Phase 1 / 最初の全天走査
FISとIRCで大円走査を重ね、全天の基礎地図を作る。
// THE INFRARED SKY, SCANNED ORBIT BY ORBIT · 2006-005A
日本初の赤外線天文衛星は、明暗境界に沿う太陽同期極軌道から、一周ごとに天球の大円を走査した。液体ヘリウムがある間は遠赤外まで、枯渇後は機械式冷凍機で近赤外だけへ。観測波長を決めたのは、望遠鏡だけでなく軌道と冷却系の組合せだった。
観測モードを決めた軌道、光学系、冷却系の公称値。
| 打上げ | 2006-02-22 06:28 JSTM-Vロケット8号機/内之浦 |
|---|---|
| 質量 | 952 kg打上げ時 |
| 機体外形 | 1.9 × 1.9 × 3.2 m太陽電池パドル幅 5.5 m |
| 軌道 | 高度 約700 km太陽同期・ほぼ円形の極軌道 |
| 軌道傾斜角 | 98.2°周期 約100分 |
|---|---|
| 望遠鏡 | 71 cm SiC主鏡有効口径68.5 cm/リッチー・クレチアン |
| 冷却 | 超流動液体He 170 L2段スターリング冷凍機を併用 |
| 運用終結 | 2011-11-24 17:23 JST送信機を停止 |
同じ衛星でも、冷媒の有無によって観測できる波長は変わった。
あかりは望遠鏡を太陽方向と地球中心方向の双方にほぼ直角へ向け、軌道運動に合わせて天球上の大円を走査した。太陽方向が季節とともに移るため走査線も少しずつずれ、およそ半年で全天を覆う。Phase 1では最初の全天走査、Phase 2では未走査領域の補完と指向観測を進めた。
液体ヘリウムと機械式冷凍機を併用した期間は、FISの遠赤外とIRCの近・中間赤外を運用できた。2007年8月26日の液体ヘリウム枯渇後、遠赤外観測は終了。機械式冷凍機だけで温度条件を満たせるIRC近赤外チャンネルを使い、Phase 3の指向観測を続けた。
冷媒枯渇後も衛星は数年にわたり観測を継続した。2011年5月24日に電力系の異常が発生し、6月に科学観測を終了。復旧作業ののち、11月24日に送信機を停止した。冷却材の寿命と機体の運用寿命は同じではなく、二つの終点を分けて読む必要がある。
冷やした望遠鏡を一度だけ開く決断から、観測後の巨大カタログまでをたどる。
2006年2月22日の打上げ後、二次元太陽センサーNSASなどが予想外の挙動を示した。望遠鏡の開口蓋は、開けば二度と閉じられず、姿勢が不安定なままでは冷却した光学系を太陽光へさらす恐れがある。ISAS/JAXAチームは手順を再検討し、機上ソフトウェアを変更して姿勢制御を確認したうえで、4月16日16時55分JSTに蓋を解放。テレメトリで成功を確かめ、不可逆操作を急がない判断が全天観測の入口を守った。
2007年8月26日08時33分UT、AKARIは550日の設計寿命どおり液体ヘリウムを使い切った。共通の極低温条件を失ったため、FISの遠赤外とIRCの中間赤外は同時に終了する。ただし冷却期には全天の約94%を走査し、5000回超の指向観測を完了済みだった。チームは衛星停止ではなく、機械式冷凍機だけで保てる温度を再評価し、残ったIRC近赤外だけへ目的を限定する温暖期運用を準備した。冷媒依存の波長を切り分けた設計が、一つの消耗品の枯渇を全任務の終了にしなかった。
2010年3月30日、AKARI全天サーベイからFIS約43万件、IRC約87万件、計約130万天体の二つのカタログが公開された。全件を一つずつ照合すれば日単位になり得る処理を、ISASのAKARI-CASは座標索引と専用検索で約30秒まで短縮した。公開後3か月でアクセスは10万件を超え、月1万〜2万件で定着。飛行中の一枚を見せるだけでなく、研究者が別波長の天体と繰り返し突き合わせられる仕組みが、衛星停止後も観測を増殖させた。
衛星は極軌道を同じ向きに周回し続ける。変わるのは、天球上に描く走査線の位置である。
FISとIRCで大円走査を重ね、全天の基礎地図を作る。
走査漏れを埋めつつ、選んだ天体を長く観測する。
液体He枯渇後、機械式冷凍機でIRC近赤外観測を続ける。
同じ焦点面を分担した二つの観測装置と、それを成立させた冷却光学系。
50–180 µmの4帯域。全天走査に加え、フーリエ分光も実施した。
1.7–26.5 µmを3チャンネル・9帯域で撮像/分光。Phase 3は近赤外のみ。
金コートした71 cm主鏡、有効口径68.5 cm。軽量な炭化ケイ素鏡を採用。
170 Lの超流動液体ヘリウムと2段スターリング冷凍機を組み合わせた。
光学系と焦点面を冷やす「ミッション部」と、電力・姿勢・通信を担う「バス部」を熱的に分ける。冷却方式の違いが、そのまま観測可能な波長の違いになる。
液体ヘリウムはFISの遠赤外検出器と望遠鏡を極低温へ保ち、二段Stirling冷凍機は熱侵入を抑えて冷媒寿命を延ばした。二つは代替関係ではなく、打上げ時の熱負荷、軌道上の定常冷却、焦点面温度を分担する一つの熱系である。
FISは遠赤外の全天走査と分光、IRCは近・中間赤外の撮像と分光を受け持つ。望遠鏡から届く光は各検出器へ分かれ、時刻・姿勢・軌道情報と一緒にデータ処理系へ入る。液体ヘリウム枯渇後は熱条件を満たすIRC近赤外へ運用を絞り、冷凍機と衛星バスを生かして第三期観測を続けた。
公式画像で、クライオスタットと太陽電池パドルの外形を確認する。


軌道、観測期、冷却設計、終結経緯を確認できる公式資料。