// L-band SAR Earth observation · JAXA · 2024
だいち4号
ALOS-4 / DAICHI-4
だいち4号は、Lバンド合成開口レーダで地表を測る日本の地球観測衛星。夜でも、雲の下でも、火山・地震・地盤沈下・森林変化・海上船舶を追う。
01基本情報
だいち2号のPALSAR-2を引き継ぎ、分解能を保ちながら観測幅と頻度を拡大した。
| 開発・運用 | JAXA プライムコントラクタ: 三菱電機 |
|---|---|
| 打上げ | 2024年7月1日 H3ロケット3号機、種子島宇宙センター |
| 状態 | 運用中 |
| 目的 | 防災、森林、海氷、インフラ変位、海上監視 |
| 質量 | 約3 t |
|---|---|
| 寸法 | 10.0 m × 20.0 m × 6.4 m |
| 軌道 | 太陽同期準回帰軌道、高度628 km だいち2号と同高度 |
| 搭載機器 | PALSAR-3 / SPAISE3 |
02ミッション
光学衛星が雲で止まる場面でも、Lバンドレーダは地表の形と変化を測り続ける。
災害前後の差分を見る
合成開口レーダは、同じ場所を繰り返し観測して地表のわずかな変位を測れる。火山活動、地震、地すべり、地盤沈下では、目に見える被害が出る前から地表が数センチ、時には数ミリ単位で動く。だいち4号はALOS-2と同じ軌道を使い、過去データとの差分も読みやすくしながら、異常の早期把握に使いやすくした。
森と海を同じ衛星で見る
LバンドはCバンドやXバンドより波長が長く、植生をある程度透過するため、森林伐採やバイオマス変化の監視に向く。JAXAはJJ-FASTなどでだいち2号データを使ってきたが、だいち4号では観測頻度と細かさを上げ、より小さな伐採変化を追う狙いがある。さらにSPAISE3で船舶AIS信号を受信し、PALSAR-3画像と組み合わせて海上監視にも使える。
高分解能と広域観測の両立
JAXAはStripmapで100から200 km、ScanSARで700 kmの観測幅を掲げる。ALOS-2のStripmap観測幅が50 km級だったのに対し、ALOS-4は高い空間分解能を保ったまま一度に入る範囲を広げる。日本の火山を例にすると、ALOS-2では年4回程度だった観測頻度を、ALOS-4では2週間に1回、年20回程度まで増やす想定で、広い災害域を早く押さえる設計になっている。
Lバンドを選ぶ理由
レーダ地球観測といっても、波長によって見えるものは大きく変わる。だいち4号のLバンドはCバンドやXバンドより波長が長く、森林の樹冠をある程度透過して幹や地面の情報を拾いやすい。地震や火山で地表がどちらへ動いたかを読む干渉SARでも、植生のある地域で信号が保ちやすい。日本の山地や熱帯林、沿岸域を相手にする衛星として、Lバンドは「日本らしい実用解」に近い。
一枚の画像より、運用の速さ
災害対応では、最高分解能だけを追うより「いつ、どの範囲を、どの条件で押さえられるか」が効く。大雨直後は雲が残り、夜間や噴煙下では光学衛星が待たされる。ALOS-4は広い観測帯、14日回帰の反復性、Ka帯直接伝送と光衛星間通信を組み合わせ、被害域の一次把握、二次災害の監視、復旧期の地盤変化まで同じ観測系で追えるように設計されている。
- 2006初代だいちが陸域観測を開始光学・レーダを組み合わせるALOSシリーズが始まり、広域地図、災害把握、森林監視の土台を作った。
- 2014だいち2号がPALSAR-2を運用開始LバンドSARを災害・地殻変動・森林監視に本格投入し、ALOS-4が引き継ぐ比較用データを蓄積した。
- 2024-07-01H3ロケット3号機で打上げ12時6分42秒(JST)に種子島から打ち上げられ、約16分34秒後に衛星分離が確認された。
- 2024-10光衛星間通信の技術実証ALOS-4と光データ中継衛星の間で、1.5 μm帯・1.8 Gbpsの光通信実証に成功した。
- 2025-01-23LUCAS経由で大容量観測データを伝送北極海から欧州、アフリカにまたがる約30分ぶんの観測データを、一度の光衛星間通信で地上へ送る成果が発表された。
- 2025-10-28道路防災での衛星データ利用協定JAXAと国土交通省道路局が、防災分野での衛星データ利用に関する協定を発表した。
03エピソード
大型展開物を開き、未調整の初画像を校正し、広い一枚を災害解析へ変えるまで。
分離から二日、三つのアンテナ系を順に開く
2024年7月1日のH3ロケット3号機打上げ後、ALOS-4は観測を急ぐ前に、太陽電池パドル、PALSAR-3アンテナ、船舶AIS信号を受けるSPAISE3アンテナを順に展開した。どれか一つの固定失敗でも発電、レーダ観測、船舶識別のいずれかを失う不可逆な局面である。JAXAはテレメトリで各展開と軌道上の安定を確認し、7月3日にクリティカル運用を完了。約3か月の初期機能確認へ移り、機体を開く工程とセンサーを動かす工程を分けてリスクを閉じ込めた。
ノイズのある初画像を隠さず、200 km幅へ育てる
2024年7月15日11時7分JST、PALSAR-3は札幌―苫小牧を幅100 kmで初観測し、同日23時38分には関東から富士山までを分解能3 m・幅200 kmで捉えた。前号機の同分解能時50 kmに対し4倍の幅だが、初画像には地上処理を軌道上特性へ合わせる前のノイズも残った。JAXAはそれを明記し、最大4方向のデジタルビーム形成と3.6 Gbps伝送を確認しながら校正を継続。広さを宣伝値で終わらせず、利用可能な標準データへ整えた。
二枚に分かれた「前」と、一枚で覆う「後」を重ねる
