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// Clouds, Aerosols and Radiation · ESA / JAXA · 2024

EarthCARE
雲・エアロゾル・放射を同じ軌道で測る

EarthCAREは、雲とエアロゾルが地球の放射収支をどう変えるかを測る欧日共同衛星。雲を横から切るように見て、気候モデルの最大級の不確かさへ踏み込む。

4
観測機器
94GHz
雲レーダ周波数
393km
観測高度
運用中🌐 ESA・JAXA気候観測衛星

01基本情報

能動センサと受動センサを同じ衛星に載せ、雲の立体構造と放射を同時に測る。

開発・運用ESA / JAXA JAXA・NICTがCPRを担当
打上げ2024年5月28日 UTC Falcon 9、Vandenberg SLC-4E
状態運用中
目的雲、エアロゾル、放射収支の同時観測
質量約2.35 t
軌道高度約393 km 太陽同期軌道、傾斜角約97度
寿命3年計画
愛称Hakuryu 日本側愛称「はくりゅう」

02ミッション

気候予測で雲は厄介だ。太陽光を反射して冷やし、赤外放射を閉じ込めて温める。その両方を測るのがEarthCAREである。

雲の厚みと動きを測る

従来の衛星画像は、雲頂の模様を広く見るのは得意だった。しかし気候モデルに必要なのは、雲の中がどの高さでどれだけ濃く、粒子が上下にどう動いているかである。JAXAとNICTのCPRは、Wバンドの電波で雲の内部構造と鉛直速度を測る。

エアロゾルと放射をつなぐ

ATLIDはレーザーで薄いエアロゾル層を測り、MSIは周囲の雲場を画像として補う。BBRは大気上端の広帯域放射を測る。4機器を同時に使うことで、粒子、雲、放射の因果関係をひとつの観測列にまとめる。

予報モデルへ戻す衛星

EarthCAREの成果は、美しい画像よりも数値モデルの改善に効く。雲の鉛直速度や放射収支を観測で縛ることで、将来気候予測の幅を小さくすることが狙いである。

雲を横から切る

通常の衛星画像は、雲の上面を見下ろす視点になりやすい。EarthCAREはレーダとライダーで雲の縦断面を作り、雲底、雲頂、薄いエアロゾル層、降水に近い粒子の分布を同じ軌道上で重ねる。気候モデルが欲しいのは、白い雲の模様ではなく、どの高度にどんな粒子がどれだけあるかという内部構造である。

冷やす雲と温める雲を分ける

低い厚い雲は太陽光を強く反射して地表を冷やしやすく、高い薄い雲は地球から逃げる赤外放射を閉じ込めやすい。EarthCAREは雲とエアロゾルを放射計の測定と結びつけ、雲がその場で地球を冷やしているのか、温めているのかを観測から判断する材料を作る。

  1. 2001
    Phase Aへ進む
    ESAのEarth Explorer候補として、雲・エアロゾル・放射を同時に測る構想が具体化。
  2. 2004
    実施段階へ
    ミッション実現へ向け、衛星・観測要求・地上処理の設計が進む。
  3. 2012-11
    CPR工学モデル公開
    JAXAが筑波宇宙センターで雲プロファイリングレーダの工学モデルを公開。
  4. 2024-05-28
    打上げ
    Falcon 9でVandenbergから打上げ。高度約393 kmの太陽同期軌道で観測へ入る。
  5. 2025-01
    Level 1データ公開
    初期校正を終え、観測データの公開利用が始まる。
  6. 2025-03
    Level 2データ公開
    雲・エアロゾル・放射の物理量へ変換したプロダクトが利用可能になる。
  7. 2026-01
    雲の鉛直運動を公開
    「はくりゅう」のCPRが、宇宙から雲粒子の上下運動を読む観測として紹介される。
  8. 2026-06
    ECMWFで運用利用へ
    EarthCAREデータが欧州中期予報センターの運用利用へ入り、気象予報への接続が進む。

03エピソード

自動展開、世界初の雲速度断面、地上・航空機との照合。四装置の同時性を実データへ変えた三段階。

地上が見られない間に、長い翼とレーダー鏡を自動展開する

2024年5月29日00時20分CEST、EarthCAREはFalcon 9で打ち上がり、約10分後に分離した。直後には長い後流側太陽電池翼とCloud Profiling Radarのアンテナを自動展開する必要があったが、その最中にESA管制班は連続して機体を見られず、最初の地上局信号を待って結果を確認するしかない。01時14分、南アフリカHartebeesthoek局が電波を受信し、発電と展開状態を確認。6月5日に初期運用を完了した。打上げ時は畳むしかない21 m²級の発電面と大型レーダー開口を、通信前提ではなく自律シーケンスで観測形へ変えたことが、四装置commissioningの入口になった。

