// 深宇宙技術実証・彗星フライバイ · 1998-061A
ディープ・スペース1号
Deep Space 1
NSTARイオンエンジンと自律航法を実飛行で成熟させ、延長任務でBorrelly彗星を近接撮像した。
01基本情報
打ち上げ、機体、軌道、運用の主要諸元。数値だけでなく任務上の役割を併記する。
| 開発・運用 | 米国 NASA / JPL |
|---|---|
| 打ち上げ | 1998年10月24日 Cape Canaveral |
| ロケット | Delta II 7326 |
| 国際標識 | 1998-061A |
| 状態 | 運用終了 |
| 質量 | 約486 kg |
|---|---|
| 軌道・航路 | 太陽周回・小天体フライバイ |
| 電源 | 太陽電池 |
| 設計形式 | tech-probe |
| 主要目標 | イオン推進・自律航法とBorrelly彗星 |
02ミッション
Deep Space 1の主目的は科学観測ではなく、将来の深宇宙探査を変える12技術を実際の太陽周回飛行で壊れるところまで試すことだった。
「実験機」が彗星探査機になった
1998年10月24日、約486 kgの機体はDelta IIで太陽周回軌道へ入った。NSTARイオン推進、AutoNav、Remote Agent、集光型太陽電池SCARLETなど12項目を検証し、1999年9月18日に主目的を完了。小惑星9969 Brailleと彗星19P/Borrellyは、技術が実用の航路と観測を成立させるか確かめる延長目標だった。
電力を、少しずつ速度へ変える
SCARLETは1 AUで約2.5 kWを発生し、NSTARがキセノンイオンを高速で排出した。推力は小さいが長時間続けられ、最終的な累積作動は16,265時間、機体自身による速度変更は約4.3 km/sに達した。化学ロケットの一撃ではなく、発電量・推力方向・作動時間を航路全体に配る飛び方を実証した。
一度は「目」を失った
1999年11月11日、星追尾器が故障してNSTARもアンテナも正しく向けられなくなった。運用チームはMICASのカメラ、太陽センサー、慣性センサーを組み合わせる新しい姿勢制御を約7か月で構築。限られたヒドラジンを使いながらBorrellyへの航行を再開した。この復旧がなければ延長任務は成立しない。
高速通過の数分に技術を集中
2001年9月22日、DS1はBorrelly核から2,171 kmを相対16.6 km/sで通過した。MICASは核を追尾し、PEPEはコマを連続測定。AutoNavの遭遇追尾はStardustやDeep Impactへ、NSTARの長時間運用はDawnへ受け継がれた。
- 1998-10-24打上げDelta II第3段で太陽周回軌道へ投入。
- 1998-11-24NSTAR連続作動再始動後14日間動き、低推力航行を実証。
- 1999-07-299969 Braille約26 kmを15.5 km/sでフライバイ。
- 1999-09-18主ミッション完了12の新技術を全て検証。
- 1999-11-11星追尾器故障MICASを使う姿勢系へ作り直して復旧。
- 2001-09-22Borrelly通過核から2,171 kmで近接画像とプラズマデータを取得。
- 2001-12-18推進停止NSTAR累計16,265時間で運用を終えた。
03開発・運用エピソード
止まった推進器、失った追尾器、故障後の彗星遭遇。技術実証を本番へ変えた三段階。
4分半で止まったイオンエンジンを、二週間後に宇宙で蘇らせる
1998年11月10日、JPLがDeep Space 1のNSTARイオンエンジンを初めて作動させると、わずか4分半で高電圧系が停止した。地上から分解できない装置だけに、推進実証そのものが失敗する恐れがあった。運用班は、打上げ時に加速グリッドへ付着した微粒子が短絡を起こしたと推定し、電源投入と熱サイクルを反復して異物を蒸発させる方針を選ぶ。11月24日の再起動では正常に推力を発生し、その後の長時間運転へ進めた。未知の故障を交換ではなく、真空中の放電と加熱という物理現象で除去した復旧だった。
恒星追尾器を失い、科学カメラを航法装置へ作り替える
1999年11月11日、地球から約2億4000万 km離れたDeep Space 1で恒星追尾器が故障し、探査機は太陽だけを基準にする安全姿勢へ入った。往復通信に約27分かかり、予備追尾器もないため、延長任務は成立しないように見えた。JPLは科学撮像器MICASの画像から恒星位置と姿勢を求めるソフトウェアを地上で新規開発し、約7か月かけて遠隔搭載する。2000年6月にはMICASが恒星を捕捉してイオン推進を再開し、故障した専用センサーの役割を既存カメラへ移す再構成がBorrelly彗星への航路を取り戻した。
