// 0.8 rpmで空を塗り、10万分の1の温度差を見つける · Explorer 66
COBE
Cosmic Background Explorer
FIRASは宇宙マイクロ波背景放射を精密な2.725 K黒体として測り、DMRは全天に10万分の1級の温度むらを発見した。DIRBEは赤外線の空から黄道光と銀河放射を分け、宇宙赤外背景を探した。三装置は同じ走査則を共有しながら、別々の物理量を測った。
01基本情報
精密宇宙論を可能にしたのは、感度だけでなく同じ空を何度も比較できる軌道と走査だった。
| 打上げ | 1989-11-18 14:34 UTCDelta 5920 No.189 / Vandenberg SLC-2W |
|---|---|
| 国際標識 | 1989-089AExplorer 66 |
| 質量 | 2,270 kg全長5.49 m、太陽電池展開径8.53 m |
| 軌道 | 高度約900 km / 傾斜角99°6 PM ascending nodeの太陽同期極軌道 |
| 周期 | 103分約14周/日 |
| 姿勢・走査 | 0.8 rpmスピン軸を太陽から約94°、local zenith近くへ |
| 全天被覆 | 約6か月DMRとDIRBEは一日で空の約半分を反復 |
|---|---|
| 冷却 | 650 L superfluid heliumFIRASとDIRBEを約1.6 Kへ |
| 冷媒枯渇 | 1990-09-21 09:36 UTCFIRAS停止、DIRBEは短波長4 bandを継続 |
| 電力 | 太陽電池3枚 / 最大712 W公称spacecraft + instrument load 542 W |
| 観測データ | 4 kbps搭載tape recorderに約24時間分を保存 |
| 科学運用終了 | 1993-12-23DMRは4年間の全天データを取得 |
02ミッション
絶対値、二方向の差、10波長の空。三つの独立測定を同じ全天座標へ重ね、背景放射と前景を分けた。
FIRAS — 空と黒体を同じ分光計で比べる
Far Infrared Absolute Spectrophotometerは、天空と内部基準黒体の差を測るMichelson型Fourier分光計だった。外部較正器は開口そのものを覆い、天空とほぼ同じ光路で絶対基準を与えた。結果はCMBスペクトルが2.725 ± 0.002 Kのほぼ完全な黒体であることを示した。装置の応答を別の光路で後から補うのではなく、観測光路の中で基準と差分を作る設計が精度の核心だった。
DMR — 60°離れた二つの空の差を取る
Differential Microwave Radiometersは31.5、53、90 GHzに各2 channelを持ち、各channelが60°離れた二本の7°beamを比較した。0.8 rpmのスピンで二方向の役割を短時間に入れ替え、receiver gainやoffsetのゆっくりした変動を共通成分として抑える。四年分の反復観測から銀河前景を分け、CMB固有の異方性をおよそ10万分の1のlevelで初めて全天に捉えた。
DIRBE — 黄道光を時間変化としてほどく
Diffuse Infrared Background Experimentは1.25〜240 µmの10 bandで、spin axisから30°離れた視線を回した。軌道運動とスピンを合わせると視線は空にepicycleを描き、同じ方向を異なる太陽離角と時期で見る。惑星間塵の黄道光、銀河の星と塵、宇宙赤外背景を一枚の画像の明暗だけで区別せず、波長と季節変化を使って分離できた。
太陽同期極軌道とスピンで半年の全天図を作る
高度900 km、傾斜角99°、6 PM nodeの軌道面は一年で360°歳差し、明暗境界を追う。spin axisはlocal zenith近く、太陽から約94°に保たれ、Sun–Earth shieldより下へ太陽と地球を置く。DMRとDIRBEは一日で空の約半分を重複観測し、軌道面と地球公転の進行で走査円がずれ、約半年で全天を覆う。衛星の周回と天球上の走査は異なる尺度の運動である。
冷媒が尽きても、終わる装置と続く装置を分ける
1990年9月21日にheliumが尽きるまで、三装置は最初の全天被覆を完了した。FIRASは1.6回の全天surveyで停止し、DIRBEは長波長6 bandを止めて短波長4 bandを低感度で継続した。常温動作のDMRは全6 channelで観測を続け、1993年12月まで四年のdata setを作った。2006年Nobel Prize in PhysicsはJohn MatherとGeorge Smootへ、CMBの黒体形と異方性の発見に対して授与された。