6月13日の梅雨前線で、雲の高さと落下速度を同時に切る

JAXAとNICTは2024年6月12〜13日、94 GHzのCPRを初観測へ投入した。13日13時36分JST、日本東方の梅雨前線では雲が高度約13 kmまで達し、高度約5 km以下でドップラー速度が下向きに増える断面が現れた。反射強度だけなら雲粒の量は分かっても、上昇流か雨滴落下かを分けにくい。そこで送受信周波数の微小なずれを同じ鉛直列へ重ね、下層の速い雨滴を判別した。地上・航空機レーダーで限られた場所にしか得られなかった雲の上下運動を、世界で初めて衛星から測り、降水へ成長する過程を全球比較できる形にした。

四装置の列を、60超の機関が飛行機と地上から挟み撃ちする

打上げから約6か月後の2024年11月、EarthCAREのCPR、ATLID、MSI、BBRは同じ大気列を協調観測していた。しかし異なる波長と視野を一つの雲へ重ねても、軌道上データだけでは系統誤差を見抜けない。ESA・JAXAと60を超える研究機関は、複数航空機の同時飛行、気球、地上局、研究船、ドローンを衛星通過へ合わせ、雲粒・エアロゾル・放射を別方向から測る検証キャンペーンを実施した。その結果、四装置が期待を上回るデータを出していることを確認し、「同時に測る」という設計条件を、気候モデルへ渡せる共通較正済みの観測列へ変えた。

04軌道・観測幾何

EarthCAREは高度約393 kmの近極・太陽同期軌道を周回する。低高度はCPRとATLIDの信号を強くする一方、大気抵抗を増やす。その折り合いの上で、午後の赤道通過ごとに4機器の視野を同じ雲へ重ねる。

EarthCAREの太陽同期軌道と4機器の同時観測 左は高度393キロメートルの近極軌道を同じ方向へ連続周回するEarthCARE、右は別尺度で示したCPR、ATLID、MSI、BBRの観測範囲である。 LOW ORBIT · ONE CLOUD · FOUR VIEWS 全球の周回と、同じ雲へ向く4機器の観測視野を二つの尺度で読む。 01 · GLOBAL ORBIT高度393 km · 近極太陽同期軌道 午後の赤道通過 · 受動機器の照明を一定化 地球全球を南北方向へ走査低高度:能動センサの感度を確保長い太陽電池:抗力を抑える配置 02 · CO-LOCATED VIEW · 拡大同じ雲を縦・横・放射で測る CPR · 94 GHzATLID · 355 nmMSI · 150 kmBBR · 3方向CPR/ATLID:鉛直断面 MSI:周囲の水平分布BBR:前方・直下・後方から短波/長波放射 打上げ軌道調整6か月較正4機器同期全球反復2024-05393 kmcommissioning同一フットプリントroutine science 模式図。軌道高度と観測幅は別尺度。右は4機器の視野を同じ雲へ重ねた観測幾何。
  1. 01打上げ・初期運用Falcon 9から分離し、アンテナと太陽電池を展開。
  2. 02軌道調整運用高度約393 kmの太陽同期軌道へ。
  3. 03機器較正約6か月かけて4機器を順に起動・較正。
  4. 04同期観測CPR・ATLID・MSI・BBRの視野を同じ雲へ重ねる。
  5. 05全球反復同じ午後の照明条件で雲と放射を比較する。

05搭載機器

CPR

雲プロファイリングレーダ

JAXA/NICTが開発した94 GHz雲レーダ。雲の鉛直構造と上下運動を測る。

ATLID

大気ライダー

薄い雲やエアロゾル層をレーザーで検出し、粒子の分布を測る。

MSI / BBR

画像と放射

MSIが水平分布を、BBRが太陽・熱赤外の広帯域放射を測る。

06設計

能動センサ2台の大電力、4視野の位置合わせ、低軌道の空気抵抗を同時に成立させるため、機体は17 m超の細長い形になった。21 m²の太陽電池を進行方向の後ろへ伸ばし、CPR・ATLID・スタートラッカーを炭素繊維構体へ近接配置する。

