一つのburstをkeVからGeV超まで追える。
軌道ごとのrockingで全天を時間系列にする
高度約565 km、傾斜角25.6°、周期96.5分の軌道で、LAT axisをzenithから軌道面の両側へ傾ける。初期10年のsurveyは北側50°を一周、南側50°を次の一周と交互に見て、任意の空へ約3時間ごとに約30分のlivetimeを与えた。2018年に-Y Solar Array Drive Assemblyが停止した後は、軌道面と太陽のbeta angleに応じ、対称、50°/60°非対称、昼夜別profileを使い分けて発電・熱と全天露光を両立している。
SAAの空白も姿勢履歴と一緒にdataになる
South Atlantic Anomalyではtrapped particle fluxが上がるため、LATとGBMはPMT高電圧を下げ、科学data取得を止める。約15%の潜在観測時間が空くが、GPS時刻、宇宙機位置、attitude、IN_SAA、livetimeを30秒単位のspacecraft fileへ残すことで、地上解析は露光のある時間だけを正しく積分できる。
保存・速報・再処理が同じ観測を何度も生かす
LATのDAQとGBMのDPUは別々にeventを作り、共通Solid State Recorderへ渡す。SSRは最大約30時間を保持し、TDRSS Ku-bandで一日6〜7回downlinkする。burst alertはS-bandで即時に地上へ届き、GCNが他の望遠鏡へ配信する。2010年のFermi bubbles、GW170817の1.7秒後に来たGRB 170817A、長期pulsar・blazar catalogは、この反復走査と公開event listから生まれた。
- 2008-06-11565 km軌道へ投入Delta II Heavyで傾斜角25.6°の低地球軌道へ。
- 2008-08-04軌道上checkout完了宇宙機・LAT・GBM・survey modeを約2か月で確認。
- 2008-08-26Fermiへ改称GLASTからEnrico Fermiを記念する名称へ。
- 2010Fermi bubbles銀河中心の上下へ広がる巨大構造を全天dataから分離。
- 20122秒の衝突回避噴射旧ソ連衛星との接近をpropulsion systemで回避。
- 2017-08-17GRB 170817A重力波GW170817の約1.7秒後にGBMが短いburstを検出。
- 2018-03-16-Y SADA停止固定arrayに合わせたbeta angle別surveyへ移行。
- 2025ToO運用を再開制約付きpointed observationと長期surveyを継続。
03エピソード
天体光子を残す選別、突発の自動通報、観測所を守る運用変更が一つの全天監視を支えている。
10,000件を400件へ落とし、天体光子2〜5個を残す
2008年6月11日の打上げ後、LAT設計・運用チームが直面したのは、荷電宇宙線がガンマ線の100〜100,000倍も入射し、raw triggerが最大約10,000件/秒に達する事態だった。そのままでは約1.2 Mbpsの科学通信枠へ収まらない。そこで16塔のtracker・calorimeterと分割型anti-coincidence detectorを組み合わせ、後方散乱を荷電粒子と誤認しにくくした。搭載DAQが約400件/秒へ選別した結果、地上処理後に天体由来の2〜5光子/秒を残せた。広視野観測は、拾う性能と同じ重さで捨て方を設計して成立した。
2017年8月17日、GBMの自動通報が重力波と同じ爆発を指す
2017年8月17日、FermiのGBMは短いGRB 170817Aを機上で検出し、自動分類と概略位置を地上へ送った。12基のNaIと2基のBGOという14検出器は8 keVから40 MeVまでを全周監視するため、望遠鏡を向け直す前の閃光も逃さない。LIGO・Virgoが別系統で捉えた中性子星合体GW170817と同じ天体現象だと判明し、ガンマ線の即時通知が世界の望遠鏡を追観測へ動かす起点になった。
廃棄用推進系を2秒だけ点火し、Cosmos 1805を避ける
2012年、運用チームは旧ソ連衛星Cosmos 1805との接近予測を受けた。Fermiの推進系は本来、任務終了時に軌道を下げるため長く温存していたが、観測を続けるには衝突確率を受け入れるより軌道をわずかに変える方が合理的だった。チームは推進系を2秒だけ作動させ、観測所を危険な交差点から外した。終末処置のための設計余裕を現役中のcollision avoidanceへ転用し、科学運用を失わずに済んだ。
片翼が回らなくても、β角で三つの全天走査へ分ける
2018年3月16日、-Y側Solar Array Drive Assemblyが停止し、片翼は発電できても太陽を追って回せなくなった。従来の±50°rockingを続ければ電力と熱が破綻するため、運用チームは太陽と軌道面のβ角が14°未満なら対称、14〜24°なら+50°/-60°、24°超なら昼夜別profileという三つの走査則を実装した。高β角で一時的な露光の隙間が生じても軌道面歳差が一週間ほどで埋め、全天監視を数週間の中断後に再開した。
04軌道・走査