技術実証機が、2,171 kmの彗星遭遇を本番に変える
12項目の新技術を9か月で実証した後も、NASAとJPLはDeep Space 1を廃棄せず、2001年9月22日にBorrelly彗星へ向けた。恒星追尾器を失った機体で暗い核へ接近するのは危険だったが、復旧したMICASによる光学航法とNSTARの長時間低推力を組み合わせ、核から2,171 kmを通過した。探査機は彗星核の近接画像とPEPEの粒子・プラズマ測定を取得し、同年12月18日に任務を終了した。将来技術を「動いた」で終わらせず、故障後の科学遭遇まで通したことで実用性を証明した。
04軌道・遷移
Deep Space 1はNSTARイオンエンジンを長時間作動させ、太陽周回軌道の速度と位相を少しずつ変えた。地球出発後に9969 Brailleを通過し、延長任務では19P/Borrellyの核から2,171 kmを相対16.6 km/sで通過した。
- 01太陽周回へ投入1998-10-24 · Delta II第3段で地球周回を離れ、NSTARを試す太陽周回航路へ。
- 02NSTAR本格作動1998-11-24 · 再始動後は14日間連続運転。小さな推力を長時間積み上げた。
- 039969 Braille通過1999-07-29 · 約26 kmを15.5 km/sで通過。近接撮像は不鮮明でも航法・推進を実地検証。
- 04星追尾器故障1999-11-11 · 姿勢基準を喪失。MICASとジャイロを使う新制御ソフトを地上で構築。
- 05Borrelly彗星へ接近2000 · 復旧した姿勢系でNSTAR噴射を再開し、延長任務の単一目標へ航路を絞った。
- 06コマを高速横断2001-09-22 · 核から2,171 km、相対16.6 km/s。周回せず、入射方向を保って通過。
- 07イオン推進を停止2001-12-18 · 累計16,265時間・約4.3 km/sの速度変更を実証して運用を終了。
05主要機器・サブシステム
「電気を推力へ変える」「自分で位置を求める」「短い遭遇で取り逃さない」を実機でつないだ技術群。
キセノンイオン推進系
太陽電池の電力でキセノンイオンを加速。低い推力を何千時間も積み上げ、航路そのものを作った。
自律光学航法
MICASで小惑星と恒星を撮り、機上で軌道を推定。必要な推力方向と時間まで計画した。
Remote Agent
目標から逆算して作業を組み、異常を診断して計画を変更する自律運用ソフトを実証した。
小型撮像分光器
可視・紫外・赤外を一体化。航法カメラであると同時に、Borrelly核を追尾する科学センサーとなった。
粒子・プラズマ実験
彗星コマのイオンと電子を連続測定。最接近後も観測を続け、核撮像とは異なる断面を得た。
集光型太陽電池翼
720枚のフレネルレンズで3,600個の多接合セルへ集光し、1 AUで約2.5 kWを供給した。
06内部設計・システム構成
発電からイオン推進までのエネルギー経路と、撮像から自律航法・地上送信までの情報経路を分けて読む。星追尾器故障後は、MICASと慣性センサーを姿勢基準へ組み込んだ。
太陽光を直接、推進へ
SCARLETの2翼は1 AUで約2.5 kWを発生し、配電部からPPUへ電力を送る。PPUがイオン化・加速用の電圧へ変換し、NSTARがタンクから送られたキセノンを高速排出する。黄は電力、白は推進剤供給で、役割の異なる経路を混ぜていない。
二つの自律系は役割が違う
AutoNavはMICAS画像から軌道を求め、噴射方向と時間を航法系へ渡す。Remote Agentは機器の状態を見て作業計画と故障対応を決める別の実験で、両者を直列の一装置とは扱わない。各出力は飛行ソフトとACSの共通インターフェースで実行される。
星追尾器を失っても飛ばす
1999年11月に星追尾器が故障すると、チームはMICASで基準星を捉え、太陽センサーと慣性センサーで姿勢をつなぐソフトを構築した。ACSはヒドラジンRCSとNSTARの指向を制御し、アンテナ・カメラ・推進の要求を時分割で満たした。
遭遇は一度だけ
Borrelly最接近ではMICASが核を追尾し、PEPEと推進診断系はコマを通過する間も測定を継続した。科学データは記録・通信系へ集まり、撮像後は姿勢を変えてHGAを地球へ向けた。
07写真・図版
出典とライセンスを画像ごとに記載。機体・運用・成果を異なる視点から確認する。


08一次資料・技術文献
日付・距離・速度はNASAのミッション史、電力・航法構成はJPLの飛行実証報告へ戻って検証できる。