EarthCAREの構体、観測、電力、姿勢、データ系統五分割太陽電池と本体、四つの観測機器、電力供給、姿勢決定、観測データ処理を実際の役割ごとに静的な線で接続した設計図。COLLOCATION BEFORE EVERYTHING17 m超の機体 — 低軌道の抗力を抑えながら大電力を得る進行方向5分割・21 m² 太陽電池 · 後流側へ炭素繊維プラットフォームATLIDMSIBBRSTAR TRACKERSDATA / PCDUCPR · 2.5 mCPR・ATLID・Star trackersを近接し、視線ずれを抑える同時観測 → 共通グリッド → 気候・予報モデルCPR · DopplerATLID · 高度MSI · 水平場BBR · 放射記録・X-bandLevel 1 · 時刻・位置地上処理Joint Standard Grid雲・降水・放射4機器は直列にせず、同じ時刻・位置で統合。大電力と視線合わせ太陽電池PCDUBattery平均約1.5 kW · CPR/ATLIDへStar trackersAOCS姿勢制御4機器の視野を同じ雲へ重ねる。DESIGN TRADE低高度:感度向上 ↔ 抗力増加4視野:同期 ↔ 位置合わせ精度大電力:21 m² ↔ 後流配置

EarthCAREは「同じ雲を4つの物差しで同時に測る」ための衛星である。レーダ、ライダー、イメージャ、放射計を別々の衛星に分けると、雲は時間差で変わってしまう。同じ軌道上で重ねることで、雲粒子と放射の関係を直接モデルへ渡せる形にした。

低めの軌道で縦に細かく見る

EarthCAREは高度約393 kmという比較的低い太陽同期軌道から観測する。地球に近いぶん、レーダやライダーの鉛直分解能と信号を確保しやすい。一方で大気抵抗や運用寿命との兼ね合いがあり、気候衛星としては大胆な設計判断でもある。

欧州と日本の得意分野を合わせる

ESAは衛星全体とATLID、MSI、BBRを担当し、日本側はCPRという中核の能動センサを支える。雲の高さを測る欧州のライダーと、日本の雲レーダが同じ軌道で重なることで、単独機器では届かない気候観測になる。

四つの観測を幾何でそろえる

EarthCAREの設計で難しいのは、機器を載せる数より、観測点をそろえることだった。CPRとATLIDは直下方向を縦に切り、MSIはその周囲の水平分布を広げ、BBRは同じ場の太陽短波・地球長波の放射を測る。AMTのミッション総説では、雲・エアロゾル・降水の場を10 km × 10 kmのシーンとして復元し、大気上端の放射を10 W m-2程度の精度で再構成する要求が示されている。

CPRは日本側の中核技術

CPRは94 GHzのWバンド雲レーダで、衛星搭載の雲レーダとしてドップラー速度を測れる点が特徴である。雲の反射強度だけならCloudSatの系譜があるが、EarthCAREでは粒子の落下や上昇流に関係する鉛直速度を読むことで、雲がどのように成長し、降水へつながるかをより直接に扱う。JAXAとNICTが担当したこのレーダがあるため、EarthCAREは「雲の断面写真」から「雲の動きの観測」へ踏み込める。

地上処理まで含めた設計

衛星上で得たL1データは、そのまま気候モデルへ入るわけではない。欧州・日本・カナダの処理系が、CPR、ATLID、MSI、BBRの観測を組み合わせ、雲分類、エアロゾル分類、降水、放射フラックス、加熱率などのL2プロダクトへ変換する。つまりEarthCAREは、機体だけで完結する衛星ではなく、軌道上の観測と地上アルゴリズムを一つの観測システムとして設計したミッションである。

08関連文献

  • EarthCAREミッション総説
    Wehrほか, 2023。観測要求、4機器、393 km軌道、10 km × 10 kmシーンと10 W m-2要求を確認する基礎論文。 doi:10.5194/amt-16-3581-2023
  • L2処理チェーン
    Eisingerほか, 2024。欧州・日本・カナダの処理系がL1観測を雲・エアロゾル・放射プロダクトへ変換する流れ。 doi:10.5194/amt-17-839-2024
  • CPRドップラー処理
    Kolliasほか, 2023。EarthCAREの94 GHz雲プロファイリングレーダから反射強度・ドップラー速度を処理するC-FMR/C-CD/C-APC製品。 doi:10.5194/amt-16-1901-2023
  • ATLID特徴検出
    van Zadelhoffほか, 2023。ATLIDのFeatureMaskで雲・エアロゾルを検出し、後段のL2処理へ渡すアルゴリズム。 doi:10.5194/amt-16-3631-2023
  • MSI雲マスク
    Hünerbeinほか, 2023。MSIの水平画像から雲フラグ、雲相、雲種を扱うM-CMプロダクト。 doi:10.5194/amt-16-2821-2023