- 1974NASAが宇宙背景実験を公募赤外・microwaveの提案をCOBEへ統合。
- 1986Delta用へ再設計Challenger事故後、West Coast Shuttle計画からexpendable rocketへ変更。
- 1989-11-18高度900 kmへ投入Delta 5920で6 PM nodeの太陽同期極軌道へ。
- 1989-11-19DMR観測開始打上げ翌日から差分microwave測定。
- 1989-11-21Dewar cover放出FIRASとDIRBEが冷却全天観測を開始。
- 1990 mid-Jun三装置が最初の全天被覆約半年の走査で同じ天球座標へ三種のdataを揃えた。
- 1990-09-21Helium枯渇FIRAS終了、DIRBE短波長とDMRは継続。
- 1992-04DMR異方性を発表初期宇宙の構造の種を全天mapで示した。
- 1993-12-23科学運用終了DMR四年dataと公開archiveへ。
- 2006Nobel Prize in Physics黒体形と異方性の発見を評価。
03開発・運用エピソード
宇宙の微かな背景を測るため、打上げ手段、回転、冷却の制約を観測方法へ変えた。
Shuttleを失い、2,270 kgのDelta機へ戻す
COBEは当初Deltaロケットで提案されたが、開発中にNASAの標準打上げ手段がShuttleへ変わり、機体もそれに合わせて設計された。ところが1986年のChallenger事故で西海岸からのShuttle打上げ計画が消滅する。NASA Goddardのチームは三つの観測装置を削らず、質量と収納寸法をDeltaの制約へ戻す再設計を実施した。最終機は2,270 kg、収納時直径2.44 mに収まり、1989年11月18日にVandenbergから打ち上げられ、翌年6月までに最初の全天走査を完了した。母機の都合が変わっても、観測要求を固定した判断だった。
0.8 rpmで、十万分の一より大きな「装置の癖」を追い越す
DMRが探した宇宙背景放射の温度むらは約10万分の1で、受信機の利得やoffsetのゆっくりした変動でも埋もれてしまう。そこでCOBEは31.5、53、90 GHzに各2系統を置き、60°離れた二方向の差を測るhorn対を採用したうえ、機体を0.8 rpmで回転させて二つのbeamを短時間で入れ替えた。この速さは不安定性由来の系統誤差を抑えるために選ばれ、太陽同期に近い極軌道の歳差運動と組み合わせることで、同じ空を向きと時期を変えて反復測定し、原始宇宙の異方性を初めて捉えた。
冷媒が尽きても、観測所全部は止めない
650 Lの超流動heliumはFIRASとDIRBEを約1.6 Kに保ったが、有限の冷媒は1990年9月21日09時36分UTに尽きた。絶対分光に低温が不可欠なFIRASは停止し、DIRBEも長波長6 bandを切った一方、冷却条件の異なるDMRは6 channelすべてで観測を継続した。装置を同じ終了条件へ縛らない設計により、FIRASは黒体spectrumを、DMRは4年分の温度むらを残し、DIRBEの短波長側も感度を落としながら1993年12月まで近赤外dataを積み増した。
04軌道・走査
左は地球を回る103分の極軌道、右は0.8 rpmの回転が天球に描く走査。地球座標と天球座標を並べ、軌道面の歳差が半年の全天被覆を作る関係を読む。
- 01Deltaで直接投入高度約900 km、傾斜角99°、6 PM nodeの太陽同期極軌道へ入った。
- 02展開・cover放出Sun–Earth shield、太陽電池、antenna mastを展開し、3日目にdewar coverを放出した。
- 030.8 rpm差分走査spin axisを太陽から約94°に保ち、DMRとDIRBEの30°視線を回した。
- 04一日で半天orbitとspinの組合せで同じpixelを繰り返し測り、gain変動と前景を分けた。
- 05半年で全天太陽同期軌道面と地球公転により走査円が移り、三装置の全天dataを揃えた。
- 06冷媒後の継続FIRAS停止後も、DMR全channelとDIRBE短波長4 bandが同じ軌道で観測を続けた。
05搭載機器
三装置が独立した観測量を作り、共通の時刻・姿勢情報で同じ全天座標へ重ねる。