2025年3月28日、ミャンマー中部でM7.7の地震が発生した。JAXAは3月29日14時34分JSTにALOS-4で被災域を観測し、ALOS-2の2022年6月3日と2024年4月19日の地震前画像を組み合わせ、ピクセルオフセット法で地殻変動を解析した。前号機では西半分と東半分に分かれた範囲を、PALSAR-3は一回で覆えたため、別時刻の継ぎ目を増やさず広域変位を読めた。200 km幅という設計値が、災害翌日の比較図へ初めて直結した局面だった。
04軌道
高度628 kmの太陽同期準回帰軌道。地球観測では「ほぼ同じ地方時・似た観測幾何」で繰り返し見ることが、干渉SARの差分観測を支える。
- 01H3分離2024年7月1日、H3 3号機から分離し628 km級軌道へ入った。
- 02全展開太陽電池、PALSAR-3、SPAISE3アンテナを展開し、7月3日にクリティカル運用を完了。
- 03PALSAR-3初画像7月15〜17日に送受信し、DBFで高分解能と200 km幅の両立を確認した。
- 04LUCAS光中継低軌道から静止データ中継衛星へ1.8 Gbpsで観測データを渡した。
- 05反復観測14日回帰でPALSAR-3画像とSPAISE3の船舶信号を継続取得する。
05搭載機器
LバンドSAR
昼夜・天候を問わず地表を観測する主センサ。変位、森林、災害域を広く測る。
衛星AIS受信機
船舶のAIS信号を受け、レーダ画像と組み合わせて海上監視に使う。
デジタルビーム形成
観測幅を広げながら分解能を保つためのPALSAR-3の重要技術。
06設計
PALSAR-3の送受信、デジタルビーム形成、記録、Ka帯・光中継を一つの高速経路にまとめ、SPAISE3は独立した船舶信号経路として同じ地上処理へ渡す。
PALSAR-3と観測幅
主センサのPALSAR-3は、フェーズドアレイ方式のLバンド合成開口レーダである。Stripmapでは100-200 km、ScanSARでは700 kmまで観測帯を広げ、地震や火山噴火のように被害域が広がる事象を一度に押さえる。大型アンテナだけでなく、デジタルビーム形成で広域性と分解能を両立させる設計になっている。
この衛星で重要なのは、最高分解能の一点勝負ではない。3 m級の細かさが必要な場面、200 km級の幅が必要な場面、700 km級で全体像を先に取りたい場面を、同じLバンドSARの運用モードとして切り替えられることが防災利用の実効性を上げる。
軌道と反復観測
軌道は高度628 km、傾斜角97.9度の太陽同期準回帰軌道で、回帰日数は14日である。ALOS-2と同じ高度を選ぶことで、過去のPALSAR-2観測と比較しやすく、災害前後や年単位の地盤変化を同じ幾何で重ねられる。
太陽同期軌道は、同じ地域を似た照明条件と観測幾何で繰り返すための選択でもある。SARは自ら電波を出すが、軌道、入射角、通過時刻が揃うほど干渉SARの時系列が読みやすくなり、火山・地盤沈下・斜面変動の監視に効く。
大容量データを逃がす通信
SARは広い範囲を高分解能で見るほどデータ量が大きくなる。ALOS-4はKa帯の直接伝送で1.8/3.6 Gbps、さらにLUCASの光衛星間通信で1.8 Gbps級の伝送を使い、観測から利用までの遅れを減らす。これは災害対応衛星として、センサと同じくらい重要な設計要素である。
特に海外や極域を通る観測では、地上局が見えるまで待つと速報性が落ちる。光データ中継を使えば、低軌道のALOS-4が直接地上へ送れない区間でも静止軌道側へ渡せるため、広域観測を「撮れる」だけで終わらせず、使える時間で届ける設計になる。
SPAISE3と海上監視
SPAISE3は船舶AIS信号を受ける装置で、混雑海域での受信率向上を狙って複数アンテナと地上処理を組み合わせる。SAR画像上の船影とAISの位置情報を照合できるため、ALOS-4は陸域だけでなく、沿岸・海氷・船舶監視まで同じ衛星バスで扱う。
海上では、レーダ画像に写る反射点が船なのか、どの船なのかを見分ける文脈が必要になる。SPAISE3を同じ衛星に載せることで、画像の「見えた」とAISの「名乗った」を近い時刻で突き合わせられ、災害時の港湾・航路確認にも応用しやすくなる。
07写真・図版
JAXA公式画像で、機体、反復観測、観測幅、森林監視の改善点を確認する。比較図は英語を含む公式原図をそのまま使い、下の日本語キャプションと図上ラベルで読みどころを補う。




08関連文献
ALOS-4本体の査読論文はまだ限られるため、PALSAR/ALOS系列のLバンドSAR利用を裏付けるDOI付き論文を併記する。
- New global forest/non-forest maps from ALOS PALSAR data (2007-2010)
- Monitoring Forest Loss in ALOS/PALSAR Time-Series with Superpixels
- Landslide deformation monitoring with ALOS/PALSAR imagery: A D-InSAR geomorphological interpretation method
- A survey of volcanic deformation on Java using ALOS PALSAR interferometric time series
- Persistent scatterer InSAR for ground deformation mapping using ALOS PALSAR data: A case study in Singapore