左は96.5分で回る高度約565 kmの軌道、右は太陽と軌道面のbeta angleが決める現在のpointing profile。機体は閉じた軌道を一周し、SAAでは観測状態だけを切り替える。
- 01565 kmへ投入Delta II Heavyが傾斜角25.6°、eccentricity 0.01未満の軌道を作った。
- 02軌道上checkout約2か月で宇宙機、両instrument、surveyと通信を順に確認した。
- 03片側hemisphereを走査LAT axisをzenithから軌道面の一方へ傾け、広い空を露光する。
- 04SAAで装置保護周回を続けながらPMT高電圧を下げ、通過後にscience取得を再開する。
- 05次の走査profile軌道面の反対側、またはbeta angleに応じた非対称・昼夜別profileへ移る。
- 06突発alert・ToOGBM alertを即時配信し、2025年以降は制約付きpointed ToOも組み込む。
05搭載機器
LAT内部の三つのdetector subsystemは一個のeventを共同再構成し、GBMは別の14 detector networkとしてburstを監視する。
Silicon-Strip Trackers
tungsten converterと18 XY planeでelectron–positron pairの変換点・飛跡・入射方向を測定。
CsI(Tl) Calorimeters
各module 96 crystal、全1,536 crystalでparticle showerの三次元形状とenergyを測定。
Anti-Coincidence Detector
89 plastic scintillator tileと8 ribbonが荷電粒子を示し、segmentationでbacksplash self-vetoを抑える。
LAT Data Acquisition
trigger、event building、onboard filteringを行い、平均約1.2 Mbpsのevent packetをSSRへ渡す。
GBM Sodium-Iodide Detectors
8 keV〜1 MeV。異なる向きのcount-rate比でburst方向を数度へ絞る。
GBM Bismuth-Germanate Detectors
機体の対向面に置かれ、約0.15〜30 MeVでLAT bandへのspectral bridgeを作る。
06設計
上部のLATは16 towerで一個のeventを再構成し、機体各面のGBMは14 detectorの応答差でburstを定位する。二装置は独立したevent streamを作り、共通の時刻・姿勢・記録・通信系で地上へ渡す。
16 towerを同じeventへ束ねる
LATは4×4 tower構成で、各towerにtrackerとcalorimeterを積む。tungstenで生じたelectron–positron pairのXY hitと、CsI(Tl) crystal内のshowerを一つのeventとして合わせ、入射方向・energy・時刻を再構成する。外周ACDのtile hitは荷電粒子flagとしてDAQへ入り、gamma-ray候補のtrack・shower判定を補助する。
GBMは機体外周を測定幾何に使う
12 NaI detectorは異なる方向へ向け、同じburstに対するcount-rate差を到来方向へ変える。二つのBGOは機体の対向面に置かれ、全周の高energy responseを確保する。14 detectorはGBM DPUへ集まり、continuous data、time-tagged event、alert telemetryを作る。
固定arrayに合わせて姿勢則を変える
二翼の太陽電池は約1,800 Wを供給する。2018年以降も-Y arrayのcellは発電を続け、drive角だけが固定された。3 star trackerと4 gyroがattitudeを求め、GPSが時刻・位置を与え、reaction wheelがbeta angle別survey profileを実行する。電力・radiator温度・LAT axisの三条件を一つのpointing planへまとめている。
通常dataとalertは地上への経路が違う
LAT eventとGBM eventはSSRへ保存され、Ku-band TDRSS contactでMOCへ再生される。GBM burst alertはS-bandの即時経路からGCNへ渡り、各地の望遠鏡を動かす。軌道上propulsion systemは観測姿勢を作るreaction wheel系から分かれ、collision avoidanceと安全なdeorbit capabilityを担う。
07写真・図版
実機と観測成果を、出典・ライセンスとともに確認する。


08関連文献
軌道運用、検出器、2018年以降の走査則まで追えるNASA一次資料。
- Fermi Mission Overview
- Large Area Telescope Overview
- Fermi Technical Handbook
- Fermi Observing after the Solar Array Drive Anomaly
- Fermi Mission