Far Infrared Absolute Spectrophotometer
sky、internal blackbody、external calibratorを差分し、CMBの絶対スペクトルを測定。
Differential Microwave Radiometers
31.5、53、90 GHzの各2 channelで、60°離れた二方向の温度差を測定。
Diffuse Infrared Background Experiment
1.25〜240 µmの10 bandで全天を走査し、黄道光・銀河・宇宙赤外背景を分離。
FIRAS External Calibrator
FIRAS開口を覆って天空と同じ光路へ絶対黒体基準を置く可動較正器。
Attitude Control System
Sun/Earth sensors、6 gyros、yaw wheels、reaction wheels、torquer barsでspin axisを維持。
06設計
上半分は1.6 Kの観測空間、下半分は常温のbus。円錐shieldが太陽・地球・送信電波を同時に遮り、三装置はそれぞれ独立にdata systemへ入る。
冷たい上半分と、温かい下半分
COBE上部の650 L dewarはFIRASとDIRBEを約1.6 Kへ冷却し、下部busはattitude control、electronics、recordersを常温で動かす。展開式円錐shieldは太陽と地球の熱、地上由来RFI、機体transmitter、常温構造からの放射を観測開口より下へ遮る。機体の幾何と冷却系が低背景環境を作った。
三装置は独立し、座標と時刻を共有する
FIRASはskyと黒体基準の差、DMRは二方向skyの差、DIRBEは10波長の絶対輝度をそれぞれ出力する。各data streamは共通C&DHへ独立入力し、spacecraft clock、attitude、温度、quality flagと結ばれてからtape recorderへ入る。この共通補助dataが、別の物理量を同じ全天pixelで比較できるようにした。
回転体を三軸で向ける
機体全体を0.8 rpmで回しながらspin axisをlocal zenith近くへ保つため、二基のyaw angular momentum wheelが機体spinと反対向きのmomentumを持ち、系全体をほぼzero momentumにする。横方向の三基reaction wheelとmagnetic torquer barがaxis方向を制御し、Sun/Earth sensorと6 gyroが状態を測る。DIRBE短波長bandで見つけた恒星はfine aspectへ使われ、三装置すべての最終sky coordinateを約1.5 arcminで支えた。
一日分を九分で地上へ
science dataは4 kbpsで集められ、onboard tape recorderに約24時間分を保存した。mast上の一方のomnidirectional antennaはTDRSS、もう一方はWallops Flight Facilityへの直接送信を担う。data systemは一日の記録を一回約9分のpassで再生できた。短い通信窓が全天走査を中断しないよう、観測、保存、再生を時間的に分離した。
Delta直接投入へ合わせた最終機
当初のShuttle版は高度300 kmから900 kmへ上げるmonopropellant hydrazine systemを計画していた。Challenger事故後、VandenbergからのShuttle launchが失われ、COBEはDelta fairingと質量へ合わせて再設計された。1989年の飛行構成はDelta 5920でmission orbitへ直接投入し、定常姿勢はwheelと地球磁場を使うtorquerが担った。展開式shieldと3枚の太陽電池が、Delta fairing内の寸法と観測時の視野を両立した。
07写真・図版
円錐shield、dewar、展開太陽電池が作る独特の機体形状。


08関連文献
機体・走査則・各装置の成果を検証できる公式資料。
- COBE (Cosmic Background Explorer)
- The COBE Spacecraft
- COBE Mission Design, Spacecraft and Orbit
- DMR Overview / FIRAS Overview
- The 2006 Nobel Prize in Physics